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第一章
第五十二話 夜を焦がす炎
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悪魔は呻きながら起き上がった。
同時に、魔法陣が空中に浮かぶ。
何の魔法が発動するかは分からない。魔法陣を乗っ取ることも出来ない。
しかし仁さんは迷いなく悪魔の元に駆け出した。
魔法陣からは青白い炎が放たれ、彼の元へと収束するように迫った。彼は大剣に強化魔法を掛ける。光が剣を包み込む。悪魔が放った炎、その全てが、彼の剛剣の前に吹き飛んだ。
左脚で地面を強く蹴る。そして剣を斜め上に振り抜く。悪魔は空中に飛ばされて。
「由理」
声と共に、俺は地面を爪先でこんこんと二度叩いた。魔法陣が展開し、周囲の魔力が吸い込まれていく。
「『顕現せよ』」
起句を唱える。悪魔の周囲が青白い光に包まれる。浄化の属性を持つ魔力。
杖をもう一度振った。
歯車が軋むような耳障りな音が響く。悪魔の声だった。俺は先の魔法で、悪魔の存在の中核をなす命晶石を実体化させた。悪魔の不死性は、その存在が現実世界に定義されていないことに由来する。
つまり、生という状態が定義されない――よって、死を定義し得ない――そういう理屈だ。だが、命晶石という形で存在を固定させれば、彼らは命を得て、俺たちが認識するように――生きている状態になる。
よって。
「『約束ノ炎』」
杖を突き出す。放たれた魔法が命晶石を砕き、悪魔の体が微小な光粒となって夜に溶けていった。
●
「自然にここに辿り着く訳がないよな」
「ええ。何者かが召喚したと考えるのが現実的です」
「……お前を狙った組織の誰か、か?」
「……少なくとも、指輪から検出できた魔力と悪魔の体に含まれる魔力は別人のものです」
「そうか……」
「……状況はかなり悪いと言わざるを得ません」
「そうだな。俺たちは何の手掛かりも得られていない」
「……………本当に」
――今すぐに終わらせてやろうか。
夏城由理は、そう呟いた。
底知れない冷たさを伴う夜の闇が、彼の周囲を包んでいた。ゆっくりと歩き出す。目に宿る炎は、微かな揺れも乱れもなく、静けささえ纏って――砕けた命晶石、その欠片を呑み込まんとするように、夜を焦がす輝きと熱を増していった。
同時に、魔法陣が空中に浮かぶ。
何の魔法が発動するかは分からない。魔法陣を乗っ取ることも出来ない。
しかし仁さんは迷いなく悪魔の元に駆け出した。
魔法陣からは青白い炎が放たれ、彼の元へと収束するように迫った。彼は大剣に強化魔法を掛ける。光が剣を包み込む。悪魔が放った炎、その全てが、彼の剛剣の前に吹き飛んだ。
左脚で地面を強く蹴る。そして剣を斜め上に振り抜く。悪魔は空中に飛ばされて。
「由理」
声と共に、俺は地面を爪先でこんこんと二度叩いた。魔法陣が展開し、周囲の魔力が吸い込まれていく。
「『顕現せよ』」
起句を唱える。悪魔の周囲が青白い光に包まれる。浄化の属性を持つ魔力。
杖をもう一度振った。
歯車が軋むような耳障りな音が響く。悪魔の声だった。俺は先の魔法で、悪魔の存在の中核をなす命晶石を実体化させた。悪魔の不死性は、その存在が現実世界に定義されていないことに由来する。
つまり、生という状態が定義されない――よって、死を定義し得ない――そういう理屈だ。だが、命晶石という形で存在を固定させれば、彼らは命を得て、俺たちが認識するように――生きている状態になる。
よって。
「『約束ノ炎』」
杖を突き出す。放たれた魔法が命晶石を砕き、悪魔の体が微小な光粒となって夜に溶けていった。
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「自然にここに辿り着く訳がないよな」
「ええ。何者かが召喚したと考えるのが現実的です」
「……お前を狙った組織の誰か、か?」
「……少なくとも、指輪から検出できた魔力と悪魔の体に含まれる魔力は別人のものです」
「そうか……」
「……状況はかなり悪いと言わざるを得ません」
「そうだな。俺たちは何の手掛かりも得られていない」
「……………本当に」
――今すぐに終わらせてやろうか。
夏城由理は、そう呟いた。
底知れない冷たさを伴う夜の闇が、彼の周囲を包んでいた。ゆっくりと歩き出す。目に宿る炎は、微かな揺れも乱れもなく、静けささえ纏って――砕けた命晶石、その欠片を呑み込まんとするように、夜を焦がす輝きと熱を増していった。
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