黒騎士爆走物語

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黒騎士になにがあったか5

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(まずは体力を回復させないことにはどうにもならない)

その後、隙を見て脱出。
こっそり動くために鎧を捨てていくことも考えたが、もはや体の一部ともなっている黒鎧を捨てることは私にとってはリスクが高い。
音を聞く限り、私を運んでいる者は一人で行動しているようだった。
本拠地に運ばれる前に奴隷商人をのしてから逃げたほうが安全だろう。
体力次第では捕縛して国へ連れ帰っても良いかもしれない、なにせ奴隷商など今はどこも禁止されているはずだ。

違法行為への憤懣と余計な手間を掛けさせられている苛立ちも合わさり、怒りを募らせながら馬車の中で時間を過ごす。
時折道の悪いところを進んでいるのか、振動が強くなる時があった。

ガタン、ひときわ大きく揺れたせいで滑ってきた木箱と黒鎧がぶつかる。
開け口に部品が引っかかったのか、木箱の蓋が歪んでわずかに中身が覗いていた。

同時に漂う、干し肉の匂い。
戦場で拾ったものの他にも、運んでいるものがあったらしい。
現金なもので、それまで生死をかけた緊張で何も感じていなかったのが、匂いをきっかけに空腹を自覚する。
木箱いっぱいに敷き詰められた肉を目の当たりにし、消化液が分泌されはじめる。

(いけない、人の物を勝手に食べるのは)

泥棒にも等しい行為が選択肢に上がったことを恥じるが、しかしそれでも腹は空く。
相手は自分を売りさばこうとしている奴隷商なのだから、ちょっとくらい。
いやいやしかし。
数十秒の思案の結果、『逃げるにも体力は必要、奴隷商には捕縛したあと謝って弁償しよう』という考えに至る。

特に薄い干し肉を取り、鎧の中へ引き込む。
うまい。
塩が効きすぎているが、それすら戦いで疲弊した体にはよく染みた。

「……? ……!」

一枚だけのつもりが、結局三枚も食べてしまった。
御者台の方でなにかが聞こえたか、なんと言っているかまではわからない。
ただ、その直後に馬車の進みがえらく速くなった。
なにか急がなければならない理由でもできたのだろう。

そうして私が体力回復に努めている間、奴隷商は何件かの家や町を訪ねたようだった。
だが、幌の方へ誰かが寄ってくる様子はなく、何事か会話をした後すぐに立ち去る、を繰り返している。
商品の売買はしないのだろうか。

不思議に思っている間に、剣を振り一撃喰らわせる程度の体力は戻ってきた。
次に馬車を止め、幌を開けて顔を覗かせた時がお前の最後だ。
鎧の中で覚悟を固め、後部を覆うクリーム色の幌をにらみつける。

そうして、とうとう、その時は来た!

「あん?」

幌が開く。
人の顔が覗く。
それ目掛けて、剣を突きだそうと前屈姿勢のまま突進し──、

覗いた顔がこちらを見据え、目を見開くのが見えた。
えらく若い。
女だ。
待て、今聞こえた声は奴隷商のものとはちが、

険しい顔つきの女が、こちらに向かって何かを投げつけた。
それが小さくて丸い何かだと認識した瞬間、

どぉん!!

視界が弾けたのだった。
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