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最終章 決戦
7 第二の襲撃
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突然現れた少女は全員の視線にたじろいだ後、テーブル周りを見回して首を傾げた。
「あれ?あたしの席が、ない?」
駿佑がそれに反応する。
「だってツムギん、僕はソファがいいって言ったのに強引に丸椅子にするんでつもん。この方が九曜紋に見えるからって。丸テーブルと丸椅子八個で」
少女は、ああ、と言って手を打ち、不服そうに口を尖らせながらテーブル西側の床にどっかりと腰を下ろして胡座をかいた。
「いいよいいよ、そうやって妙見の神様の使いであるあたしをみんなで邪険にすればいいんだ」
完全にいじけモードの少女に、今日子が慌てて席を立って補助椅子を差し出す。
「あ、どうぞ、ここに」
「いや、いいんだ。今日子はそこに座ってて。で、どこまで話は進んだの?」
「あー、ちょうど全員の自己紹介が終わったってところかな?」
テーブルの反対側から弾正が声をかけた。きっと彼の位置からでは少女の頭頂部しか見えないだろう。そこでやっと、少女が朱美の方を向く。
「ようこそ、朱美。あたしは紬。この土地の主だよ」
にっこり微笑む少女に、朱美はまた変なのが現れたなと思った。セーラー服を着ているのでおそらく女子高生だろう。なかなか可愛い顔立ちをしているが、言ってる内容はこの場の人間たちが纏っている雰囲気に輪をかけたものだった。取り敢えず自分の名前は知っているようなので、朱美はペコリと当たり障りのない会釈をする。そして、自分を呼んだ理由をちゃんと分かるように説明しろと天冥に非難の目を向けた。天冥はその朱美の心情を察したのか、ここに集う人間についての話を始めた。その内容は、すぐにはいそうですかと受け入れられるものではなかった。
要約するとこうだった。朱美を含め、ここに集うみんなは将門の子どもなのだと。詳しく言うと、将門の子どもであった者の組成を多く受け継いだ者。天冥は「気」と言っていた。そしてその長男が竹丸で、竹丸だけは例外的に本物なのだそう。紬が本人を時空を超えて現代に連れてきたのだと。そして竹丸の母だった者が今日子。今日子は竹丸に会うために、何世にも渡って転生を繰り返したらしい。じゃあ今日子は全員の母なのかというと、そうではない。将門は今日子との間に竹丸を授かった後に荒ぶる神となり、様々な異界の者と交わって半妖の子を作った。なので竹丸だけは人間だが、その他の子はそれぞれ異径の血を引き、特殊な力があるのだ、と。朱美はそこまで聞き、堪えきれなくなって大笑いした。なかなかのチープなライトノベル的な話を真面目に語るので、可笑しくて仕様がなかった。
「え、何?あたしにもその、特殊能力的なやつがあるわけ?ま、確かに酒は人より強いかなって思ってたけど、生まれてこの方奇跡的なことは何にも起こしたことないし、出合ったこともない。ちょっとさあ、みんな、あたしをからかってんの?」
そう言って笑う朱美の髪が、急に突風に煽られて巻き上がった。朱美はキャッと声を上げて頭を抑える。風はすぐに止み、朱美のロングボブの後ろ髪がフワッと降りてきた。手櫛で髪を整えながら、どこから風が吹いてきたのかと周りを見回す。季節は秋、エアコンはついておらず、外気を取り入れるために窓は開いているがそこから吹き付けた気配はない。朱美の座る場所にだけ風が巻き上がったようで、全員がキョロキョロと周りを見る朱美にニヤニヤとした笑みを向けている。ゴホンと咳をし、傑が口を開いた。
「あーすまん、今の風は俺の力だ。俺も科学で証明出来ない事物は信じない派だったからな、自分が今のような力を手にしなければ、天冥の言葉など数パーセントも信じなかっただろう」
朱美はせわしなく瞬きしながら、天冥の顔を見る。
「え、じゃあ、あたしにもそんな力が、ある?」
天冥が頷き、その背後に座っていた紬がすっくと立ち上がった。
