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第一章
第三十九話 姫様へ短文詠唱に関する授業を
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「夢乃が知ってることもあると思うけど、詠唱の短文化の基礎から説明するぞ。
「まず詠唱の短文化は、読んで字の如く、本来の詠唱の一部だけを唱えて魔法を発動する技術。
「今の魔術師たちは殆どがこの短文詠唱をマスターしていて、本来の詠唱をそっくり唱える人は大分少ない。
「短文詠唱のメリットである、発動までの時間の短縮と言うのは、かなり大きな意味を持つからね。
「そこには勿論デメリットがある。そうでなければ短文詠唱という概念はもう既にないはずだからね。今の短文詠唱が、完全に本来の詠唱と置き換わっていたはず。
「デメリットは、魔法の威力が落ちること、消費する魔力が多くなってしまうことが挙げられる。
「魔法の威力が落ちれば、一定の結果を出すためにより多くの回数、魔法を発動する必要が生じる。
「また、消費する魔力が多くなることは手数の減少を意味する。
「……そうそう。でも、それは自分の努力で何とか補えるものだ。
「魔力の込め方を調節すれば、威力は――多少ではあるけど――改善する。
「魔法をずっと使っていれば、魔力保有量もちょっとずつ増えていく。
「現代の魔術師たちは、生まれた時からヴァルシュヴィの近代魔法を使ってきて、魔法にたくさん触れてきたから、短文詠唱が持つデメリットはごく僅かなものになっている。
「だから最近は短文詠唱が流行ってる。
「夢乃が訊きたいのはここからだろ?では、『聖女』を初めとする、短文詠唱を使わない魔術師が居るのは何故か……。
「先に挙げた聖女だけど……彼女が使う魔法は、規模が非常に大きい。
「本来の詠唱をそのまま唱えると、発動までに十分くらいかかる。
「長すぎるよな。近接戦じゃまず使えない長さだ。
「だけどこれを短文化してみるとどうなるか。
「短文詠唱にすると、四分で済むようになる。
「……ありゃ、分かった?
「そうそう。バランスの問題だ。
「十分かかっても、四分で済んでも、近接戦で使うことは出来ない。
「だから彼女たちは集団の戦闘ではずっと後方にいる訳だが――加えて、短文詠唱が持つデメリットは、魔法の規模と比例して大きくなっていく。
「そこのバランスを見て、短文詠唱とは縁を切った魔術師もいる……って話」
授業終わり。
「にしても、かなり進んだ範囲を勉強してるんだな。名門私立校だって――夢乃の年齢ではこんなこと教えないぞ」
「……追い付きたいんです」
彼女は静かに言った。
「追い付いて、恩返しをしたいんです」
「……誰に?」
「……お兄ちゃんに」
言って、花が開くような笑みを、見せた。
…………。
「……えへへ」
夢乃が照れたように笑ったのでふと見ると――俺の手は彼女の頭の上に乗っていた。
――知らないうちに手が……(ちょっと犯罪みを感じるのは分かってるから言わないでくれ)。
雲を絡めとって細く糸にしたような、銀の色彩を存分に世界に振りまく流麗な髪だった。撫でると、シルクのような滑らかな感触がした。
いつまでも触れていたいと、ふと思ってしまった。
「まず詠唱の短文化は、読んで字の如く、本来の詠唱の一部だけを唱えて魔法を発動する技術。
「今の魔術師たちは殆どがこの短文詠唱をマスターしていて、本来の詠唱をそっくり唱える人は大分少ない。
「短文詠唱のメリットである、発動までの時間の短縮と言うのは、かなり大きな意味を持つからね。
「そこには勿論デメリットがある。そうでなければ短文詠唱という概念はもう既にないはずだからね。今の短文詠唱が、完全に本来の詠唱と置き換わっていたはず。
「デメリットは、魔法の威力が落ちること、消費する魔力が多くなってしまうことが挙げられる。
「魔法の威力が落ちれば、一定の結果を出すためにより多くの回数、魔法を発動する必要が生じる。
「また、消費する魔力が多くなることは手数の減少を意味する。
「……そうそう。でも、それは自分の努力で何とか補えるものだ。
「魔力の込め方を調節すれば、威力は――多少ではあるけど――改善する。
「魔法をずっと使っていれば、魔力保有量もちょっとずつ増えていく。
「現代の魔術師たちは、生まれた時からヴァルシュヴィの近代魔法を使ってきて、魔法にたくさん触れてきたから、短文詠唱が持つデメリットはごく僅かなものになっている。
「だから最近は短文詠唱が流行ってる。
「夢乃が訊きたいのはここからだろ?では、『聖女』を初めとする、短文詠唱を使わない魔術師が居るのは何故か……。
「先に挙げた聖女だけど……彼女が使う魔法は、規模が非常に大きい。
「本来の詠唱をそのまま唱えると、発動までに十分くらいかかる。
「長すぎるよな。近接戦じゃまず使えない長さだ。
「だけどこれを短文化してみるとどうなるか。
「短文詠唱にすると、四分で済むようになる。
「……ありゃ、分かった?
「そうそう。バランスの問題だ。
「十分かかっても、四分で済んでも、近接戦で使うことは出来ない。
「だから彼女たちは集団の戦闘ではずっと後方にいる訳だが――加えて、短文詠唱が持つデメリットは、魔法の規模と比例して大きくなっていく。
「そこのバランスを見て、短文詠唱とは縁を切った魔術師もいる……って話」
授業終わり。
「にしても、かなり進んだ範囲を勉強してるんだな。名門私立校だって――夢乃の年齢ではこんなこと教えないぞ」
「……追い付きたいんです」
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「追い付いて、恩返しをしたいんです」
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雲を絡めとって細く糸にしたような、銀の色彩を存分に世界に振りまく流麗な髪だった。撫でると、シルクのような滑らかな感触がした。
いつまでも触れていたいと、ふと思ってしまった。
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