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#91 黒い悪魔
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「テル様! 起きるです!」
マドハトが俺を揺さぶる。
俺は「熟睡している」ように偽装の渦していた寿命の渦を「起きた」状態へと変える。
マドハトが俺をテルと呼んだのは、ルブルムたちと合流するまでは傭兵団で使っていた偽名をそのまま使おうってことにしたからだ。
「……どう、したんだ?」
寝ぼけた声でそう尋ねてはいるが、本当は理解している。
このギルフォド一・マンクソム一・ニュナム三の共同夜営地が夜襲を受けたのだと。
襲撃者が一人の羊種であることも――見えている寿命の渦のうえでは、だけど。
そして俺たちが寝ているテントが燃え始めていることも。
火をまとった射撃や投擲道具ではなく、明らかに魔法だった。
それもテントのすぐ近くで発動された――しかしその発動者自体の寿命の渦が今は感知できない。
気付かれないように『魔力微感知』にしていたのを広域確認用の『魔力探知機』へと切り替える。
それも詳細モードで。
羊種以外の、隠れた偽装の渦っぽい痕跡は見つからない。
見つからないといえばファウンもだ。
かなり前に「トイレへ行く」と言って出たっきり。
熟睡したフリをしていたから目を閉じていたが、今見たらファウンの荷物もなくなっている。
となると襲撃者への手引きはファウンが?
羊種の来た方向と、ファウンの消えた方向はまるで違うのだけれど。
「テル様、火が!」
マドハトは自分の荷物を慌てて外へと引っ張り出す。
そうだな。俺も先に荷物を持ってテントの外へ。
こんなこともあろうかと、革ブーツも手斧の鞘がついた革ベルトも装着したまま横になっていたし、『虫の牙』はタールの屋敷で見つけた鞘に入れ、今は俺の腰に装着してある。
その他の荷物と弓や矢筒はすぐに持ち出せるよう準備してあった。
だからこそ、ファウンも自分の荷物をさりげなく持って出れたのだろうけど。
定期便の他の乗客たちのテントも燃えているため、夜とはいえ視界はかなり確保されている。
ということは襲撃者側からも見えているってことだよな。
馬車の幌も燃えていて、何人かが慌てて降りている。
馬車とは離れた場所につないである馬は無事だが興奮していなないている。
定期便利用者は、馬車内の自分の席で座ったまま寝ることが許されている。空いていれば床に寝転がってもいいし、もちろん屋外で寝るのも自由だ。
乗車前に割増料金を払えば、二人用か四人用のテントを貸してもらえる。
四人用テントはメリアンが手配してくれていたのだが、借りたのは俺たちだけ。
二人用のは、馬種の老紳士と、豚種カップル、牛種の中年男性商人、あとは馬の近くに御者兼護衛用のが一つ。
河馬種親子と猫種兄妹は馬車の床で寝ていた。
不寝番に立っていたのは今の時間はメロメンだったが、リーブラザスとビグジョンも既に起きて火のついたテントを回って中の客を外へ出している。
ちなみに、メロメンは鹿種女性、リーブラザスが両生種男性でビグジョンが猿種男性。
ここまでの一日の道中で自分の名前を名乗ったのはこの御者兼護衛の三人と、やたらとおしゃべりな商人クラカジャクスだけ。
こいつはやけに上機嫌で、聞いてもいないのに「寝藁が変わると寝付けない」とか「自分専用の寝藁を持ち歩いているんですよ」とか「麗しい女性であれば半分使わせてあげても良いですよ」とか、やたらとうるさかったな。
寝藁の他にもやたらと小袋を持ち歩いていて、荷物だけでもう一人分の運賃取られてるんじゃないかってほど。
怪し過ぎるこの商人だが、何度もこの定期便を使っているようで、「今回は君たちか」などと護衛たちと顔馴染み感を出していた。
「火矢ではないですっ! おそらくは魔法ですっ! ひとところに留まったり集団で集まったりせず、それぞれ動き回ってください! ただし共同夜営地の柵からはあまり離れないでっ!」
メロメンが、大きな声で周知している。
的確な指示内容――ただし、定期便の客の中に襲撃者と内通している者が居ない前提ならば、だが。
内通者は居る前提で考えておいた方がいい――もっとも今はここに居ないファウンが真っ先に疑われるだろうし、そうなると同じテントを利用していた俺たちだって疑われかねない。
ファウンが居なくなったらなったで嬉しくない状況とはね。
「テル様、何か落ちたです!」
うん。俺も見た。
俺の荷物の隙間から何か落ちたのが。
巻かれた羊皮紙? 手紙か?
「兄貴へ」と書かれている。ファウンの置き手紙か?
