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夢魔と人形

異変・9

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留め具を外せば、意外と構造は単純で、すぐに装着できそうだった。
マーフィーくんも、と促されてマッピーは手首に、インキュバスは首に輪をはめる。

「目的は『ゴーレムが機能停止した原因を探ること』。原因が判明すれば即座に帰還をお願いします。原因が不明であると判断した場合、もしくは判断に迷う状況に陥った場合も同様に。繰り返すけれど、こちらで一定時間変化がなかった場合はゴーレムへ覚醒を促す微弱の電流を流します。その時生じる異変を合図に帰還してください。
マーフィーくんはけして現場判断をしないこと。君にその権限はないし、それが与えられていないのは君を守るためでもあるということ、忘れないでね。とにかく帰還を最優先に!」
「はい」
「了解じゃわい」

主任からの作戦概要に了承を返すと、ふと視界の真ん前にインキュバスが移動してきた。
す、と差し伸べられたのは手だ。
年季は入っているものの、手入れのされたそれは手のひらを向けられている。

「夢の中への誘いにエスコートがないのは無粋じゃな。お手をどうぞ、お嬢さん」

茶目っ気たっぷりにウインクする姿はまさにロマンスグレーの老紳士と言ったところか。
そういった仕草をまさか自分に向けられているとは思いもよらず、マッピーは数秒経ってようやく現状を理解する。

「わ、えぇと」

手を取るべきか、早く取らないと失礼に値するのでは、こういう時のマナーは? 様々な考えが頭の中を交差するが、次に浮かんだ事実に浮ついていた精神は静まり返る。

これから臨むのは、戦場になるかもしれない地である。

「お気持ちだけ受け取っておきます」

手のひらに対し、返したのは同じく手のひら。
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