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第2部 萌未の手記
荒野を翔ける悍馬
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天は人の上に人を作らず
人の下に人を作らず…
そんなことを言ったのは確か一万円札のおじさんだったっけ?
どんな深い意味があるのか知らないけど、一万円の人に言われても説得力がない。
あなたのお顔をたくさん拝めるお家と、そうでないお家、どっちに生まれてくるかってだけでももう人生のスタートラインが違うのだから──
もっと言えば…
どんな時代に、
どんな国に、
どんな親の元で、
どちらの性別で
何番目に、
生まれてくるか──
これらのどれか一つが違うだけでもきっと全然違う人生があるんだと思う。
あたしは、
ずっと、
そう思ってた。
あたしは母さんが嫌いだった。
父さんの顔は知らない。
あたしが小さい頃死んだって聞かされた。
そんなの絶対うそだって思った。
それはドラマなんかでよく聞くセリフ。
古いドラマの、陳腐な設定。
そういう設定って、必ずラスト近くで再会するのよね。意外な人物が父親だったりする。
そして不幸な身の上の主人公がそこで人生逆転するの。
そんな都合のいい展開あるかい!て、
あたしはそんなの願い下げ。
この汚物塗れの暗然とした荒野を、悍馬となって血反吐を履きながら駆けてやる。
シンデレラストーリーなんかいらない。
もし緑花繁茂するオアシスがあるのならば、あたしはそこに死屍累累を築いてでも自力で辿り着いてやる。
そう思ってた。
そして、そんなあたしに用意された人生は、思った通りの糞みたいなものだった。
あたしは復讐の鬼になった。
あたしの大切なものを奪った憎っくきやつの名前は宮本拓也。
あたしはそいつに復讐するために、北新地にあるクラブ若名に潜入した。
宮本を亡き者にするのは簡単だ。
あたしみたいな一見ひ弱な女の子が近づいても、きっと何の警戒もしないだろう。
そこへ、心臓を一突き!
やつは呆気なく絶命する。
あたしのその後の人生?そんなのどうだっていい。あたしは復讐さえ達成できれば満足なのだ。
だけど、そんな呆気ないのは嫌。
真綿で首を絞めるように、じっくりと、じっくりと、やつの息の根を止めてやる。
やつの愛する者を奪い、
やつの社会的地位を剥奪し、
やつの持つ全財産を没収する。
そして生きる屍になった後に、やっと息の根を止めてあげるの。
ボロボロになって鳴き叫び、最後の最後であたしに許しを請うやつの姿を想像するのは垂涎ものだ。
あたしは今、そのために生きている。
そのためなら何だってする。
子どもの頃からあたしはずっと孤独だった。
孤独なんて慣れっこだった。
だって、それは孤独じゃない状態を知らなかったから。
ミシングピース───
自分の中に欠けた部分があっても気付かない憐れな子。
(あんたはねぇ、可愛いんだから、もっと笑わなきゃだめよ)
そんなあたしに優しくて綺麗なお姉さんが出来た。
束の間の楽しかった日々。
姉の名前は大塚志保。
(私はいつだってあんたの味方だからね)
苛められても、ぐれても、志保姉だけはいつも味方でいてくれた。
なのに…………
何で?
何で?
何で!?
志保姉が死ななくちゃいけなかったの?
あたしみたいな駄目な妹持ったから?
あたしが悪魔と契約したから?
無理よ…
もう、無理。
一度孤独じゃなくなってしまったら、
独りぼっちじゃない温もりを知ってしまったら、
その後の孤独は前よりもずっと切っ先を鋭利にして襲ってくる。
搬送された救急病院で姉を看取り、あたしはずっと泣きわめき続けた。
姉の亡くなった部屋で現場検証をした刑事は死因を最終的に自殺と判定した。
ワインと一緒に致死量の睡眠薬を飲んだらしい──と。
理由は、付き合ってた男性にふられたことによる心神喪失のため、と結露づけた。
だけど───
あたしには、自殺じゃない確信があった。
姉は殺されたのだ!
そう思う根拠があたしにはあった。
だけど、あたしはそのことを刑事には言わなかった。
犯人は志保姉と付き合っていた男。
そして自分が逆玉に乗るのをいいことに、姉のことをボロくずのように捨てた男!
そいつの名前は………
宮本拓也!
憎い
憎い
憎い!
志保姉、必ず敵は討つよ!
必ず…
この手で!
例えあたしが悪魔に魂を売り、
あたし自身が修羅の鬼と化そうとも!
──あの日、あたしはそう誓った。
そしてあたしは、まずは宮本と接触するために志保姉と宮本がよく会っていた北新地のクラブ若名に潜入することに決めた。
だけど、クラブ若名は高級クラブで、あたしみたいなチリ毛頭で地味一重目のチンチクリンが働けるようなところではない。
潜入するために、まずあたしは整形した。
包帯を取り、鏡の前に立つ。
見たことない顔。
これ、あたしの顔じゃない。
こんなに目元パッチリじゃない…
こんなに瞼狭くない…
こんなに唇ぷっくりしてない…
こんなにあごシャープじゃない…
「おお!綺麗になったやないか!」
金髪を逆立てた男が感嘆している。あたしが整形するにあたり、金主になってくれた男。
男はあたしの身体を隅々まで堪能し、その見返りに金を出してくれた。
これ、綺麗なの?
第一印象はそんな感じだった。
その日あたしは外見的にも生まれ変わった。
顔が違うくらい、何てことない。
例えそれまでの生活と断絶しようとも、志保姉のいない糞みたいな生活に未練はない。
復讐だけが、あたしの心を高揚させる。
そしてあたしは、いざ、北新地へと向かう。
あいつを抹殺するために、
復讐の舞台に上がるために───
人の下に人を作らず…
そんなことを言ったのは確か一万円札のおじさんだったっけ?