くっそ。こんな状況で読んでられるかよ。
その巻き羊皮紙を落とさないよう、鎧の内側の隠し収納へとねじ込んで、俺は弓を構える。
『魔力探知機』で確認できる襲撃者は相変わらず羊種が一人だけ――だが、向こうの姿が見えない以上はタール本人の可能性もある。
タールがディナ先輩のお母さんの『魔動人形』を動かしたとき、その寿命の渦は今まで見たことがないものだった。
あれがナベリウスという種族本来の寿命の渦だったのかな。
爆散するまではずっと単なる鳥種にしか見えない寿命の渦だったから、タールは確実に偽装の渦で他獣種の寿命の渦を真似られるはず。
まあ、あれだけ魔法を使いまくるタールが偽装の渦くらいできないわけもないか。
だとしたら、詳細モードの『魔力探知機』でも見つけられないほどうまく隠れる術を持っているかもしれないよな。
もしも襲撃者の羊種がタールだとしたら、この共同夜営地に二人しかいない猿種から、俺の特定ができているはずだ。
もう一人の猿種であるビグジョンの方は、護衛専用テントを利用しているし。
ということは、位置指定の『魔法転移』をピンポイントで使ってくる可能性もあるか。
メロメンの言う通り、こまめに位置を変えながらマドハトと一緒に周囲を確認して回る。
こんな状況でもフードをかぶっている女性をどうしても怪しいと感じてしまう。
猫種兄妹と豚種カップルはマントを羽織っているだけで顔は見えている。
その表情も寿命の渦にも不安が現れている。
河馬種親子はまだ二人ともマントのフードを深くかぶっているが、そのかぶり方が「怖くて布団を頭からかぶっている」風だからなぁ。
寿命の渦にも恐怖が現れているし。
そのとき、こちらへ直進する寿命の渦を感じた。
ごくごく小さく偽装しているが飛行して――そちらを見るが目視でとらえられるものは――虫?
移動するとその虫も進路をゆっくりとこちらへと変える。
追尾されているのか?
今思えば火が発生する直前、消費命の集中を感じたのはこんな小さな寿命の渦からだった。
まるでそこで『発火』を使いでもしたかのような。
虫が?
遠隔で操作している?
レムの『同胞の絆』の例だってある。あり得ない話じゃない。
念のためビグジョンに接近して俺と虫との間に挟んでみる――が、ついてくるのは俺に、だ。
そりゃまあ、自動で猿種を狙えるなら、テントの中に居た時点で襲ってきているはず。
ということは、視認してついてきているのか?
「俺は夜目がきく! 弓も剣もあるので襲撃者へ向かう!」
ビグジョンにそう伝えると、俺は共同夜営地の柵の外側へと出た。
マドハトもついてくる。
もしも襲撃者が俺狙いなら俺が離れた方が一般人に迷惑がかからない。
それにあの定期便一行に内通者が紛れ込んでいるのであれば、挟撃しやすいこの状況をお膳立てしてやれば炙り出せる可能性も少なくないだろう。
森の中へと踏み込み、襲撃者から射線が通らないように近づいてゆく。
例の虫もついてくる。うざいな。
ここいらでいったん潰しておくか。
『虫の牙』を抜き、立木の細めのやつから適当に葉の生い茂っている枝を数本切り落とす。
それを手に取り、ハエたたきのようにその虫へ叩きつけた。
インパクトの瞬間、虫から消費命の集中を感じる。
しかもけっこう大きい――が、その集中は失敗する。
なんというか、ぎこちない集中だった。
大きな消費命の集中に慣れてなくて、という感じ。
魔法を使い慣れていないという印象も受けた。
とはいえ地面に叩き落された虫はすかさず『虫の牙』で貫く。
すぐにその虫の小さな寿命の渦が潰える。
「テル様、カッツァリーダです!」
「ハト、まだ近づくな」
虫が死んだ後に発動する魔法とか付与されている可能性も考慮に入れて。
マドハトはすぐに下がる。
幸い、その手の魔法は発動しなかったが――ただ、あの消費命の集中は、やっぱり術者があの虫そのものだったように感じた。
一つの可能性が頭に浮かぶが、それが正解だとしたら狂気の沙汰だ。
「ハト、念のためおまじないをかけるぞ」
「はいです!」
昨晩、たっぷり休息させてもらっている間に作ってみた新魔法を俺とマドハトの鎧へ付与する。
医療棟で実際に効果を確認するところまでするのはちょっと難しかったから、十分に試せてはいないが、まあ本当におまじないって感じで。
そんな準備をしている間にもさらに次の虫が飛んでくる。
寿命の渦からしても恐らく同種の――カッツァリーダ、つまりゴキブリだ。
ホルトゥスにおいては、現代日本に比べてカッツァリーダはさほど嫌悪感は持たれていない。
だが、「手洗い」という衛生観念が一般に広まっているように、寝室や厨房にネズミやカッツァリーダに出現するのは手洗いを全くしないのと同じ、といった衛生観念もそこそこ広がっている。
「見かけたら追い払う」程度の意識な人が少なくないし、リテルだってカッツァリーダに特に苦手意識なんか持っていなかった。
だが、俺は「かなり嫌だ」派。
ピンポイントで俺に効く――いやいや、こういうときこそ紳士たれ。
落ち着いて、さっさと原因を排除すればいいだけだ。
そう。カッツァリーダ飛ばしてくる術者を。
かなり罠っぽくはあるが。
それでも放っておけばガンガン火付けしてくる奴を無視するわけにもいかないだろう。
魔法を使い慣れてなさげな術者は囮臭がプンプンするのだが、これ以上燃えると一般人が死にかねない。
「襲撃者は向こうか?」
その声は定期便護衛のビグジョン。
彼が内通者でないとしたら、視認しづらい戦場に猿種が一緒に来てくれるのは良い撹乱になる。
「三手に分かれて進もう。俺は右から行く」
試しに作戦を振ってみる。
「いいだろう。一番危険な中央は俺が行こう」
「僕は左から行くです!」
マドハトもこういうときに分かれて行動できるくらいには頼もしくなった。
あとはビグジョンが敵じゃなければいいと本当に思う。
定期便の護衛というのは、次の街までの移動距離が長い土地ほど練度が高いとメリアンが言っていたっけ。
ビグジョンもメロメンも、もう一人のリーブラザスもそうだが、ここまで一日の行程を見ていた限りでは、こういうときに任せても大丈夫そうな安心感や職業人としての誇りは感じていた。
それでも名無し森砦では王国直轄の砦兵が一集団まるっと野盗の仲間だったから、油断は絶対にしないが。
さっきの虫がようやく近くまで来た。
三つのどこへ行くのかと思えば、まっすぐビグジョンの方へ――だが、素通りして木の幹へと貼りついた。
わずかな間の後、右へ――向こうから見ての右、つまりマドハトの方へと再び滑空する。
カッツァリーダは、翅を持つ虫だが自在に空を飛ぶというわけではない。
羽ばたいたところで基本は滑空だし、ホバリングとか、急な方向転換とかもできない。
だからいったん木の幹か。そして対象は視認している――あれ? 視力があんまり強くないのは地球のゴキだけか?