「みんな!あたしは前回使った力がまだ回復してない。だから前みたいに竹丸を違う時代に送るってことが今すぐには出来ないんだ。だけど、将門はそんなの待っちゃくれない。今この世界はマイナスの波動に満ちていて、直に次の襲撃があると思うんだよね。その時はみんなの力を合わせて竹丸を何とか守ってやって欲しいんだ」
弾正がグラスの氷をカランと鳴らす。プハッと息を吐き、鋭い目を紬に向けた。
「守れってったって、あんな天変地異みたいな力を向けられて、どうやって守ればいいんだ?将門がこの世に顕現したいってんならさあ、いっそそうさせてやって相手が形を得てから攻めた方がよくないか?」
その言葉に、紬は首を振った。
「ダメだよ、それじゃあ到底勝てない。顕現した将門を侮っちゃいけない。それに、将門に顕現を許すってことは、竹丸の身体を捧げるってことなんだ。だから、竹丸だけは守らなきゃいけないんだよ。で、その方法なんだけどさ、あたしがまず、竹丸の心を八つに割るから、みんなはそれを一つずつ取り込んで欲しい。そうしたら将門には竹丸のことが検知出来なくなる。それでしばらく凌ごうと思うんだ」
話の進行に付いて行けず、聞くのが精一杯の朱美の左から、今日子が身を乗り出すのが見えた。
「あの!私もまだ新参でみなさんの仰ることを完全に把握できていないんですけど、紬さんの仰ったように竹丸ちゃんの心を割れば、竹丸ちゃんはどうなるんですか?」
把握できないと言いながらも、今日子は話の中身は受け入れているようだ。竹丸が不安そうに今日子の腕にしがみついている。紬がその姿に鎮痛な目を向けた。
「心を割るっていっても完全に心が無くなるわけじゃない。ちょっとばかし感情は人より薄くなってしまうけど、ごめん、それは仕方のないことなんだ。将門がこの世を支配すれば、全人類がマイナスの感情しか持てなくなる。そのことを考えると、必要な犠牲なんだ」
そんな、と悲嘆し、今日子は竹丸の肩を抱く。
「かか様、大丈夫だよ。わし、みんなのためになるなら、喜んでこの身を差し出すよ」
竹丸が今日子の頭を撫で、紬がその言葉に首を振る。
「それもダメ。竹丸は何としても生きてなくちゃいけないの。いつか、将門に反撃するために」
朱美は目の前で交わされている会話を、まるで即興芝居か何かを見ているように聞いていた。自分の身近に起きていることとして捉えられなかった。だがこの場のあまりにも真剣な雰囲気に、耐えられずに立ち上がった。
「ちょっと待ってよ!さっきからもうすぐ大変なことが起きる的なことをずっと言ってるけどさあ、それって何なの?いつ、何が起こるって言うの!?」
朱美の叫びには、天冥が答える。
「いつ、ということを言うなら、今日明日ではないわ。でも、三日後かもしれないし、一年後かもしれない。ただ一つ言えることは、それは必ず来るし、そう遠い未来ではないということ」
それから……
朱美は喉かな田舎のスローライフを満喫した。初めて訪れた日に語られたことを完全に信じたわけではなかったけど、今日子が優希にあまりにも似ていて、朱美は彼女の側を離れることが出来なかった。優希を守ってやれなかった悔恨も手伝い、もし何かが起こるなら今度こそ彼女を守ってやりたいと思っていた。竹丸も緩やかに成長し、見た目は小学校高学年ほどになっていた。相変わらず学校には通わず、明彦から勉強を教わっている。そんな竹丸をさすがに兄とは思えなかったが、その真っ直ぐな気性は朱美がこれまでに出合ったどの男よりも純朴で、可愛い弟が出来たと思えるくらいに信頼関係は出来ていた。朱美は禍津町にある久遠寺という寺の住職を紹介され、彼が副業に開いていたスナックを手伝って当面の生活費に当てた。朱美が働いてきた高級キャバクラの客層と比べるとみんなケチンボだったが、気を張らなくていい仕事はそれなりに楽しめた。朱美の飾らない接客姿勢は町民にも受けが良く、朱美もこんな暮らしも有りかなと思えてきていた。
そして、その日はやって来た。
日本の東北部を大地震が襲った。特に津波がひどく、二万人以上の死者・行方不明者を出した。日本列島は大きな悲しみの歪みに飲み込まれた。H県は地震の被害には遭わなかったが、その地震から一週間後、黒鐘荘を黄泉からの波動が襲った。前もってそれを検知した天冥により全員集められていた。波動が到達する直前、紬が言っていたように竹丸の心を八つに分けた。竹丸の胸から眩い虹色の光が発せられ、八色に別れて紬以外の八人の胸の中に収まった。邪悪な気を発する黒い人影が竹丸を求めてアパートの中を彷徨っていた。やがてその人影は竹丸を見つけられないと知るや荒れ狂い、全身に鋭い棘を纏わせ、巨大な龍と化して暴れ回った。銀色の狼が、黒い巨牛が、緑色の大狗が、龍に立ち向かっていったが全く歯が立たなかった。龍は身体の棘を槍のように四方に飛ばし、瞬く間に建物は倒壊した。棘の一つが竹丸に向かい、それを庇った今日子を貫いた。竹丸が大泣きする中、今日子は息絶えた。地が割れ崖が崩れ、あわや今日子を抱く竹丸を巻き込みそうになるところを大きな敷布と化した明彦が包み込んだ。大風が起こり、将門の子たちが風に乗って飛び去っていく中、今日子を殺られた朱美は怒りに打ち震え、その怒りを炎に変えて全身を火だるまにした。火だるまは龍に向かい、その頭部にぶつかって大爆発を起こした。黒龍は小さなモヤとなって飛び散り、朱美の意識も飛散する中、
「必ずここに戻ってきて!何年かかっても、またみんなでここに必ず集結して!」
という紬の叫びを聞いた。
そのことがあって数年後、とあるマンションで不審火が起こり、住人の一人を焼き殺した。亡くなったのは民自党の森園議員の第一秘書で、議員の息子だった。彼は色街界隈では遊び人として知られ、週刊誌などでは彼の薬物疑惑が度々取り上げられていた。だがその醜態が大問題にならないのは、議員が裏で揉み消すからだと噂されていた。そんな彼もいよいよ次の衆議院選挙で立候補しようと準備をしていた矢先のことだった。火はまるで被害者だけを狙ったように起こり、周囲には燃え広がらなかった。その事件は巷で謎の人体発火現象として囁かれ、やがて都市伝説化していった。
「あれ?あたしの席が、ない?」
駿佑がそれに反応する。
「だってツムギん、僕はソファがいいって言ったのに強引に丸椅子にするんでつもん。この方が九曜紋に見えるからって。丸テーブルと丸椅子八個で」
少女は、ああ、と言って手を打ち、不服そうに口を尖らせながらテーブル西側の床にどっかりと腰を下ろして胡座をかいた。
「いいよいいよ、そうやって妙見の神様の使いであるあたしをみんなで邪険にすればいいんだ」
完全にいじけモードの少女に、今日子が慌てて席を立って補助椅子を差し出す。
「あ、どうぞ、ここに」
「いや、いいんだ。今日子はそこに座ってて。で、どこまで話は進んだの?」
「あー、ちょうど全員の自己紹介が終わったってところかな?」
テーブルの反対側から弾正が声をかけた。きっと彼の位置からでは少女の頭頂部しか見えないだろう。そこでやっと、少女が朱美の方を向く。
「ようこそ、朱美。あたしは紬。この土地の主だよ」
にっこり微笑む少女に、朱美はまた変なのが現れたなと思った。セーラー服を着ているのでおそらく女子高生だろう。なかなか可愛い顔立ちをしているが、言ってる内容はこの場の人間たちが纏っている雰囲気に輪をかけたものだった。取り敢えず自分の名前は知っているようなので、朱美はペコリと当たり障りのない会釈をする。そして、自分を呼んだ理由をちゃんと分かるように説明しろと天冥に非難の目を向けた。天冥はその朱美の心情を察したのか、ここに集う人間についての話を始めた。その内容は、すぐにはいそうですかと受け入れられるものではなかった。
