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第2部 萌未の手記
格の違い
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「萌未さん、ありがとうございます!」
マイケルの今まで見せたことない満面の笑顔で出迎えられ、ナイトクラッシュのVIPルームに通されると、フジケンがマイケルにいつもの、と言い、ありがとうござーい、とマイケルは喜々としてドンペリを開けた。フジケンくらいの年配の人に取って、シャンパンといえばドンペリと思っているフシがある。
フジケンを真ん中に、拓也が少し離れた右隣、樹理がすかさずその間にフジケンに寄り添って座り、つばさが拓也のすぐ右隣奥に着く。
あたしは仕方なくフジケンの前のスツールに座った。テーブルには近くの鉄板焼屋から取り寄せたフードメニューが所狭しとと並び、しばらくは談笑したり、カラオケを歌ったりと普通にアフターを楽しんでいた。
やがてつばさがソワソワし出し、帰る時間が近づいたのを察すると、あたしは彼女をそっと部屋の外に誘い出した。
「ちょっと、帰る前にカウンターに来てもらえるかな?」
出口に向かおうとするつばさを呼び止め、反対側のカウンター席に誘う。
「何ですか?」
訝るつばさと向かったカウンターには、真っ白いドレスワンピースを来たひときわ派手な女性が待ち構えていた。
「あ~ら、つばさちゃん、久しぶり」
「え、マリア…さん…?」
「ちょっとここ、座りなさいよ」
マリアは自分の座っているカウンター席の隣を指差す。つばさは躊躇しながらも、マリアの隣に座った。あたしもつばさを間に挟むように座る。
そう、あたしはドルチェのマリアに電話を入れ、ナイクラにフジケンとアフターに行くことを教え、彼女に来てもらうように頼んでいたのだ。
「ねえ?つばさちゃん、あなた、夜遊びわーるどっていうサイトでいろいろ書き込みしてくれてるわね?」
「え、何のこと…ですか?」
「あ~らしらばっくれるの?ライブネットの前園知ってるわね?彼に頼めばあなたのアカウントなんてすぐに調べられるのよ?」
マリアは纏わり付くような視線でつばさを覗き込む。
「それは…あの…マリアさん、叩かれてたから、フォローしようと思って…」
すごい!
こんな簡単に口を割るなんて…
「フォロー?見てみたけど、あれ、フォローやないわよねぇ?あなた、火に油注いでるでしょ」
「そんなこと…」
つばさは俯いて黙り込んでしまった。
「別に責めてるわけやないのよ?私、あんなの気にしないから。でもね、どうしてそんなことするのかなぁって気になるやない?ねえ、何で?」
マリアの言葉は優しいけど、絡みついたら離れない蜘蛛の糸のようにねっとりとしていた。つばさの顔に涙が滲む。
「私、根暗で…夜の世界に入って羽ばたけるようにつばさって源氏名にしたんですけど全然羽ばたけなくて…そんな時にルイママ会に誘ってもらって、みんなキラキラしてて…特にマリアさんに憧れたんです。ドルチェではずっと憧れてました。でも私は相変わらず暗くて、苦しくなって、辞めたんです。ドルチェを。ネットで絡んだのは本当に悪気はないんです。ごめんなさい…」
ルイママ会…行ったのね。
キラキラした女の子たちに憧れる気持ちは分かる。
「そう。だったらまたいらっしゃいな。私はしょっちゅうリュミエールにいるから」
いや、行かないな。
行けないでしょ、そんな気軽に。
あたしもどちらかと言えば根暗なので、つばさの気持ちは分かる。でも、憧れのマリアにこう言ってもらえたら嬉しいだろうなとは思う。
「つばささん、あたしのことも書いてますよね?整形女って」
マリアのことを書き込んでるって認めたということは、こっちも認めたということだ。
「同じアカウントでしたよ」
あたしがそう言うと、つばさはこちらを向き、しばらく何を言おうか考えている風だったが、やがて諦めたのか、ごめんなさい、と力のない声で謝った。
「竹崎先生から情報もらったんですね?」
つばさは静かに頷く。てことは、竹崎先生と寝たってことだ。あの先生、誠実そうなこと言って、守秘義務はどうなってんのよと心の中で悪態をつく。
「萌未ちゃんとはほぼ同じ時期に若名に入ったでしょ?なのに、萌未ちゃん、どんどん人気者になって…妬ましかった。本当にごめんなさい」
そんなことか…。
こうやって近くにいると、悪い人ではないと思える。一応謝ってもらったし、これ以上つばさと話すことは無かった。
「アフター付き合ってくれてありがとう。お疲れ様でした」
あたしはつばさに一万円を渡す。
「こんなの、もらえません」
「いいの、タクシー代。もうあたしの悪口、書かないでね」
つばさはコクリと頷き、そこでつばさを解放した。
「切符いいわね。あんなのフジケンに払わせたらいいのに」
「いえ、それより、ありがとうございました。ちょっとスッキリしました」
「そう?私こそ、呼んでくれてありがとう。じゃあ、行きましょうか?」
「はい」
さあ、それからが本番だ。
彼女はこんなにすんなりいくだろうか?
