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最終章 決戦
19 新しき世
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真っ暗な暗闇にいた。ここはどこだ?俺は確か、戦場にいたはずだ。あれは、どこの戦場だった……?
そうだ、あれは父の法要を偽り、姻戚関係にあった源護と共謀した叔父・国香を返り討ちにした後だった。己の息子たちが討ち死にした腹いせに、源護は朝廷に不服申立をし、俺は検非違使の詮議を受けた。だが元より俺は父の治めた土地を受け継ぎ、父のように良き領主であろうと共に民たちと開墾してきた。そんな俺に何の咎があろう。朝廷は結局、俺に豊田の地を治めることを認め、父・義持の正当な跡継ぎとなったはずだった。だがあろうことか、叔父・良兼・良正らは往生際が悪く、俺の受け継いだ財産を奪おうと戦を仕掛けてきた。良正を何とか打ち破るも、良兼は卑怯な手をあの手この手と使い、その頃俺が病を患っていたことも相まって、ついに豊田の地を攻め落とされてしまった。そしてその折に、我が妻、桔梗とまだ幼子だった竹丸の安全を願い、俺とは別行動にさせた。
ああ、あれが失敗だった。卑怯な良兼めは桔梗を人質にしようと目論み、俺の足手まといにならないようにと桔梗は自ら命を絶ったのだ。俺は、桔梗を、竹丸を、守ってやれなかった。平和だった我らの暮らしは、奸賊によって壊された。
悲しい。苦しい。恨めしい。
俺は何をやっているのか!病気などに罹り、守ってやるべき者も守れなかった!
「紬!俺のこの感情を!俺のこの、どうしようもなく悲しく、苦しいこの感情を、取り去ってくれ!そして俺を鬼にしてくれ!俺の弱い心を取り除き、冷酷無比な鬼の心と取り替えてくれ!」
そうだ、俺は紬に願った。俺の心を強くしてくれ、と。
紬との出会いはまだ俺が幼い頃だった。俺は豊田の家の近くにあった崩れかけの神社の境内によく遊びに行っていたが、当時の俺は近所のものたちから泣き虫小次郎と呼ばれており、飼っていた馬が死んだと言っては泣き、仲の良かった友が病で亡くなったと言ってはよくその境内まで行って泣いていた。その神社には薄汚い童が住み着いており、幼い俺の遊び相手だったその童によく話を聞いてもらっていた。
その童は紬と名乗った。父が亡くなった日も、俺は紬の前で泣いた。紬はそんな俺をいつも優しく見守ってくれていた。
「紬、俺と一緒に暮らそう。俺の家に来い!」
「ええ~でも、あたしみたいな身分の卑しい子、小次郎みたいなおっきい家の人は嫌がるでしょ?」
「何の!文句言うやつがいたら、俺がどやしつけてやる」
「う~ん、でもあたしはここがいいよ。ここなら小次郎と一緒に遊べるしさ。小次郎の家に行ったら、今まで通り気楽に話せなくなるでしょ?」
俺は紬のことを、戦で親を亡くしたか、あるいは流行り病で亡くしたかした孤児だと思っていた。当時はそんな孤児がたくさんいた。そんな孤児らは裕福な家に拾われて奴隷となるか、野盗に身を落とすしか食っていく術は無かった。対して俺の家は豪族で、各国々の豪族や貴族たちはその数を競うように下働きの奴隷を家に置いていた。確かに紬の言うように、奴隷が雇い主と気軽に言葉を交わすことなんて出来ない。俺の父はその辺の垣根はまだ薄い方だったと思うが、それでも今のように気楽にというわけにはいかないかもしれない。
