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夢魔と人形

夢の中へ・15

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「うわぁああああ!!?」

どばらららららら!!
きゃー!
騒音に近い発砲音。
弾ける悲鳴。
惨劇がすぐ近くで行われ、呆気にとられて一連の動きを眺めていたマッピーもこれには叫ばずにいられなかった。

「なにやってんですか! いや、えっ? ほんとになにやってんですか!?」
「当方が機能を停止した原因は、行動の選択肢が増えすぎてエラーを起こしたからです」

発砲音に負けじと声を張りあげれば、ゴーレムから常識を語るように答えが返ってくる。

「ならば当方の数を減らせば選択肢も減るでしょう」
「発想が蛮族!」

あまりに力技すぎる解決策に、脳筋と評判のマッピーもコレにはあんぐりと口を開けた。

「恋愛感情なんですよね? わたしもよくわかんないんですけど、もうちょっとこう、悩みながらも道を模索しながら自分のペースで進んでいくみたいな、そういう過程が必要なんじゃないでしょうか!」
「不要です」

言葉がまとまらないなりに伝えようとした懸命な説得はしかし、たった一言の元にばっさりと両断された。
あまりに鋭い切れ味に、大げさな身振り手振りも止まってしまう。

「あの当方達は不要です。あれらが発生してから視線の修正工程が二倍に増えました。業務と関係のないデータを保存しすぎて記憶容量の三割を圧迫しています。他にも、たくさん」

かつん。かつん。
役目を終えた空の薬莢が、見向きもされずに床に転がった。

「当方に下された命令は『当方が所属する社会の秩序を守ること』」

銃を撃ち続け、前方だけを睨むゴーレムの瞳に、無機質な人工宝石とは思えない感情が見えた。
隠す気もない、敵意。

「あれは、いらない」

初めて見るゴーレムの姿に、マッピーは息を呑む。
少し考えればわかることだった。
動けなくなるほど悩んだ感情が、激しくないわけがない。
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