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お題【いいわけ】
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ここに立つといつもドキドキする。
目の前にはオフホワイトカラーの扉。
曇りガラスの向こうは明るい――今は居るってこと。
僕は言い訳を頭の中でもう一度復唱して、それから扉をノックした。
「どうぞ」
彼女の声だ――と言っても「彼女」ではなく「友達」。
そう。ただの友達だから、僕はここへ来過ぎる言い訳をいつも用意しなきゃなんだ。
「面白い本をね、また見つけたんだ」
「そう……じゃあ読んでもらおうかな」
ベッドに横たわる彼女は柔らかい笑顔で瞼を閉じる。
僕は傍らのパイプ椅子へと腰掛け、朗読を始める。
気持ちを込めて――どうやら大丈夫そうだな。
表情を見れば、楽しんでもらえているかどうかはわかる。
この分だと、しばらくの間はこの本を言い訳にして会いに来続けることができる。
学校が終わる時間になると彼はいつも遊びに来てくれる。
足音だけで分かるから、彼が扉の向こうに立ち止まるとき、いつもドキドキしている。
そんな資格、私にはないのに。
彼との偶然の出逢いは、もう一年も前になる。
自転車で派手に転んで運び込まれてきた彼と、ずっと長いこと入院し続けている私。
明るくて優しい彼の声がとても好き。
彼の声には生命を感じる。
私にはあまり残されていないパワーを。
宣告された余命をもう過ぎている私には未来を夢見ることさえもつらい。
だから彼といい雰囲気になりかけたとき先手を打った。
「男女間に友情って成立すると思う?」
「思うよ」
「じゃあ実験してみない? 私たちで」
「いいよ」
彼の「証明してみせるよ」にずっと甘えている私。
いつか突然終わりが来ることはわかっているのに。
それなのに、私は今日も言ってしまった。
「続きはまた明日お願い」って。
彼の声が心地よすぎたから。
もうそろそろ言い訳を考えないと。
彼を傷つけずに「ここへ来ないで」と言える言い訳を。
私なんかの死でさえも、優しい彼の心を傷めてしまうだろうから。
<終>
目の前にはオフホワイトカラーの扉。
曇りガラスの向こうは明るい――今は居るってこと。
僕は言い訳を頭の中でもう一度復唱して、それから扉をノックした。
「どうぞ」
彼女の声だ――と言っても「彼女」ではなく「友達」。
そう。ただの友達だから、僕はここへ来過ぎる言い訳をいつも用意しなきゃなんだ。
「面白い本をね、また見つけたんだ」
「そう……じゃあ読んでもらおうかな」
ベッドに横たわる彼女は柔らかい笑顔で瞼を閉じる。
僕は傍らのパイプ椅子へと腰掛け、朗読を始める。
気持ちを込めて――どうやら大丈夫そうだな。
表情を見れば、楽しんでもらえているかどうかはわかる。
この分だと、しばらくの間はこの本を言い訳にして会いに来続けることができる。
学校が終わる時間になると彼はいつも遊びに来てくれる。
足音だけで分かるから、彼が扉の向こうに立ち止まるとき、いつもドキドキしている。
そんな資格、私にはないのに。
彼との偶然の出逢いは、もう一年も前になる。
自転車で派手に転んで運び込まれてきた彼と、ずっと長いこと入院し続けている私。
明るくて優しい彼の声がとても好き。
彼の声には生命を感じる。
私にはあまり残されていないパワーを。
宣告された余命をもう過ぎている私には未来を夢見ることさえもつらい。
だから彼といい雰囲気になりかけたとき先手を打った。
「男女間に友情って成立すると思う?」
「思うよ」
「じゃあ実験してみない? 私たちで」
「いいよ」
彼の「証明してみせるよ」にずっと甘えている私。
いつか突然終わりが来ることはわかっているのに。
それなのに、私は今日も言ってしまった。
「続きはまた明日お願い」って。
彼の声が心地よすぎたから。
もうそろそろ言い訳を考えないと。
彼を傷つけずに「ここへ来ないで」と言える言い訳を。
私なんかの死でさえも、優しい彼の心を傷めてしまうだろうから。
<終>
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