「紬!俺はさあ、いつかきっと、戦などなく、身分など気にしない世を作ってやる。俺と紬が、いつでもどこでも気楽に暮らせる世をな!」
若さというのはいいものだ。俺は己の器の大きさも省みず、紬に得々とそんなことを語った。
「いいね、それ。じゃああたしも、小次郎を応援するよ!」
紬は俺の話を聞いてにっこりすると、くるっと宙返りして狐の姿になった。その尾は九つに別れており、尾の先を俺に向け、そこから何やら熱い気を発した。その熱気に晒され、俺は気持ちが大きくなり、心の臓の底から勇気が湧いてくるような気がした。俺は驚き、再び童の姿に戻った紬に聞いた。お前は一体何者だ、と。紬は言った、妙見菩薩の使いだと。それから俺は紬との親交をさらに深めた。俺は16になると叔父たちに京へ修行にやられたが、貴族たちの腐敗した姿に呆れて帰ってきてからは紬の住む見窄らしかった社も建て替え、俺は紬の言う妙見菩薩を信心するようになった。
だが俺はまだまだ甘かった。父の財産を横恋慕する国香と良正を破るも、良兼ごときに豊田の地を追われてしまった。愛する妻と子も守れなかった。俺はこの心の弱さを強くしてくれと紬に願った。紬はその俺の願いを聞き届けてくれ、俺の心から俺を弱くする一切の感情を取り払ってくれた。
それから……
俺は良兼を死に追いやり妻と子の敵を討ったのは元より、その後もたくさん戦をした。連戦連勝だった。周囲の豪族たちは俺の鬼神のような戦い方に恐れをなし、俺は坂東一帯を手中に収めるに至った。俺の元には俺を頼る者たちが集ってきた。その者たちが抱える諍いも次々に収めてやる中で、それに破れた源経基などは朝廷に泣きついて俺のあること無いことを注進して騒ぎ立てた。元より俺の勢いを快く思っていなかった朝廷は俺に討伐兵を差し向けた。俺はそんな朝廷に見切りをつけ、新王を名乗った。俺は紬に約束した通り、新しい世を作ってやる……はずだった………
俺はさらなる強い異界の力に魅せられていた。ただ妙見菩薩のみを信奉するのに飽き足らず、俺は様々な異界の者を訪ね、相手が女とあらば契りを交わして子をもうけた。紬がそんな俺に愛想を尽かしたかどうかは知らぬ。だが俺は確かに慢心していた。朝廷の息のかかった兵などは恐るに足りなかったが、俺は、俺の子の半妖にしてやられた。俺は、志半ばで討伐され、首を切られて黄泉に下った。そして黄泉の国から虎視眈々と、人の世を見ていた。そんな俺はいつしか、暗闇に囚われていた。
「いつかの預かっていた感情を返すよ」
暗闇の中に、九尾の狐が現れた。
「紬か!?息災だったか?」
「うん、何とかね。小次郎、もう気は済んだ?」
「気?何の気だ?」
「言ってたでしょ?王になるって」
「ああ、その、気、か。そうだな、王になるのも悪くはないが、俺はもう破れたのだろう?」
「うん、まあ、そだね。だからね、預かってたもの、返そうと思って」
「預かっていたもの?はて?何だった?」
紬の尾が眩く光り、俺の胸にその光が当てられる。すると俺の胸は熱くなり、忘れていた大切な何かを思い出した気がした。何だ?この胸を締め付ける感情は。この苦しい情はどこから来る?喉の奥からひりつくように迫り上がってくる、この泣き叫びたくなるような感情は何だ?
