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花と触手

食堂での会話

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画面に映るは、色とりどりの花。
夏の花が見頃だと告げる女性キャスターが、娯楽施設の景観を紹介する。

そんな人間用に整えられた人工の花畑に、ほあ、と口を開けて釘付けになっている魔族がいた。



人間が魔王を倒して数十年後のことである。

その場所を、「魔族交流会館 文化研究所」という。
文字通り、敵対関係でなくなった魔物ーー終戦後に名称が改訂され、今は魔族と呼称されているーーとの交流を深めるべく造られた建物だ。
実際のところは魔族を研究する実験場だとか、人間と再度戦争を起こさぬよう送った魔族質を管理する牢獄だとか、はたまた純粋に魔族となかよしこよしするための趣味の場所だとか。
さまざまな思惑の絡み合ったそこをどういった目的の場所とするかは、人や魔族それぞれである。

「すっごい、キレーだなぁ」

公共スペースの長机にて、トレーに広げた食事よりもテレビに夢中になっているミミックは、ミミック族の代表もとい魔族質として送られた魔族の一体だ。
影のように黒い肉体は筋骨隆々な成人男性の形をとっているが、その気になればどんな形にもなれる。
本来ならば洞窟の隅で箱の中に潜み、補食する獲物(主に人間)をじっと待ち構える生態であるはずが、外の世界に興味津々のせいで箱は腰にくくりつけたままめったに入らないという変わり者だ。

日光に当たると溶ける性質を持つため、今はフード付きのマントですっぽりと身体を覆っている。

「ごはん、冷めちゃうよ~?」
「わっ」

そんな斜め四十五度に固定された頭に向かって、影がさす。
振り向けば、同じく食事目的で公共スペースにやってきたのだろう、複数のトレーを左右に持つ長身の女がいた。
人間であれば髪があるはずのところには数本の枝と葉が生い茂り、見下ろされれば恐怖を抱くほどの体格。
名をトレントという。
ミミックと同じく、己の一族の代表としてこの会館にやってきた魔族だ。

「あたしたちも一緒に食べていい~?」
「えと、はい、もちろん! ……『たち』?」
「わしじゃよ」

首を傾げれば、ひょっこりと顔を出す魔族が一体。
トレントの後ろに隠れてはいたが、彼は身長が低いわけではない。
すらりとしたスタイルと不潔感のない程度に髭を蓄えた老紳士は、人好きのする印象を持つ。
名をインキュバス。
言質はとったとばかりにミミックの隣に陣取り、にかりとシワを寄せた。

二体とも初めて共有スペースへ訪れたミミックへ話しかけてくれた気さくな魔族で、仲良くさせてもらっている。
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