荒くれ者

藤堂Máquina

文字の大きさ
上 下
5 / 7

焦燥

しおりを挟む
「俺でいいのか…?」

「うん!フェアンじゃなきゃだめなんだ!」

そう言ったアリンの目はもう泣いてなどなく決意に満ち溢れ光り輝いていた。

「わかった。一緒に行こう。どこまでも一緒だ!」

2人は微笑み合いどちらからともなく優しくキスをした。

アリンが気持ちを伝えてくれた。もう俺だけ秘密にしておくわけにはいかない。

初めは可愛いアリンに嫌われたくない、もう少し一緒にいたいという気持ちだけだった。でもそれが共に過ごすようになり、幸せな事も辛い事も分かち合う中で一生そばにいたいと思うようになった。

ーー伝えよう。自分がルシュテン王国の王子だということを。
そして、この日に共に生きてくれるようアリンへの永遠の愛を誓おう。


ーーー



「う~…蒸し暑いね、まだ6月になったばかりなのに…」

ノスティアからデリアへ向かう道のりは山道を通る。6月と言う事もあり道中は木々が生い茂り湿気で汗が体に張り付いた。アリンを俺の前に座らせて馬で移動しているが、猫獣人は人間よりも体温が高いからかアリンは見るからに辛そうで休ませならなければいけないのは一目瞭然だった。

「アリン、一度休もう。」

「ごめんね、僕、他の猫獣人より暑いの弱いみたいで…」

「気にしなくていいさ。まだ時間はあるから休みなさい。ほら水を飲んで…。」

木陰にアリンを下ろしあらかじめ用意しておいた水筒をアリンに渡した。そして自分のカバンからタオルを取り出すとアリンへ告げた。

「アリン、タオルを川で絞ってくるから少し待っててくれるか?冷やした方がいいから…」

「えっ…そこまでしなくていいよ!」

「ダメだ!少し冷やそう、な?」

「う、うん…ありがとう!」

照れるアリンの頭を優しく撫でると近くの小川に向かった。

「ここでいいか…」

サラサラと流れる川にタオルを浸しぎゅっと硬く絞る。そのままタオルを近くの岩に置くとアリンが自分を見ていないかを確認し、ポケットに手を入れた。

ーー1週間ではこれしか用意できなかったが…。

フェアンの掌には木でできた小箱があり中にはシルバーの細いリングが入っていた。

なんの変哲もないただのシルバーリングだが、宝石屋などないノスティアでは、買えるのはこれが限界だった。しかし裏側には永遠の愛を表す『etarnal love』の文字が彫ってあり、それはフェアンが店主にお願いし自分で刻印したものだった。

小箱をもう一度ポケットに大事にしまうと、タオル片手にアリンの元へ走った。
急いで戻るとそよそよと優しい風が流れる中アリンは気持ちよさそうに木にもたれかかり眠っていた。

「アリン…?冷たいタオルだよ。」

「ん…?気持ちいい…。…あれ、僕眠っちゃってた?」

「暑かったからな、疲れたんだろう。もう大丈夫か?」

「うん…!後少しだし大丈夫!」

水分をとって少し眠ったおかげか顔色が良くなったアリンの額をタオルで拭いた。
その後アリン自分の前に座らせ馬の手綱を持つと目的の場所まで向かった。

しばらく歩くと、どうやらアリンの様子がおかしい。肩が小刻みに震え、血の気が引いているように見えた。

「フェアン…。こ、この場所なんだ…。」

ただの森のように見えるが、よく見るとその場所だけには木が生えておらずそこで何があったのかは容易に想像がついた。
アリンは5年前の光景が忘れられないのだろう。ただでさえ白い顔が真っ白になり涙が止めどなく溢れている。

「アリン…大丈夫か?」

「ぐずっ…ふっ……だ、大丈夫。フェアン、馬から…降ろして?」

「わかった。」

馬から降ろすとアリンはよたよたと事故のあった場所に座り込み叫ぶように泣いた。

「おと、さん…おかあさ…ん!ごめん、ごめんね。今まで来れなくて…。痛かったよね、怖かったよねっ…。ずっと来れなくてごめんね…」

まるで幼い子供のように泣くアリンの姿は見ている方も心を痛めた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

普通に生きられなかった私への鎮魂歌

植田伊織
エッセイ・ノンフィクション
統合失調症の母にアスペ父 そんな私はadhd 不登校、適応障害、癌化する腫瘍を摘出した先には障害児育児が待っていました。 人生、山少な目 谷多めの作者が、自己肯定感を取り戻すために文章を書くことにしました。 日常の事、乗り越えたい事、昔のことなどなど、雑多に書いてゆくことで、無念が昇華できたらいいなぁと思います。

読まれない小説はもう卒業! 最後まで読んでもらえる小説の書き方|なぜ続きを読んでもらえないの? 小説の離脱ポイントを分析しました。

宇美
エッセイ・ノンフィクション
私はいままでたくさんのweb小説を読み始めて、途中でつまらなくなって、読むのをやめました。 なぜ読むのをやめてしまったのか…… このエッセイでは、離脱ポイントを分析解説しています。 あなたの執筆に役に立つこと間違いなしです。

[連載中]小説の書き方〜作品を深掘りする為の小説の書き方〜

コマメコノカ・21時更新・エブリスタ投
エッセイ・ノンフィクション
 小説の書き方。

◆アルファポリスの24hポイントって?◆「1時間で消滅する数百ptの謎」や「投稿インセンティブ」「読者数/PV早見表」等の考察・所感エッセイ

カワカツ
エッセイ・ノンフィクション
◆24h.ptから算出する「読者(閲覧・PV)数確認早見表」を追加しました。各カテゴリ100人までの読者数を確認可能です。自作品の読者数把握の参考にご利用下さい。※P.15〜P.20に掲載 (2023.9.8時点確認の各カテゴリptより算出) ◆「結局、アルファポリスの24hポイントって何なの!」ってモヤモヤ感を短いエッセイとして書きなぐっていましたが、途中から『24hポイントの仕組み考察』になってしまいました。 ◆「せっかく増えた数百ptが1時間足らずで消えてしまってる?!」とか、「24h.ptは分かるけど、結局、何人の読者さんが見てくれてるの?」など、気付いた事や疑問などをつらつら上げています。

【完結】初めてアルファポリスのHOTランキング1位になって起きた事

天田れおぽん
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスのHOTランキング一位になった記念のエッセイです。 なかなか経験できないことだろうし、初めてのことなので新鮮な気持ちを書き残しておこうと思って投稿します。 「イケオジ辺境伯に嫁げた私の素敵な婚約破棄」がHOTランキング一位になった2022/12/16の前日からの気持ちをつらつらと書き残してみます。

50歳の独り言

たくやす
エッセイ・ノンフィクション
自己啓発とか自分への言い聞かせ自分の感想思った事を書いてる。 専門家や医学的な事でなく経験と思った事を書いてみる。

処理中です...