そうだ、これは桔梗を慈しむ心。子を想う親の情愛……………
「いやじゃ……いやじゃいやじゃいやじゃいやじゃいやじゃ……いやじゃー!!」
急に視界が明るくなり、懐かしい里の匂いがする。前方で、子どもが泣き叫んでいる。子の前には母と思われる女、その二人の姿を見て、俺は激しい情念に身を震わせた。子の方に一歩、二歩、歩く。声を、かける。
「何だ竹丸、まーた、かか様を泣いて困らせているのか?」
目の前に懐かしい父の姿がある。醜く怨霊化した姿ではなく、あの精悍で頼もしかった、父の姿が…………
父は草太に歩み寄り、驚いて泣くのを止めた草太を抱いた。父の太い指が、草太の涙を払う。そしてワシャワシャと、草太の頭を撫でた。
「竹丸はいつまでも泣き虫よのう。誰に似たんじゃ?ん?」
「ととたまだよ。ととたまも、なきむちって言われてたんでしょ?」
「んん?おお、そうか、俺に似たのか」
父はワハハと笑い、また草太の頭をワシャワシャと掻く。そんな父子に、母が寄る。
「あなた……お帰りなさい」
「おう!ただいま帰った!待たせたな」
「本当に………本当に長かった………」
母の目に涙がたまり、こぼれ落ちた。
「お?竹丸、桔梗もちょっと見ぬ間に泣き虫になっておるぞ」
カカカと笑う父に、母も抱きつき、顔を埋めた。親子三人を温かい光が包む。草太は幸福感に、また目を潤ませた。柔らかい日射しが、スポットライトのように草太たちを浮き上がらせていた。
ガシャガシャと騒がしい音がし、鳥居から数人の武者たちが駆け上がってきた。どの武者の鎧もボロボロで、落武者のように髷も垂れ、顔から死臭を放っていた。
「兄者人!まだ終わってはおりませぬ。新しい世を作るのはこれからですぞ!」
一人の武者が一歩前に出て将門に叫ぶ。その後ろに四人の武者が並んでいた。
「おう、将頼、今は久々の一家団欒の最中じゃ。邪魔をするな」
「何を申します!兄上!そのような温いことを言っている場合ではござりませぬ!後一息で!後一息で兄者がずっも望んでいた世界の王になれるのです!そのようなことは後回しになさりませ!」
将門は将頼の言葉にピクリと眉を動かし、抱いていた草太を下ろした。そして将頼の方に向く。
「世界の王に?後一息でなれると申すか?」
「なれますとも!さあ、我らと戻って事を為しましょうぞ!兄者の力で、世界を正すのです!」
将門が将頼の方へ一歩踏み出す。桔梗が慌ててその袖を引いた。振り向いた将門に、桔梗が首を振る。
「あなた、私は彼らに、何度も殺されたのです」
桔梗の言葉に、将門が眉を寄せる。
「殺された?桔梗、どういうことだ?」
「義姉上!何を申されます!兄者、義姉上は何か勘違いをされておる。さあ兄者、参りましょう!」
将頼が将門に駆け寄ろうとした時、バタンと社殿の扉が開いた。中から泥だらけの小汚い童が姿を現す。その姿を見て、将門の眉が大きく上がる。
「おお紬!主もそこにおったか」
紬は社殿の階段を下り、テクテクと歩いて将門と将頼の間に入り、将頼を見上げた。
「世を正すって?あんた、生まれ変わった桔梗のことを何度も犯し、挙げ句に殺しまくってたよね?そんなやつに、世の中を正せるの?」
「うるさい!この汚いガキが!何を申す!」
将頼が紬に掴みかかろうとすると、紬はストップするように掌を向けた。その掌に将頼が触れると眩い光を発し、バチッと電流が走ったように後方の落武者たちの前まで弾き飛ばした。
「三郎兄者!」
落武者たちが将頼を助け起こし、将頼は目を見開いて紬を見る。紬はそれには構わず、今度は将門を見上げた。
「小次郎、桔梗はね、竹丸やあんたに会いたくて何度も生まれ変わったんだ。そんな桔梗の気配を察知した将頼は桔梗の身近にいた人間に憑依して、桔梗を何度も殺した。それは、桔梗が自分たちの野望の邪魔をすると思ったからなんだろうけど、将頼たちにしても世の文明が進歩するにつれ、次第に世俗にまみれ、肉欲に溺れるようになってしまったんだ。あいつらはもう、ただの我欲に囚われた亡者に成り下がってしまったんだよ」
紬は落武者たちをビシッと指差した。将門もその方向を見る。その表情は憤怒で真っ赤になっていた。
「将頼!まことか!?」
「そ、そんな、そのようなことは……」
将頼は将門に向けて必死に手を振る。そして言い訳しようとモゴモゴするのを、将門はカッと目を見開いて一喝した。将門の身体からボウと赤い火が沸き上がり、阿修羅のような姿となってドスドスと落武者たちの方に向かった。