いやでもゴーレムみたいに「目」があればそこから視力を持つことができるって解釈がある魔法もある。
なんにせよ可能性はできるだけ多く用意しなくては。
ここで俺は『新たなる生』で猿種の寿命の渦付きの俺の幻影を作り出す。
もちろん、自身の寿命の渦は偽装の渦で消し込んで。
そして幻影を、羊種の居る方向へと向かわせる。
木の陰からもっと近い木の陰へ。
いったん幻影を動かして木の陰へ待機させている間に本体の俺も近づく。
ただし幻影よりも更に外側を。
この時間差移動でだいぶ距離を詰めた頃、例のカッツァリーダがこっちへ戻ってきた。
移動速度や手段を考えると、本当に単なる虫っぽい?
そして奴は俺の幻影にまっしぐらに飛び、そこで大きな『発火』っぽい炎を出して散った。
「やった!」
深夜の森に声が響く。
素人だ。
魔法の使い方も、戦いにおいても。
そして聞き覚えのある声だった。
エルーシだ。
フォーリーでいちゃもんつけてきて投獄されて逆恨みしてきて、その後ウォルラース配下の野盗に参加して襲ってきて、返り討ちにして縛り上げておいたら恐らく野盗連中に逃されて、そしてついにここまで追いかけてきたってことか?
魔法はここへ来るまでに誰かに手ほどきを受けた、ということなら、この熟練度ってのは理屈が通る。
マジか。
俺は戦慄する。
こいつがここに居るってことは、ウォルラースまでここに居る可能性があるってことじゃないか?
そもそもウォルラースとタールは、モトレージ白爵領で顔見知りなのだ。
逃げたタールと逃亡中のウォルラースが合流する可能性だってゼロじゃないだろ。
あんまり悠長に様子を見ているわけにはいかなくなった。
即座に『熱の瞳』を自身にかけ、矢に『ぶっ飛ばす』を『接触発動』してから弓を引き絞る。もちろん全部偽装消費命で。
声の方向、木の隙間から見える人型の熱源へと射掛けた。
一人ずつ減らしてゆくしかない。
だが距離のせいか、寿命の渦の様子を見るに仕留め損なったようだ。
まだ生きている。
もう少し近くへ――すぐに移動を開始した直後、小さな呻きが聞こえた。
方向はビグジョンが居た辺り。
遠隔攻撃か、さもなくばもうそんな近くに?
『魔力探知機』を『魔力感知』へと切り替える。広域を線でじゃなく付近を面で感知するために。
ビグジョンの寿命の渦を見る限り、死んだわけじゃないっぽいな。
無力化――この寿命の渦の挙動、カウダ毒か?
それならもう確定じゃないか。
居るかもしれないタールに、ウォルラース?
俺とマドハトだけじゃ荷が重い。
ああせめてメリアンが居てくれれば――んなこと言っていられる状況じゃない。
なんだったらマドハトと一緒に逃げるという手だってある。
「くそリテルッ!」
エルーシの声がさっきより近い。
そしてまた小さい虫が飛んでくる。
面で観察していたから、虫が飛び立つ前、エルーシが消費命を集中したのがわかった。
そして予想した魔法の魔法代償と同じ量。
あいつ、恐らくだがカッツァリーダと『使い魔契約』をしてやがる。
『使い魔契約』なら、五感や寿命の渦を共有できる――つまり、使い魔を起点に魔法を唱えることが可能になる。
しかも本来ならばよほどの信頼関係が成り立たないとできない『使い魔契約』だが、相手が知性を持たない昆虫などの場合、強制的な契約が可能になる、というのは聞いている。
ただ、いったん契約すると、どちらかの寿命がなくなるまでその契約が続くこと、そして使い魔の死が契約者への大きなダメージとなることなどから、寿命が短い昆虫などとの契約は現実的ではないのに。
飛んできたカッツァリーダは赤く熱源として見える。
小さいが、小回りが効かない動き。
また適当な枝を切り落とし、ハエたたきのように叩き落とす。
今度は地面に叩きつけられる前に巨大な『発火』が発動したが、燃えたのは枝の先だけ。
エルーシには悪いが使い魔はならば一体ずつしか飛んでこないし、対処は困難ではない。
それよりもカウダ毒を持った別の見えざる敵の方が――ああ、近づいてくる。
『熱の瞳』を通常視界へと戻すと見えない誰かが。
再び赤外線視界へと戻すと、寿命の渦こそ見えないままだが、人の形の熱源がわかる。
さすがミュリエルさん。地球人発想の便利魔法。
「くそリテルッ! 卑怯者ッ! ここへッ! 来やがれッ!」
エルーシの叫び声にはもうさっきまでのような力はない。
