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第一章

第二十七話 互いに頭を撫であうってのはどうですか

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 さらさら、かりかり。

 ペンが紙を擦る音が聞こえる。俺も机に魔術大全を置いて――って、そういえば俺、ノートも筆記具も持ってきてないな。

 ……まあいっか。空中に魔力でメモしておけば。一日で結論が出るような問題でもないし、思考の一部分を留めておければそれでいい。

 魔術大全には、魔法の解説が――過剰に見えるほどに――細かく記されている。

 第二式のこの部分はこういう意味を持つ。第三式との関係はこう。だからこの部分を崩すと術式が成立しない。

 ……何回も考えたことだが、古代魔法も結構システム化されている――というか、割りと理を持っているというか……ヴァルシュヴィを敬わない訳じゃないが、このままでも良かったんじゃないかね。

 感覚的なニュアンスが多少は入ってくるから、確かに少し人を選ぶような趣がある気はするけど。

 ……そんな感じでつらつら考えていると、二時間半が経過した。

 空中を見ると、殴り書きが六行程度ある。……おっけ、把握。記憶した。

「……あれ、先生、それ――」

「ん?これ?」

 時葉の声を聞いて、彩希も顔を上げる。二人は空中に浮かぶ魔力をじっと見つめていた。

「大して難しいことじゃないぞ?魔力を置いて、崩れないように制御してればいいだけなんだから」

 俺は魔力の色を変えてみせる。グラデーションっぽくしてみる。

「こうやって色も変えられるし……なんで無言?」

「いえ……えっと、それ教えてもらえませんか」

 彩希がそう言うと、時葉も頷く。

「いや、ノートとペンがあるんだったらその方が絶対……」

「実用性の問題じゃないんです」

「綺麗だから……って理由じゃ駄目ですか?」

「……そっか。じゃあ、ちょっとした授業を一つ……。

「まず――そうだな、魔力で『筆記魔法』って書いてみてくれ。

「別にこれは魔法じゃないけどさ。

「……ん、最初は崩れるもんだよ。気にしないで。

「時間が経つごとに、文字はどんどん魔力の粒になっていく。

「で、ちょっとずつ広がってくる。

「――でもよく見てくれ。文字は空中のどこにでも広がっていく訳じゃない。

「そう、二人が書いた四文字分のスペースで広がっていく。

「―――もう分かった?相変わらず頭の回転が速いな二人とも……。

「文字を四文字の塊じゃなくて、一つ一つ――もっと言えば、一本一本の線だと認識するんだ。

「そうすると、文字は崩れていかなくなる。魔力の広がる範囲がごく僅かなスペースに限定されるからな」

 ってな感じで。二人はすぐに魔力による筆記方法をマスターしたのだった。

 偉い偉い。

 ………えっと、それで、その目は何を訴えかけているのでしょうか。まさかだよな。

 まさかね……。

 ………………。

 互いに頭を撫で合うってのはどうなの?その方がこう――……………えっと、何でもない。

 右手を彩希の頭の上、左手を時葉の頭の上に乗せる。二人同時に頭を撫でるのは流石に初めてなんだけど……今日は色んな人生経験ができるなぁ(現実逃避)。

 清麗な輝きを帯びた二人の髪をそっと梳く。二人は互いに微笑みかけていた。それは、姉妹のように似た、美しい笑みだった。

 息を忘れるような、感覚があった。
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