38 / 99
第一章
第三十四話 もう一人妹がいるって本当ですか?
しおりを挟む
着いたぞ、という声に導かれるようにして窓外に目を向けると、そこには王宮があった。
極星国の王宮とは趣を異にしていて――極星国の王宮は真っ白な壁で、シンプルなデザインだが、聖命国のこの王宮は幾何学的な装飾が多い。計算し尽くされた精緻な美、という感じか――俺はしばらく見入っていた。
「おーい、由理。とりあえず馬車から出てくれ」
「……すみません」
俺は急いで馬車から出る。
気の利いた台詞(……)を考えるのに必死になっていた俺は、時間感覚を喪失していたらしい。
五分も経っていない気がするのだが、王宮に着いたということは三十分は経っているということだ。
「綺麗な王宮だよな」
「……はい。すごく」
「王族と並んで、この国のシンボルになってる……で、準備はできたな?」
「できてないです」
「よし。じゃあ行くか」
「…………」
俺への質問ではなかったようだ……。
城内に入ると、格子状に線が走った窓が見え、そこから陽光が差してくる光景に息を呑んだ。柔らかい光に包まれる城内は、華麗かつ荘厳な雰囲気を纏っていて、魅惑的なまでに美しい。
何人かのメイドさんが出迎えてくれて、姫様は広間でお待ちです、という情報をもたらしてくれた。
……待たれているのか。
「広間はこっちだ。ついて来い」
「はい」
この王宮は外装も凝ったデザインだったが、内装も負けず劣らず緻密に形作られている。幾何学的な繰り返し模様があちこちに見られるし――王宮自体がバランスの整った対称的な構造を持っている。
あの模様、魔法陣にしたらなんかの魔法が発動しそうだな……。
そんなことを歩きながら考えていると、広間に着いたようで、仁さんが立ち止まった。
「さあ、三年ぶりのご対面だろ?第一声は決まってるか?」
「……一応」
頷きを返すと、仁さんは笑みを浮かべて広間の扉をノックした。
「殿下。ご客人を連れて参りました」
その声に答えるのは、純粋さを表象するような澄んだ声。
「お入りください」
仁さんが扉を開け、俺を中へと促す。
「ようこそおいでくださいました―――」
雪。
夜に行き惑う旅人の道を照らすために生まれる白雪のような――夜が持つ絶対的な黒に対しての、一瞬にして消えゆくその間際、ぱっと輝きを散らす白を宿す――雪のような肌の、少女だった。
その髪は、雨上がりの葉の上に置かれた雫に灯る光のような銀色。身に纏う気品は疑いようもない高貴なものだった。
少女の名は、華雅夢乃。
俺は挨拶をしようとして、口を開いた。しかし、夢乃の言葉はまだ続きがあったようで――。
「―――お兄ちゃん」
…………え。
ん?
…………俺、もう一人妹が居たみたいですね……。
極星国の王宮とは趣を異にしていて――極星国の王宮は真っ白な壁で、シンプルなデザインだが、聖命国のこの王宮は幾何学的な装飾が多い。計算し尽くされた精緻な美、という感じか――俺はしばらく見入っていた。
「おーい、由理。とりあえず馬車から出てくれ」
「……すみません」
俺は急いで馬車から出る。
気の利いた台詞(……)を考えるのに必死になっていた俺は、時間感覚を喪失していたらしい。
五分も経っていない気がするのだが、王宮に着いたということは三十分は経っているということだ。
「綺麗な王宮だよな」
「……はい。すごく」
「王族と並んで、この国のシンボルになってる……で、準備はできたな?」
「できてないです」
「よし。じゃあ行くか」
「…………」
俺への質問ではなかったようだ……。
城内に入ると、格子状に線が走った窓が見え、そこから陽光が差してくる光景に息を呑んだ。柔らかい光に包まれる城内は、華麗かつ荘厳な雰囲気を纏っていて、魅惑的なまでに美しい。
何人かのメイドさんが出迎えてくれて、姫様は広間でお待ちです、という情報をもたらしてくれた。
……待たれているのか。
「広間はこっちだ。ついて来い」
「はい」
この王宮は外装も凝ったデザインだったが、内装も負けず劣らず緻密に形作られている。幾何学的な繰り返し模様があちこちに見られるし――王宮自体がバランスの整った対称的な構造を持っている。
あの模様、魔法陣にしたらなんかの魔法が発動しそうだな……。
そんなことを歩きながら考えていると、広間に着いたようで、仁さんが立ち止まった。
「さあ、三年ぶりのご対面だろ?第一声は決まってるか?」
「……一応」
頷きを返すと、仁さんは笑みを浮かべて広間の扉をノックした。
「殿下。ご客人を連れて参りました」
その声に答えるのは、純粋さを表象するような澄んだ声。
「お入りください」
仁さんが扉を開け、俺を中へと促す。
「ようこそおいでくださいました―――」
雪。
夜に行き惑う旅人の道を照らすために生まれる白雪のような――夜が持つ絶対的な黒に対しての、一瞬にして消えゆくその間際、ぱっと輝きを散らす白を宿す――雪のような肌の、少女だった。
その髪は、雨上がりの葉の上に置かれた雫に灯る光のような銀色。身に纏う気品は疑いようもない高貴なものだった。
少女の名は、華雅夢乃。
俺は挨拶をしようとして、口を開いた。しかし、夢乃の言葉はまだ続きがあったようで――。
「―――お兄ちゃん」
…………え。
ん?
…………俺、もう一人妹が居たみたいですね……。
0
お気に入りに追加
91
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました
taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件
『穢らわしい娼婦の子供』
『ロクに魔法も使えない出来損ない』
『皇帝になれない無能皇子』
皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。
だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。
毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき……
『なんだあの威力の魔法は…?』
『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』
『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』
『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』
そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。
元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる