太陽に焼かれる日常

雨月葵子

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この胸に光るもの

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 何度も彼女に電話をかけたが出てくれなかった。
 お昼休憩の時間が終わって、仕方なく自分のデスクに戻るが、落ち着かない。
 今までになかったことに胸のあたりが重くなる。何かあったのだろうが、少しでも電話に出る時間がない状況を思いつかなかった。
 それとも、俺と話したくなかったのだろうか?

 もやもやした気持ちは十五時を過ぎても収まらなかった。
「ねえ、ちょっと日野出町のホームページ表示してくれる?」
「あ、はい」
 課長が後ろから指示を出してきたので、ブラウザを開いてYahuuのトップページを表示させる。
 中央に表示されているものだからニュース欄につい目がいく。欄の一番上に表示されているタイトルを見て心臓が一度だけ大きく動いたのが分かった。
 俺はニュースから目を逸らして、検索スペースに素早く『日野出町』と打ち込んでEnterキーを押した。検索結果のページが表示され、この町の名前をクリックする。
 表示されたホームページのトップを見て課長は指示を出した。
「ここに広告のバナーを一つ追加して欲しいんだけど。データはメールで送ってあるから」
「分かりました」
 課長はそのまま自分の席に戻って行ったが、甘すぎる香水の匂いは残ったままだ。
 就業時間中なのだからすぐに課長に与えられた仕事をやるべきだが、さっき目にしたニュースを確認することを優先した。
 ニュースタイトルの「県立日野出高校で生徒が刃物を持って立てこもり」をクリックする。
 その記事には彼女が働く高校の外観の写真と事件の経緯について書かれていた。
 お昼時間に1年生の男子生徒が突然刃物を取り出し、自分のクラスメイトに襲いかかったという。生徒数名を含め止めに入った教師も負傷しているというものだった。

「どうして……」
 自然と小さく声が出ていた。彼女が電話に出られなかった理由はきっとこれだ。彼女が負傷しているかどうかは分からない。ニュース記事だけでは何にも分からない。
 なぜか頭に浮かんでくるのは今までに見た傷害事件の被害者とその家族の映像だった。
 自分もあんな風にインタビューされるだろうか?全国放送で悲しみを垂れ流すか。ほとんどの人が眺めて終わるだけのニュースの一部になるのか。

 喉から上がってくる恐怖を両手で抑えた。混乱する頭が彼女の安否に戻ってくるまで時間がかかった。
 ノートパソコンを閉じ、鞄を掴み、課長には申し訳ないと思いながら叫んでいた。

「すみません!早退します!!」
 そのまま部屋を飛び出した。
 課長が俺の名前を呼ぶのを背中で聞きながら、やっぱりバナーの1個ぐらい先にやればよかったかもしれないと思った。
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