まずあたしがVIPルームの扉を開け、
「社長~すごいゲスト連れて来ましたよ~!」
と、マリアを招き入れる。マリアを見たフジケンはたちまち固まった。
「あら~けんちゃん。ご無沙汰してると思ったら元気そうやなあい?」
マリアはずかずかとテーブルを越えてフジケンの左隣、すなわち樹理とフジケンを挟むように座る。
「誰?」
樹理が鋭い眼光でマリアを睨む。
カアーン!
あたしの頭の中でゴングが鳴った。
お手並み拝見。
あたしは間近で見ようとフジケンの真ん前のスツールに腰を落ち着けた。
「ちょっと!失礼ちゃいます?他の店のアフターに乱入するやなんて!」
「いいのよ、樹理ちゃん。あたしが招待したの」
そ、口座はあたしなんやから。
「けんちゃ~ん、マリア、さみしかったあ」
マリアはフジケンの左腕を取り、ボリュームのあるバストの間に埋めた。
そうそうこの光景。
初めてフジケンのアフターにここに来た時に見たレイアウト。
味方だとこんなに頼もしいものか。
「誰?誰?」
樹理が眉根を寄せながらフジケンの右耳に聞く。
「あら、始めまして。けんちゃんがいつもお世話になってます」
マリアが樹理に向かってまるで妻のように挨拶する。あたしはそれを見てプッと吹き出してしまった。
「あ、ああ、ドルチェの…マリアや。知らんか?ドルチェでナンバーワンの」
フジケンはやっと口を開き、吹き出す汗をしきりにハンカチで拭う。
「ドルチェの…ナンバーワン?」
樹理はそのキツイ目尻でマリアを捉え、樹理です、とペコリと頭を下げた。
「あらあ~可愛いネックレスね」
マリアが樹理の首元を見たとき、マリアの目が一瞬光るのをあたしは見た。
「それ、どちらのブランド?」
「あ、ティファニー、です」
「まあ、お若いのに渋いのね。どなたかのお見立て?石の光り具合が控えめで素敵」
二人の女に身を寄せられ、挟まれているフジケンは満員電車に立つサラリーマンのようにしきりに汗を拭っている。
「偶然私もね、ティファニー付けてるのよ」
「す、すごいダイヤモンドですね」
マリアの胸には大粒のダイヤモンドが暗い店内でもはっきりと分かる光沢を放っていた。
確かにすごい…
あれ、5カラットはあるんじゃないの…?
「これねぇ、けんちゃんに買ってもらったの。ねえ?」
「お、おお…」
フジケンはあごを引いて左下から見上げるマリアに目線だけ移した。
あれ、絶対7桁はいってるよね。
フジケン、がんばったんだな…。
樹理を見るとあからさまにテンションが下がっている。樹理のしているネックレスに付いてるのはアクアマリンだろうか、淡いブルーが可愛いけど、マリアが控えめと言ったようにこの店の暗さでは目を凝らさないと分からない。
ん?同じティファニーって…
ひょっとして、あれもフジケンが買った物?
