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第6章 変化
12 迫る危険
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弓削と朱実が紬の布団の上に集まり、紬が再生して差し出す動画に頭を寄せた。薄暗い画面には、見慣れた廊下が映し出されている。
『高瀬陽翔!大人しく投降しなさい!』
聞き覚えのある声、そして見覚えのあるシチュエーションだ。斜め後ろからの映像だが、映し出されている男の手には拳銃が握られているのが分かる。男は部屋の中にその銃を向けている。
『ちょっと!彼は怪我してるの!乱暴なことしないで!』
一人の女性が拳銃男の前に飛び出てくる。その姿を見て、弓削と紬の目が朱実に注がれる。さっきまで眠そうに目を擦っていた朱実の目も、今や大きく見開かれている。
『どきなさい!邪魔すると君たちも逮捕するぞ!』
男は銃を部屋の中に向けたまま、映り込んだ女性を威嚇した。そして女性が引く気配がないのを見極めると、迷わず引き金を引く。パーンという発砲音が響き渡ると同時に、バタッと金髪の男が部屋の中に倒れた。
『なぜ撃った!彼はまだ正常だった!』
画面は部屋の中に移り、倒れた込んだ金髪男の姿が映し出される。そうだ、この時髙瀬は眉間を撃ち抜かれ、それを見た三国が刑事に叫んだのだ。動画はそこで終了し、画面は夏だというのに趣味の悪いトレンチコートを着た男に切り替わった。おそらくこれはユァチューブのチャンネルで、映っている男がこのチャンネルの配信主なのだろう。男はテンションの高い声で今の動画についてコメントしている。紬はそこで一旦動画を止め、胸に詰まった息を吐いた。そして目を丸くして固まっている弓削と朱実に興奮気味の目を向ける。
「あんの野郎!あたしが前にいるのに躊躇なく撃ちやがって!」
あの時の感情がまた湧き上がったのか、朱実の顔が阿修羅のように歪む。
「いや今はそこじゃないでしょ?見た?この動画が今、ものすごい勢いで拡散されててね、すごい炎上してるの」
「え、炎上って、ネットの炎上のこと?」
弓削の言葉に紬が頷く。なーんだ、また火事が起こったと思った、とはならない。これはこれで大変な事態だ。スマホの時刻は朝の5時前だった。何時からの配信だったのか分からないが、今は金曜の夜から土曜の朝へと移るところ。週末に入っていることを考えると、すでにかなりの人数がこの動画を見て、他のSNSなどで拡散されてしまっていると見て間違いない。こういった炎上は、いくら火元を消しにかかっても拡散し続けて燃え続けるのだ。
「炎上ってさ、具体的にどうなってんの?」
顔にモザイク処理はされていたものの、自分が映っている姿が拡散されていることに思い当たり、朱実もこの事態に眉を潜めた。
「うん、えーとね、元々隣りの工場を髙瀬ってやつが爆破させた時点でさ、ほら、あいつ、しょう油一気飲みで炎上してたじゃん?それを必要以上に叩いたやつも悪いって言ってさ、髙瀬に同情する声もあったわけ。それでこの、警察の問答無用の射殺動画でしょ?今は公権力の横暴だーってめちゃくちゃ叫ばれてるんよ。Switterとかでさ」
そりゃそうなるだろう。警察庁からしたらこんな動画は絶対に流出させたらまずいはず。では一体誰がこんな撮影を?弓削の頭に浮かんだのはそのことだった。画面ではあの時発泡した刑事の斜め後ろから映されている。あの時、あの位置にいたのは……
臨場してきたチームに須田がいたのを思い出す。あの時、弓削と須田はお互いの姿を認めて頷き合ったのだった。須田からは、お前のことは黙っておくぞという意思が伺えた。まさか、あの須田がこんなことを?もしそうだとすれば、懲戒免職なんて処分では済まされない。守秘義務を漏らしたという、刑事罰にも問われる事態だ。
そうだ!昨夜はみんなで集まって報告会をしていたはず。もう未明になっているが、お開きになっているだろうか?例え会場の居酒屋が閉店になっても、このことが発覚していれば簡単にお開きにできる状況じゃないはずだ。もし須田が隠していたとたなら、すぐに知らせないといけない事態だ。弓削は浦安に電話をかけようとスマホを手に取ったが、一応これは警察の内輪のことだ。朱実と紬に聞かれることを慮り、ちょっと外の空気を吸ってくると告げた。二人も弓削がスマホを手にしていたので仲間に連絡するのはバレバレだったと思うが、そこは何にも言わずに送り出してくれた。
四、五回コールした後、浦安の低い声が聞こえた。
『悪い、すぐかけ直す』
どれくらい後と聞く間もなく、電話は切られた。こっちは薄着で外にいるのであまり時間をかけて欲しくないのだがと思いながら、未明の境内を見回す。昼間途切れていたセミの声がすでにシャンシャンとせわしなく鳴り出しているが、もうすぐ8月となり日が短くなったのか、周囲はまだ暗い。西の山の稜線が、紺青の空との境目にぼうっと白く浮き出ていた。外気はさすがに冷たく、ただ緊急事態に火照った体には程よく熱を冷ましてくれていた。
それほど待つことなく、携帯は震え出した。
「大丈夫ですか?すみません、こんなに早くに」
『いや、ちょうどこっちからも早朝にはかけようと思ってたんだ』
浦安の声はいつもより沈んで低く聞こえたが、寝起きという感じではなかった。弓削がネットの件を切り出す前に、浦安の言葉が続いた。
『須田が、速水を刺した』
言っている意味が飲み込めず、え、と聞き返す。
『須田が居酒屋に入ってくるなりいきなり、速水の胸を持ってきた包丁で刺したんだ。俺は今、速水が搬送された救急病院にいるんだが、何とか命は取り留めたものの、緊急オペが続いている。生死の確率は半々らしい』
声の節々から、浦安の鎮痛な表情が伺えた。速水は今、生死の境を彷徨っているらしい。なぜ須田がそんなことを?まずその疑問が浮かぶ。ネットに動画をアップさせたのもおそらく須田の仕業だろう。妖化した人間はまず理性をやられ、犯罪を犯すことを厭わなくなると天冥は言っていた。ひょっとして、須田も妖化してしまったのか?
「係長!あの、須田さんの首、伸びたりしてませんでしたか?」
「首が?いや、そんなことはなかったが…」
否定した浦安の言葉がそこで詰まる。何か思い当たることがあるのか、スマホの向こうでハッと息を呑む気配がした。
『首は伸びてないが、目からは血を流していた。弓削、それと何か関係あるというのか?』
やはり、須田の妖化は始まっていたのだ。弓削は天冥から聞いた妖化の説明を段階を追って話した。
『つまり、須田はその妖化って状態になって速水を襲ったというのか?信じ難い話だが…』
「はい、あたしも完全に鵜呑みにしているわけではないのですが…」
そこで自分の身に起こったことを打ち明けようかどうか逡巡した。だが浦安は浦安で思い当たることはあるようで、弓削が話す前に今まで調査したことについて告げる。
『その話だと、袴田係長が躊躇なく髙瀬や聖蓮女子の水谷鈴を撃ったことも頷ける。やつはたった一発の銃弾で見事に二人の眉間を撃ち抜いていた。そんな腕を持った刑事はそうそういない。俺は不審に思って袴田の経歴を調べたんだ。やつは警視庁の特別機動隊から回されて来ていた。どうも今回、禍津町に来ている捜査一課の連中に見覚えのあるやつがほとんどいないのも、どうやら機動隊や特殊部隊から回されているやつが多いかららしい』
「ということは、警察上部では今回の妖化現象について把握されてるってことですか?」
『うーん…警察内部だけではそれだけの規模の人事はなかなかやってのけられない。おそらくそのさらに上の、政府が絡んでいるだろう』
