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第1話:出会い
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6月下旬ー。梅雨が終わりかけどの学校も期末試験が終わり学生たちは来月末からくる「夏休み」について考え始める頃だ。学生の中には勉強をする者、部活をする者、遊ぶ者それぞれの過ごし方で思い出ある夏休みを送るだろう。俺自身も高校最後の夏を思い出たくさんにしておきたいと思っている。
しかし、現実はそう甘くはなかった。何故かというと俺が住んでいるこの町は山と海に囲まれた田舎なのだ。山や海に囲まれていても小さい頃からキャンプや海水浴をするので今更もう面白くはない。もっと都会的な場所場所に行こうとしてもこの町に電車が来るのは2、3時間に一本。行きたくてもあまり行けない。こんな町ではせっかくの夏休みもただ時間を無駄にしてしまうだけだ。
「おい、今年の夏休みはどうする?せっかく高校最後の夏なんだから最高の夏休みにしようぜ!」
今この町では楽しい夏休みが送れないと思っていたところに幼馴染の森口 司はこの町では無理な計画を立てようと近づいて来た。
「最高の夏休みって…。この町でどうやったら実現できるんだよ」
俺は分かっていながらも質問した。この質問に対して司は口をポカーンと開けたまま固まっていた。まるで馬鹿みたいな顔をしながら「確かにな」と答え俺の机にうつ伏せる。
「何で俺たちはこんな町に生まれたんだよ!コンビニもない、カラオケもないしスーパーですら車で1時間以上かかるし…もうこんな町嫌だ…」
半べそをかきながら絶望する司の姿に同情し俺は司の肩を数回叩いて慰めた。
「仕方ないさ。だから今年も俺たちは電車を使って1日都会人になろうぜ」
この町に住む学生は誰もが都会に憧れている。なのでそんな学生のほとんどは数少ない小遣いを消費してでも1日だけの都会人気分を味わおうとする。きっとそれがこの町の人間が思い出ある夏休みの唯一の過ごし方だろう。
「それもそうだな。はぁ…できるだけ金を使わずに楽しみたいな」
司は果てしない夢を頭の中で抱きながら前を向いた。
「はーい、皆席について。HRはじめるぞー」
朝のHR前の賑わった教室から担任による始まりの声が聞こえた。それと同時にチャイムが校内に鳴り響きクラス全員が席に着き始める。
「きりーつ、気をつけー、れーい」
その日の日直のやる気のない号令でHRが始まった。これがいつも通りの1日の始まりである。
「今日は皆に嬉しい発表があります。何と今日このクラスに転校生が来ました」
いつものつまらない筈のHRは担任の一言により教室内の空気がガラリと変わった。季節外れの転校生ということで教室中が「おぉ!」と驚く声を出し一人の男子生徒が立ち上がり「先生!転校生は男子ですかー?女子ですかー?」と先生に尋ねた。それに対し先生はその質問を待っていましたと言わんばかりのドヤ顔を見せ得意げに答え始めた。
「男子の皆、喜べ。転校生は女子だ。しかもかなり美人だぞ」と大声で発表した。そうすると質問した男子は勿論教室内のほとんどの男子が立ち上がり「よっしゃー!」と喜んだ。そんな男子たちを見て女子は心なしか全員ジト目をしながら一歩引く。
「はいはい、嬉しいのは分かったからとりあえず中に入ってもらって簡単な自己紹介をしてもらうよ」
喜びの渦に飲み込まれている男子たちを一度席に座らせ先生がコホンと咳をした。そして、転校生に中へ入るように促す。
「ほら、中に入って自己紹介をしてね」
クラス全員が転校生が入って来ると思われる教室の扉に視線を向ける。すると扉はゆっくりと開き廊下からとても美人な黒髪ボブショートヘアの女子生徒が入って来た。彼女は教室へ入ると黒板の前に立ちチョークで名前を書き始めた。
「高橋 愛奈と言います。父の仕事の都合で引っ越して来ました。どうぞよろしくお願いします」
彼女は最もベタな挨拶したが男子たちは彼女の声を聞けて感動しているように見受けられた。たった数文字の言葉で彼女は男子たちを虜にさせたのだ。
