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第一章
第七十八話 決解………(vi)
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「……何を言ってるか分からないな」
「……とぼけても無駄ですよ、由理君。あなた――初めに『最古』と戦った時に、本当は『力の記憶』を回収できたでしょう?」
「…………」
「『力の記憶』はずっとあなたと繋がっている。あなたと――時明祈利と」
「…………」
「事実、あなたは『力の記憶』の保有者の位置を把握していますよね。だから、天使を召喚する魔法陣が展開される前に、城に結界を掛けて、『最古』の元へと向かった」
「…………」
「だから、取り返すことなんていつでも出来たはず。なのに、どうして『最古』は継承されてしまっているのか……」
「…………」
「あなたは『最古』を継承させたかったんです。取り逃がしたわけじゃなくて、継承させたかったから見逃した」
「…………」
「どうして『最古』を継承させたんでしょう……その理由は、今回の騒動の最後にあります……そうですよね」
「…………」
「天使を召喚してほしかったんでしょう?」
「…………」
「天使の生の定義に、人間が干渉することはできない――でも」
「…………」
「『最怪ノ魔術師』……久宮さんは、原初魔法を用いない魔法を創造できるそうですね」
「…………」
「彼女の魔法は、他のすべての魔法の定義の外にある」
「…………」
「彼女の――本当の魔法、ですか?それは、天使の生の定義を破壊し、死をもたらし得るもの……あなたはその事実を、知っていた」
「…………」
「……天使は放置しておけば、世界中の人間を駆逐しようとします」
「…………」
「天使が召喚された時点で、世界中の国々は、どうにかして被害を――せめて極星国だけで抑えようと考えます」
「…………」
「天使を消滅させることが、世界中の願いとなる」
「…………」
「現在、『最怪ノ魔術師』を解放したことに対して抗議しているのは、ヴァルミリアのみです。他の国々は、解放の支持を表明するか、または完全に中立を保っています」
「…………」
「『最怪ノ魔術師』の解放に伴う抵抗を、極限まで少なくしようと試みたんでしょう?」
「…………」
「……あと、古代魔法を世に広めたのは他ならぬあなた――由理君です。目的は、現代に存在する魔法とは性質の異なった魔法が存在することを示すことで、新しい魔法を創る彼女の能力に、僅かでも普遍性を持たせること」
「…………偶然だよ、って言ってみようか」
「……まあ、それでも構いませんけどね。夢乃ちゃんが極星国に連れてこられたとき、弥生さんまで極星国に来たのは、本当に偶然みたいですし」
「…………。……俺も、少し気になることがある」
「何ですか?」
「夏城慶我――まあつまり父さんは、恐らく、俺が『最怪』に執着しているのを知っていた」
「……なるほど?」
「城に掛けた結界だけど、あれは父さんの魔力を感知したら――ほんの一部分ではあるものの――解除されるようにしておいた」
「……でも」
「ああ。結界は、完璧な状態を保ち続けていた。父さんがそれを見逃すとは思えない。だから、俺が何をしようとしているかを理解していたんじゃないかと思う」
「……そう、ですか」
「……それに、誓依の監視を俺に任せたのは父さんだ。……父さんは、俺が誓依を救い出すのを、手助けしていたような気がする」
●
「……あなたが祈利の――由理のお父さん?」
「……ああ。夏城慶我という――初めまして、だよな」
「……どういうこと?」
「……いや、何でもない。
国際情勢が落ち着くまで、由理はしばらく明涼国に留まるだろう。まずはゆっくりと休んでくれ」
私はそう告げる。
こんな状況は初めてだと、思いながら。
――――時機は迫っている。
「……とぼけても無駄ですよ、由理君。あなた――初めに『最古』と戦った時に、本当は『力の記憶』を回収できたでしょう?」
「…………」
「『力の記憶』はずっとあなたと繋がっている。あなたと――時明祈利と」
「…………」
「事実、あなたは『力の記憶』の保有者の位置を把握していますよね。だから、天使を召喚する魔法陣が展開される前に、城に結界を掛けて、『最古』の元へと向かった」
「…………」
「だから、取り返すことなんていつでも出来たはず。なのに、どうして『最古』は継承されてしまっているのか……」
「…………」
「あなたは『最古』を継承させたかったんです。取り逃がしたわけじゃなくて、継承させたかったから見逃した」
「…………」
「どうして『最古』を継承させたんでしょう……その理由は、今回の騒動の最後にあります……そうですよね」
「…………」
「天使を召喚してほしかったんでしょう?」
「…………」
「天使の生の定義に、人間が干渉することはできない――でも」
「…………」
「『最怪ノ魔術師』……久宮さんは、原初魔法を用いない魔法を創造できるそうですね」
「…………」
「彼女の魔法は、他のすべての魔法の定義の外にある」
「…………」
「彼女の――本当の魔法、ですか?それは、天使の生の定義を破壊し、死をもたらし得るもの……あなたはその事実を、知っていた」
「…………」
「……天使は放置しておけば、世界中の人間を駆逐しようとします」
「…………」
「天使が召喚された時点で、世界中の国々は、どうにかして被害を――せめて極星国だけで抑えようと考えます」
「…………」
「天使を消滅させることが、世界中の願いとなる」
「…………」
「現在、『最怪ノ魔術師』を解放したことに対して抗議しているのは、ヴァルミリアのみです。他の国々は、解放の支持を表明するか、または完全に中立を保っています」
「…………」
「『最怪ノ魔術師』の解放に伴う抵抗を、極限まで少なくしようと試みたんでしょう?」
「…………」
「……あと、古代魔法を世に広めたのは他ならぬあなた――由理君です。目的は、現代に存在する魔法とは性質の異なった魔法が存在することを示すことで、新しい魔法を創る彼女の能力に、僅かでも普遍性を持たせること」
「…………偶然だよ、って言ってみようか」
「……まあ、それでも構いませんけどね。夢乃ちゃんが極星国に連れてこられたとき、弥生さんまで極星国に来たのは、本当に偶然みたいですし」
「…………。……俺も、少し気になることがある」
「何ですか?」
「夏城慶我――まあつまり父さんは、恐らく、俺が『最怪』に執着しているのを知っていた」
「……なるほど?」
「城に掛けた結界だけど、あれは父さんの魔力を感知したら――ほんの一部分ではあるものの――解除されるようにしておいた」
「……でも」
「ああ。結界は、完璧な状態を保ち続けていた。父さんがそれを見逃すとは思えない。だから、俺が何をしようとしているかを理解していたんじゃないかと思う」
「……そう、ですか」
「……それに、誓依の監視を俺に任せたのは父さんだ。……父さんは、俺が誓依を救い出すのを、手助けしていたような気がする」
●
「……あなたが祈利の――由理のお父さん?」
「……ああ。夏城慶我という――初めまして、だよな」
「……どういうこと?」
「……いや、何でもない。
国際情勢が落ち着くまで、由理はしばらく明涼国に留まるだろう。まずはゆっくりと休んでくれ」
私はそう告げる。
こんな状況は初めてだと、思いながら。
――――時機は迫っている。
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