話がかなり大きくなってきた。ふと、髙瀬が躊躇なく撃たれた光景が蘇る。政府が妖化現象を掴んでいるとして、どういう手を打って対処しているのか…そのことを考えてさっと頭から血の気が引く。
「係長、須田さんって、その後どうなったんですか?」
『いや、橋爪が気を利かせて俺をまず居酒屋から出してくれたんだが、俺はその後に病院に直行し、須田のことは見ていないんだ。おそらく今頃拘置所に移っているとは思うが』
「あの、すでに射殺されてる、なんてことは……」
『ま……さ……か……』
浦安も弓削の言わんとすることに気づいたのか、その後の言葉を詰まらせた。しばし沈黙が流れた。弓削はしばらくその沈黙を聞き、浦安に話し出す気配がないのを察してさっきの動画の報告に入った。
『何!?それも須田がやったと言うのか?』
浦安はネットの件までは知らなかったようだ。弓削の報告に驚きの声を上げる。
「はい、あの時の位置関係から考えて、彼が撮影したのは間違いないかと」
「一体……やつは何を考えてるんだ……?」
浦安が絶句する気持ちは分かる。今起こっていることは、今まで浦安が長年手掛けてきたであろう事件と大きく赴きが異なっているのだ。
「係長、あたしにやれることがあったら何でも言って下さい」
『いや、今回弓削がもたらしてくれた情報はかなり有益だったと思う。弓削は引き続き、ノワールの住人から情報を引き出してくれ』
「それで…いいんですか?」
速水が倒れ、須田の身もどうなるか分からない。そんな状況で自分だけここでじっとしていていいのかという焦燥感が募った。速水のいる病院にもすぐにでも自分も駆けつけたい。だが浦安はそれを諌め、不用意に動かないようにと念を押した。浦安にしてみれば、無作為に部下を危険な場所に投入しないように慮ったのだろう。たがこの場所も、決して安全では無かったのだが……。
『高瀬陽翔!大人しく投降しなさい!』
聞き覚えのある声、そして見覚えのあるシチュエーションだ。斜め後ろからの映像だが、映し出されている男の手には拳銃が握られているのが分かる。男は部屋の中にその銃を向けている。
『ちょっと!彼は怪我してるの!乱暴なことしないで!』
一人の女性が拳銃男の前に飛び出てくる。その姿を見て、弓削と紬の目が朱実に注がれる。さっきまで眠そうに目を擦っていた朱実の目も、今や大きく見開かれている。
『どきなさい!邪魔すると君たちも逮捕するぞ!』
男は銃を部屋の中に向けたまま、映り込んだ女性を威嚇した。そして女性が引く気配がないのを見極めると、迷わず引き金を引く。パーンという発砲音が響き渡ると同時に、バタッと金髪の男が部屋の中に倒れた。
『なぜ撃った!彼はまだ正常だった!』
画面は部屋の中に移り、倒れた込んだ金髪男の姿が映し出される。そうだ、この時髙瀬は眉間を撃ち抜かれ、それを見た三国が刑事に叫んだのだ。動画はそこで終了し、画面は夏だというのに趣味の悪いトレンチコートを着た男に切り替わった。おそらくこれはユァチューブのチャンネルで、映っている男がこのチャンネルの配信主なのだろう。男はテンションの高い声で今の動画についてコメントしている。紬はそこで一旦動画を止め、胸に詰まった息を吐いた。そして目を丸くして固まっている弓削と朱実に興奮気味の目を向ける。
「あんの野郎!あたしが前にいるのに躊躇なく撃ちやがって!」
あの時の感情がまた湧き上がったのか、朱実の顔が阿修羅のように歪む。
「いや今はそこじゃないでしょ?見た?この動画が今、ものすごい勢いで拡散されててね、すごい炎上してるの」
「え、炎上って、ネットの炎上のこと?」
