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花と触手

部屋の中、ふたり・3

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「あのあのあの、ごめんなさい! 知らなかったんだよ、そんな意味があるなんて!」
「そうね、あなたそういうことには疎そうだものね」
「う、」
「でもわたし、そんなことは聞いていないのよ。
『理解したか』と聞いたの。
今わかったのなら、もういいの」

ぎゅち、粘液をまといながら更に締め付けてくる触手の圧迫感は、どう考えても許しではない。
ミミックの脳内ではがんがんと警鐘が鳴っていたが、もはや遅すぎる合図であった。
どうやらここの暮らしに慣れすぎて危機察知能力が錆び付いていたらしい。

ばっくんと歯が閉じられる光景を幻視したミミックへ、死刑宣告が下される。
告げる死神は麗しい乙女の笑みを浮かべ、小首を傾げてみせた。

「少しばかり容姿は変だけれど、わたしだっていっぱしのテンタクルだということを見せてあげるわ」

あなたがママになるのよ♡

その日、会館の一角では絹を割くような悲鳴が響いたという。

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