捻くれ者

藤堂Máquina

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ひねくれもの8

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セマナサンタの週の中で出かけたのは他にもう一度だけあった。
それも私の自発的な外出ではなく、誘われて出たものであった。
今回私を誘ったのは私の持つクラスの生徒たちであった。
そのクラスは土曜日の、私の持つクラスの中では最も人数の多いクラスであった。
そして私がそれまで問題を抱えた唯一のクラスであった。
問題と言うのを具体的に言うと、言わば学級崩壊していたのだ。
私が教室の前に立ったところで雑談は止まない。
注意したところで状況は変わらなかった。
クラスには大人から中学生くらいの人までいた。
大人だからと言って、教師の言うことを聞く訳では無い。
それはここへ来た当初にYさんから言われたことである。
この国の人々は大人も子供のような面がある。
落ち着いていられない人が多い。
そのように言われた。
そのことを思い出した。
私が大声を出したのは授業が始まって15分が過ぎた頃である。
その時にクラスはようやく静かになったのだ。
私が立ち上がると先ほどの喧騒が嘘のように静まり返っていた。
私は一人一人にやる気があるのか、そしてどうして教室に来たのかを問うた。
冗談でも雑談をしに来たと言うような奴がいたら即刻追い出すことに決めていた。
そのような答えをした学生は一人いた。
私よりも歳上の女性の学生だった。
その学生は私の「やる気はあるか」という質問に対して「ない」と答えた。
そのような解答が来たためにすぐに帰るように指示をした。
学生は私が本当に追い出すとは思わなかったらしく、驚いた表情をしていた。
それでも私のクラスには不要な存在であったために扉を開けて外へ出るように促した。
学生は目に涙を浮かべながら教室の外へ出た。
当たり前である。
他の学生もお金を払って来ている。
いくらお金を払っていようと他の学生の授業を妨害する権利はない。
自分で買った権利を自分で否定したのだから追い出すほかない。
私は何事も無かったかのような素振りをすると残りの学生に同じ質問を繰り返した。
数分後である。
その学生と社長が教室に戻ってきた。
その時はちょうど授業に戻って新しい文法の説明をしようとしていた時であった。
先ほど終わったばかりの説教に逆戻りだ。
シンプルに最悪だ。
私とて説教は好きではない。
やっと終わったところだというのに。
憂鬱な時間が無駄に延長しただけだ。
社長が言うに「クラスに戻してほしい」ということであった。
しかし学生は戻りたいとは言うものの、「やる気がある」とは言わなかった。
なるほど、嘘を言わないことに関しては感心する。
社長と何を話したかは分からなかったが授業の後、事務の部屋に来るように言われ、学生は教室に戻った。
そのクラスは葬式よりも静かであった。
坊主が経でも読んでくれればよかったのだが、説教をした私以外は皆死んだようであった。
そんな中授業を続けたところでこちらとしても面白くない。
ここに来て以来の最悪のクラスであった。
その授業の後、私が片付けを終えて事務室に向かうと先に社長と例の学生が座っていた。
私は席に着くように言われると話し合いが始まった。
「話し合い」と言ったが、実際のところは私が一方的に説教をされていただけであった。
聞くところによるとその学生は何かの先生をしている人物らしい。
しかもちゃんとした学位を得ており、立場としては申し分ないそうだ。
そういう訳で社長が学生の側についていた。
私が若いというのも理由の一つだろう。
学校の質として悪い噂が広めたくもないのだろう。
学生はお客様だからそういう考えがあることは理解している。
そういう訳で私に落ち度があったという方向に持っていきたかったようだ。
学生は私の「やり方が良く無かった」と主張した。
他に方法があったと言ったのだ。
授業の後に呼び出して今のように話しをすることを勧められたが、授業中に私語をするような奴に言われる筋合いは無かった。
しかし社長は向こう側の主張を受け入れるだけで話し合いにならなかった。
私は「あなたは先生で、先生としての立場を知っていながら私語を慎まないのはどうしてなのか」と尋ねた。
結果としてまともな答えはまともな答えは返ってこなかった。
学生が繰り返すのは全く説得力の無い主張だ。
そして「コロンビア人は落ち着きがない」とコロンビア人が口にした時、私は酷く失望した。
我々日本人がそう結論付けるならまだいい。
それはコロンビア人が自分で言うべきことではないし、集中力のあるコロンビア人だって大勢いることは知っている。
自分の民族に誇りは無いのだろうか。
