黒騎士爆走物語

黒幕は目が死んでいる6

現在黒騎士は邪魔な鎧を取り払い、施設に保管してあった魔力の充填中だ。
生命エネルギーとも言いかえられる魔力さえあれば、体力も自然と回復するためそちらを優先した。
そのための補充ケーブルやコードが対象に接続される様がインキュバス仕様な見た目（）なのは置いておいて。

苦痛はないはずであるのに、黒騎士の中身がやけに抵抗を見せている。
装置の不具合で予想外の動きをしてしまっているのかと思ったが、計器に異常も見当たらない。

「なんであんなに、……？ テンリィ、俺別に変なこと言ってないよな？」

通信機器が使えることを確認し、キューが伝えた言葉はこうである。

『ここはラタ街、あんたやあんたの国に攻撃する意思はないから安心してくれ。近くに一般人もいたから暴れられても困るし移動させてもらったが、この施設は回復の目的以外で使用しないと誓う。……ほんとになんでこんな無意味な施設ができたんだか……ただ俺もここを使うのは初めてだから、実験みたいになっちまうかもしれないが、ある程度は我慢してほしい。じゃ、三十秒後に始める』

反応からして言葉が相手に届いているのは確かであるはずなのだが、その後の行動が予想とだいぶ違う。

黒騎士の中身は多少の体力は取り戻せたのか、人間体に変身していた。
顔つきから見て中年男性のようだが、切れ長の鋭い目と厚みのある鍛えられた筋肉が、年齢に見合わぬ若々しさを保っていた。
骨太の体格と刈り上げられた髪が漢らしい。

そんな彼は、熊と対峙しているのかというほどの決死の表情で接続ケーブルと格闘していた。
回復目的の物だと告げたはずなのに、なにが不満なのだろうか。

「見た目があの国仕様（）になるのが恥ずかしいんじゃないですか？」
「その気持ちは痛いほどわかるけど、……ちょっとの間なんだし我慢してくれねえかな」
「今後頭部にざっくりブーメランが刺さってますよ、キュー」

自分を棚に上げる悪癖があることを自覚しているキューは口笛を吹いて目をそらした。