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第一章

第四十六話 図書室では静かにした方が……

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「そういや、変装魔法ってすぐに使えるのか?」

「使えますよ、二秒くらいで」

「じゃあそれ掛けてから図書室行け。余計な混乱が生じないように」

「……何かよくわからないですけど、わかりました」

と言うわけで、変装魔法をかけて髪の色を変えた。目の色もちょっと灰色っぽくする。

「……おお。それだけで随分と印象が変わるもんだな」

確かに、街を歩いていて気づかれたことはない。街を歩いているときはね。

「じゃあ行くぞ」

茶器やら何やらを片づけてから、仁さんは王宮の――入り口から遠ざかる方向に向かって歩き始めた。

「……変装させたってことは、図書室にも人がいるってことですか」

「一人は確実にいるな。もしかしたら二人いるかも」

確実にいるって断言されている人とは話が合いそうな気がする。

図書室だから、話す機会は無いと思うけど。

「んで、ここを曲がって……そこだ」

「……あの、俺がもし夕食の時間になっても帰ってこなかったら迎えに来てくれませんか。迷子になってる可能性があります」

道が複雑すぎる。今のところ覚えてはいる(と思う)んだけど、実際に帰れるかは別問題……。

「分かったよ。六時くらいな」

「お願いします」

んじゃな、と言って仁さんは戻って行った。

今回は急用ではなく、いつもの仕事があるそうだ。

……結局仕事なのか。

さて、図書室に入ってみると、確かにそこには一人の女性がいた。

確実に居るって言われているくらいだから、余程の本好きなのだろう。

と、頭の隅で考えつつ、本棚の前に立って背表紙を眺める。……古代魔法の論文集。これ、城になかったやつだな……。

本を取り出そうとすると、ずしりと深い重みが腕にかかる。

知識って重いよな……。

なんてね。

椅子に座って本を開き、目次を見る。

――立体魔法陣構造の欠点の改善法に関する論考。

――古代魔法における火魔法の属性的な位置づけに関する研究。

――複数の魔法の融合方法の考察。

……なんで論文って堅い題名をつけるのかね。いや、それも味があっていいんだけど……。とっつきにくいよな。



「…………あー。だからか……なるほど」

言ってから、口を手で押さえてしまう。城の図書室にいる気分になってた……。

顔を上げ、女性の方を見ると、ばっちり目が合った。

「すいませ……」

「ん?ああいや、それは全然いいんだけど……」

女性はぴっと俺が持っている古代魔法の論文集を指して、

「凄いの読んでるなぁ、って思って」

「古代魔法にちょっと興味がありまして……趣味程度ですけど」

「でもさ、最近始めたんじゃないでしょ?古代魔法って言ったら、やっぱり――」

「……やっぱり?」

そこまで言って、女性はおもむろに席を立った。そして、本棚から一冊の本を取り出す。

「――最初はこれじゃない?」

見覚えあるなー、と思う。

著者、夏城由理。

……どうみても拙作ですねそれ。
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