97 / 99
第二章
第九十一話 まよいさまよい
しおりを挟む
周りで治療を見ていた人が、怪我人を数人連れてきて、それを見ていた人がまた連れてきて――と言う感じで、気づけば俺と沙也夏は最終的に、三十人ほどの治療をしていた。
「もうお困りの方はいらっしゃいませんか?」
……誰も前に出てこないので、切り上げ時みたいだ。
「では、なにかあれば明想院まで来てくださいね」
○
再び書店への道を歩く。
「沙也夏」
「なんですか?」
「さっき見てて思ったんだけど、魔法的な不調――っていうのかな、魔力循環の乱れとかも治療対象なんだね」
「ええ。まあ――ひどく乱れているときは流石に明想院まで来てもらわないとどうしようもないですけど、風邪レベルなら対処できますから」
「……それなんだけどさ。魔力経路のどこが不調の原因かって、どうやって判断してる?」
「どうやって……というと?」
「えーと……俺の場合は、患者さんに微量の魔力を当てて、その反発が正常かどうかで判断しているんだけど……」
「してません」
「……え?」
「何と言いましょうか……判るんですよね。直感的に」
「……まじか」
「はい」
……悔しくなんかない。
……ないってば。
「ゆ……じゃない、さゆりちゃんは毎回そうやって診断してるんですか?」
「うん」
「そっちの方が凄いと思いますよ。正確性に於いてはどう考えてもそっちの方が信頼が置けますし」
「……まあ、ありがとう」
そんなこんなで。
ひときわ大きな建物が見えたかと思うと、沙也夏が「あれです」と指差した。
「規模が大きいな……」
「んー。この街で本屋って言ったらここかもう一軒くらいしかないですし。客が分散しない分、経営しやすいんじゃないですかね」
「なるほどね……」
「さゆりちゃんはどれくらい居るつもりですか?」
「……待っててくれるの?」
「帰りは迷わないんですか?」
「……いや、迷うけど、一回通った道なら何とか帰れると思う」
「……ほんとに?」
「……まあ、夜が明ける前には」
「せめて日が暮れる前に帰ってきてください……」
わかりました、と沙也夏は続ける。
「迎えに来ます。なので滞在希望時間を教えてください」
「一時間……でもいい?」
「了解です。じゃあ、私はちょっと他の用事を済ませてくるので、ごゆっくり」
「ありがとう、沙也夏」
にっこり笑い小さく手を振って、沙也夏は通りの先へ進んでいった。
一度店を仰ぎ見る。
そう、仰ぎ見るほどに大きい建物なのだ。一時間程度で全部は見て回れないだろうが、小説も魔術の教本も、読んだことのないものが山ほどありそう。
「よし……」
気合を入れて、いざ。
「もうお困りの方はいらっしゃいませんか?」
……誰も前に出てこないので、切り上げ時みたいだ。
「では、なにかあれば明想院まで来てくださいね」
○
再び書店への道を歩く。
「沙也夏」
「なんですか?」
「さっき見てて思ったんだけど、魔法的な不調――っていうのかな、魔力循環の乱れとかも治療対象なんだね」
「ええ。まあ――ひどく乱れているときは流石に明想院まで来てもらわないとどうしようもないですけど、風邪レベルなら対処できますから」
「……それなんだけどさ。魔力経路のどこが不調の原因かって、どうやって判断してる?」
「どうやって……というと?」
「えーと……俺の場合は、患者さんに微量の魔力を当てて、その反発が正常かどうかで判断しているんだけど……」
「してません」
「……え?」
「何と言いましょうか……判るんですよね。直感的に」
「……まじか」
「はい」
……悔しくなんかない。
……ないってば。
「ゆ……じゃない、さゆりちゃんは毎回そうやって診断してるんですか?」
「うん」
「そっちの方が凄いと思いますよ。正確性に於いてはどう考えてもそっちの方が信頼が置けますし」
「……まあ、ありがとう」
そんなこんなで。
ひときわ大きな建物が見えたかと思うと、沙也夏が「あれです」と指差した。
「規模が大きいな……」
「んー。この街で本屋って言ったらここかもう一軒くらいしかないですし。客が分散しない分、経営しやすいんじゃないですかね」
「なるほどね……」
「さゆりちゃんはどれくらい居るつもりですか?」
「……待っててくれるの?」
「帰りは迷わないんですか?」
「……いや、迷うけど、一回通った道なら何とか帰れると思う」
「……ほんとに?」
「……まあ、夜が明ける前には」
「せめて日が暮れる前に帰ってきてください……」
わかりました、と沙也夏は続ける。
「迎えに来ます。なので滞在希望時間を教えてください」
「一時間……でもいい?」
「了解です。じゃあ、私はちょっと他の用事を済ませてくるので、ごゆっくり」
「ありがとう、沙也夏」
にっこり笑い小さく手を振って、沙也夏は通りの先へ進んでいった。
一度店を仰ぎ見る。
そう、仰ぎ見るほどに大きい建物なのだ。一時間程度で全部は見て回れないだろうが、小説も魔術の教本も、読んだことのないものが山ほどありそう。
「よし……」
気合を入れて、いざ。
0
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスまるごと異世界転移
八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。
ソレは突然訪れた。
『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』
そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。
…そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。
どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。
…大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても…
そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる