JNNE ーDreams and realityー

sasayan

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Episode28

招かれざる者

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一人狂い叫ぶサナラを、周囲の人々は冷ややかな目で見る。
変質者が現れたと通報する人もいる。
そんなサナラを相手に、老人が話しかけてきた。

「あんた、そこは車道だよ、こっちへ来な。 皆迷惑しているじゃないか」
「老婆よ! それがパルコスの長に対しての言葉か!?」
「訳分かんない事言ってないで、早くこっちへ来な!」
「動く鉄塊……想像を絶する人の数…異端の建造物……そして恐れを知らない老婆! ここはなんなんだ!」

大声で叫びながら、サナラは老婆へと身を運んだ。

「老婆よ! 説明してもらおう!」
「説明しろって、何をだい」
「全てを知っているのだろう!」

老人は呆れたように首を振り、サナラをまじまじと見た。

「なんだいその服は。 汚らしいったらない」
「な……!」
「ホームレスなんだろう? ほれ、持ってきな」

老人は果物を一つ、サナラに手渡しその場を去った。
受け取った果物を口に運び、サナラは大勢の人が行き交う道を、我が物顔で歩いた。

「シティアはどこだ! ジーク!」

一人叫びながら歩みを進めるサナラは異端そのものだった。


リゲイリアではサナラが消えた事で混乱を極めていた。
そこかしこをシティアが駆け回り、サナラを探すが見つかる訳もない。
この世界には居ないのだから。

リゲイリアを抜け出すにはまたとない絶好の機会だが、エクレールは駆け回るシティアを眺め、その場から動かなかった。
突然現れた闇にサナラが飲み込まれたのを目の当たりにして、驚きと困惑を感じているのもあるが、この状況を利用出来るのではないかと考えた。
リーダーを失った今、パルコスを囲む分厚い壁を壊すのは容易い事だ。
しかし如何にして壊すか。
新参であるエクレールの言葉に耳を貸す者などいない。
だからといって強引に物事を起こそうとしても、それだけの力は無い。

アルバノス。彼であれば事を起こせるかもしれない。
エクレールはアルバノスを探し、その場を後にした。


「アルバノス。 俺はお前に救いの手を差し伸べる。  お前はそれに報いろ」
「当然だ。 恩を仇にして返すつもりはない」

ニーデはアルバノスの自由を奪っている縄を解いた。
固まった身体をほぐすように両手をぐるりと大きく回し、祭壇へと近付くアルバノス。

「こんなもの……」

勢いよく祭壇をなぎ倒し、深呼吸をした。
ニーデの思惑は分からないが、今はこの男に頼る他ない。
友は死んでしまった。カトリーネとクレデリアも既に手遅れかもしれない。
この世界で起きている事、友の追い求めていた真実をアルバノスが引き継ぐ覚悟で、ニーデと組む事を決めた。
例えその選択が間違っていたとしても、後悔が残るよりは遥かに良い。
ジャヌの知り合いであるニーデが一緒ならば何も問題は無いと思うが、仲間は多い方が有利だ。

「エクレールを、彼女を探せば助けになってくれる。 どうだ?」
「お前に主導権はない。 ……だが、自由になった祝いに今回だけは、お前の言葉に従おう」
「……行こう」


「ジーク……シティアよ……お前たちは何処へ行ってしまったんだ! 俺の世界に拒まれたというのか。 あり得ない!」
「お前の世界?」
「誰だ!?」

生意気で冷たい声に、光の速さで振り向くサナラの前に、この世界には似つかない風変わりな格好をした男が立っていた。
サナラは男の風貌に覚えがある。それだけではない、人を小馬鹿にするような口調も含めてだ。

「お前はジャヌだな! 覚えているぞ! 今こそあの時の決着をつけようじゃないか!」
「いいや、残念だが……お前の言ってる事は何一つ正しくない」
「なんだと!? いいや! その見下した態度、間違いなくジャヌだ!」
「何十年、何百年、何千年経ったとしても、お前から馬鹿は抜けないようだな」

