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夢魔と人形

機械人形の苦悩・10

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「聞く限りじゃが、ゴーレムが育て始めている感情はあまりよろしくないものの類いじゃ。仕事を押し付けられとるんだから当然とも言えるが。それを仕事が円滑に進まないから、などと言って無視しとったら、いつか爆発するぞ」

抑圧された感情は厄介だからの、と締めくくる声に、マッピーは考える。
おそらくだが、ゴーレムの内部をいじってメンテナンスやらを行っても無意味なのだろう。
例え記憶を消したとしても、芽生えた感情は消えない。
機械から拭いとった汚れが、布の方へ確かにこびりついているように。

「爆発する前に解決、しなきゃいけませんよね」

パンパンに膨らんだ風船をガス抜きさせるようなものだろうか。
ならば、それを解決するとしたら。

「出番ですよ、インキュバス」
「なにが?」

マジでわからん、と言わんばかりの表情でインキュバスが首を傾げる。

「女性に美麗賛辞を並べ立ててその気にさせる感情操作はお得意でしょう! その悪辣な手腕をゴーレムのストレス解消に使わなくてどうするんです!」
「それ褒めとらんよな、罵詈雑言の域に入っとるよな!」

ばーん! と勢いに任せてサーバーの蓋を閉めたため、少し嫌な音がしたが稼働すれば問題ない。
マッピーは止まることなくふよふよと浮かぶインキュバスへ迫った。

「そんな悪し様に言われるほどなんかしたかわし!?」
「あの手この手で口説き落としといて精気を吸った相手には見向きもしない→傷ついた女性職員が失恋を理由に休職もしくは部署替え→残った職員の仕事が増える→つまりわたしの仕事が増やされる」

一度も瞬きすることなく言い切ったマッピーの真顔に、インキュバスはそっと視線を反らした。
さしもの老獪も、迫りくる勇者の末裔には負けるらしい。
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