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夢魔と人形

夢の中へ・3

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「ゴーレムは、もうわたし達人間と働くのがイヤになっちゃったんでしょうか」

思い返すのは、ゴーレムと話した時の記憶。
全く関係ない仕事を押しつけられ、人間のことを知るために感情は不要ではないかとこぼした彼女の顔。
無機質でどういう気持ちで言っていたのかわからなかったそれが、実はもう限界を迎えていたのだとしたら──

「そこは聞いてみんと分からんじゃろ」

マッピーの苦悩を聞いていたインキュバスは、あっけらかんと返した。
あまりにも捉え方の重苦しさに差があるもので、思わず剣を握っていたことも忘れてずっこける。

「軽く言ってくれますねえ!」
「事実じゃもの。ゴーレムが直接原因を話したわけでもあるまいに、それで悩んでたってマッピーちゃんが勝手に想像しとるだけじゃろ」

返せた反応はぬぐう、といううめき声だけだった。
知っている情報は断片的なものばかりで、ゴーレムの苦悩を具体的に聞いたわけではないのは事実だからだ。

「……でも、ゴーレムが感情を持つことをためらっていたことは確かです」

扉を開ける時は危険だ。
視界を遮っているそれの向こうで何が待ち構えているかわからない。

マッピーはインキュバスを一旦下がらせ、覗き窓と聞き耳によって前方の様子を確認する。
片手で剣を構え、警戒は怠らずにもう片方で扉を開け放った。
覗き窓での確認通り、扉の向こうは変わらず無人であった。

「それもやっぱり聞いてみんと分からんと思うがのぅ。結局人間、気持ちを通じあわせるには言葉じゃよ」

後ろにハンドサインを送り、ついてきたインキュバスの言葉を聞き流す。
至極最もな意見であると思うのに、綺麗事のように聞こえて少しイヤだと感じてしまうのはどうしてなのか。
マッピーの眉間にわずかながらシワが寄った。

「ま、それでも通じん時はどうしようもないから諦めるしかない」
「今までの全部ひっくり返しましたね」

と思ったら、まさかの投げときた。
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