「黙れ!俺は紬の言う事を信じる!我らは土にまみれ、民を想い、腐れた世を正すことを志していたはず。なのに己らの欲に溺れてなんとする!それでは我らが叔父たちや朝廷の腐れ貴族どもと同じではないか!!」
将門の目が赤く光り、光線を発して落武者たちを射抜いていく。射抜かれた落武者は断末魔とともに赤く爛れ、黒い灰となって弾けて霧散した。落武者たちの姿が消えると、しんとした空気が境内に流れる。
「あなた……」
将門は母子に向き、心配そうに見つめる桔梗や草太を目をすると、全身にまとわせた赤い発光を収め、人の姿に戻った。その服装は畑仕事をやる時によく着ていた、直垂に袴といった簡素な出で立ちだった。草太はホッとして将門の方に駆け、桔梗もそれに続いた。将門は屈んで二人を受け止め、また三人で抱き合った。しばらく静かな時が流れ、そっと、将門は二人から身体を離すと、側に立っていた紬に向く。
「なあ紬、俺はずっと悪い夢を見ていた気がする。だが実際は、黄泉の世界に身を寄せていたんだろ?」
紬が、頷く。
「どうだ?俺のいた世界は、深いか?」
「かなり深淵だったね。でも今は、あたしが感情を返したから、ちょっと浅くなったよ」
「そっか。でも、桔梗のいる世界とは違うんだろ?」
「うん…桔梗は陽の側だからね、陰の側にいる小次郎とは反対の方向だよ」
「そっか……ここに居られる時間はあとどのくらいだ?」
「うーん……もう、あんまし無いかも」
「そっか……」
そこまで話すと、将門はすっくと立ち上がって、また桔梗と草太に寄り、二人を抱き寄せた。草太は紬の言葉を聞き、胸の中に不安が広がっていた。将門の腕にギュッと力がこもり、そして、そっと身体を離した。
「そろそろ、行くよ」
父の言葉に、草太の目から感情が溢れる。
「いやだ!やっと会えたのに、また、いなくなるの?」
将門は屈んで草太の目線まで背を落とす。
「竹丸、強くなれ。いや、お前は父のいない世も生き抜いたんだよな。これからもお前の生を、満喫しろ!」
「いやだいやだいやだいやだ!」
「駄々をこねるな。父と子は、いつかは別れなければいけないもんだ」
将門は立ち上がり、また草太の頭をワシャワシャする。そして桔梗に向いた。桔梗の目からも涙が溢れている。
「桔梗、俺は必ず、お前のいる世界に行く。どれくらい時間がかかるか分からんが、それまで待っていてくれるか?」
将門の精悍な笑顔に、桔梗は何度も何度も頷いた。桔梗の目からこぼれた雫が、草太の頭を濡らした。
「それから紬、こんな場を設けてくれて、ありがとな。紬には、何から何まで世話になった」
「いやいや、かまわんよ」
紬は将門の別れの言葉に、老練なじいさんのような照れ笑いで返す。
「一つ聞かせてくれ。弟たちと俺の世界は結構離れているのか?」
「いや、小次郎は陽の側に移り、将頼たちは逆に陰に寄ったから割りと近くなったよ」
「そうか、じゃあ俺が桔梗の世界に移る際には、あいつらも引き連れて行くか。あれでもあいつらは共に戦ってきた仲間だからな」
将門はそう言ってニカッと笑うと、後ろの鳥居に向く。
「あなた!」
「ととさま!」
妻と子の叫びを背に、後ろ手に手を振ると、そのまま真っすぐ歩いて鳥居を抜けた。すると将門の身体の線がすうっと薄くなり、透明になって周りの景色に溶けていった。ザッと風が吹き、赤茶けた落ち葉を、らせん状に巻き上げた。
そうだ、あれは父の法要を偽り、姻戚関係にあった源護と共謀した叔父・国香を返り討ちにした後だった。己の息子たちが討ち死にした腹いせに、源護は朝廷に不服申立をし、俺は検非違使の詮議を受けた。だが元より俺は父の治めた土地を受け継ぎ、父のように良き領主であろうと共に民たちと開墾してきた。そんな俺に何の咎があろう。朝廷は結局、俺に豊田の地を治めることを認め、父・義持の正当な跡継ぎとなったはずだった。だがあろうことか、叔父・良兼・良正らは往生際が悪く、俺の受け継いだ財産を奪おうと戦を仕掛けてきた。良正を何とか打ち破るも、良兼は卑怯な手をあの手この手と使い、その頃俺が病を患っていたことも相まって、ついに豊田の地を攻め落とされてしまった。そしてその折に、我が妻、桔梗とまだ幼子だった竹丸の安全を願い、俺とは別行動にさせた。
ああ、あれが失敗だった。卑怯な良兼めは桔梗を人質にしようと目論み、俺の足手まといにならないようにと桔梗は自ら命を絶ったのだ。俺は、桔梗を、竹丸を、守ってやれなかった。平和だった我らの暮らしは、奸賊によって壊された。
悲しい。苦しい。恨めしい。
俺は何をやっているのか!病気などに罹り、守ってやるべき者も守れなかった!
「紬!俺のこの感情を!俺のこの、どうしようもなく悲しく、苦しいこの感情を、取り去ってくれ!そして俺を鬼にしてくれ!俺の弱い心を取り除き、冷酷無比な鬼の心と取り替えてくれ!」
そうだ、俺は紬に願った。俺の心を強くしてくれ、と。
紬との出会いはまだ俺が幼い頃だった。俺は豊田の家の近くにあった崩れかけの神社の境内によく遊びに行っていたが、当時の俺は近所のものたちから泣き虫小次郎と呼ばれており、飼っていた馬が死んだと言っては泣き、仲の良かった友が病で亡くなったと言ってはよくその境内まで行って泣いていた。その神社には薄汚い童が住み着いており、幼い俺の遊び相手だったその童によく話を聞いてもらっていた。
その童は紬と名乗った。父が亡くなった日も、俺は紬の前で泣いた。紬はそんな俺をいつも優しく見守ってくれていた。
「紬、俺と一緒に暮らそう。俺の家に来い!」
「ええ~でも、あたしみたいな身分の卑しい子、小次郎みたいなおっきい家の人は嫌がるでしょ?」
「何の!文句言うやつがいたら、俺がどやしつけてやる」
「う~ん、でもあたしはここがいいよ。ここなら小次郎と一緒に遊べるしさ。小次郎の家に行ったら、今まで通り気楽に話せなくなるでしょ?」
俺は紬のことを、戦で親を亡くしたか、あるいは流行り病で亡くしたかした孤児だと思っていた。当時はそんな孤児がたくさんいた。そんな孤児らは裕福な家に拾われて奴隷となるか、野盗に身を落とすしか食っていく術は無かった。対して俺の家は豪族で、各国々の豪族や貴族たちはその数を競うように下働きの奴隷を家に置いていた。確かに紬の言うように、奴隷が雇い主と気軽に言葉を交わすことなんて出来ない。俺の父はその辺の垣根はまだ薄い方だったと思うが、それでも今のように気楽にというわけにはいかないかもしれない。
「紬!俺はさあ、いつかきっと、戦などなく、身分など気にしない世を作ってやる。俺と紬が、いつでもどこでも気楽に暮らせる世をな!」
若さというのはいいものだ。俺は己の器の大きさも省みず、紬に得々とそんなことを語った。
「いいね、それ。じゃああたしも、小次郎を応援するよ!」
紬は俺の話を聞いてにっこりすると、くるっと宙返りして狐の姿になった。その尾は九つに別れており、尾の先を俺に向け、そこから何やら熱い気を発した。その熱気に晒され、俺は気持ちが大きくなり、心の臓の底から勇気が湧いてくるような気がした。俺は驚き、再び童の姿に戻った紬に聞いた。お前は一体何者だ、と。紬は言った、妙見菩薩の使いだと。それから俺は紬との親交をさらに深めた。俺は16になると叔父たちに京へ修行にやられたが、貴族たちの腐敗した姿に呆れて帰ってきてからは紬の住む見窄らしかった社も建て替え、俺は紬の言う妙見菩薩を信心するようになった。
だが俺はまだまだ甘かった。父の財産を横恋慕する国香と良正を破るも、良兼ごときに豊田の地を追われてしまった。愛する妻と子も守れなかった。俺はこの心の弱さを強くしてくれと紬に願った。紬はその俺の願いを聞き届けてくれ、俺の心から俺を弱くする一切の感情を取り払ってくれた。
それから……
俺は良兼を死に追いやり妻と子の敵を討ったのは元より、その後もたくさん戦をした。連戦連勝だった。周囲の豪族たちは俺の鬼神のような戦い方に恐れをなし、俺は坂東一帯を手中に収めるに至った。俺の元には俺を頼る者たちが集ってきた。その者たちが抱える諍いも次々に収めてやる中で、それに破れた源経基などは朝廷に泣きついて俺のあること無いことを注進して騒ぎ立てた。元より俺の勢いを快く思っていなかった朝廷は俺に討伐兵を差し向けた。俺はそんな朝廷に見切りをつけ、新王を名乗った。俺は紬に約束した通り、新しい世を作ってやる……はずだった………
