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夢魔と人形

食堂騒動・11

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「そもそもあの子、魔族として分類していいの?」
「一応国が定義した魔族とは
①魔族の親を持つ
②基準値以上の魔力を持つ
③人間にない器官を持つ
の三つが揃っている存在のことを指します。ゴーレムはこの内の②と③が当てはまっているんですよ」

口喧嘩には滅法弱いため、黙々と壊れた机を片付けていたミミックが、ここでんん? と首を傾げる。

「でも、さっきゴーレムは人間に造られたって言ってたよね? ①が当てはまってないよ?」
「確かあの子は人間の魔術師に造られたんじゃなかったかしら」
「そこが難しいところなんですが……」

マッピーは割れた陶器を集めていたゴミ箱から手を離すと、天井を仰ぐ。
正直この話は人間側の恥と言っても過言ではない。
内輪もめが起こるのは魔族だけではないということだ。

「この定義、決められたのは最近なんです。
それまで周りとなんとなく違ったら魔族なんじゃないか、というふわっとした認識しかなかった」
「てことはつまり」
「そうです。ゴーレムを造る技術を持つ魔術師は、魔術を使えることで人間ではないとされてきた時代があったんです」

身体構造は人間だといかに主張しても。
魔術を行使し、人魔戦争の前線に出て貢献しても。
どこかで一線を引かれ、『お前は私達とは違う存在だ』と言葉で、態度で、行動で示される。
それはひどく苦痛な環境だっただろう。

「……人間って、愚かだねえ」

トレントが静かに呟く。
そよ風が木々の間をすり抜ける時、揺れる葉の音に似ていた。
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