「席はー、宇野 照史君の隣で大丈夫かな?結構後ろの席になるけど黒板見えるかな?」
席は定員割れで一席分空いている俺の隣になる。とても美人な彼女が隣に来るので嬉しいという気持ちよりも男子たちの怒りと嫉妬の視線で恐怖に落とされた。
「はい、視力は悪くないので大丈夫です」
彼女は問題なさそうに答えた。そうすると先生は「なら、席に座っていいよ」と言い彼女は俺の隣である自分の席へ歩き始めた。彼女の歩く姿はまるでファッションショー見せられているような気持ちにさせられる。
「おぉー、すげー美人だ」
誰もがそう言いながら彼女の歩く姿を目で追う。教室内は彼女に釘付けだった。
「今日からよろしくね、照史君」
美しい彼女にボーッと見とれていた俺は彼女の言葉に気づくのが遅れ「あ、よ、よろしく」とまるでコミュ障のような挨拶になってしまった。しかし、彼女はそんな俺を見ても「ふふっ」と微笑み受け流してくれた。
「あ、丁度いい。折角隣の席になったんだから宇野君、君放課後高橋さんに学校の中を案内してあげてよ」
先生の突然の指名に俺は状況を理解できず「へっ?」とマヌケな声を出してしまった。男子たちは断れと言わんばかりの眼差しで俺を見つめるがここで断ってしまっては高橋さんに嫌なやつと思われてしまうので渋々受け入れた。
キーンコーンカーンコーン…
「はい、じゃあHRはここまで。皆一時限目の準備をしておいてね」再びチャイムが鳴りHRの終了を知らせた。今日も退屈な1日が始まる。
「そして主人公は恋人である彼女に5年後再開し結婚して幸せになるって話ね。つまりここで筆者が伝えたいことは…」
つまらない授業の中でも国語だけは別だ。特に小説などの長文物はかなり魅力を感じる。物語に入り込み登場人物の視点だったり筆者の視点だったりとあらゆる立場で見れるところが国語ならではと思う。
「楽しそうだね。君、国語好きなの?」
授業に夢中になっていると普段はいないはずの隣の席からジッとこちらを見つめる高橋さんの姿があり彼女は俺と目が合うとニコリと微笑んだ。
「面白いよ。登場人物や筆者視点から見るのは特にね」
彼女は「ふーん」と興味がなさそうに相槌を打ち俺の教科書を覗く。自分の教科書を持っているはずなのにわざわざ俺の教科書を見る姿にドキッとしながらも平然を装った。お陰で授業は全く手中できずどこまで進んだのか分からなくなってしまった。
「そんなに照れなくてもいいのに。私ちゃんと板書してたから後で見せてあげようか?」
1時間ずっと俺の隣で教科書を覗いていたはずの彼女は確かに完璧に板書をしていた。俺はそこでようやく高橋さんにいたずらされていたことに気づく。
「え、もしかしてわざとだったの?だから教科書持ってるのに俺の方を見てたの?俺が板書できないように?」
高橋さんは全ての答えに「うん」と嬉しそうに答えた。俺はそんな彼女の姿を見て恥ずかしさと悔しさに顔を赤めた。
「放課後、案内よろしくね。照史君」
彼女の言葉に俺は悔しさで怒っていた感情が照れに変わり首を小さく縦に振った。
※
放課後、俺は高橋さんの学校案内をしなくてはならない。彼女はどう思っているのか知らないが俺自身としては美人な彼女と2人っきりで校舎を周れることを嬉しく思う。
「おまたせ、提出物があったから遅れちゃった」
「ううん、いいよ気にしないで。それじゃあ早速だけど案内してもらえる?」
うちの学校は別に頭が良かったりスポーツができたりするわけではないので校内面積は大して多くはない。教室も昔は沢山の生徒がいたのだろうが今はほとんどが起き教室になっておりかつての面影はどこにもない。
「ここが理科室。で、その隣から順に理科準備室に実験室。実験室はあまり使わないから授業の時は大体理科室でやるよ」
「は~い」
案内を始めた頃からか彼女は俺が話すたびにニコニコと微笑む。何が面白いのか分からないが無視して案内を続ける。
「ねぇ照史君。君…好きな人いる?」
彼女の質問は今のこの状態を一気に気不味くさせた。出会って初日の相手にそんなことを聞かれるとは思わなかった。