身に付けている宝石とシンクロするように、さっきまで我が物顔で振る舞っていた樹理の影がだんだん薄くなっていき、その光を吸い取るようにマリアの方は神々しく輝き出した。
それにしても、あたしは今日マリアをいきなり誘ったのに、偶然フジケンが買ったネックレスを身に付けていた?
出来るホステスはお客さんに買ってもらったアクセサリーをそのお客さんの急な来店でも対応出来るようにいつも持ち歩くとどこかで見たか聞いたかした覚えがあるが、マリアはそれを実践してる?
あんな高価な物をいつも何店も持ち歩くのか…?
そうだとしたらすごいプロ根性だ。
ちょっとあたしにはそこまでは無理だなと思う。
マリアはフジケンを独占し、フジケンの顔はもう樹理の方には向かない。
完勝だ。マリアの。
見ていて清々しい。
樹理の顔には苛立ちの色がどんどん濃くなっていき、ついには我慢できないとばかりに立ち上がった。
「そろそろ帰らせてもらいます!」
「お、おう、そうか?」
フジケンも止めない。
「バイバ~イ」
と手を振るマリア。
「あんた、ドルチェやったな!覚えとくわ!」
そう捨てゼリフを吐き荒々しく部屋を出る樹理。
あたしはそれを追っかける。
「あの、これ、タクシー代」
「いらんわ!気分悪い!」
樹理はあたしの出した1万円を受け取ろうともせず、足早に退場していった。
おいおい、口座やぞ、あたし。
樹理の態度に呆気にとられながらも、マリアとの格の違いの勝負を観戦し終え、胸のすく思いでほうっと息をついた。
後日談だが、樹理はいろんなお客さんに直引きをかけていたことが発覚し、若名をクビになった。直引きとは店に呼ばずに客から直接金品をもらうこと。絶対タブーとされている。
きっとあのティファニーのネックレスもフジケンに買ってもらったんだろう。
口座のあたしに連絡も入れずに。
あたしもその被害者の一人と言えるが、そんなことよりもマリアに一つ貸しが出来て、結果論として樹理の存在はあたしに取ってメリットとなった。
マイケルの今まで見せたことない満面の笑顔で出迎えられ、ナイトクラッシュのVIPルームに通されると、フジケンがマイケルにいつもの、と言い、ありがとうござーい、とマイケルは喜々としてドンペリを開けた。フジケンくらいの年配の人に取って、シャンパンといえばドンペリと思っているフシがある。
フジケンを真ん中に、拓也が少し離れた右隣、樹理がすかさずその間にフジケンに寄り添って座り、つばさが拓也のすぐ右隣奥に着く。
あたしは仕方なくフジケンの前のスツールに座った。テーブルには近くの鉄板焼屋から取り寄せたフードメニューが所狭しとと並び、しばらくは談笑したり、カラオケを歌ったりと普通にアフターを楽しんでいた。
やがてつばさがソワソワし出し、帰る時間が近づいたのを察すると、あたしは彼女をそっと部屋の外に誘い出した。
「ちょっと、帰る前にカウンターに来てもらえるかな?」
出口に向かおうとするつばさを呼び止め、反対側のカウンター席に誘う。
「何ですか?」
訝るつばさと向かったカウンターには、真っ白いドレスワンピースを来たひときわ派手な女性が待ち構えていた。
「あ~ら、つばさちゃん、久しぶり」
「え、マリア…さん…?」
「ちょっとここ、座りなさいよ」
マリアは自分の座っているカウンター席の隣を指差す。つばさは躊躇しながらも、マリアの隣に座った。あたしもつばさを間に挟むように座る。
そう、あたしはドルチェのマリアに電話を入れ、ナイクラにフジケンとアフターに行くことを教え、彼女に来てもらうように頼んでいたのだ。
「ねえ?つばさちゃん、あなた、夜遊びわーるどっていうサイトでいろいろ書き込みしてくれてるわね?」
「え、何のこと…ですか?」
「あ~らしらばっくれるの?ライブネットの前園知ってるわね?彼に頼めばあなたのアカウントなんてすぐに調べられるのよ?」
マリアは纏わり付くような視線でつばさを覗き込む。
「それは…あの…マリアさん、叩かれてたから、フォローしようと思って…」
すごい!