俺はさらなる強い異界の力に魅せられていた。ただ妙見菩薩のみを信奉するのに飽き足らず、俺は様々な異界の者を訪ね、相手が女とあらば契りを交わして子をもうけた。紬がそんな俺に愛想を尽かしたかどうかは知らぬ。だが俺は確かに慢心していた。朝廷の息のかかった兵などは恐るに足りなかったが、俺は、俺の子の半妖にしてやられた。俺は、志半ばで討伐され、首を切られて黄泉に下った。そして黄泉の国から虎視眈々と、人の世を見ていた。そんな俺はいつしか、暗闇に囚われていた。
「いつかの預かっていた感情を返すよ」
暗闇の中に、九尾の狐が現れた。
「紬か!?息災だったか?」
「うん、何とかね。小次郎、もう気は済んだ?」
「気?何の気だ?」
「言ってたでしょ?王になるって」
「ああ、その、気、か。そうだな、王になるのも悪くはないが、俺はもう破れたのだろう?」
「うん、まあ、そだね。だからね、預かってたもの、返そうと思って」
「預かっていたもの?はて?何だった?」
紬の尾が眩く光り、俺の胸にその光が当てられる。すると俺の胸は熱くなり、忘れていた大切な何かを思い出した気がした。何だ?この胸を締め付ける感情は。この苦しい情はどこから来る?喉の奥からひりつくように迫り上がってくる、この泣き叫びたくなるような感情は何だ?
そうだ、これは桔梗を慈しむ心。子を想う親の情愛……………
「いやじゃ……いやじゃいやじゃいやじゃいやじゃいやじゃ……いやじゃー!!」
急に視界が明るくなり、懐かしい里の匂いがする。前方で、子どもが泣き叫んでいる。子の前には母と思われる女、その二人の姿を見て、俺は激しい情念に身を震わせた。子の方に一歩、二歩、歩く。声を、かける。
「何だ竹丸、まーた、かか様を泣いて困らせているのか?」
目の前に懐かしい父の姿がある。醜く怨霊化した姿ではなく、あの精悍で頼もしかった、父の姿が…………
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「ととたまだよ。ととたまも、なきむちって言われてたんでしょ?」
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一人の武者が一歩前に出て将門に叫ぶ。その後ろに四人の武者が並んでいた。
「おう、将頼、今は久々の一家団欒の最中じゃ。邪魔をするな」
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将門は将頼の言葉にピクリと眉を動かし、抱いていた草太を下ろした。そして将頼の方に向く。
「世界の王に?後一息でなれると申すか?」
「なれますとも!さあ、我らと戻って事を為しましょうぞ!兄者の力で、世界を正すのです!」
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「殺された?桔梗、どういうことだ?」
「義姉上!何を申されます!兄者、義姉上は何か勘違いをされておる。さあ兄者、参りましょう!」
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「おお紬!主もそこにおったか」
紬は社殿の階段を下り、テクテクと歩いて将門と将頼の間に入り、将頼を見上げた。
「世を正すって?あんた、生まれ変わった桔梗のことを何度も犯し、挙げ句に殺しまくってたよね?そんなやつに、世の中を正せるの?」
「うるさい!この汚いガキが!何を申す!」
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「将頼!まことか!?」
「そ、そんな、そのようなことは……」
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「黙れ!俺は紬の言う事を信じる!我らは土にまみれ、民を想い、腐れた世を正すことを志していたはず。なのに己らの欲に溺れてなんとする!それでは我らが叔父たちや朝廷の腐れ貴族どもと同じではないか!!」