私の考えはさておき、結果を言うと何も解決はしなかった。
誰も納得はできなかっただろうし、個人的には社長への不信感が高まっただけである。
私が事務の部屋から出るとそのクラスの他の学生がいた。
そしてなぜか私の連絡先を聞いてきた。
どうやら社長に何か言われたようだ。
そしてセマナサンタの内に食事に招待された。
叱ったとは言え学生たちのことは嫌いではない。
断っても今後ここに居づらくなるだろう。
私が承認したのはそのような理由があったからである。
後から他の先生に聞いたところ、社長が関わると問題がややこしくなるらしい。
それが身をもってわかった。
これからは気をつけなければならないと思った。
補足しておくと「やる気がない」と答えたその生徒はそれから一か月の内に辞めたそうだ。
私は自分が悪いとは思っていないし、あのまま放置し授業を続け他の学生成績が下がれば結果的に教師の責任にされ問題になる。
きっと早かれ遅かれそうなっていたのだ。
さて、セマナサンタにおける学生たちとの待ち合わせは、私の家から北へ三十分ほど歩いたところにあった。
本来ならば配車アプリを使いたかったが相変わらず使えなかった。
往路は家のWi-Fiを使えば良かったが、復路はそれができない。
だから道を把握しておきたかった。
ボゴタ市内を南北に走る高速道路、所謂アウトピスタ沿いに進んだ。
距離は意外と長かった。
到着したのは約束の刻限をほんの少し過ぎた頃であった。
当日参加するメンバーは私を抜いて六人の筈であった。
しかし私が着いた段階では二人しかいなかった。
遅刻した私が言うべきではないが、それでもコロンビア人の国民性を見ることができた。
私自身、遅刻にはそれほどうるさい訳ではない。
最後に来た学生は多分三十分近く過ぎてからであった。
日本にいた頃私を二時間待たせた友人もいたものだから何の問題もないように思った。
学生たちとは昼食を食べる約束であった。
この国では昼食がメインディッシュであった。
例によって私はメニュー表が読めなかった。
そのため学生に話しを聞きながら料理を選んだ。
よく覚えていないが、また米を食べたような気がする。
それは朝食のメニューだったようで、昼食メニューから選ぶのは私にとって量が多過ぎた。
学生たちはスペイン語で話しをしていたため、あまり会話はできなかった。
それでとコロンビア人との親交が深まった気になって悪い気はしなかった。
食事の後、私はレストランから道を挟んだところにある大きな本屋さんに行きたいと言った。
そこについて来てほしいという意味はなかったのだが、他の人の予定を聞いていなかったために私の予定を伝える意図があった。
その意図が伝わったのかはわからないが、予定のある者は帰り、残りは私について来た。
本屋は大きかった。
コロンビアにいくつかある大きな本屋さんの一つらしい。
本以外にもCDやゲームも売っており、人で賑わっていた。
本を売っているのは建物の二階であった。
私がエスカレーターを上ってすぐに目に入ったのは絵の具や画用紙であった。
正直どれも欲しかった。
私は絵を描くのも観るのも好きだ。
以前Nさんとチンガサに行った際に欲しかったのも絵であった。
しかし絵筆や絵の具は高かった。
肝心の本も高い。
ハードカバーのものを日本円にすると七百円から八百円と言ったところだろうか。
そう換算するとむしろ安いように感じるのだが、物価と言うか、そもそも一般的な給料の額が違った。
そのため本一冊買うにもかなり贅沢なように感じる。
きっと家の中のものを見るとその家庭の給料事情というものが概ねわかってしまうのだろう。
元々住んでいる地区でも階級がわかるのだから必要のないことではある。
しかし、知識をつけるためにはお金が要ると言う事実は少し悲しいようであった。
知識や教養は最低限平等に配られてほしい。
日本では教育を受ける権利があるが、ここではどうなのだろう。
結局本屋では何も買わなかった。
こうやって文字を書いている身だけに書籍を作る大変さを理解しているつもりだ。
本の価値が向上してくれるのは嬉しいのだが、贅沢になってしまうのは複雑な気持ちである。
帰り道は来たルートと同じだが、アウトピスタの反対側を歩いた。
来る時もそうだったがこの道は歩行者が少ない。
夜は通らないように言われているだけのことはある。
周りに十分警戒しながら何の変哲もない道を歩いた。
道は単純だったため、迷わずに帰ることもできた。
疲れただけといえばそうであるが、必要経費といえばそれもまた正しいように思えた。
それからしばらく学校を往復したり、買い物分くらいは外出をしたりと、なんだかんだ慌ただしい日々に揉まれ、疲弊と戦いながら過ごした。
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