要約するとこうだった。朱美を含め、ここに集うみんなは将門の子どもなのだと。詳しく言うと、将門の子どもであった者の組成を多く受け継いだ者。天冥は「気」と言っていた。そしてその長男が竹丸で、竹丸だけは例外的に本物なのだそう。紬が本人を時空を超えて現代に連れてきたのだと。そして竹丸の母だった者が今日子。今日子は竹丸に会うために、何世にも渡って転生を繰り返したらしい。じゃあ今日子は全員の母なのかというと、そうではない。将門は今日子との間に竹丸を授かった後に荒ぶる神となり、様々な異界の者と交わって半妖の子を作った。なので竹丸だけは人間だが、その他の子はそれぞれ異径の血を引き、特殊な力があるのだ、と。朱美はそこまで聞き、堪えきれなくなって大笑いした。なかなかのチープなライトノベル的な話を真面目に語るので、可笑しくて仕様がなかった。
「え、何?あたしにもその、特殊能力的なやつがあるわけ?ま、確かに酒は人より強いかなって思ってたけど、生まれてこの方奇跡的なことは何にも起こしたことないし、出合ったこともない。ちょっとさあ、みんな、あたしをからかってんの?」
そう言って笑う朱美の髪が、急に突風に煽られて巻き上がった。朱美はキャッと声を上げて頭を抑える。風はすぐに止み、朱美のロングボブの後ろ髪がフワッと降りてきた。手櫛で髪を整えながら、どこから風が吹いてきたのかと周りを見回す。季節は秋、エアコンはついておらず、外気を取り入れるために窓は開いているがそこから吹き付けた気配はない。朱美の座る場所にだけ風が巻き上がったようで、全員がキョロキョロと周りを見る朱美にニヤニヤとした笑みを向けている。ゴホンと咳をし、傑が口を開いた。
「あーすまん、今の風は俺の力だ。俺も科学で証明出来ない事物は信じない派だったからな、自分が今のような力を手にしなければ、天冥の言葉など数パーセントも信じなかっただろう」
朱美はせわしなく瞬きしながら、天冥の顔を見る。
「え、じゃあ、あたしにもそんな力が、ある?」
天冥が頷き、その背後に座っていた紬がすっくと立ち上がった。
「みんな!あたしは前回使った力がまだ回復してない。だから前みたいに竹丸を違う時代に送るってことが今すぐには出来ないんだ。だけど、将門はそんなの待っちゃくれない。今この世界はマイナスの波動に満ちていて、直に次の襲撃があると思うんだよね。その時はみんなの力を合わせて竹丸を何とか守ってやって欲しいんだ」
弾正がグラスの氷をカランと鳴らす。プハッと息を吐き、鋭い目を紬に向けた。
「守れってったって、あんな天変地異みたいな力を向けられて、どうやって守ればいいんだ?将門がこの世に顕現したいってんならさあ、いっそそうさせてやって相手が形を得てから攻めた方がよくないか?」
その言葉に、紬は首を振った。
「ダメだよ、それじゃあ到底勝てない。顕現した将門を侮っちゃいけない。それに、将門に顕現を許すってことは、竹丸の身体を捧げるってことなんだ。だから、竹丸だけは守らなきゃいけないんだよ。で、その方法なんだけどさ、あたしがまず、竹丸の心を八つに割るから、みんなはそれを一つずつ取り込んで欲しい。そうしたら将門には竹丸のことが検知出来なくなる。それでしばらく凌ごうと思うんだ」
話の進行に付いて行けず、聞くのが精一杯の朱美の左から、今日子が身を乗り出すのが見えた。
「あの!私もまだ新参でみなさんの仰ることを完全に把握できていないんですけど、紬さんの仰ったように竹丸ちゃんの心を割れば、竹丸ちゃんはどうなるんですか?」
把握できないと言いながらも、今日子は話の中身は受け入れているようだ。竹丸が不安そうに今日子の腕にしがみついている。紬がその姿に鎮痛な目を向けた。
「心を割るっていっても完全に心が無くなるわけじゃない。ちょっとばかし感情は人より薄くなってしまうけど、ごめん、それは仕方のないことなんだ。将門がこの世を支配すれば、全人類がマイナスの感情しか持てなくなる。そのことを考えると、必要な犠牲なんだ」
そんな、と悲嘆し、今日子は竹丸の肩を抱く。
「かか様、大丈夫だよ。わし、みんなのためになるなら、喜んでこの身を差し出すよ」
竹丸が今日子の頭を撫で、紬がその言葉に首を振る。
「それもダメ。竹丸は何としても生きてなくちゃいけないの。いつか、将門に反撃するために」
