あたたかく光る

たまこ

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16話

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 次の日から仕事の引き継ぎをするべく、ミウはセシルに習っていた。

「お掃除は全部やると日が暮れちゃうから、毎日やるのは坊ちゃまのお部屋と手すりと玄関の掃き掃除とお花の水やり⋯かしらね。あとは変わり代わりやっていく感じになるわ」
「はいっ!」

ミウの一生懸命に取り組む姿にセシルは歳のせいなのかなぜか泣きそうになった。

 セシルは「は?なんでこんなにやんなきゃなんねぇんだよ!」というもう少し反抗的な少年が来ることを予想していた。
それもそれで「可愛いな」と思っていたが、この屋敷にやって来たのはとても素直で真っ直ぐなミウという少年だった。

まだ出会ったばかりだが、ミウはセシルにとって本物の「孫」同然となっていた。


 「ミウちゃん、お菓子食べましょ?」

ミウが窓拭きをしていると、セシルがそう声をかけてきた。

「え、でもまだ仕事が⋯」
「いいのよ、ちょっとくらい休憩は必要なの」

そう言われ、裏庭に移動し、ふたりは椅子に腰掛けた。

テーブルの上にあったのは美味しそうなクッキーだった。

「美味しいっ!」

セシルに「食べて食べて」と言われ、食べたクッキーにミウは目を輝かせた。

「クッキー初めて食べましたっ!すっごく美味しいですっ!」

ミウはクッキーを食べたことがなかった。
村でよく子供たちが食べていたが、作り方も分からなければ、材料もない。
ハオ以外仲良い人もいなく、分けて貰うなんてこともなかった。

「ほんと~?私が作ったのよ」
「え?!そうなんですか!作れるなんてすごいっ!」

ミウは初めて食べるクッキーがセシルの手作りで良かったと心から思った。
そしてこれまで食べて来れなかったのはこの日のためだったのだと感じた。

「今度ミウちゃんにも作り方教えてあげる」
「お願いします⋯!」

クッキーを食べながら仲良く話すミウとセシルは本物の家族のように見えた。


 「今日はどうだった?」

オルガは書斎室での仕事を終え、ミウの部屋にそっと入り、寝ているミウの頭を撫でた。

「ミウちゃん一生懸命やってくれましたよ」 
「そうか、良い子だな」

オルガはミウを愛おしそうに見つめた。

「今日、ミウちゃんクッキーを初めて食べた⋯って言ってたんです。」
「初めて⋯か、どんな環境にいたのか⋯。これからはミウにたくさん初めてを経験させてあげたいな」
「そうですね」

オルガは「売られている」ということは何かしらあるだろうとは思っていたが、それが「聞いてはいけないものだったら⋯」とミウに聞けずにいた。

ミウの過去がどんなに苦しい過去だったとしても、「未来は自分が幸せにする」とオルガはミウを買った時思っていた。


オルガはも環境のせいで苦しい場所に置かれている。
だからこそ、ミウやセシルには幸せになってもらいたいと強く想っている。


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