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第5章 懐疑
12 秘密の捜査会議
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不本意ではあるが、室町室長の言うようにまずはK署三階の捜査本部に顔を出した。できれば顔を合わせずにしれっと現場に向かいたかったが、お目当ての管理官はいつものように上座に座ってノートパソコンを睨んでいる。上座の端には岩永刑事課長の顔も見えた。近づいてきた浦安にまず気づいたのは岩永だ。声をかけようとするのを手で制してまずは沖芝管理官の前に立つ。パソコンから目を上げ、前にいるのが浦安と分かった瞬間の僅かに寄せた眉間のシワを見逃さなかった。
「不本意ながら、本日付けで公安調査庁の特別調査室の手伝いをすることになりました。現場で捜査一課の方たちとご一緒することにもなると思いますが、よろしくお願いします」
不本意ながらと付けたのがミソだ。自分の本位はあくまでK署の刑事として捜査することなのだ。沖芝管理官は「聞いています」と事務的に言うと、それ以上言葉を交わす必要はないというようにまたパソコンに目線を戻した。その不遜な態度に、きのう袴田が高瀬を撃ったことを糾弾してやりたい気持ちが沸々と湧き上がった。だがそれでまた謹慎にでもされてしまえば元も子もない。苦々しい思いでその場を離れる。腹いせとばかりに、捜査本部を去る際に岩永の肩を組み、
「おい、署内でじゃじゃ馬を飼うのもいいがちゃんと躾けしてくれよ」
と、昔の上司口調で耳元で真美との関係を仄めかす。岩永は顔を上げて何のことを言っているのか分からないという顔をしていたが、何か返す間も与えることなく捜査本部を後にした。
その日はそれで一旦帰り、妻の君枝と遅い昼食を取った。きのう着ていたシャツのままノワールのソファで寝てしまったので汗がべとついて気持ち悪く、気を引き締めて仕事をするためにも一度着替えたかった。急に帰ったので君枝は戸惑っていたが、出前の寿司を取って一緒に食べた。君枝は昼はもう済ましたと言っていたが、正直次にいつゆっくりできるか分からないので、せめて彼女の話をゆっくり聞いてやりたかった。改めて妻を前にじっくり見ると、一回り小さくなり、小皺も増えた気がする。当然自分も同じだけ年を取っているわけだが、仕事をしている自分と違い、息子が家を出てから君枝はめっきり老けてしまったように見える。
(もう少し、待っていてくれ。仕事が落ち着いたら俺は警察を止める。くだらない天下りなんかせず、お前と一緒に暮らすよ。退職金で小さな喫茶店なんかを開いてもいいかもしれないね)
そんな言葉を投げかけてやりたかったが、それはまだ心の中に留めた。取り敢えず、今抱えている厄介な事件を片付けるのに頭を使うのが先だ。妻の話の区切りがついたところで、浦安はこれからしばらく仕事が忙しくなることを告げた。
夜、本部の捜査会議が終わる頃を見計らい、K市の隣町のI市に予約している小料理屋へ向かった。K市とI市はちょうど県境をまたいでおり、K署で動いている捜査員たちに出くわすこともないだろう。予約は5人部屋を取った。弓削はまだ体調が思わしくないらしく、弓削には珍しく酒の場は控えたいということだった。
浦安が一番初めに到着し、一番奥の席に座る。ほどなくして、遠藤、速水、橋爪が連れ立ってやって来た。会議が終わって飲みに行くくらいコソコソする必要がないという判断らしい。この場に浦安がいることはもちろん内緒だ。残りの須田はまだ事務仕事が残っていて遅れるということだった。
取り敢えずいるメンバーで乾杯し、料理に舌鼓を打ち連日の猛暑の中での部下たちの活動を労った後、浦安は捜査内容の報告を促した。まずは直近で起こったノワールでの三国殺害事件。弓削から、ノワールに捜査にやって来たのは橋爪のチームだと聞いていた。
