お題ショートショート【一話完結短編集】

だんぞう

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お題【不眠不休】【お届け物】【バースデーソング】

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 どうしてそんなに働くんですか。
 ここ半年ほどで一番多くされた質問。
 欲しい物があるのかとか、叶えたい夢のためかとか、世界一周でもするのかその資金集めかとか、皆見当違いのことを言う。
 そのたびにいちいち否定するのも面倒なので、俺はいつもこう答える。

「まぁ、そんなようなところです。恥ずかしいので今はまだ内緒です」

 会話を続けるのは本当にだるい。
 常に意識が曇ったメガネのようにぼやけていて、自分の中で言葉を組み立てるのが、そのための集中力をひねり出すのが、とてつもなく困難なのだ。
 確かに不眠不休で働けはする。ただし、脳が休息を摂れていないから、何かを考えるのはとてもしんどい。
 単調な作業で体を動かすだけならば、なんとか……。

 いつもその鼻歌ですね。
 ここ半年ほどで一番多く言われた言葉。
 油断すると、口ずさんでしまう。というか、きっと意識が飛びかけていたんだろうな。
 中には本当にその日が誕生日だったりして、俺がまるでそいつのためにバースデーソングを歌ってあげたんだみたいにとらえて勝手に喜ばれることもあるが、違うんだ。
 歌いたいわけじゃない。
 眠りにつこうとするとき、意識が飛びかけたとき、俺の耳の奥で勝手に鳴りやがる、異様な耳鳴り。
 いやほらさ、耳鳴りって普通、キーンとかそういう感じじゃないの?
 でも俺のは違う。キーンみたいな金属音がメロディを刻む。パンチ穴でオルゴールを鳴らす楽譜みたいに、俺の脳に穴が開けられてるんじゃないかと思うくらい、その音ばかりが俺の中から現れる。

 気にしないで寝てみたこともある。
 ただ、この耳鳴りの中で寝ると、必ず夢を見る。
 出入り口のない牢屋みたいなコンクリ打ちっぱなしの殺風景な部屋の中、俺の周りにリボンのついた箱が置かれる夢を。

「お届け物です」

 性別も年齢もわからないその声のあと、俺の死角だった場所にかならず置かれるそのお届け物は、真っ白い箱なのに、血を思わせる染みが浮き出ていて、おまけにとても臭い。生物的な終末的な臭い。
 しかも次に夢を見る時は、前に届いた物も同じ場所に置いてあって。本当は触るのもいやだけど、自分のいられる場所が次第になくなっていくから、仕方なく部屋の済に積み重ねてゆく。
 寝たくない気持ちわかるだろ?
 でも、動いていないと寝ちゃうから働くわけ。

 人は寝ないと死ぬって話だけど、最近はけっこうなんとかなっている。助かる。
 これ以上お届け物が増えたら、きっと俺はあの部屋で押し潰されるから。いやでも楽になれるのなら、それもいいかななんて考えがぐるぐる回る。時には口から勝手に出る。

「それでーもいーかーなー」

 ハッピバースデートゥーユーのメロディに乗せて。



<了>
構想10分+執筆30分というルールで書いたもの。
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