「え、今はいないかな…」
俺は特に嘘をつくわけでもなく正直に話した。彼女は思っていた通りの返答を聞いたような顔をして俺を追い抜いて歩いた。
「そうなんだ、なんか意外だな。私ね、今日初めて君に会うはずなのに何だか前から知っていた気がするんだ」
彼女の言葉が理解できず「何だそれ」と鼻で笑うような返事をした。
案内も終わり俺たちは教室へ戻っている途中高橋さんは廊下に掲示してあるポスターに目を向けた。
「花火大会?何これ?」
「あぁ、毎年この町で開催されるやつだよ。割と規模がデカイらしいから県外からも多くの人が来る日なんだ」
そのポスターを見ながら高橋さんはまた歩き出した。よほど気になるのか彼女は首が動く範囲の間ずっとポスターを見ていた。
「今日は案内ありがとう。私、先に帰るね」
彼女は教室へ帰るとすぐに鞄を持ち後にした。季節外れの転校生…家族の関係上仕方のないかもしれないが高校最後の年に転校だなんて可哀想だなと思った。仲がいい友達とも離れ離れになり彼女も心細いのではないかと心配する。
「おい!案内どうだったんだよ?何か面白いことでもあったか?」
考え事をしていると司が背後から現れた。話しかけると同時に肩に手を回されたので俺は驚き少し大きな声を出してしまった。
「うわ!ビックリさせんなよ…別に何もなかったよ」
俺は司に案内中に起こったこと全てを話した。勿論、花火大会のポスターを長時間見つめていたことも全て。
「ふーん、それって単純にお前と花火大会に行きたいんじゃないの?興味もないならポスターなんて眺めたりお前に好きな人いるのかなんて質問しないでしょ」
「そんなわけないだろう。出会って初日のやつと花火なんて誰が行きたがるんだよ」
司は適当なことを言い俺の反応を見て面白がっている。だが、口とは真反対に司の言っていることが本当ならと考えてしまう。思春期男子がよく考えてしまうことだろう。
「まぁお前にその気があるなら誘ってみろよ。もしかしたらOK出してくれるかもよ?」
俺は司の言葉を真に受けながらも「考えとく」と興味がなさそうに答えた。
帰宅時、自転車を押しながら俺は通学路を通る。辺りはもう夕暮れで町全体が朱色に染まり町の家々に少しずつ照明の灯りがつき始める。
(高橋さんってどんな人なんだろう。でも、本当に可愛かったな…)
俺は無意識に彼女のことを思い出していた。授業中に見せた彼女の笑顔が脳裏をよぎり思い出している俺も勝手にニヤついてしまう。
「やばいやばい、これじゃまるで変態みたいじゃんか!」
自分にしっかりしろという感じで俺は自分の頬を数回両手で叩いた。しかし、それでも彼女の笑顔が忘れられずニヤついてしまいまた自分の頬を数回叩く。気がつくと叩きすぎたせいで俺の頬は軽く腫れ夕焼けと同じ色に染まった。
「ただいま」
家に着くと玄関には見慣れぬ靴があった。両親に客が来ているのだろうと思った俺は邪魔にならないように静かに二階の自室に向かう。
「あら、照史おかえりなさい。丁度良かった、あんたも挨拶しなさい」
「え、誰に?」
俺は母さんに客間へ連れられ母さんの言うお客さんに挨拶をすることになった。客間の前に着くと身だしなみが整っているか確認し部屋の襖を開ける。
「あ、照史君おかえり。ここ照史君家なんだね」
客間へ入るとそこには先程学校で別れたはずの高橋さんが座っていた。
「え、何で家に高橋さんがいるの?」
彼女は立ち上がり「私がいたら悪かった?」と言い俺の目の前まで近寄って来た。そうすると俺の耳元まで顔を近づかせ小さな声で囁いた。
「今日からよろしくお願いします」
彼女の甘い言葉に翻弄されながら俺は顔を赤める。よろしくとは一体どういう意味なのかと自分の頭の中で精一杯考えた。だが、頭の中では都合のいい解釈しか出てこず答えを見つけれなかった。
「あら、2人とも若いわね~」
入口の方から母さんの冷やかす声が聞こえた。俺は突然現れた母さんに対し「いや、これは誤解で…」と訳の分からない訂正をしていた。
「おばさん、これ、つまらないものですけど皆さんで食べてください」