「完全な密室殺人ですね。最初に部屋に入った青井も鍵はかかっていたと言っていますし、窓の鍵も開けられた形跡はありません。死因は頸部裂傷による失血死、首以外に外傷や、犯人と争ったと思われる防御創は見当たりませんでした」
「ああ、俺も鍵がかかっているのは確認した。なのにマル害は部屋の中で何者かに何の抵抗もなくバッサリ殺られたということか?」
「そうなりますね。当日はかなり酒に酔っていたようなので、寝ている間に殺られたようです」
「凶器は見つかったのか?」
「いやあ、部屋の中にもそれらしい物はありませんでしたし、建物周辺もくまなく探してるんですが、今のところは…」
そこまではだいたい、浦安の見立てと同じだった。
「住人には話を聞いたんだよな?怪しい人間はいたのか?」
「ええ、死亡推定時刻は夜中の2時から4時頃なんですが、あの日は弓削の歓迎会ということで全員かなり酔っていたらしく、あの場にいた全員にほぼアリバイが無いと言ってもいいですね。あと、スペアキーについても大家の家にあったのは確認していますが、例えば青井が前もってこっそり抜いていたとしたら誰にも分かりません。それと、あのシェアハウスの入り口はいつも開いているらしく、外部の者が入って犯行に及ぶことも可能です。なので、現時点では犯人が絞りきれないというのが正直なところです」
橋爪がそこで報告を終え、浦安は頷いた。浦安も橋爪の抜かり無い捜査手腕には一目置いており、その彼の険しい表情から犯人特定が難航しそうなのは伺えた。現時点ではノワールで鑑識班が動き回っていると思うので、浦安も邪魔にならないように一度住人全員から話を聞こうと思った。次に、遠藤が自殺と処理された新見逸生について興味深い報告をした。
「動機については交際していた池田渚の死がショックだったという見方が強いんですが、どうも彼は亡くなる直前、何かに怯えていたみたいなんですよねえ。頭の中からずっと声がするって仲間内に言ってたようなんです」
「薬物の使用はどうなんだ?」
「それなんですよね~。見つかっちゃいましたよ、新見の部屋からLSDが!だーかーらあ、きっとそれの幻覚作用なんじゃないかってことなんですけど、新見の遺体からは薬物は検出されませんでした。あと、現場検証で科捜研に立ち会ってもらったんですが、あのマンションの内側に曲がった柵を乗り越えた場合、体に何らかの傷がついていないのは不自然だって言うんですよね。係長は新見が柵を超えるところは見てないんですよね?」
「ああ、俺が気づいた時にはもう、彼は柵の外側にいたんだ」
「ですよね~」
「じゃあやっぱり、あの場にいた青井たちが柵を乗り越えさせたとか?」
「いや、それだと一人で乗り越えるよりももっと抵抗した跡が残るはずなんです。あ、あとね、もう一つ変と言えば変なのが、新見は完全に頭から飛んでるんですよね。まあ十階からですから途中でバランスが崩れることもあるわけですけど、新見の場合はまるで水泳選手が飛び込みをしたみたいに頭部から地面に直撃してるんです。飛び降りの場合、普通怖くてそんなこと出来ませんよね?それがどうも変っちゃ変なんです」
あの陽炎立ち昇る夏の日、確かにそんな新見の姿を見た。まるで頭を破壊することを目的であるかのように…そのことが浦安の頭に糸を引いた。
「あ、あの…」
ずっと大人しく聞いていた速水が弱々しく声を上げる。
「ん?どうした?渚の方の事件でも何か進捗があったか?」
言いにくそうにしている速水に優しく声をかける。すると、何かの意を決したように、速水は浦安を直視した。
「はい、実は…自分、ずっと隠していたことがあるんです。捜一の主任から言うなと言われていたんですけど、マル被の射殺の件とか聞いて、僕もどうも捜一のやり方が腑に落ちないっていうか…」
「そうか。まあ速水は若手の中でもT大を出て一番本庁に近い人間だからな、彼らにしても期待があるんだろう。だけどな、大切なのはどこにいようが刑事としての正義感だ。無理にとは言わんが、もしこの場で言った方がいいと判断するなら、何でも言ってくれ。誰も速水がチクったなんて言わないから」
全員が浦安の言葉に頷き、速水も浦安に頷き返す。そして橋爪の方に向く。
「ノワールでのマル害なんですが、血が抜かれていたとか、そんなことはなかったです?」
「いや、普通に失血死だと聞いているが。俺も実際に被害者を拝んだが、傷から血が流れた以外の形跡はなかった」
「そう…ですか。だとしたら、こっちの事件とはそこが違いますね。実は渚の遺体からは血が抜き取られていたんです。それも相当量の……」
「それは…初めて聞いた内容だな。会議でも報告されてなかったと思うが。速水んとこの捜査主任はそれを黙っておけと言ったのか?」
橋爪の目も鋭くなり、速水にもう一度確認した時だった。個室の開き戸が勢いよくガラッと音を立てて開き、この内々の飲み会に警察庁が乗り込んできたのかと全員がビクッと肩を上げた。だが入り口に立っていたのは丸顔小太りの男で、それを見てホッとする。
「なーんだ、須田さんかあ~!何でそんな勢いで入ってくるんすか~!捜一の主任にバレたのかと思って心臓が飛び出るかと思いましたよ~!」
須田に向かって不服を言う速水を、須田はじっと見つめる。走ってきたのか鼻息が荒く、目も血走っている。いや、血走っているだけではない。目から血を流しているのだ。
「おい!どうした!?須田!」
異様な気配を察し、浦安は声を上げた。その瞬間、須田は速水目掛けて突進した。そして肉を切るような音が個室に響いた。
「あ、え…ええ!?」
速水の胸から、ジワっと赤い液体が吹き出す。
「須田!何してる!」
橋爪が慌てて須田を速水から引き離すと、その手には出刃包丁が握られていた。
「ひ、ひいいい!」
慌ててのけ反る速水をさらに須田が追いすがり、一回、二回と背中から切り裂こうとする。
「なにやってんだー!」
橋爪が殴り飛ばし、須田が壁際に吹っ飛ぶ。その須田を遠藤が羽交い締めにし、何とか包丁を離させようとする。浦安は突然の事態に奥の壁に背中を押し当てた。隣りでは須田から逃れてきた速水が荒い息を吐いている。
「きゅ、救急車!」
浦安がスラックスをまさぐり、スマホから救急連絡をしようとした時、
「係長はダメです!早く!早くこの場から出て下さい!あとはこっちで何とかしますから!」
橋爪が叫んでいた。速水から鉄の臭いが立ち昇る。
「この裏切り者があ!バカにしやがって!俺をバカにしやがってー!!」
須田の咆哮が耳を劈いていた。
「不本意ながら、本日付けで公安調査庁の特別調査室の手伝いをすることになりました。現場で捜査一課の方たちとご一緒することにもなると思いますが、よろしくお願いします」
不本意ながらと付けたのがミソだ。自分の本位はあくまでK署の刑事として捜査することなのだ。沖芝管理官は「聞いています」と事務的に言うと、それ以上言葉を交わす必要はないというようにまたパソコンに目線を戻した。その不遜な態度に、きのう袴田が高瀬を撃ったことを糾弾してやりたい気持ちが沸々と湧き上がった。だがそれでまた謹慎にでもされてしまえば元も子もない。苦々しい思いでその場を離れる。腹いせとばかりに、捜査本部を去る際に岩永の肩を組み、
「おい、署内でじゃじゃ馬を飼うのもいいがちゃんと躾けしてくれよ」
と、昔の上司口調で耳元で真美との関係を仄めかす。岩永は顔を上げて何のことを言っているのか分からないという顔をしていたが、何か返す間も与えることなく捜査本部を後にした。
その日はそれで一旦帰り、妻の君枝と遅い昼食を取った。きのう着ていたシャツのままノワールのソファで寝てしまったので汗がべとついて気持ち悪く、気を引き締めて仕事をするためにも一度着替えたかった。急に帰ったので君枝は戸惑っていたが、出前の寿司を取って一緒に食べた。君枝は昼はもう済ましたと言っていたが、正直次にいつゆっくりできるか分からないので、せめて彼女の話をゆっくり聞いてやりたかった。改めて妻を前にじっくり見ると、一回り小さくなり、小皺も増えた気がする。当然自分も同じだけ年を取っているわけだが、仕事をしている自分と違い、息子が家を出てから君枝はめっきり老けてしまったように見える。
