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お題【しっぽ】

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 お兄ちゃんがボールペンをくれた。
 全体はシンプルな木目調だけど、クリップ部分にしっぽのような飾りが付いているデザイン。
 どこで買ったのと聞いてみたけど、はぐらかして答えない。「サプライズ!」とだけ叫んで自分の部屋に逃げていった。 
 試し書きをしてみたが、なめらかで書きやすい。
 え、私なに書いてるの……この名前、誰にも言ったことない絶対の内緒にしているのに。
 試し書きに使ったメモ用紙を破いて、くしゃくしゃにして、ゴミ箱に投げ込んだ。

 お兄ちゃんがモノをくれるなんて怪しくはあったけれど、とりあえず学校用の筆箱に入れた。



 翌日の昼休み。親友が来てボールペンに目を留めた。

「新しいの?」

「うん」

「へー、可愛いし、書きやすいね」

 と、ノートの端っこに何か書いたかと思ったら、急に顔を真っ赤にしてグチャグチャと書いたものを消しちゃった。しかもそのままノートを破ろうとする。

「ちょ、ちょっと!」

 授業内容ホカホカの頁だもん。
 当然阻止したんだけど、そこのとこだけ厳重に折りたたんで「絶対に見ないでね」と約束させられた。
 でもさ、そんなの見て欲しい時の前振りに決まってるじゃないね。
 当然、次の授業中、こっそりとそれを見ましたとも。
 でね、そこには彼女が好きな男子の名前が書いてあった。
 そんなん知ってるつーの。何で隠すかな……何年、親友やってると思ってんの?



 放課後。親友が小学校の時の同級生の子を連れてきた。

「このボールペン、書きやすいよ」

 その同級生の子も、書いてすぐに顔を真っ赤にする。
 あー、あの名前、確かサッカー部のキャプテンの人だ。

「これ、魔法のボールペンじゃない?」

 そんなことないよ。
 二人のラブな気持ちがこぼれて出ちゃっただけじゃないの、と話を切り上げたんだけど、その晩、夢を見た。

 真っ白くて立派な狐が、私の前に座っていて、油揚げを二枚ご所望しているの。
 言葉はしゃべってないのに、それを求めているってのが私にはちゃんと分かってる。
 猶予はお昼までって……学校帰りじゃアウトじゃない。

 目が覚めて真っ先に冷蔵庫に向かった。ママが朝ごはんの準備を始めようとしていて……あーっ! ちょうど油揚げの二枚入りのを開けようとしていた。

「ちょ、ちょっと待って! それ、今日、学校で使うの!」

 強引に油揚げを引ったくり、部屋まで持ってきたはいいけれど……どうやったらあの狐さんに差し上げることが出来るのさ。
 やっぱりあれかな。
 もう一度寝なきゃダメ?
 でもそしたら絶対学校に遅刻するよね?

 とりあえず、机の上にボールペンを置いて、その手前に油揚げの二枚入り袋を恭しく置いてみた。
 こういう時はやっぱり神社のあれかな。
 二礼二拍一礼ってやつ……お辞儀を二回して、柏手を二回打って、それからまたお辞儀……で、顔を上げたら油揚げはなくなっていた。
 袋だけ残して。
 飾りのしっぽが嬉しそうにファサってなってるし、あー、こういうのでいいんだ……とか言ってる場合じゃないよ!
 朝ごはん食べる時間なくなるっ!



 その日、学校で、私はすごかった。
 私はというよりはしっぽのボールペンが、なんだけど。
 休み時間のたびに行列が出来た。
 一応、この魔法みたいなのは無料じゃないってことを伝えても、皆、ボールペンを使いたがった。
 明日、ちゃんと油揚げ持ってきてねってお願いして……皆、ウンウン気軽にうなずいていたけど……大丈夫かな?
 結局、学校を脱出できたのは、いつもよりも一時間以上遅かった。

 帰り道、歩くことすらもうなんかすごい疲れちゃって……あーあ。こういう時、大人だったらタクシー使うんだろうなー。

 めげそうになりながらも、頑張って頑張って頑張って家に帰ってきたら、ママが居なかった。
 お兄ちゃんが部活で転んで足を骨折して入院ってことで付き添いらしい。
 パパは外食しようかと言ってくれたけれど、私は食欲もなかったし、野菜ジュースだけ飲んですぐに寝た。



 ……ここ、夢の中かな。
 あの白狐さんだ……にまた会った……けど、なんか様子がおかしい。
 私の左手を噛むの。
 痛くはないけど、力が抜けてゆく感じ。
 え、でもおかしくない?
 油揚げあげたよね?
 今日の昼間の分だって、油揚げちゃんと持ってくるようにお願いしたし。
 何がいけないの?

 白狐さんがしっぽをファサっと振る。
 一回につき油揚げ一枚というわけではなく、回数が増えれば、対価も大きくなる……ということを、私は理解した。
 使ったのは私じゃないのに?
 白狐さんがまたしっぽをファサって……えー、所有者?
 それ、所有者になり損じゃない。
 え、所有者は、最初の一回だけサービス?
 そんなの試し書きで使っちゃったよ……なんかズルい。

 こうなったら誰かに押し付けるしかない。どちらにせよ、このボールペンはもう持っていたくないし。
 そうだ! 親友の誕生日が近い。
 ちょっと早いけれど明日もう親友にあげちゃおう。
 だいたいあの子が勝手に客集めしてきたんだから……それがいい……白狐さん、またしっぽをファサ……そういえば私、このボールペン、どこで手に入れたんだっけ?
 覚えているのは、親友へのプレゼントってことだけ。明日、持ってゆくの忘れないようにしないと。



<終>
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