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ハッピーエンド小説家
しおりを挟む「世界が求めているのはハッピーエンドなのだ。」
時刻は深夜三時。
半狂乱は筆を縦横へと走らせる。
万年筆に力を込める。
時折カリカリと原稿を削る。
すっかり薄くなった紙は束によってそれなりの厚さを成していた。
もう終盤だ。
締め切りには十分間に合う。
日程はまだ数日あったが問題は心だ。
一見すれば唯の青春小説だ。
だが作者の意図からすればありふれた幸福に満ちているとは言い難かった。
最後の「ハッピー」を手に入れるために主人公は苦しんでいた。
「ラストシーンを甘美なものにするための材料として苦しみが必要なのだ。もっと悩み、心を痛めてもらわなければ困る。」
既に精神は限界であった。
薄暗い、ジメジメした部屋だ。
最後に掃除したのはいつだろうか。
誰も想像できやしない。
ハッピーエンドの作品における幸福が最後の極一部にしかないことなんて。
幸福に包まれた人生を送る人物に書けやしないことなんて。
不幸な話の最後に否定を持ってきているだけの話を求めていることなんて。
「作品の途中でハッピーになってしまうのはハッピーエンドとは言えない。きっと今の私が悩み続けるのは過程にいるからだ。苦しみは当然のことなのだ。」
血管が浮き上がる。
インクが跳ねる。
天井が迫る。
音が錯綜する。
神様の声を探す。
ここは天国ではない。
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