(もう少し、待っていてくれ。仕事が落ち着いたら俺は警察を止める。くだらない天下りなんかせず、お前と一緒に暮らすよ。退職金で小さな喫茶店なんかを開いてもいいかもしれないね)
そんな言葉を投げかけてやりたかったが、それはまだ心の中に留めた。取り敢えず、今抱えている厄介な事件を片付けるのに頭を使うのが先だ。妻の話の区切りがついたところで、浦安はこれからしばらく仕事が忙しくなることを告げた。
夜、本部の捜査会議が終わる頃を見計らい、K市の隣町のI市に予約している小料理屋へ向かった。K市とI市はちょうど県境をまたいでおり、K署で動いている捜査員たちに出くわすこともないだろう。予約は5人部屋を取った。弓削はまだ体調が思わしくないらしく、弓削には珍しく酒の場は控えたいということだった。
浦安が一番初めに到着し、一番奥の席に座る。ほどなくして、遠藤、速水、橋爪が連れ立ってやって来た。会議が終わって飲みに行くくらいコソコソする必要がないという判断らしい。この場に浦安がいることはもちろん内緒だ。残りの須田はまだ事務仕事が残っていて遅れるということだった。
取り敢えずいるメンバーで乾杯し、料理に舌鼓を打ち連日の猛暑の中での部下たちの活動を労った後、浦安は捜査内容の報告を促した。まずは直近で起こったノワールでの三国殺害事件。弓削から、ノワールに捜査にやって来たのは橋爪のチームだと聞いていた。
「完全な密室殺人ですね。最初に部屋に入った青井も鍵はかかっていたと言っていますし、窓の鍵も開けられた形跡はありません。死因は頸部裂傷による失血死、首以外に外傷や、犯人と争ったと思われる防御創は見当たりませんでした」
「ああ、俺も鍵がかかっているのは確認した。なのにマル害は部屋の中で何者かに何の抵抗もなくバッサリ殺られたということか?」
「そうなりますね。当日はかなり酒に酔っていたようなので、寝ている間に殺られたようです」
「凶器は見つかったのか?」
「いやあ、部屋の中にもそれらしい物はありませんでしたし、建物周辺もくまなく探してるんですが、今のところは…」
そこまではだいたい、浦安の見立てと同じだった。
「住人には話を聞いたんだよな?怪しい人間はいたのか?」
「ええ、死亡推定時刻は夜中の2時から4時頃なんですが、あの日は弓削の歓迎会ということで全員かなり酔っていたらしく、あの場にいた全員にほぼアリバイが無いと言ってもいいですね。あと、スペアキーについても大家の家にあったのは確認していますが、例えば青井が前もってこっそり抜いていたとしたら誰にも分かりません。それと、あのシェアハウスの入り口はいつも開いているらしく、外部の者が入って犯行に及ぶことも可能です。なので、現時点では犯人が絞りきれないというのが正直なところです」
橋爪がそこで報告を終え、浦安は頷いた。浦安も橋爪の抜かり無い捜査手腕には一目置いており、その彼の険しい表情から犯人特定が難航しそうなのは伺えた。現時点ではノワールで鑑識班が動き回っていると思うので、浦安も邪魔にならないように一度住人全員から話を聞こうと思った。次に、遠藤が自殺と処理された新見逸生について興味深い報告をした。
「動機については交際していた池田渚の死がショックだったという見方が強いんですが、どうも彼は亡くなる直前、何かに怯えていたみたいなんですよねえ。頭の中からずっと声がするって仲間内に言ってたようなんです」
「薬物の使用はどうなんだ?」
「それなんですよね~。見つかっちゃいましたよ、新見の部屋からLSDが!だーかーらあ、きっとそれの幻覚作用なんじゃないかってことなんですけど、新見の遺体からは薬物は検出されませんでした。あと、現場検証で科捜研に立ち会ってもらったんですが、あのマンションの内側に曲がった柵を乗り越えた場合、体に何らかの傷がついていないのは不自然だって言うんですよね。係長は新見が柵を超えるところは見てないんですよね?」
「ああ、俺が気づいた時にはもう、彼は柵の外側にいたんだ」
「ですよね~」