母さんが現れると高橋さんは俺を無視するかのように通り過ぎ母さんにラッピングされた箱を渡した。
「え、何?どういうこと?」
俺は状況を飲み込めず1人だけアタフタした。しかし、2人はそんな俺を見てクスクスと笑う。
「あんた、朝に言ったじゃない今日から隣に人が引っ越して来るから挨拶しなさいよって」
母さんは笑いながら説明をする。どうやら俺は母さんが朝に言った言葉を聞いておらず1人だけ浮いた状態になったみたいだ。
「っていうことは今日から高橋さんはお隣さんになるの?」
彼女は嬉しそうに「そうだよ」と笑みを浮かばせ答えた。
「それじゃあお邪魔しました」
高橋さんは挨拶が終わると自宅へと戻った。俺の部屋から外を眺めると彼女は本当に隣の家に入って行く。どうやら本当に彼女は俺の隣人になったみたいだ。
『照史君、また明日ね』
彼女は帰り際、挨拶をした。当たり前に聞こえる言葉だがその言葉は何となく心に響き渡り反射的に俺も「うん、また明日」と言った。
「高橋さん…変わった人だったな」
俺はまだ彼女がどんな人なのか知らない。しかし、これから先に彼女のことを知ることになるだろう。
【あとがき】
ご愛読ありがとうございます。
今日からアルファポリスで新しく連載する「あの夏二人で見た打ち上げ花火は君の胸の中だった」です。
まだ一話しか公開していませんが気に入ってもらえましたでしょうか?早いペースで1ヶ月に一話の感覚で投稿したいと思いますが学校行事があり投稿が遅れてしまう場合がございますが何卒ご了承ください。
さて、つまらない話ではありますが私は同じペンネームでノベルバでも作品を投稿しています。今はまだ、アルファポリスではこの作品しか投稿していませんが徐々にこちらでもたくさんの作品を改良版やアルファポリスオリジナルシリーズとして連載させていただきます。
もし、読者様の中でノベルバもご利用なされている方がいらっしゃいましたら一度だけでも足をお運びください。
これからもよろしくお願いします。
【お知らせ】
今の作品をより良いものにする為に読者様からの応援コメントやご指導コメントを随時募集しています。
誤字脱字などの細かい失敗を発見された方はコメントでご指摘ください。私に対する質問や応援などの小説と関係ないことも喜んで返信させていただきます。
しかし、現実はそう甘くはなかった。何故かというと俺が住んでいるこの町は山と海に囲まれた田舎なのだ。山や海に囲まれていても小さい頃からキャンプや海水浴をするので今更もう面白くはない。もっと都会的な場所場所に行こうとしてもこの町に電車が来るのは2、3時間に一本。行きたくてもあまり行けない。こんな町ではせっかくの夏休みもただ時間を無駄にしてしまうだけだ。
「おい、今年の夏休みはどうする?せっかく高校最後の夏なんだから最高の夏休みにしようぜ!」
今この町では楽しい夏休みが送れないと思っていたところに幼馴染の森口 司はこの町では無理な計画を立てようと近づいて来た。
「最高の夏休みって…。この町でどうやったら実現できるんだよ」
俺は分かっていながらも質問した。この質問に対して司は口をポカーンと開けたまま固まっていた。まるで馬鹿みたいな顔をしながら「確かにな」と答え俺の机にうつ伏せる。
「何で俺たちはこんな町に生まれたんだよ!コンビニもない、カラオケもないしスーパーですら車で1時間以上かかるし…もうこんな町嫌だ…」
半べそをかきながら絶望する司の姿に同情し俺は司の肩を数回叩いて慰めた。
「仕方ないさ。だから今年も俺たちは電車を使って1日都会人になろうぜ」
この町に住む学生は誰もが都会に憧れている。なのでそんな学生のほとんどは数少ない小遣いを消費してでも1日だけの都会人気分を味わおうとする。きっとそれがこの町の人間が思い出ある夏休みの唯一の過ごし方だろう。
「それもそうだな。はぁ…できるだけ金を使わずに楽しみたいな」
司は果てしない夢を頭の中で抱きながら前を向いた。
「はーい、皆席について。HRはじめるぞー」