弓削の言葉に紬が頷く。なーんだ、また火事が起こったと思った、とはならない。これはこれで大変な事態だ。スマホの時刻は朝の5時前だった。何時からの配信だったのか分からないが、今は金曜の夜から土曜の朝へと移るところ。週末に入っていることを考えると、すでにかなりの人数がこの動画を見て、他のSNSなどで拡散されてしまっていると見て間違いない。こういった炎上は、いくら火元を消しにかかっても拡散し続けて燃え続けるのだ。
「炎上ってさ、具体的にどうなってんの?」
顔にモザイク処理はされていたものの、自分が映っている姿が拡散されていることに思い当たり、朱実もこの事態に眉を潜めた。
「うん、えーとね、元々隣りの工場を髙瀬ってやつが爆破させた時点でさ、ほら、あいつ、しょう油一気飲みで炎上してたじゃん?それを必要以上に叩いたやつも悪いって言ってさ、髙瀬に同情する声もあったわけ。それでこの、警察の問答無用の射殺動画でしょ?今は公権力の横暴だーってめちゃくちゃ叫ばれてるんよ。Switterとかでさ」
そりゃそうなるだろう。警察庁からしたらこんな動画は絶対に流出させたらまずいはず。では一体誰がこんな撮影を?弓削の頭に浮かんだのはそのことだった。画面ではあの時発泡した刑事の斜め後ろから映されている。あの時、あの位置にいたのは……
臨場してきたチームに須田がいたのを思い出す。あの時、弓削と須田はお互いの姿を認めて頷き合ったのだった。須田からは、お前のことは黙っておくぞという意思が伺えた。まさか、あの須田がこんなことを?もしそうだとすれば、懲戒免職なんて処分では済まされない。守秘義務を漏らしたという、刑事罰にも問われる事態だ。
そうだ!昨夜はみんなで集まって報告会をしていたはず。もう未明になっているが、お開きになっているだろうか?例え会場の居酒屋が閉店になっても、このことが発覚していれば簡単にお開きにできる状況じゃないはずだ。もし須田が隠していたとたなら、すぐに知らせないといけない事態だ。弓削は浦安に電話をかけようとスマホを手に取ったが、一応これは警察の内輪のことだ。朱実と紬に聞かれることを慮り、ちょっと外の空気を吸ってくると告げた。二人も弓削がスマホを手にしていたので仲間に連絡するのはバレバレだったと思うが、そこは何にも言わずに送り出してくれた。
四、五回コールした後、浦安の低い声が聞こえた。
『悪い、すぐかけ直す』
どれくらい後と聞く間もなく、電話は切られた。こっちは薄着で外にいるのであまり時間をかけて欲しくないのだがと思いながら、未明の境内を見回す。昼間途切れていたセミの声がすでにシャンシャンとせわしなく鳴り出しているが、もうすぐ8月となり日が短くなったのか、周囲はまだ暗い。西の山の稜線が、紺青の空との境目にぼうっと白く浮き出ていた。外気はさすがに冷たく、ただ緊急事態に火照った体には程よく熱を冷ましてくれていた。
それほど待つことなく、携帯は震え出した。
「大丈夫ですか?すみません、こんなに早くに」
『いや、ちょうどこっちからも早朝にはかけようと思ってたんだ』
浦安の声はいつもより沈んで低く聞こえたが、寝起きという感じではなかった。弓削がネットの件を切り出す前に、浦安の言葉が続いた。
『須田が、速水を刺した』
言っている意味が飲み込めず、え、と聞き返す。
『須田が居酒屋に入ってくるなりいきなり、速水の胸を持ってきた包丁で刺したんだ。俺は今、速水が搬送された救急病院にいるんだが、何とか命は取り留めたものの、緊急オペが続いている。生死の確率は半々らしい』
声の節々から、浦安の鎮痛な表情が伺えた。速水は今、生死の境を彷徨っているらしい。なぜ須田がそんなことを?まずその疑問が浮かぶ。ネットに動画をアップさせたのもおそらく須田の仕業だろう。妖化した人間はまず理性をやられ、犯罪を犯すことを厭わなくなると天冥は言っていた。ひょっとして、須田も妖化してしまったのか?