男は深く被ったフードから、うすら笑みを見せた。
口元しか見えていないにも関わらず、サナラは透視でもするように言った。

「その、人を突き刺すような目、 間違いない! 俺は忘れていない。 あの時、お前はその目で俺を……!」

身体と声を震わせ、辺り構わず喚き散らす。
サナラはどこまでも続く大空を見上げ、回想にふけった。


―マレウス達が訪れるよりも遥か前のエデシア―

イデリア地区は暗雲が立ち込め、雰囲気は最悪だ。
酷い荒天で、人気は無い。
嵐の中、睨み合い佇む二人の男。


「俺の邪魔をするな。 お前はなんなんだ! いつも邪魔をする……何が気に入らない?」
「黙れ異常者。 てめぇの御託は散々だ」
「口も悪い、態度もでかい、おまけに顔も悪い! そうか、お前は俺に嫉妬してるんだろう!? だから俺を付け狙うんだな!?」
「意味の分からん事をほざくな。 てめぇと違って俺は完璧だ。 ……本題に戻るが、お前のやろうとしてる事を、黙認する事は出来なくてな。 苦しんで死ぬか、地獄を見ながら死ぬか、どっちか選べ」
「どっちを選んでも最悪な死に方じゃないか! 馬鹿なのか! 俺は死なん! 殺されるものか!」

次第に天候が悪化し、そしてエデシアは嵐に襲われた。
そんな事は御構い無しで二人の口論は終わる事なく、次第にエスカレートしていった。

「ふざけるな! オウディウスがここで死ぬわけがないだろう!」
「オウディウス? お前の名か? 確かデル・ドレとか言うふざけた名だと思ったんだが?」
「それはシティアが付けた名だ! 俺はサナラ・オウディウス! 崇高なる者だ!」
「何でもいいが、自分で言ってて恥ずかしくないのか? ……あぁ、変態だもんな。 羞恥心なんて無いよな」
「な……! 貴様……!」
「それにシティアだ? 聖人ぶってる狂信者共だろうが」
「シティアを馬鹿にする奴は許さん!」

サナラは半狂乱で男に襲いかかる。
片手には鋭利なナイフ、怒り狂う鬼のごとき形相で男にナイフを振り下ろした。
見事、男の胸に突き刺さる。
肉が裂け、ナイフが食い込む確かな感触に、サナラは狂喜乱舞だ。

「どうだぁ! 俺達を馬鹿にした奴は皆こうなる! 俺の目を見ろ! しっかり見ろ! そして乞え! 助けてくれ、すまなかったと!」

男は声にならぬ声で、サナラの目を真っ直ぐ見た。
身体の奥深くまで達し、自分の命を奪うナイフに手をやり、引き抜こうと必死になるが、サナラがそれを許さない。
男は徐々に抵抗する力を失い、ついに地面に膝をついた。

「俺は! 偉大……」

突如としてサナラは宙高くへ打ち上げられ、そして地面に叩きつけられた。
大量の血に染まる顔を歪め、痛みに悶えるサナラ。
自分に何が起こったのか分からなかった。

「ば……だにがおごっだ……」
「馬鹿じゃねぇのか? 俺がお前なんぞに殺されるとでも思ってたのか」
「おば……」
「これで終わりだと思うなよ」

男は地面にひれ伏すサナラを容赦なく殴りつける。
一発、また一発と重い拳を力任せに振り下ろす。
サナラの顔はもはや判別がつかないほどになっていた。
意識を失った方が楽かもしれない。だが不思議な事にサナラの意識は遠のくどころかはっきりと、確かなものになっていた。
自分に振り下ろされる真っ赤な拳をただ見つめ、それが顔にのめり込むたびに殺してくれと心中で懇願した。

声なき悲鳴が響く。空気に混じった血が漂い、イデリアが赤く染まっているようだった。
すっかり顔面が腫れ上がったサナラは、ろくに力を出す事も出来ずにその場から少しも動かなかった。
死んではいない。意識はあるのだ。はっきりと自分を見下ろしている男が見える。
声を出そうにもそんな力は残っていない。口をパクパクさせるだけで他は何も出来なかった。

「くたばってはいないだろ? どうだ、意識を保ちながら半殺しにされる気分は」

うすら笑みを浮かべ、深く被ったフードを取り払った。
黒髪に鋭い目。
サナラは心中で言った。「お前は一体……何者だ」
男はもったいぶるように一呼吸置き、口を開いた。

「ジャヌアーレ・マルディシオン。 お前を殺す男だ」


大空を見上げたまま、サナラは落ち着いた声で言った。

「あの時、サナラ・オウディウスはお前に殺された……。 だが……! 俺は今こうして生きているじゃないか。 これも運命だと言うのか」
「さっきから言ってるが、俺はジャヌじゃない」
「ならお前は誰だと……!」
「ジャヌは俺の友。 俺は、マレウスだ」
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