朝のHR前の賑わった教室から担任による始まりの声が聞こえた。それと同時にチャイムが校内に鳴り響きクラス全員が席に着き始める。
「きりーつ、気をつけー、れーい」
その日の日直のやる気のない号令でHRが始まった。これがいつも通りの1日の始まりである。
「今日は皆に嬉しい発表があります。何と今日このクラスに転校生が来ました」
いつものつまらない筈のHRは担任の一言により教室内の空気がガラリと変わった。季節外れの転校生ということで教室中が「おぉ!」と驚く声を出し一人の男子生徒が立ち上がり「先生!転校生は男子ですかー?女子ですかー?」と先生に尋ねた。それに対し先生はその質問を待っていましたと言わんばかりのドヤ顔を見せ得意げに答え始めた。
「男子の皆、喜べ。転校生は女子だ。しかもかなり美人だぞ」と大声で発表した。そうすると質問した男子は勿論教室内のほとんどの男子が立ち上がり「よっしゃー!」と喜んだ。そんな男子たちを見て女子は心なしか全員ジト目をしながら一歩引く。
「はいはい、嬉しいのは分かったからとりあえず中に入ってもらって簡単な自己紹介をしてもらうよ」
喜びの渦に飲み込まれている男子たちを一度席に座らせ先生がコホンと咳をした。そして、転校生に中へ入るように促す。
「ほら、中に入って自己紹介をしてね」
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「高橋 愛奈と言います。父の仕事の都合で引っ越して来ました。どうぞよろしくお願いします」
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「席はー、宇野 照史君の隣で大丈夫かな?結構後ろの席になるけど黒板見えるかな?」
席は定員割れで一席分空いている俺の隣になる。とても美人な彼女が隣に来るので嬉しいという気持ちよりも男子たちの怒りと嫉妬の視線で恐怖に落とされた。
「はい、視力は悪くないので大丈夫です」
彼女は問題なさそうに答えた。そうすると先生は「なら、席に座っていいよ」と言い彼女は俺の隣である自分の席へ歩き始めた。彼女の歩く姿はまるでファッションショー見せられているような気持ちにさせられる。
「おぉー、すげー美人だ」
誰もがそう言いながら彼女の歩く姿を目で追う。教室内は彼女に釘付けだった。
「今日からよろしくね、照史君」
美しい彼女にボーッと見とれていた俺は彼女の言葉に気づくのが遅れ「あ、よ、よろしく」とまるでコミュ障のような挨拶になってしまった。しかし、彼女はそんな俺を見ても「ふふっ」と微笑み受け流してくれた。
「あ、丁度いい。折角隣の席になったんだから宇野君、君放課後高橋さんに学校の中を案内してあげてよ」
先生の突然の指名に俺は状況を理解できず「へっ?」とマヌケな声を出してしまった。男子たちは断れと言わんばかりの眼差しで俺を見つめるがここで断ってしまっては高橋さんに嫌なやつと思われてしまうので渋々受け入れた。
キーンコーンカーンコーン…
「はい、じゃあHRはここまで。皆一時限目の準備をしておいてね」再びチャイムが鳴りHRの終了を知らせた。今日も退屈な1日が始まる。
「そして主人公は恋人である彼女に5年後再開し結婚して幸せになるって話ね。つまりここで筆者が伝えたいことは…」
つまらない授業の中でも国語だけは別だ。特に小説などの長文物はかなり魅力を感じる。物語に入り込み登場人物の視点だったり筆者の視点だったりとあらゆる立場で見れるところが国語ならではと思う。
「楽しそうだね。君、国語好きなの?」
授業に夢中になっていると普段はいないはずの隣の席からジッとこちらを見つめる高橋さんの姿があり彼女は俺と目が合うとニコリと微笑んだ。
「面白いよ。登場人物や筆者視点から見るのは特にね」
彼女は「ふーん」と興味がなさそうに相槌を打ち俺の教科書を覗く。自分の教科書を持っているはずなのにわざわざ俺の教科書を見る姿にドキッとしながらも平然を装った。お陰で授業は全く手中できずどこまで進んだのか分からなくなってしまった。
「そんなに照れなくてもいいのに。私ちゃんと板書してたから後で見せてあげようか?」