「じゃあやっぱり、あの場にいた青井たちが柵を乗り越えさせたとか?」
「いや、それだと一人で乗り越えるよりももっと抵抗した跡が残るはずなんです。あ、あとね、もう一つ変と言えば変なのが、新見は完全に頭から飛んでるんですよね。まあ十階からですから途中でバランスが崩れることもあるわけですけど、新見の場合はまるで水泳選手が飛び込みをしたみたいに頭部から地面に直撃してるんです。飛び降りの場合、普通怖くてそんなこと出来ませんよね?それがどうも変っちゃ変なんです」
あの陽炎立ち昇る夏の日、確かにそんな新見の姿を見た。まるで頭を破壊することを目的であるかのように…そのことが浦安の頭に糸を引いた。
「あ、あの…」
ずっと大人しく聞いていた速水が弱々しく声を上げる。
「ん?どうした?渚の方の事件でも何か進捗があったか?」
言いにくそうにしている速水に優しく声をかける。すると、何かの意を決したように、速水は浦安を直視した。
「はい、実は…自分、ずっと隠していたことがあるんです。捜一の主任から言うなと言われていたんですけど、マル被の射殺の件とか聞いて、僕もどうも捜一のやり方が腑に落ちないっていうか…」
「そうか。まあ速水は若手の中でもT大を出て一番本庁に近い人間だからな、彼らにしても期待があるんだろう。だけどな、大切なのはどこにいようが刑事としての正義感だ。無理にとは言わんが、もしこの場で言った方がいいと判断するなら、何でも言ってくれ。誰も速水がチクったなんて言わないから」
全員が浦安の言葉に頷き、速水も浦安に頷き返す。そして橋爪の方に向く。
「ノワールでのマル害なんですが、血が抜かれていたとか、そんなことはなかったです?」
「いや、普通に失血死だと聞いているが。俺も実際に被害者を拝んだが、傷から血が流れた以外の形跡はなかった」
「そう…ですか。だとしたら、こっちの事件とはそこが違いますね。実は渚の遺体からは血が抜き取られていたんです。それも相当量の……」
「それは…初めて聞いた内容だな。会議でも報告されてなかったと思うが。速水んとこの捜査主任はそれを黙っておけと言ったのか?」
橋爪の目も鋭くなり、速水にもう一度確認した時だった。個室の開き戸が勢いよくガラッと音を立てて開き、この内々の飲み会に警察庁が乗り込んできたのかと全員がビクッと肩を上げた。だが入り口に立っていたのは丸顔小太りの男で、それを見てホッとする。
「なーんだ、須田さんかあ~!何でそんな勢いで入ってくるんすか~!捜一の主任にバレたのかと思って心臓が飛び出るかと思いましたよ~!」
須田に向かって不服を言う速水を、須田はじっと見つめる。走ってきたのか鼻息が荒く、目も血走っている。いや、血走っているだけではない。目から血を流しているのだ。
「おい!どうした!?須田!」
異様な気配を察し、浦安は声を上げた。その瞬間、須田は速水目掛けて突進した。そして肉を切るような音が個室に響いた。
「あ、え…ええ!?」
速水の胸から、ジワっと赤い液体が吹き出す。
「須田!何してる!」
橋爪が慌てて須田を速水から引き離すと、その手には出刃包丁が握られていた。
「ひ、ひいいい!」
慌ててのけ反る速水をさらに須田が追いすがり、一回、二回と背中から切り裂こうとする。
「なにやってんだー!」
橋爪が殴り飛ばし、須田が壁際に吹っ飛ぶ。その須田を遠藤が羽交い締めにし、何とか包丁を離させようとする。浦安は突然の事態に奥の壁に背中を押し当てた。隣りでは須田から逃れてきた速水が荒い息を吐いている。
「きゅ、救急車!」
浦安がスラックスをまさぐり、スマホから救急連絡をしようとした時、
「係長はダメです!早く!早くこの場から出て下さい!あとはこっちで何とかしますから!」
橋爪が叫んでいた。速水から鉄の臭いが立ち昇る。
「この裏切り者があ!バカにしやがって!俺をバカにしやがってー!!」
須田の咆哮が耳を劈いていた。
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