さっきのぶっ飛ばす矢で恐らく左腕を失っている。出血が酷いはずだ。
俺は再びエルーシの方角を見据える。
姿を消している奴には「まだ気付いていない」風を装いつつ。
そして念のため、偽装消費命で新魔法を発動する――『遠回りドア』。
これはスノドロッフ村の長ベイグルに教えてもらった『遠回りの掟』と同じ思考で作成した魔法。
自分の前面と背面とに二枚の扉をイメージして発動する。
前面は、指定しない場合のみ顔の向きで決まるが、指定も当然可能。
もちろん今回はさっきの人型熱源が居た方向を「前」として指定。
扉とはいってもドアノブなど何もない壁みたいなもので、二枚の外側同士がつながっている。
片方の扉から入ったものは「遠回り」した上で、もう片方へと抜ける。
視線も飛び道具も、全て。
つながっているのは外側同士で、内側から触ると簡単に壊れてしまう。
それに扉のない上下左右の側は無防備だ。まあ、もう一組作れば四方はカバーできるが。
扉を作成したい場所に地面とか他の障害物とかがあれば扉は作れないので、空中に浮いているとかでもない限り、全方向の作成は不可能。
扉のサイズは一畳で、扉と扉の間隔は畳の短い距離。つまり半畳。このあたりの単位は使用時に触れられてしまった場合のセキュリティ対策。
消費魔法代償を控えめにするため、一ディヴしかもたないが、一瞬にして姿が消えるように見える所もポイント。
しかし「遠回り」という概念は、本当に素晴らしい贈り物をもらったなとつくづく思う。
『遠回りドア』を発動してすぐ、何かが飛んできた。
赤い二つの点――今度のは虫ではないようだが。
それは俺が消えた地点めがけてまっすぐに狙って飛んできて、前扉から背面扉へと抜け、その勢いのまま背後の木にぶつかるかと思いきや、そこで止まった。
空中で停止できているのは地味に脅威だ。
その場で向きをこちらへと変え、再び突進してきた。
速度は思ったよりも早くない。飛び道具というよりは人が走るくらいの移動速度。
また通り抜ける。
よく見ると、何かをつまんだ指先のように見える。指の第一関節から先だけの。
ロケットパンチならぬロケットフィンガーみたいな。
それに何かをつまんでいる。
何を、というのはかわからないが、ろくなもんじゃないだろう。
それに見ているだけじゃ拉致があかない。
偽装消費命で『新たなる生』を発動し、自分の幻影を作成する。ただし今回は、寿命の渦がほとんど見えない状態で、だ。
動き始めると偽装の渦が少し解けてしまう奴みたいに見えてくれたら嬉しいが。
幻影をエルーシの方向へ走らせてすぐ、何かをつまんだ二本の指が追いかけていった。
偽装消費命で『見えざる銃』を発動する。
『ぶん殴る』の威力を指先に集めて何らかの弾を指弾として発射する新魔法。
『見えざる弓』だと弓を引くアクションが必要だし、光源がない真の闇の下では弓が出てこないという制約もある。
しかしこちらはコンパクト動作で発射できるから、『遠回りドア』の内側でぶつからずに構えることができるし、深夜の森の中でも使用可能。
何度も戦闘を経験したし、医療棟での有り余る時間が、応用と小回りのきく実用性の高い魔法デザインへとつながった。
小石に『接触発動』で『ぶっ飛ばす』を偽装消費命で付与すると、『遠回りドア』から半身だけ出し、発動した『見えざる銃』でそれを人型熱源へと発射した。
本当は内側から触れれば簡単に壊れる『遠回りドア』越しに発射できれば、かなりの不意打ちになるのだろうけど、接触発動が『遠回りドア』の内側に反応でもしてしまったら大変にもったいないことになってしまうので仕方なく。
このへんは実戦経験の少なさが露呈しちゃって悔しい。
ただ、それなりに不意はつけたようで、人型の腕に命中したっぽい。
人型熱源の左腕が変な方向へ曲がっている。
この機を逃さず追い打ちをと弓を構えかけた俺の前に、突然そいつは姿を現した。
同じタイミングで共同夜営地の方に激しく火の手が上がる。
そこそこ距離はあるものの、深夜とは思えない明るさ。
タールの屋敷の地下での戦いを思い出す。
ということはやはり、定期便一行の中にタールが混ざっていた?
だが俺は姿を現した方から目を離せない。
だって、なんで、こんなところに。
共同夜営地での大きな炎が、少し離れたここで仄かにそいつを照らす。
見間違えなんかじゃない。
チェッシャー?
しかもなんで全裸?
