草稿集

藤堂Máquina

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空港にて

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その夜は恋人が留学先から飛行機で帰ってくると言うので、空港まで迎えに行った。

 あと数週間で夏休みに入るだけにわざわざ帰ってくるよりはあと一ヶ月ほど滞在してくれば良かったのに、どうやら卒業論文の中間報告を提出しないといけないらしく、そうもできないようだ。

 私だって本当は帰って来て欲しかった。
 だからこうしてわざわざ彼女を迎えに空港まで行くのだ。

 それによって会える時間も多分一時間とないだろうし、私のわがままで疲れている彼女を引き止めることなんて到底できようにもないだけに心苦しくないと言えば嘘になった。

 だが一目見れば私の中の何かが変わると思うし、こういう時に迎えに行かないと私は彼女の恋人に相応しくないとも思った。

 正直なところ疲れているであろう恋人に迷惑ではないかということも考えたが、それでもそのような理由で自分を正当化して向かっているのだ。

 空港に着くと彼女を待った。

 到着の便は事前に聞いていたが、遅れるといけないと思って早く来たのが裏目に出た。

 待つ時間というのはどうしてこうも長く感じるのだろうか。

 見覚えのある人影がそこにはあった。

 本当は走りたい気持ちを抑えて、冷静を装って、そして気づいてないふりまでして彼女が近寄ってくるのを待った。

 駅の方向はこちらだ。

 嫌でも彼女はこちらへ来る。

 数秒の沈黙のあと、振り返ると彼女の顔が思ったよりも近くにあった。

 驚いてしまってまともな言葉が出てこなかったのは私の負けだろう。

「どうだった?」

「楽しかった」
 どこへ行っても始まるような他愛のない会話が、付き合い始めた頃はぎこちなくて言えないようなシンプルな会話が、私を安心させた。
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