どんな深い意味があるのか知らないけど、一万円の人に言われても説得力がない。
あなたのお顔をたくさん拝めるお家と、そうでないお家、どっちに生まれてくるかってだけでももう人生のスタートラインが違うのだから──
もっと言えば…
どんな時代に、
どんな国に、
どんな親の元で、
どちらの性別で
何番目に、
生まれてくるか──
これらのどれか一つが違うだけでもきっと全然違う人生があるんだと思う。
あたしは、
ずっと、
そう思ってた。
あたしは母さんが嫌いだった。
父さんの顔は知らない。
あたしが小さい頃死んだって聞かされた。
そんなの絶対うそだって思った。
それはドラマなんかでよく聞くセリフ。
古いドラマの、陳腐な設定。
そういう設定って、必ずラスト近くで再会するのよね。意外な人物が父親だったりする。
そして不幸な身の上の主人公がそこで人生逆転するの。
そんな都合のいい展開あるかい!て、
あたしはそんなの願い下げ。
この汚物塗れの暗然とした荒野を、悍馬となって血反吐を履きながら駆けてやる。
シンデレラストーリーなんかいらない。
もし緑花繁茂するオアシスがあるのならば、あたしはそこに死屍累累を築いてでも自力で辿り着いてやる。
そう思ってた。
そして、そんなあたしに用意された人生は、思った通りの糞みたいなものだった。
あたしは復讐の鬼になった。
あたしの大切なものを奪った憎っくきやつの名前は宮本拓也。
あたしはそいつに復讐するために、北新地にあるクラブ若名に潜入した。
宮本を亡き者にするのは簡単だ。
あたしみたいな一見ひ弱な女の子が近づいても、きっと何の警戒もしないだろう。
そこへ、心臓を一突き!
やつは呆気なく絶命する。
あたしのその後の人生?そんなのどうだっていい。あたしは復讐さえ達成できれば満足なのだ。
だけど、そんな呆気ないのは嫌。
真綿で首を絞めるように、じっくりと、じっくりと、やつの息の根を止めてやる。
やつの愛する者を奪い、
やつの社会的地位を剥奪し、
やつの持つ全財産を没収する。
そして生きる屍になった後に、やっと息の根を止めてあげるの。
ボロボロになって鳴き叫び、最後の最後であたしに許しを請うやつの姿を想像するのは垂涎ものだ。
あたしは今、そのために生きている。
そのためなら何だってする。
子どもの頃からあたしはずっと孤独だった。
孤独なんて慣れっこだった。
だって、それは孤独じゃない状態を知らなかったから。
ミシングピース───
自分の中に欠けた部分があっても気付かない憐れな子。
(あんたはねぇ、可愛いんだから、もっと笑わなきゃだめよ)
そんなあたしに優しくて綺麗なお姉さんが出来た。
束の間の楽しかった日々。
姉の名前は大塚志保。
(私はいつだってあんたの味方だからね)
苛められても、ぐれても、志保姉だけはいつも味方でいてくれた。
なのに…………
何で?
何で?
何で!?
志保姉が死ななくちゃいけなかったの?
あたしみたいな駄目な妹持ったから?
あたしが悪魔と契約したから?
無理よ…
もう、無理。
一度孤独じゃなくなってしまったら、
独りぼっちじゃない温もりを知ってしまったら、
その後の孤独は前よりもずっと切っ先を鋭利にして襲ってくる。
搬送された救急病院で姉を看取り、あたしはずっと泣きわめき続けた。
姉の亡くなった部屋で現場検証をした刑事は死因を最終的に自殺と判定した。
ワインと一緒に致死量の睡眠薬を飲んだらしい──と。
理由は、付き合ってた男性にふられたことによる心神喪失のため、と結露づけた。
だけど───
あたしには、自殺じゃない確信があった。
姉は殺されたのだ!
そう思う根拠があたしにはあった。
だけど、あたしはそのことを刑事には言わなかった。
犯人は志保姉と付き合っていた男。
そして自分が逆玉に乗るのをいいことに、姉のことをボロくずのように捨てた男!
そいつの名前は………
宮本拓也!
憎い
憎い
憎い!
志保姉、必ず敵は討つよ!
必ず…
この手で!
例えあたしが悪魔に魂を売り、
あたし自身が修羅の鬼と化そうとも!
──あの日、あたしはそう誓った。
そしてあたしは、まずは宮本と接触するために志保姉と宮本がよく会っていた北新地のクラブ若名に潜入することに決めた。
だけど、クラブ若名は高級クラブで、あたしみたいなチリ毛頭で地味一重目のチンチクリンが働けるようなところではない。
潜入するために、まずあたしは整形した。
包帯を取り、鏡の前に立つ。
見たことない顔。
これ、あたしの顔じゃない。
こんなに目元パッチリじゃない…
こんなに瞼狭くない…
こんなに唇ぷっくりしてない…
こんなにあごシャープじゃない…
「おお!綺麗になったやないか!」
金髪を逆立てた男が感嘆している。あたしが整形するにあたり、金主になってくれた男。
男はあたしの身体を隅々まで堪能し、その見返りに金を出してくれた。
これ、綺麗なの?
第一印象はそんな感じだった。
その日あたしは外見的にも生まれ変わった。
顔が違うくらい、何てことない。
例えそれまでの生活と断絶しようとも、志保姉のいない糞みたいな生活に未練はない。
復讐だけが、あたしの心を高揚させる。
そしてあたしは、いざ、北新地へと向かう。
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復讐の舞台に上がるために───
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