思考が乱れる。
まだまだ俺は紳士じゃない――なんて考えている場合じゃない。
エルーシよりもチェッシャーよりも先に対処しなきゃいけないものを感じた。
今までの森の中には吹いていなかったいやな風。
火の方向から吹いてくる風なんて不自然極まりない。
しかも、その風と共に何かがこちらへ飛んでくる。
虫でもない。指でもない。
俺の記憶が間違っていないのであれば、この寿命の渦はあの河馬種の男の子のように思えてならない。
「見つけたぞッ!」
腕に痛み。
気を取られていた。
人型熱源を攻撃するために『遠回りドア』を一面しか用意しなかったとか、マドハトがエルーシの近くまで到着してエルーシがつるつるし始めていたとか、チェッシャーの登場に動揺したとか、タールの『魔動人形』かもしれない変なのが飛んできたとか、そもそもエルーシを見くびっていたとか、理由はいろいろあるけれど、俺はあれだけ油断しないつもりだったのに、まんまと油断したのだ。
それがこの針。
カッツァリーダの体に直接針を刺して、そのまま飛んできて、俺に体当たりで刺したのだ。
『発火』を発動しなかったところを見ると、もはや消費命を集中するのですら厳しい状態なのかもしれない。
『使い魔契約』も必死に行っているのだろう。
というか、死にに来ている。
こんな虫に『使い魔契約』して、特攻かけてきて。
死なないことを考えて安全策を取っている俺とは覚悟が違う。
即座に針を抜き『カウダの毒消し』を発動したのは言うまでもないのだが、この攻撃を許してしまったこと、そして速やかに魔法を発動しようとした、それらが隙となったのは確かだ。
その隙を見逃さなかった一陣の突風が、俺の手から『虫の牙』を奪った。
『虫の牙』はくるくると風に舞いながら、飛んできた男の子の手の中に――いや、男の子なんかじゃない。
風がめくったのだろうか、マントのフードが外れている。
獣種離れした醜悪な顔、そしてこの風。消費命の集中を感じるから魔法か――それらのキーワードが、ルブルムからもらった知識の中に確かあったはず。
こいつは――。
● 主な登場者
・有主利照/リテル
猿種、十五歳。リテルの体と記憶、利照の自意識と記憶とを持つ。魔術師見習い。
ゴブリン用呪詛と『虫の牙』の呪詛と二つの呪詛に感染。レムールのポーとも契約。傭兵部隊を勇気除隊した。
・ケティ
リテルの幼馴染の女子。猿種、十六歳。黒い瞳に黒髪、肌は日焼けで薄い褐色の美人。胸も大きい。
リテルとは両想い。フォーリーから合流したがリテルたちの足を引っ張りたくないと引き返した。ディナ先輩への荷物を託してある。
・ラビツ
イケメンではないが大人の色気があり強者感を出している鼠種の兎亜種。
高名な傭兵集団「ヴォールパール自警団」に所属する傭兵。二つ名は「胸漁り」。現在は謝罪行脚中。
・マドハト
ゴブリン魔法『取り替え子』の被害者。ゴド村の住人。取り戻した犬種の体は最近は丈夫に。
元の世界で飼っていたコーギーのハッタに似ている。ゴブリン魔法を使える。傭兵部隊を勇気除隊した。
・ルブルム
魔女様の弟子である赤髪の少女。整った顔立ちのクールビューティー。華奢な猿種。
魔法も戦闘もレベルが高く、知的好奇心も旺盛。親しい人を傷つけてしまっていると自分を責めがち。
・アルブム
魔女様の弟子である白髪に銀の瞳の少女。鼠種の兎亜種。
外見はリテルよりも二、三歳若い。知的好奇心が旺盛。
・カエルレウム
寄らずの森の魔女様。深い青のストレートロングの髪が膝くらいまである猿種。
ルブルムとアルブムをホムンクルスとして生み出し、リテルの魔法の師匠となった。
・ディナ
カエルレウムの弟子。ルブルムの先輩にあたる。重度で極度の男嫌い。壮絶な過去がある。
アールヴを母に持ち、猿種を父に持つ。精霊と契約している。トシテルをようやく信用してくれた。
・ディナの母
アールヴという閉鎖的な種族ながら、猿種に恋をしてディナを生んだ。
キカイー白爵の館からディナを逃がすために死んだが、現在はタールに『魔動人形』化されている。
・ウェス
ディナに仕えており、御者の他、幅広く仕事をこなす。肌は浅黒く、ショートカットのお姉さん。蝙蝠種。
魔法を使えないときのためにと麻痺毒の入った金属製の筒をくれた。
・タール
元ギルフォド第一傭兵大隊隊長。『虫の牙』でディナに呪詛の傷を付け、フラマとオストレアの父の仇でもある。
地界出身の魔人。種族はナベリウス。現在は『魔動人形』化したディナの母の中に意識を移している。
・メリアン
ディナ先輩が手配した護衛。ラビツとは傭兵仲間で婚約者。ものすごい筋肉と角と副乳とを持つ牛種の半返りの女傭兵。知識も豊富で頼れる。二つ名は「噛み千切る壁」。現在はギルフォド第一傭兵大隊隊長代理。
・レム
爬虫種。胸が大きい。バータフラ世代の五人目の生き残り。不本意ながら盗賊団に加担していた。
同じく仕方なく加担していたミンを殺したウォルラースを憎んでいる。トシテルの心の妹。現在、ルブルムに同行。
・ウォルラース
キカイーがディナたちに興味を示すよう唆した張本人。過去にディナを拉致しようとした。金のためならば平気で人を殺す。
ダイクの作った盗賊団に一枚噛んだが、逃走。海象種の半返り。
・ナイト
初老の馬種。地球では親の工場で働いていた日本人、喜多山馬吉。