「係長!あの、須田さんの首、伸びたりしてませんでしたか?」
「首が?いや、そんなことはなかったが…」
否定した浦安の言葉がそこで詰まる。何か思い当たることがあるのか、スマホの向こうでハッと息を呑む気配がした。
『首は伸びてないが、目からは血を流していた。弓削、それと何か関係あるというのか?』
やはり、須田の妖化は始まっていたのだ。弓削は天冥から聞いた妖化の説明を段階を追って話した。
『つまり、須田はその妖化って状態になって速水を襲ったというのか?信じ難い話だが…』
「はい、あたしも完全に鵜呑みにしているわけではないのですが…」
そこで自分の身に起こったことを打ち明けようかどうか逡巡した。だが浦安は浦安で思い当たることはあるようで、弓削が話す前に今まで調査したことについて告げる。
『その話だと、袴田係長が躊躇なく髙瀬や聖蓮女子の水谷鈴を撃ったことも頷ける。やつはたった一発の銃弾で見事に二人の眉間を撃ち抜いていた。そんな腕を持った刑事はそうそういない。俺は不審に思って袴田の経歴を調べたんだ。やつは警視庁の特別機動隊から回されて来ていた。どうも今回、禍津町に来ている捜査一課の連中に見覚えのあるやつがほとんどいないのも、どうやら機動隊や特殊部隊から回されているやつが多いかららしい』
「ということは、警察上部では今回の妖化現象について把握されてるってことですか?」
『うーん…警察内部だけではそれだけの規模の人事はなかなかやってのけられない。おそらくそのさらに上の、政府が絡んでいるだろう』
話がかなり大きくなってきた。ふと、髙瀬が躊躇なく撃たれた光景が蘇る。政府が妖化現象を掴んでいるとして、どういう手を打って対処しているのか…そのことを考えてさっと頭から血の気が引く。
「係長、須田さんって、その後どうなったんですか?」
『いや、橋爪が気を利かせて俺をまず居酒屋から出してくれたんだが、俺はその後に病院に直行し、須田のことは見ていないんだ。おそらく今頃拘置所に移っているとは思うが』
「あの、すでに射殺されてる、なんてことは……」
『ま……さ……か……』
浦安も弓削の言わんとすることに気づいたのか、その後の言葉を詰まらせた。しばし沈黙が流れた。弓削はしばらくその沈黙を聞き、浦安に話し出す気配がないのを察してさっきの動画の報告に入った。
『何!?それも須田がやったと言うのか?』
浦安はネットの件までは知らなかったようだ。弓削の報告に驚きの声を上げる。
「はい、あの時の位置関係から考えて、彼が撮影したのは間違いないかと」
「一体……やつは何を考えてるんだ……?」
浦安が絶句する気持ちは分かる。今起こっていることは、今まで浦安が長年手掛けてきたであろう事件と大きく赴きが異なっているのだ。
「係長、あたしにやれることがあったら何でも言って下さい」
『いや、今回弓削がもたらしてくれた情報はかなり有益だったと思う。弓削は引き続き、ノワールの住人から情報を引き出してくれ』
「それで…いいんですか?」
速水が倒れ、須田の身もどうなるか分からない。そんな状況で自分だけここでじっとしていていいのかという焦燥感が募った。速水のいる病院にもすぐにでも自分も駆けつけたい。だが浦安はそれを諌め、不用意に動かないようにと念を押した。浦安にしてみれば、無作為に部下を危険な場所に投入しないように慮ったのだろう。たがこの場所も、決して安全では無かったのだが……。
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