捻くれ者

藤堂Máquina

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ひねくれもの16

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それから数日が経った。
いつものように仕事を終えた土曜日の夕方である。
その日の帰りに先輩のNが歓迎会をしてくれると言うのでついていった。
行き先を尋ねるとどうやら和食のお店に行くようだ。
もう既に他の人にも声をかけているらしく、10人くらいになるようだ。
日本を出てから長いこと和食は食べていない。
ここで手に入る材料だけで商売をしているのだろうから、メニューにはあまり期待していなかったものの楽しみに店に向かった。
行った先で待っていたのは日本人のオーナーであった。
オーナーは陽気な老人であった。
多分そこにいたコロンビア人と比べてもずっと陽気で、その饒舌ぶりは他の追随を許さなかった。
年寄りというのは若者を見ると語りたくなる習性があることは周知の事実である。
久しぶりの日本人の集まり、気分がいいようで誰よりも口を開いていた。
彼の語りは謙虚で、不快感もなかったため誰も止めようだなんて思わなかったのだ。
さて、店には思ったよりも多くの和食があった。
日本の居酒屋の縮小版というのが適切だろうか。
まずは揚げ出し豆腐に箸をつけた。
私は日本から持ってきた七味唐辛子を少しかけると口に運んだ。
豆腐の味は違っていた。
後で知った話、コロンビアにも豆腐はある。
しかしそこには確かチーズなどが入っており、少し違うようだ。
だがその店で出されている豆腐の味付けは日本のものにかなり近かった。
味はよく、食べやすかった。
その後オーナーが持ってきたのは日本のビールだった。
最近入荷できたらしい。
いつも置いてあるとは限らないようだ。
日本ではCMでも有名なあのビールだ。
日本での飲み会の際にも出されるそれは喉に良く馴染んだ。
その場にいた人々はそれを飲まず、私だけが気落ちよく肝臓を働かせていた。
そのあとはメインとしてラーメンを頼んだ。
出てきたラーメンは想像より細麺で、日本のものとは違っていた。
味も違っていたような気もするが、やはりこのオーナーの素晴らしい点はその味付けであった。
こちらの素材だけでどのように工夫しているのかはわからないが出汁の味が効いていた。
粉末の出汁なら手に入れることはできるが、他の物を使ったのか、それともその粉末に何かを足したのかはわからなかったが、味はかなり良かった。
料金設定は高めだったが、オーナーの工夫や努力を考えると決して高くないように思えた。
食べ物にばかり触れてきたが、その場にいた人々の話もしよう。
メンバーは10人ほど、先輩Nの他には職場のコロンビア人が数人、日本の大使館の職員が一人、それと日本語が殆ど完璧な韓国人が一人だった。
職場の人以外は初めてである。
コロンビア人ではない彼らは客観的な意見をくれる。
コロンビアに関する知識も多少必要であったため、すべてに納得ができたわけではなかったのだが、それでも大使館の職員に知り合いができたのは何かの役に立つかもしれない。
ポジティブな話を聞けた一方で、当然ネガティブな話題にもなった。
しかし大抵のネガティブはこの一か月で体験済みであり、驚くほどのことではなかった。
歓迎会が終わるとメンバーの一人の家へ行き、その友達と合流した。
先ほどのお店からは南へ進んだところで、地図は見ていないだけに正確な位置情報はわからなかったが、多分チャピネロのあたりである。
そこにはすでに五人ほど集まっていた。
円になってゲームをする姿はさながら大学生のようであっただろう。
罰ゲームはピスコという酒を飲み込むことであり、アルコールは強かったものの、味は大変好みであった。
私はスペイン語をあまり理解していなかったものの、言葉を関係なしに楽しむことができた。
さらにその後、一緒にゲームをしていたメンバーのさらに友人の家でパーティーをしているというのでみんなで訪れた。
この時点でかなり酔いがまわっていたために場所は完全に分からなくなっていた。
かなり山に近い位置であったこと、大きなマンションの一室であったことは覚えている。
着いた時点で日付を跨いでいたが、パーティーが終わる気配はなかった。
多分20人くらいはいただろう。
大きな音の中、みんな踊り狂っていた。
私もしばらく踊っていたが、慣れない筋肉を使うだけにすぐに疲れてお酒を飲み続けていた。
そのうち私は吐き気と頭痛を得た。
ここに来る前から酔っていたために当然である。
普段からあまり飲まない私だ。
もしかしたら人生で一番お酒を飲んだのかもしれない。
たくさん飲む人からしたら言うほどではないことだろうが、きっとその時私の肝臓もパーティーをしていた。
ふらふらしている私を見かけた友人は、私を彼の家まで運んだ。
タクシーを降りるやいなや、私は目の前に広がる溝に吐き、友人の部屋まで行くと、力尽きてそのまま眠った。
私は記憶がなくなるタイプの人間ではないだけに、友人に迷惑をかけたことを覚えてしまっているし、翌朝はしっかり謝り、お礼を言った後、早々に帰った。

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