あの夏、この夏、君のいた夏。

もっちゃん

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仕事

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七宮書店には、16時ちょっと前にはついた。

従業員入口から中に入ると、女性従業員の加藤さんが声をかけてきた。
加藤さんは、私より5年前から働いているベテラン社員だ。

「また休みの日に城でもいっていたの?」

「どうしてそれを!」

「アンタの休みの日はだいたい家でゴロゴロしてるか、城巡りかの二択しかないでしょ?」

呆れ表情の加藤さん。

「家でゴロゴロしていたという選択肢がなぜ消えたんですか?」と疑問をぶつけてみる。

「そんなの、ご満悦の顔してるからわかるじゃん」

 同じく女性社員の堀内さんが割って入ってきた。

堀内さんは一緒の時期にアルバイトとして入った同期で年齢は聞いていないが、だいたい私と同じくらいだと思っている。

「ほら、今忙しい時間だから早く仕事について!」

堀内さんが、新刊の本の入った段ボールを私に持っていくように促して来た。

「はい、わかりました」

段ボールを持って従業員の控室から本棚に向かう。

いやー、そんな表情していたかなと後でタクにも聞いてみよう。

本の整理をしているとタクが話しかけてきた。

「たかみ、そういや嶋さんが仕事が終わった後話があるそうだぞ」

「えっ!なんだろう?」

嶋さんとは、この本屋の店長で、私たち社員やアルバイトにフレンドリーに接してくれる気の優しい人である。

「さぁーな、どうせ前から言っていた店長にならないかと誘いじゃないか?」

「そんな荷が重いの無理だよー」

「まっ、嶋さんも腰を痛めてから元気がないしな」

「そうだけど‥」

それから、閉店する9時まで働いた。

「嶋さん、タクに言われて来たんですが、いつもの件でしたら断りますよ」

「いや、妻と相談したのだが、腰を痛めてから妻に迷惑をかけるようになったから息子夫婦の家に同居することにしたんだ」

「そうなんですか、息子さんどちらに住まわれているんですか?」

「それがね、神奈川県なんだ、だからここでは働けなくなってしまったんだ、だから君に店長を任せようと思うんだが、どうかね?」

「神奈川県!それは遠いところに」

「何も今すぐ返事が聞きたいわけではないから、すこし考えておいてくれ」

「はい、わかりました」

店長かー、誰かやらないといけないしな。
うーん、みんなに相談してみるか。

「たかみ、嶋さんなんだって?」

「タク、待ってくれたのか?」

「おう!このあと飲みに行くだろう?」

「ああ、そうだな、嶋さんの話は長くなるから、ご飯食べながら話すよ」

「わかった」

その後、タクと飲みに行こうとしたら、堀内さんと加藤さんも、嶋さんの話が気になるようで、私を待っていてくれた。

「じゃ、みんなで食事ということで、谷元のおごりっていうことで」

「えー、なんで加藤さん」

「谷元さんのおごりなら、わたしもいきます」

「堀内さんも‥ はぁー、仕方ないなー」

しぶしぶ了承することにした。

「ハハハッ たくみのおごりか久々だな」

「笑い事じゃないよー、3人分もかよー」

「みんなでいくならどこにしようか?」

そうだな、女性達が一緒に行くなら居酒屋はちょっとなーと思っていると。

「なら!最近オープンした自家製惣菜バイキングレストランがいいです!」

堀内さんがレストランを勧めて来た。

「そんなレストランいつのまにオープンしたの?」

加藤さんが驚いた表情をしている。

どうやら加藤さんは知らなかったようだ。

私もだが。

「タクは知っていたのか?」

「実は‥彼女とこないだ行って来た」



ニヤけながら自慢げに話すタク、くそっ!そういや彼女がいたんだった!惚気のろけやがって!

「じゃ、決まりねー!」

堀内さんが今にもレストランに向かいそうな勢いで従業員専用出入り口に走って行った。

「待って、先に行かないで」

加藤さんも続けて小走りでいくので

タクと私もレストランに向かった。




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