1時間ずっと俺の隣で教科書を覗いていたはずの彼女は確かに完璧に板書をしていた。俺はそこでようやく高橋さんにいたずらされていたことに気づく。
「え、もしかしてわざとだったの?だから教科書持ってるのに俺の方を見てたの?俺が板書できないように?」
高橋さんは全ての答えに「うん」と嬉しそうに答えた。俺はそんな彼女の姿を見て恥ずかしさと悔しさに顔を赤めた。
「放課後、案内よろしくね。照史君」
彼女の言葉に俺は悔しさで怒っていた感情が照れに変わり首を小さく縦に振った。
※
放課後、俺は高橋さんの学校案内をしなくてはならない。彼女はどう思っているのか知らないが俺自身としては美人な彼女と2人っきりで校舎を周れることを嬉しく思う。
「おまたせ、提出物があったから遅れちゃった」
「ううん、いいよ気にしないで。それじゃあ早速だけど案内してもらえる?」
うちの学校は別に頭が良かったりスポーツができたりするわけではないので校内面積は大して多くはない。教室も昔は沢山の生徒がいたのだろうが今はほとんどが起き教室になっておりかつての面影はどこにもない。
「ここが理科室。で、その隣から順に理科準備室に実験室。実験室はあまり使わないから授業の時は大体理科室でやるよ」
「は~い」
案内を始めた頃からか彼女は俺が話すたびにニコニコと微笑む。何が面白いのか分からないが無視して案内を続ける。
「ねぇ照史君。君…好きな人いる?」
彼女の質問は今のこの状態を一気に気不味くさせた。出会って初日の相手にそんなことを聞かれるとは思わなかった。
「え、今はいないかな…」
俺は特に嘘をつくわけでもなく正直に話した。彼女は思っていた通りの返答を聞いたような顔をして俺を追い抜いて歩いた。
「そうなんだ、なんか意外だな。私ね、今日初めて君に会うはずなのに何だか前から知っていた気がするんだ」
彼女の言葉が理解できず「何だそれ」と鼻で笑うような返事をした。
案内も終わり俺たちは教室へ戻っている途中高橋さんは廊下に掲示してあるポスターに目を向けた。
「花火大会?何これ?」
「あぁ、毎年この町で開催されるやつだよ。割と規模がデカイらしいから県外からも多くの人が来る日なんだ」
そのポスターを見ながら高橋さんはまた歩き出した。よほど気になるのか彼女は首が動く範囲の間ずっとポスターを見ていた。
「今日は案内ありがとう。私、先に帰るね」
彼女は教室へ帰るとすぐに鞄を持ち後にした。季節外れの転校生…家族の関係上仕方のないかもしれないが高校最後の年に転校だなんて可哀想だなと思った。仲がいい友達とも離れ離れになり彼女も心細いのではないかと心配する。
「おい!案内どうだったんだよ?何か面白いことでもあったか?」
考え事をしていると司が背後から現れた。話しかけると同時に肩に手を回されたので俺は驚き少し大きな声を出してしまった。
「うわ!ビックリさせんなよ…別に何もなかったよ」
俺は司に案内中に起こったこと全てを話した。勿論、花火大会のポスターを長時間見つめていたことも全て。
「ふーん、それって単純にお前と花火大会に行きたいんじゃないの?興味もないならポスターなんて眺めたりお前に好きな人いるのかなんて質問しないでしょ」
「そんなわけないだろう。出会って初日のやつと花火なんて誰が行きたがるんだよ」
司は適当なことを言い俺の反応を見て面白がっている。だが、口とは真反対に司の言っていることが本当ならと考えてしまう。思春期男子がよく考えてしまうことだろう。
「まぁお前にその気があるなら誘ってみろよ。もしかしたらOK出してくれるかもよ?」
俺は司の言葉を真に受けながらも「考えとく」と興味がなさそうに答えた。
帰宅時、自転車を押しながら俺は通学路を通る。辺りはもう夕暮れで町全体が朱色に染まり町の家々に少しずつ照明の灯りがつき始める。
(高橋さんってどんな人なんだろう。でも、本当に可愛かったな…)
俺は無意識に彼女のことを思い出していた。授業中に見せた彼女の笑顔が脳裏をよぎり思い出している俺も勝手にニヤついてしまう。
「やばいやばい、これじゃまるで変態みたいじゃんか!」