2016年、四十五歳の誕生日にこちらへ転生してきた。今は発明家として過ごしているが、ナイト商会のトップである。
・モクタトル
スキンヘッドの精悍な中年男性魔術師。眉毛は赤い猿種。呪詛解除の呪詛をカエルレウムより託されて来た。
ホムンクルスの材料となる精を提供したため、ルブルムを娘のように大切にしている。
・トリニティ
モクタトルと使い魔契約をしているグリュプス。人なら三人くらい乗せて飛べる。
・ファウン
ルージャグから逃げたクーラ村の子供たちを襲った山羊種三人組といっとき行動を共にしていた山羊種。
リテルを兄貴と呼び、ギルフォドまで追いかけてきた。傭兵部隊を一緒に勇気除隊した深夜、突如として姿を消した。
・プルマ
第一傭兵大隊の万年副長である羊種の女性。全体的にがっしりとした筋肉体型で拳で会話する主義。
美人だが鼻梁には目につく一文字の傷がある。メリアンのファン。
・パリオロム
第一傭兵大隊第一小隊で同じ班の先輩。猫種の先祖返り。
毛並みは真っ白いがアルバスではなく瞳が黒い。気さく。タールの『魔動人形』だった。
・フラマ
おっぱいで有名な娼婦。鳥種の半返り。淡いピンク色の長髪はなめらかにウェーブ。瞳は黒で口元にホクロ。
胸の大きさや美しさが際立つ痴女っぽい服装だが、所作は綺麗。父親が地界出身の魔人。
・オストレア
鳥種の先祖返りで頭は白のメンフクロウ。スタイルはとてもいい。フラマの妹。
父の仇であるタールの部下として傭兵部隊に留まっていた。
・オストレアとフラマの父
地界出身の魔人。種族はアモン。タールと一緒に魔法品の研究をしていたが、タールに殺された。
・エルーシ
ディナが管理する娼婦街の元締め、ロズの弟である羊種。娼館で働くのが嫌で飛び出した。
共に盗賊団に入団した仲間を失い逃走中だった。カッツァリーダとの『使い魔契約』や『発火』などを習得し、夜襲をかけてきた。
・ギルフォド~ニュナム定期便の御者兼護衛
両生種男性がリーブラザス、鹿種女性がメロメン、猿種男性がビグジョン。三人とも練度が高く信頼できそうな感じ。
・ギルフォド~ニュナム定期便の乗客たち
豚種カップルは女性が半返り、河馬種の母子、馬種の老紳士、猫種の痩せた兄妹、牛種の中年男性商人はマイ寝藁じゃないと眠れない。
・河馬種の男の子
ずっとマントのフードを深くかぶっていたので顔が見えなかったが、獣種離れした醜悪な顔に、風を操る魔法。
どうやら只者ではなさげ。カエルレウム師匠の蔵書の中に、その特徴の者が居たっぽい。
・レムール
レムールは単数形で、複数形はレムルースとなる。地界に生息する、肉体を持たず精神だけの種族。
自身の能力を提供することにより肉体を持つ生命体と共生する。『虫の牙』による呪詛傷は、強制召喚されたレムールだった。
・ショゴウキ号
ナイト(キタヤマ)がリテルに貸し出した特別な馬車。「ショゴちゃん」と呼ばれる。現在はルブルムが使用。
板バネのサスペンション、藁クッション付き椅子、つり革、床下隠し収納等々便利機能の他、魔法的機能まで搭載。
・ドラコ
古い表現ではドラコーン。魔術師や王侯貴族に大人気の、いわゆるドラゴン。その卵を現在、リテルが所持。
卵は手のひらよりちょっと大きいくらいで、孵化に必要な魔法代償を与えられるまで、石のような状態を維持する。
・ナベリウス
苦痛を与えたり、未来を見ることができる能力を持つ勇猛な地界の一種族。
鳥種の先祖返りに似た外観で、頭部は烏。種族的にしわがれ声。魔法品の制作も得意。
・アモン
強靭で、限定的な未来を見たり、炎を操ることができるなどの能力を持つ地界の一種族。
鳥種の先祖返りに似た外観だが、蛇のように自在に動かせる尾を持つ。頭部は水鳥や梟、烏に似る。
■ はみ出しコラム【魔物デザイン アモン】
・ゴエティア
レムルースが生息する地界において、レムルースと長らく共生してきたことで、レムルースを視認することができるようになった種族のこと。
知性を持ち、ホルトゥスへ来た際には「魔人」に分類される。
ナベリウスもアモンもこの「ゴエティア」に分類される。
今回は、この「ゴエティア」のうち、アモンについて解説する。
・ホルトゥス、及び地界におけるアモン
強靭で、限定的な未来を見たり、炎を操ることができるなどの能力を持つ地界の一種族。
鳥種の先祖返りに似た外観だが、蛇のように自在に動かせる尾を持つ。頭部は水鳥や梟、烏に似る。
・地球におけるアモン
地獄の侯爵にあたるデーモンの名前。ときに巨大な鳥(梟だとする文献もある)の頭部を備えてあらわれるので、エジプトの神アムンのデーモン化された姿なのかもしれない。(中略)アモンは過去と未来の知識を与え、愛の秘密を教える。ソロモンの霊七二人の一人である。
コラン・ド・プランシーが一八一八年に『地獄辞典』を執筆した頃には、エジプト起源を示す痕跡はすべて失われていた。プランシーは『地獄辞典』の一八六三年版で、このデーモンが狼の体と蛇の尾を備えるとしている。召喚した者が人間の姿であらわれるよう説きふせると、アモンはそのようにするが、口から火を吹く。
(フレッド・ゲティングズ著 大瀧啓祐訳『悪魔の辞典』より)
