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第2部 萌未の手記

セレネイド

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 窓際でぼんやり外を見つめる彼…

 かわいそうに…
 ふられちゃったね。

 あの子から電話があって、君に呼び出されたって聞いたときに、あたしにはピンときたよ。

 コクるつもりなんやって…

 話かけようか…?

 5年ぶりよね?

 言葉を交わすの…

 彼、あたしって分かるかな?

 ガイダンスのときは見事に無視されちゃったもんな。


 ねえ、今、何想ってる?

 あの子のこと…?


 あたし、ドキドキしてる。

 こんな気持ち、久しぶり…


 やっぱり、やめようか?

 こうやって、いつも通り遠くで見てるだけでも、いいよね?

 あたしには、やらないといけないこと、あるし…


 あ…!

 ビールにむせちゃって…


 あたしは彼の背中にそっと回る。

 いいかな?

 撫でてあげて。


 おそるおそる手を伸ばす。

 今さら、何でこんなにドキドキするのかしら…

 あたしにもこんな純粋な部分、残ってたんやな…

「あらあら、一人酒盛り?」


 彼は驚いてあたしの顔を見ている。


「珍しく見かけたと思ったら、講義にも出ずにこんなとこで何してるん?」

 彼、何て言うのかしら?

 ああ、ドキドキする。

 気持ちを落ち着かせるために、彼の向かいに腰掛け、煙草に火をつける。

「ここ、禁煙やで」

 なに⁉その第一声!

 ちょっとムカつく、

 彼の顔に煙草を吹きかける。

 あはは、むせちゃった。

 もっといたずらしてたくなって、彼のビールを飲んでやった。

「おいおい、今俺は一人で飲みたい気分やねん。邪魔せんでくれよ」

 ふーん、ひとりでねぇ…

 また煙を吹きかけてやる。

 顔をそむけちゃって、かわいい!


「だいたいさ、誰やねん」


 ま!


「絹川萌未よ。き・ぬ・か・わ・め・ぐ・み!覚えてないの⁉」

「ああ、同じ学科の…」

 彼はそう、ぶっきらぼうに言う。

 ほんまに、愛想のないやつ。

 そんな冷たいことを言う彼に、もっと絡んでやりたくなる。

 あたしはビールを買ってきて、彼の前にどっかりと腰を下ろした。


「何で一緒に飲むねん」

「あら、ひとりなんて寂しいやない。まるで失恋した人みたいな顔してるわよ」

 なーんて、ほんまは君のこと全部知ってるのよーだ。

「え?顔に書いてある?当たりや。二十歳の誕生日に大失恋のダブル記念日や」

「失恋したって、この大学の子?」

 あたしもたいがい白々しいよね。

「ああ、中学んときからの同級生やねんけどな、5年越しの失恋やねん」

 中学んときの同級生て…あたしもやっちゅうねん。

「ヘェ~5年越しのねぇ…てことはひょっとしてこの大学までその子のこと追っかけてきたとか?椎原しいはらくんって見かけによらずキモいのねぇ」

 あは、ビール吹いてる。

 なんか、楽しい。


「ね、今日はあたしがその記念日祝ってあげるよ」


 あたし、何言ってんの!?

 今から戦場に行かないといけないのに…

 でも、5年ぶりよ、しゃべったの。

 そう、あたしは彼の5年前の誕生日に、彼の心のかけらを盗んだのだ。

 そして、今、あたしの目の前にいる。

 このお守りの御利益がやっと出た?

 あたしは携帯に付けている赤いお守りをじっと見た。

 そして、決めた。

 この人も一緒に連れて行こう…

 


 北新地へ───。




 


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