お題ショートショート【一話完結短編集】

だんぞう

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お題【3つの小石】

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「小石めぐり? ナニソレ?」

「恋愛運アップのおまじない」

 そう言ったのはイケメンのハヤカワ。女の子も二人一緒だと言う。非モテの僕を哀れんで何か協力してくれるんだと思ったからついてきたんだ……こんな夜中の廃校に。

「まず、校庭で小石を3つ拾って」

 僕らは小石を拾い、ハヤカワについて校舎の中へ入ってゆく。

「一階の端っこ、職員トイレ前の手洗い場に小石を一個置くんだけど」

「置くんだけど?」

 怖がりのエリちゃんはハヤカワの右腕にしっかりつかまっている。

「そんときにこう唱えるんだよ。『一つ積んでは初恋のため』って」

「なんで初恋なの?」

 巨乳のサツキちゃんはハヤカワの左腕にしっかりつかまっている。あれ絶対におっぱい当たってる。

「廃校になる前、教師に失恋した女生徒が自殺したんだって」

「やだっ」

 エリちゃんがハヤカワに余計にくっつく。

「え、じゃあ、この小石って供養なの? 三途の河原みたいな」

 同じくハヤカワに余計にくっついたサツキちゃんのボケを拾おうと僕は頑張った。

「それ、三途の川と賽の河原とごっちゃになってない?」

 ところが女性陣はスルー。うん。ようやく分かってきた。ハヤカワがなんで僕なんかを連れてきたのか。自分の引き立て役にするためだったんだ。

「せーの……一つ積んでは初恋のため!」

 僕らが小石を置いた手洗い場には他にも小石がいっぱい積んであった。けっこう有名なのかな。

「次は二階ね。今度は反対側の男子トイレ前の手洗い場」

 三人四脚状態のハヤカワ達と、一人ぼっちの僕。何で付き合ってるんだ僕。

「次に唱えるのは『二つ積んでは叶わぬ恋に』だよ」

「あのさ、何で失恋した人が他の人の恋なんて叶えてくれるのさ?」

 思ったことをつい口にしてしまった僕に、ハヤカワは嬉しそうな顔で答える。

「おまじないってそういうモノなんだよ。江戸時代に首切り役人だった人が居てさ、仕事とはいえ多くの人を殺してしまったからその罪を軽くするために死後はたくさんの人に踏みつけられたいって言ったのな。それで実際、踏みつけられる墓を作ったんだけど、いつの間にか、踏みつけから文付け……文を付けるってのは昔のラブレターな、そのラブレターの神様みたいになっちゃってさ」

 すげー腹立つドヤ顔。そして案の定、女子二人は「すごーい」とか「物知りー」とかハヤカワにべったり。
 僕は彼らに構わず、早く置いちゃおうと小石を構えた。

「せーの……二つ積んでは叶わぬ恋に!」

 さっきよりも積まれている小石の数が減っている気がする。怖くなって途中で帰っちゃったとか?

「小石はね、恋しいの『恋し』とかけてるんだよ」

 一方、ハヤカワはまたまたひけらかし。

「3つ目の小石はちょうど丑三つ時に置かなきゃいけなくてね……」

 あーそうですかそうですか……って、今、すぐ近くでキュッキュッて上履きの音が聞こえた気がしたんだけど。

「今さ、何か聞こえなかった?」

 僕はけっこうマジに聞いたんだ。急に怖くなってきてて。でもハヤカワは「よくやったぞ家来」みたいな顔で僕を見るんだ。もちろん女子はさらにハヤカワに密着しているわけで。

「最後はね三階の女子トイレ。『三つ積んでは新しい恋に』って言うんだよ」

 僕は正直、気が引けていた。
 実際、たどり着いた最後の場所は積んでいる小石の数も最初の半分以下。それだけの人が途中で帰っちゃうだけの何かがここにあるっていうことだよね? ただの「怖い」とか、そういうレベルのもんじゃなさそうな気がしていたのは、さっきの上履きの音のせいかな。

「はい、準備」

 正直気乗りがしなかったけれど、サツキちゃんが急にやさしくなって僕を手招きした……って、手招きを「優しい」って感じるなんてどんだけ僕は……怒りで恐怖がちょっと去った……小石を置く準備をして。

「せーの……三つ積んでは新しい恋に!」

 小石をコトリと置く音が、静かな廃校に響く。これでおしまいかな、と言おうとしたとき。

「ありがとって何が?」

 ハヤカワの声が聞こえた。
 でも、声だけだった。

「ハヤカワ君?」

 サツキちゃんがきょろきょろとしている。サツキちゃんの隣にハヤカワが居て、その向こうにエリちゃんが居たはず。

「ね、そういうジョークやめようよ。帰ろ?」

 サツキちゃんがさりげなく僕のひじにつかまる。ちょっと震えている。さっきの手招きはもしかして早く終わらせて帰りたかったから? サツキちゃんも怖がりだったのか。

「ハヤカワくぅん」

 エリちゃんもオドオドしながら僕のもう片方の腕の近くに来て、ぴとっと寄り添ってくれた。もしやハヤカワは初めからこういう計画で? だとしたら……ごめんハヤカワ、疑ったりして。親友だよハヤカワ。

「……いで」

 また、ハヤカワの声が聞こえた。

「……置いてかないで」

 ハヤカワの声がすぐ近くから聞こえたけれど、姿は見えなくて……最初はエリちゃんだった。悲鳴を上げながら走って逃げだしたのは。それを見た僕とサツキちゃんもダッシュで校庭まで必死に逃げた。
 でも、いつまで待ってもハヤカワは降りてこなくって、そのまま行方不明になってしまった。



<終>
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