第七の霊はアモンである。彼は権力のある侯爵で、もっとも厳格な精霊である。蛇の尾を持つ狼の姿であらわれ、口からは炎を吐く。だが魔術師の求めに応じて、鴉の頭に犬のような歯を持つ人間の姿に変わる。あるいは単に鴉の頭を持つ人間になるときもある。過去と未来のあらゆる事を語り、不和を招来したり、友人間の仲たがいを調停したりもする。40の精霊の軍団を率いる。
(編者:アレイスター・クロウリー、訳者:松田アフラ『ゲーティア・ソロモンの小さき鍵』より)
ネーデルラント出身の医師・文筆家であるヨーハン・ヴァイヤーが記した『悪魔の偽王国』、イギリスの地方地主レジナルド・スコット(英語版)が記した『妖術の開示』、およびイギリスに古写本が残存しているグリモワール『ゴエティア』によれば、40個軍団の悪魔を配下に置く序列7番の大いなる侯爵であるとされる。
また、18世紀頃に流通していたグリモワール『大奥義書』によるとサタナキアという悪魔の配下にあるという。
悪魔の君主の中で最も強靭であるとされる。口元から炎を吐き出しヘビの尾を持つ狼の姿で現れるが、魔術師が人間の姿を取ることを命じると、口元から犬の牙を覗かせたワタリガラスまたはゴイサギの頭を持つ男性の姿を採るという。コラン・ド・プランシーの『地獄の辞典』の挿絵ではフクロウの頭と狼の胴と前足、蛇の尾を持つ姿が描かれている。
自分を召喚した者に過去と未来の知識を教え、人同士の不和を招いたり逆に和解させたりできるという。
(Wikipediaより)
・アモンのデザイン
物語の都合上、地界出身の「魔人」は二種出すことは決めていて、まず、味方となる方は当然「アモン」っしょ、ということで決まった。なぜアモンなのかは、原作デビルマンをご存知の方ならば当然わかっていただけると思うし、その元ネタをもとに「女神転生 if…」を遊んだことのある方にもうなずいていただけると思う。
能力的には「火を操る」と「未来を見る」いうのを種族魔法として採用した。
姿は狼にするか梟にするか迷ったのだが、文献の歴史的には梟の方が古そうだったので、また、烏やゴイサギの姿を取るという記述もあったので鳥を採用。
蛇の尻尾は物理的に付けるかどうか迷ったのだが、アモンの固有魔法を『炎の蛇』にすることで良いことにした。作中でリテルはこれを「炎の鞭」と解釈していたが、アモン的には蛇という認識である。
・フラマとオストレアの父
本編ではまだ出てきていないが、彼の名はフドアキラと言う。梟頭。ナベリウスのタールと共同研究をしていたが、タールがあまりにもマッドサイエンティストだったので共同研究を打ち切ろうとした――そのために、タールにより殺害されてしまった。
ちなみにフドアキラは若い頃から何度か地界とホルトゥスとを往復しており、ホルトゥスで鳥種のフラミンゴ半返りな女性ミキマキと出会い、恋に落ちる。姉のフラマは母似で、妹のオストレアは父似。
ミキマキはフドアキラの死にいち早く気付いて二人の娘を逃がし、タールに捕まった。普通の獣種だったので『魔動人形』にはされず、フドアキラを『魔動人形』化する際の触媒として消費された。
フドアキラがまだタールと友好的であった頃は、フラマやオストレアとよく遊んであげていたが、どちらかというと魔人と獣種のハーフが、もとのアモンとどのくらいかけ離れているのかに興味があった感じ。
・「ゴエティア」のデザイン
本来、ゴエティアとは、「かつてソロモンと話をしたことのあるあらゆる精霊の名前、所属、階級を明らかにし、その印形と象徴、召喚の方法を示したものである」『ソロモンの鍵』という書のうち「四つの部分に分かれ」た「第一章の書名は『ゲーティア』であり、悪霊についての書物である。いかにして彼がこれらの悪霊を縛り、さまざまに使役し、名声を得たかを書いている」というものである。
(編者:アレイスター・クロウリー、訳者:松田アフラ『ゲーティア・ソロモンの小さき鍵』より)
だが、ナベリウスやアモンを地界の種族としたことで、悪霊やら魔神やらを呼びたす魔導書という意味合いを持たせるわけにはいかなくなった。そこで、「レムルースを視認することができるようになった種族」の総称という使われ方に落ち着いた。
マドハトが俺を揺さぶる。
俺は「熟睡している」ように偽装の渦していた寿命の渦を「起きた」状態へと変える。
マドハトが俺をテルと呼んだのは、ルブルムたちと合流するまでは傭兵団で使っていた偽名をそのまま使おうってことにしたからだ。
「……どう、したんだ?」
寝ぼけた声でそう尋ねてはいるが、本当は理解している。
このギルフォド一・マンクソム一・ニュナム三の共同夜営地が夜襲を受けたのだと。
襲撃者が一人の羊種であることも――見えている寿命の渦のうえでは、だけど。
そして俺たちが寝ているテントが燃え始めていることも。
火をまとった射撃や投擲道具ではなく、明らかに魔法だった。
それもテントのすぐ近くで発動された――しかしその発動者自体の寿命の渦が今は感知できない。
気付かれないように『魔力微感知』にしていたのを広域確認用の『魔力探知機』へと切り替える。
それも詳細モードで。
羊種以外の、隠れた偽装の渦っぽい痕跡は見つからない。
見つからないといえばファウンもだ。
かなり前に「トイレへ行く」と言って出たっきり。
熟睡したフリをしていたから目を閉じていたが、今見たらファウンの荷物もなくなっている。
となると襲撃者への手引きはファウンが?