こんな簡単に口を割るなんて…
「フォロー?見てみたけど、あれ、フォローやないわよねぇ?あなた、火に油注いでるでしょ」
「そんなこと…」
つばさは俯いて黙り込んでしまった。
「別に責めてるわけやないのよ?私、あんなの気にしないから。でもね、どうしてそんなことするのかなぁって気になるやない?ねえ、何で?」
マリアの言葉は優しいけど、絡みついたら離れない蜘蛛の糸のようにねっとりとしていた。つばさの顔に涙が滲む。
「私、根暗で…夜の世界に入って羽ばたけるようにつばさって源氏名にしたんですけど全然羽ばたけなくて…そんな時にルイママ会に誘ってもらって、みんなキラキラしてて…特にマリアさんに憧れたんです。ドルチェではずっと憧れてました。でも私は相変わらず暗くて、苦しくなって、辞めたんです。ドルチェを。ネットで絡んだのは本当に悪気はないんです。ごめんなさい…」
ルイママ会…行ったのね。
キラキラした女の子たちに憧れる気持ちは分かる。
「そう。だったらまたいらっしゃいな。私はしょっちゅうリュミエールにいるから」
いや、行かないな。
行けないでしょ、そんな気軽に。
あたしもどちらかと言えば根暗なので、つばさの気持ちは分かる。でも、憧れのマリアにこう言ってもらえたら嬉しいだろうなとは思う。
「つばささん、あたしのことも書いてますよね?整形女って」
マリアのことを書き込んでるって認めたということは、こっちも認めたということだ。
「同じアカウントでしたよ」
あたしがそう言うと、つばさはこちらを向き、しばらく何を言おうか考えている風だったが、やがて諦めたのか、ごめんなさい、と力のない声で謝った。
「竹崎先生から情報もらったんですね?」
つばさは静かに頷く。てことは、竹崎先生と寝たってことだ。あの先生、誠実そうなこと言って、守秘義務はどうなってんのよと心の中で悪態をつく。
「萌未ちゃんとはほぼ同じ時期に若名に入ったでしょ?なのに、萌未ちゃん、どんどん人気者になって…妬ましかった。本当にごめんなさい」
そんなことか…。
こうやって近くにいると、悪い人ではないと思える。一応謝ってもらったし、これ以上つばさと話すことは無かった。
「アフター付き合ってくれてありがとう。お疲れ様でした」
あたしはつばさに一万円を渡す。
「こんなの、もらえません」
「いいの、タクシー代。もうあたしの悪口、書かないでね」
つばさはコクリと頷き、そこでつばさを解放した。
「切符いいわね。あんなのフジケンに払わせたらいいのに」
「いえ、それより、ありがとうございました。ちょっとスッキリしました」
「そう?私こそ、呼んでくれてありがとう。じゃあ、行きましょうか?」
「はい」
さあ、それからが本番だ。
彼女はこんなにすんなりいくだろうか?
まずあたしがVIPルームの扉を開け、
「社長~すごいゲスト連れて来ましたよ~!」
と、マリアを招き入れる。マリアを見たフジケンはたちまち固まった。
「あら~けんちゃん。ご無沙汰してると思ったら元気そうやなあい?」
マリアはずかずかとテーブルを越えてフジケンの左隣、すなわち樹理とフジケンを挟むように座る。
「誰?」
樹理が鋭い眼光でマリアを睨む。
カアーン!