自分にしっかりしろという感じで俺は自分の頬を数回両手で叩いた。しかし、それでも彼女の笑顔が忘れられずニヤついてしまいまた自分の頬を数回叩く。気がつくと叩きすぎたせいで俺の頬は軽く腫れ夕焼けと同じ色に染まった。
「ただいま」
家に着くと玄関には見慣れぬ靴があった。両親に客が来ているのだろうと思った俺は邪魔にならないように静かに二階の自室に向かう。
「あら、照史おかえりなさい。丁度良かった、あんたも挨拶しなさい」
「え、誰に?」
俺は母さんに客間へ連れられ母さんの言うお客さんに挨拶をすることになった。客間の前に着くと身だしなみが整っているか確認し部屋の襖を開ける。
「あ、照史君おかえり。ここ照史君家なんだね」
客間へ入るとそこには先程学校で別れたはずの高橋さんが座っていた。
「え、何で家に高橋さんがいるの?」
彼女は立ち上がり「私がいたら悪かった?」と言い俺の目の前まで近寄って来た。そうすると俺の耳元まで顔を近づかせ小さな声で囁いた。
「今日からよろしくお願いします」
彼女の甘い言葉に翻弄されながら俺は顔を赤める。よろしくとは一体どういう意味なのかと自分の頭の中で精一杯考えた。だが、頭の中では都合のいい解釈しか出てこず答えを見つけれなかった。
「あら、2人とも若いわね~」
入口の方から母さんの冷やかす声が聞こえた。俺は突然現れた母さんに対し「いや、これは誤解で…」と訳の分からない訂正をしていた。
「おばさん、これ、つまらないものですけど皆さんで食べてください」
母さんが現れると高橋さんは俺を無視するかのように通り過ぎ母さんにラッピングされた箱を渡した。
「え、何?どういうこと?」
俺は状況を飲み込めず1人だけアタフタした。しかし、2人はそんな俺を見てクスクスと笑う。
「あんた、朝に言ったじゃない今日から隣に人が引っ越して来るから挨拶しなさいよって」
母さんは笑いながら説明をする。どうやら俺は母さんが朝に言った言葉を聞いておらず1人だけ浮いた状態になったみたいだ。
「っていうことは今日から高橋さんはお隣さんになるの?」
彼女は嬉しそうに「そうだよ」と笑みを浮かばせ答えた。
「それじゃあお邪魔しました」
高橋さんは挨拶が終わると自宅へと戻った。俺の部屋から外を眺めると彼女は本当に隣の家に入って行く。どうやら本当に彼女は俺の隣人になったみたいだ。
『照史君、また明日ね』
彼女は帰り際、挨拶をした。当たり前に聞こえる言葉だがその言葉は何となく心に響き渡り反射的に俺も「うん、また明日」と言った。
「高橋さん…変わった人だったな」
俺はまだ彼女がどんな人なのか知らない。しかし、これから先に彼女のことを知ることになるだろう。
【あとがき】
ご愛読ありがとうございます。
今日からアルファポリスで新しく連載する「あの夏二人で見た打ち上げ花火は君の胸の中だった」です。
まだ一話しか公開していませんが気に入ってもらえましたでしょうか?早いペースで1ヶ月に一話の感覚で投稿したいと思いますが学校行事があり投稿が遅れてしまう場合がございますが何卒ご了承ください。
さて、つまらない話ではありますが私は同じペンネームでノベルバでも作品を投稿しています。今はまだ、アルファポリスではこの作品しか投稿していませんが徐々にこちらでもたくさんの作品を改良版やアルファポリスオリジナルシリーズとして連載させていただきます。
もし、読者様の中でノベルバもご利用なされている方がいらっしゃいましたら一度だけでも足をお運びください。
これからもよろしくお願いします。
【お知らせ】
今の作品をより良いものにする為に読者様からの応援コメントやご指導コメントを随時募集しています。
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家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
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