将門の目が赤く光り、光線を発して落武者たちを射抜いていく。射抜かれた落武者は断末魔とともに赤く爛れ、黒い灰となって弾けて霧散した。落武者たちの姿が消えると、しんとした空気が境内に流れる。
「あなた……」
将門は母子に向き、心配そうに見つめる桔梗や草太を目をすると、全身にまとわせた赤い発光を収め、人の姿に戻った。その服装は畑仕事をやる時によく着ていた、直垂に袴といった簡素な出で立ちだった。草太はホッとして将門の方に駆け、桔梗もそれに続いた。将門は屈んで二人を受け止め、また三人で抱き合った。しばらく静かな時が流れ、そっと、将門は二人から身体を離すと、側に立っていた紬に向く。
「なあ紬、俺はずっと悪い夢を見ていた気がする。だが実際は、黄泉の世界に身を寄せていたんだろ?」
紬が、頷く。
「どうだ?俺のいた世界は、深いか?」
「かなり深淵だったね。でも今は、あたしが感情を返したから、ちょっと浅くなったよ」
「そっか。でも、桔梗のいる世界とは違うんだろ?」
「うん…桔梗は陽の側だからね、陰の側にいる小次郎とは反対の方向だよ」
「そっか……ここに居られる時間はあとどのくらいだ?」
「うーん……もう、あんまし無いかも」
「そっか……」
そこまで話すと、将門はすっくと立ち上がって、また桔梗と草太に寄り、二人を抱き寄せた。草太は紬の言葉を聞き、胸の中に不安が広がっていた。将門の腕にギュッと力がこもり、そして、そっと身体を離した。
「そろそろ、行くよ」
父の言葉に、草太の目から感情が溢れる。
「いやだ!やっと会えたのに、また、いなくなるの?」
将門は屈んで草太の目線まで背を落とす。
「竹丸、強くなれ。いや、お前は父のいない世も生き抜いたんだよな。これからもお前の生を、満喫しろ!」
「いやだいやだいやだいやだ!」
「駄々をこねるな。父と子は、いつかは別れなければいけないもんだ」
将門は立ち上がり、また草太の頭をワシャワシャする。そして桔梗に向いた。桔梗の目からも涙が溢れている。
「桔梗、俺は必ず、お前のいる世界に行く。どれくらい時間がかかるか分からんが、それまで待っていてくれるか?」
将門の精悍な笑顔に、桔梗は何度も何度も頷いた。桔梗の目からこぼれた雫が、草太の頭を濡らした。
「それから紬、こんな場を設けてくれて、ありがとな。紬には、何から何まで世話になった」
「いやいや、かまわんよ」
紬は将門の別れの言葉に、老練なじいさんのような照れ笑いで返す。
「一つ聞かせてくれ。弟たちと俺の世界は結構離れているのか?」
「いや、小次郎は陽の側に移り、将頼たちは逆に陰に寄ったから割りと近くなったよ」
「そうか、じゃあ俺が桔梗の世界に移る際には、あいつらも引き連れて行くか。あれでもあいつらは共に戦ってきた仲間だからな」
将門はそう言ってニカッと笑うと、後ろの鳥居に向く。
「あなた!」
「ととさま!」
妻と子の叫びを背に、後ろ手に手を振ると、そのまま真っすぐ歩いて鳥居を抜けた。すると将門の身体の線がすうっと薄くなり、透明になって周りの景色に溶けていった。ザッと風が吹き、赤茶けた落ち葉を、らせん状に巻き上げた。
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考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
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この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
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