あたしの頭の中でゴングが鳴った。
お手並み拝見。
あたしは間近で見ようとフジケンの真ん前のスツールに腰を落ち着けた。
「ちょっと!失礼ちゃいます?他の店のアフターに乱入するやなんて!」
「いいのよ、樹理ちゃん。あたしが招待したの」
そ、口座はあたしなんやから。
「けんちゃ~ん、マリア、さみしかったあ」
マリアはフジケンの左腕を取り、ボリュームのあるバストの間に埋めた。
そうそうこの光景。
初めてフジケンのアフターにここに来た時に見たレイアウト。
味方だとこんなに頼もしいものか。
「誰?誰?」
樹理が眉根を寄せながらフジケンの右耳に聞く。
「あら、始めまして。けんちゃんがいつもお世話になってます」
マリアが樹理に向かってまるで妻のように挨拶する。あたしはそれを見てプッと吹き出してしまった。
「あ、ああ、ドルチェの…マリアや。知らんか?ドルチェでナンバーワンの」
フジケンはやっと口を開き、吹き出す汗をしきりにハンカチで拭う。
「ドルチェの…ナンバーワン?」
樹理はそのキツイ目尻でマリアを捉え、樹理です、とペコリと頭を下げた。
「あらあ~可愛いネックレスね」
マリアが樹理の首元を見たとき、マリアの目が一瞬光るのをあたしは見た。
「それ、どちらのブランド?」
「あ、ティファニー、です」
「まあ、お若いのに渋いのね。どなたかのお見立て?石の光り具合が控えめで素敵」
二人の女に身を寄せられ、挟まれているフジケンは満員電車に立つサラリーマンのようにしきりに汗を拭っている。
「偶然私もね、ティファニー付けてるのよ」
「す、すごいダイヤモンドですね」
マリアの胸には大粒のダイヤモンドが暗い店内でもはっきりと分かる光沢を放っていた。
確かにすごい…
あれ、5カラットはあるんじゃないの…?
「これねぇ、けんちゃんに買ってもらったの。ねえ?」
「お、おお…」
フジケンはあごを引いて左下から見上げるマリアに目線だけ移した。
あれ、絶対7桁はいってるよね。
フジケン、がんばったんだな…。
樹理を見るとあからさまにテンションが下がっている。樹理のしているネックレスに付いてるのはアクアマリンだろうか、淡いブルーが可愛いけど、マリアが控えめと言ったようにこの店の暗さでは目を凝らさないと分からない。
ん?同じティファニーって…
ひょっとして、あれもフジケンが買った物?
身に付けている宝石とシンクロするように、さっきまで我が物顔で振る舞っていた樹理の影がだんだん薄くなっていき、その光を吸い取るようにマリアの方は神々しく輝き出した。
それにしても、あたしは今日マリアをいきなり誘ったのに、偶然フジケンが買ったネックレスを身に付けていた?
出来るホステスはお客さんに買ってもらったアクセサリーをそのお客さんの急な来店でも対応出来るようにいつも持ち歩くとどこかで見たか聞いたかした覚えがあるが、マリアはそれを実践してる?
あんな高価な物をいつも何店も持ち歩くのか…?
そうだとしたらすごいプロ根性だ。
ちょっとあたしにはそこまでは無理だなと思う。
マリアはフジケンを独占し、フジケンの顔はもう樹理の方には向かない。
完勝だ。マリアの。
見ていて清々しい。
樹理の顔には苛立ちの色がどんどん濃くなっていき、ついには我慢できないとばかりに立ち上がった。
「そろそろ帰らせてもらいます!」
「お、おう、そうか?」
フジケンも止めない。
「バイバ~イ」
と手を振るマリア。
「あんた、ドルチェやったな!覚えとくわ!」
そう捨てゼリフを吐き荒々しく部屋を出る樹理。
あたしはそれを追っかける。
「あの、これ、タクシー代」
「いらんわ!気分悪い!」
樹理はあたしの出した1万円を受け取ろうともせず、足早に退場していった。
おいおい、口座やぞ、あたし。
樹理の態度に呆気にとられながらも、マリアとの格の違いの勝負を観戦し終え、胸のすく思いでほうっと息をついた。
後日談だが、樹理はいろんなお客さんに直引きをかけていたことが発覚し、若名をクビになった。直引きとは店に呼ばずに客から直接金品をもらうこと。絶対タブーとされている。
きっとあのティファニーのネックレスもフジケンに買ってもらったんだろう。
口座のあたしに連絡も入れずに。
あたしもその被害者の一人と言えるが、そんなことよりもマリアに一つ貸しが出来て、結果論として樹理の存在はあたしに取ってメリットとなった。
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