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夢魔と人形

人形の反乱・3

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『わたし、貴方の色んな顔が見てみたい! 笑った顔も好きよ、慌てている顔も、呆れている顔も、他の顔もきっととっても素敵に違いないわ!』

そうして告げられた願いは、

『だから、苦痛に歪む貴方の顔も見てみたい』

子供のように無垢で残虐。

二の句が告げず、固まるインキュバスの代わりに動いたのは理性のゴーレムだった。

がしゃんこ。
今度は構えだけでは済まなかった。
銃口は反動で上へ反り、弾丸が放たれた発射炎で一瞬目が眩む。
見知った顔が同じ顔を撃ち倒す衝撃に、マッピーは動くのをためらってしまった。

が。
そんな迷いについて考える時間など、彼女『達』は与えてくれない。

『いいなぁ』
『私も撃ってみたい』
『普段は寸止めで我慢してるけど、ホントに撃ったらどんな顔するのかな』
『手足をもいだら?』
『服を脱がせたら?』
『夢の中なんだからいいよね!』

発砲音でタガが外れたように、食堂で攻撃されていた恋するゴーレム達が群がってくる。
その姿はこぼれた砂糖に突進してくる蟻の群れのごとく。

ビ───。
聞いたことのある警報音がもう一度。

『当方が所属する社会の秩序を守ること』
『本機の行動は製作者の命令を違反しています』
『ただちに攻撃を停止してください』

「こ……」

集合体恐怖症とやらではないマッピーも、同じ顔が大量に迫ってくる光景には背筋に寒気が走った。

「恋する乙女めっちゃ怖い!」

インキュバスの首根っこを引っ掴み、咄嗟に抱えて逃走を図る。
マッピー史上近年稀に見る全速力だった。
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