異世界最強のセンセイ~王女の妹と令嬢達の先生になったんだが、教え子たちが可愛すぎて授業どころじゃない~

古澄典雪

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第一章

第三十話  誰かへ捧げられた意志

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 魔剣に宿る能力が、魔力循環の基幹部分を停止させる。

 面をつけた者――『最古ノ魔術師』は、膝を折って胸を押さえた。

「終わりだ」

 そう告げた。

「基幹部分を停止させた」

 俺は『最古ノ魔術師』に歩み寄る。

「『最古ノ魔術師』であるお前の身柄は、騎士団に引き渡す――そこからどうなるかは分からない」

 俺は『最古ノ魔術師』の面に手をかけた。そしてそれを取る。

 四十代前半くらいと見える、男だった。自嘲的な笑みを浮かべている。

「何か訊きたいことはあるか」

「……俺が何故『最古』だと、分かった……?」

「お前が使っていた――肉体の形状を偽装する幻覚魔法。あれは効率が悪すぎる。あんな魔法を使うのは、近代魔術を知らないうちに古代魔法を知った者だけ――つまり、『最古ノ魔術師』だけだ」

「……そうか」

「質問はそれだけか?」

「……ああ」

「……俺から訊きたいことが一つある。お前、何でこんなことをした?」

「………それは――」

 男の目が妖しい光を宿したように見えた。

「我らが大義の為だ」

「――お前ッ」

 男が嵌めていた指輪に魔力が宿る。基幹部分を介さずに――指にあった魔力を全て注ぎ込んだのか。

 そんなことをしたら、魔力の経路が決定的に壊れる。

 今まで魔力があった部分が空洞になり、魔力の供給がないままに、隣接した部分の魔力が空洞へと流れようとして圧力が増大して――経路が弾ける。

 魔法陣が輝いた。

 俺はそれを消し飛ばす。

 しかしその魔法陣には反復の過程が組み込まれていて、魔法陣を消すたびに新たな魔法陣が展開される。そしてそれは男の魔力経路がどんどん傷ついていくことを意味していた。

 しかし魔法陣を放置することはできない。この魔法陣から呼び起される現象は、爆発――自爆用の、魔法だ。

 しかし、魔力経路が傷ついて全身の魔力経路が弾けていけば、待っているのは死だ。

 ――つまり。

「……くそッ」

 俺は大きく後方に飛び退った。男は溜息を吐いた。それがいやに明瞭に聞こえた。

 空気を裂くような轟音が――世界を揺らした。

 ○
 大きく道が抉れている事を除けば――そこには何も残されていなかった。しかし、男の魔力反応はそこで途絶えている。

『力の記憶』は、保有者が死亡すると、生前に指定された継承者に継がれる――指定されていなければ名も知らぬ誰かに宿るらしいが、『力の記憶』をむざむざ手放すような真似をするものはいまい。

 我らが大義の為に、か。

 我ら、というのが組織であるならば、その組織の誰かに継がれたのだろう。

 俺を殺せれば目的を邪魔する人間が一人減る。

 男が死ねば優秀な魔術師に『力の記憶』を継がせられる。

 どちらにしても、組織の思惑通りの結果になる訳、か。

「……なにが大義だ」

 命を賭けるほどのものだったのか。

 俺には分からない。分かるはずもない。

 視界が一瞬白く染まって、雷鳴が遅れて響いてくる。
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