草稿集

藤堂Máquina

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誕生日

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 綺麗に包装されたワインの瓶を片手に夜の街を歩く。 

 誕生日の近い友人のために選んで購入したものだ。

 時折液体が揺れる感覚が腕に伝わるが、もしかしたら私の心が弾んでいるだけだったのかもしれない。

 こうして誰かの喜ぶ顔を想像し、気づかれないように努めることが何よりも好きであった。

 私はものを覚えるのがたいそう苦手だったが、その友人と他数名の日にちだけは忘れないように覚えていた。

 そのために年に数回だけ密かに、それはまるで悪戯をした子供のように軽快なステップで街を彷徨うのだった。

 その一方でおそらく私の誕生日を知っている人はいない。

 ほとんどわざと知らせていないのだ。

 理由としては私が記憶力が悪く、とてもじゃないが大勢の人の誕生日など覚えていなかった。

 それだから同じことを人に押し付けたくないのだ。

 昔付き合っていた恋人は「記念日」なんて言葉を繰り返していたがそれは私にとってさほど重要なものではなかった。

 それよりも必要としていたのはいつだってその瞬間だった。

 そのくせ人の誕生日を祝うのは、恐らく私の自己満足と普段人に話しかける方ではない私が、唯一話しかける権利を得た日だという根拠のない自信からなのだろう。

 考えれば考えるほど醜い自分が露呈する。
 
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