朱美は目の前で交わされている会話を、まるで即興芝居か何かを見ているように聞いていた。自分の身近に起きていることとして捉えられなかった。だがこの場のあまりにも真剣な雰囲気に、耐えられずに立ち上がった。
「ちょっと待ってよ!さっきからもうすぐ大変なことが起きる的なことをずっと言ってるけどさあ、それって何なの?いつ、何が起こるって言うの!?」
朱美の叫びには、天冥が答える。
「いつ、ということを言うなら、今日明日ではないわ。でも、三日後かもしれないし、一年後かもしれない。ただ一つ言えることは、それは必ず来るし、そう遠い未来ではないということ」
それから……
朱美は喉かな田舎のスローライフを満喫した。初めて訪れた日に語られたことを完全に信じたわけではなかったけど、今日子が優希にあまりにも似ていて、朱美は彼女の側を離れることが出来なかった。優希を守ってやれなかった悔恨も手伝い、もし何かが起こるなら今度こそ彼女を守ってやりたいと思っていた。竹丸も緩やかに成長し、見た目は小学校高学年ほどになっていた。相変わらず学校には通わず、明彦から勉強を教わっている。そんな竹丸をさすがに兄とは思えなかったが、その真っ直ぐな気性は朱美がこれまでに出合ったどの男よりも純朴で、可愛い弟が出来たと思えるくらいに信頼関係は出来ていた。朱美は禍津町にある久遠寺という寺の住職を紹介され、彼が副業に開いていたスナックを手伝って当面の生活費に当てた。朱美が働いてきた高級キャバクラの客層と比べるとみんなケチンボだったが、気を張らなくていい仕事はそれなりに楽しめた。朱美の飾らない接客姿勢は町民にも受けが良く、朱美もこんな暮らしも有りかなと思えてきていた。
そして、その日はやって来た。
日本の東北部を大地震が襲った。特に津波がひどく、二万人以上の死者・行方不明者を出した。日本列島は大きな悲しみの歪みに飲み込まれた。H県は地震の被害には遭わなかったが、その地震から一週間後、黒鐘荘を黄泉からの波動が襲った。前もってそれを検知した天冥により全員集められていた。波動が到達する直前、紬が言っていたように竹丸の心を八つに分けた。竹丸の胸から眩い虹色の光が発せられ、八色に別れて紬以外の八人の胸の中に収まった。邪悪な気を発する黒い人影が竹丸を求めてアパートの中を彷徨っていた。やがてその人影は竹丸を見つけられないと知るや荒れ狂い、全身に鋭い棘を纏わせ、巨大な龍と化して暴れ回った。銀色の狼が、黒い巨牛が、緑色の大狗が、龍に立ち向かっていったが全く歯が立たなかった。龍は身体の棘を槍のように四方に飛ばし、瞬く間に建物は倒壊した。棘の一つが竹丸に向かい、それを庇った今日子を貫いた。竹丸が大泣きする中、今日子は息絶えた。地が割れ崖が崩れ、あわや今日子を抱く竹丸を巻き込みそうになるところを大きな敷布と化した明彦が包み込んだ。大風が起こり、将門の子たちが風に乗って飛び去っていく中、今日子を殺られた朱美は怒りに打ち震え、その怒りを炎に変えて全身を火だるまにした。火だるまは龍に向かい、その頭部にぶつかって大爆発を起こした。黒龍は小さなモヤとなって飛び散り、朱美の意識も飛散する中、
「必ずここに戻ってきて!何年かかっても、またみんなでここに必ず集結して!」
という紬の叫びを聞いた。
そのことがあって数年後、とあるマンションで不審火が起こり、住人の一人を焼き殺した。亡くなったのは民自党の森園議員の第一秘書で、議員の息子だった。彼は色街界隈では遊び人として知られ、週刊誌などでは彼の薬物疑惑が度々取り上げられていた。だがその醜態が大問題にならないのは、議員が裏で揉み消すからだと噂されていた。そんな彼もいよいよ次の衆議院選挙で立候補しようと準備をしていた矢先のことだった。火はまるで被害者だけを狙ったように起こり、周囲には燃え広がらなかった。その事件は巷で謎の人体発火現象として囁かれ、やがて都市伝説化していった。
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