羊種の来た方向と、ファウンの消えた方向はまるで違うのだけれど。
「テル様、火が!」
マドハトは自分の荷物を慌てて外へと引っ張り出す。
そうだな。俺も先に荷物を持ってテントの外へ。
こんなこともあろうかと、革ブーツも手斧の鞘がついた革ベルトも装着したまま横になっていたし、『虫の牙』はタールの屋敷で見つけた鞘に入れ、今は俺の腰に装着してある。
その他の荷物と弓や矢筒はすぐに持ち出せるよう準備してあった。
だからこそ、ファウンも自分の荷物をさりげなく持って出れたのだろうけど。
定期便の他の乗客たちのテントも燃えているため、夜とはいえ視界はかなり確保されている。
ということは襲撃者側からも見えているってことだよな。
馬車の幌も燃えていて、何人かが慌てて降りている。
馬車とは離れた場所につないである馬は無事だが興奮していなないている。
定期便利用者は、馬車内の自分の席で座ったまま寝ることが許されている。空いていれば床に寝転がってもいいし、もちろん屋外で寝るのも自由だ。
乗車前に割増料金を払えば、二人用か四人用のテントを貸してもらえる。
四人用テントはメリアンが手配してくれていたのだが、借りたのは俺たちだけ。
二人用のは、馬種の老紳士と、豚種カップル、牛種の中年男性商人、あとは馬の近くに御者兼護衛用のが一つ。
河馬種親子と猫種兄妹は馬車の床で寝ていた。
不寝番に立っていたのは今の時間はメロメンだったが、リーブラザスとビグジョンも既に起きて火のついたテントを回って中の客を外へ出している。
ちなみに、メロメンは鹿種女性、リーブラザスが両生種男性でビグジョンが猿種男性。
ここまでの一日の道中で自分の名前を名乗ったのはこの御者兼護衛の三人と、やたらとおしゃべりな商人クラカジャクスだけ。
こいつはやけに上機嫌で、聞いてもいないのに「寝藁が変わると寝付けない」とか「自分専用の寝藁を持ち歩いているんですよ」とか「麗しい女性であれば半分使わせてあげても良いですよ」とか、やたらとうるさかったな。
寝藁の他にもやたらと小袋を持ち歩いていて、荷物だけでもう一人分の運賃取られてるんじゃないかってほど。
怪し過ぎるこの商人だが、何度もこの定期便を使っているようで、「今回は君たちか」などと護衛たちと顔馴染み感を出していた。
「火矢ではないですっ! おそらくは魔法ですっ! ひとところに留まったり集団で集まったりせず、それぞれ動き回ってください! ただし共同夜営地の柵からはあまり離れないでっ!」
メロメンが、大きな声で周知している。
的確な指示内容――ただし、定期便の客の中に襲撃者と内通している者が居ない前提ならば、だが。
内通者は居る前提で考えておいた方がいい――もっとも今はここに居ないファウンが真っ先に疑われるだろうし、そうなると同じテントを利用していた俺たちだって疑われかねない。
ファウンが居なくなったらなったで嬉しくない状況とはね。
「テル様、何か落ちたです!」
うん。俺も見た。
俺の荷物の隙間から何か落ちたのが。
巻かれた羊皮紙? 手紙か?
「兄貴へ」と書かれている。ファウンの置き手紙か?
くっそ。こんな状況で読んでられるかよ。
その巻き羊皮紙を落とさないよう、鎧の内側の隠し収納へとねじ込んで、俺は弓を構える。
『魔力探知機』で確認できる襲撃者は相変わらず羊種が一人だけ――だが、向こうの姿が見えない以上はタール本人の可能性もある。
タールがディナ先輩のお母さんの『魔動人形』を動かしたとき、その寿命の渦は今まで見たことがないものだった。
あれがナベリウスという種族本来の寿命の渦だったのかな。
爆散するまではずっと単なる鳥種にしか見えない寿命の渦だったから、タールは確実に偽装の渦で他獣種の寿命の渦を真似られるはず。
まあ、あれだけ魔法を使いまくるタールが偽装の渦くらいできないわけもないか。
だとしたら、詳細モードの『魔力探知機』でも見つけられないほどうまく隠れる術を持っているかもしれないよな。
もしも襲撃者の羊種がタールだとしたら、この共同夜営地に二人しかいない猿種から、俺の特定ができているはずだ。
もう一人の猿種であるビグジョンの方は、護衛専用テントを利用しているし。
ということは、位置指定の『魔法転移』をピンポイントで使ってくる可能性もあるか。
メロメンの言う通り、こまめに位置を変えながらマドハトと一緒に周囲を確認して回る。
こんな状況でもフードをかぶっている女性をどうしても怪しいと感じてしまう。
猫種兄妹と豚種カップルはマントを羽織っているだけで顔は見えている。
その表情も寿命の渦にも不安が現れている。
河馬種親子はまだ二人ともマントのフードを深くかぶっているが、そのかぶり方が「怖くて布団を頭からかぶっている」風だからなぁ。
寿命の渦にも恐怖が現れているし。
そのとき、こちらへ直進する寿命の渦を感じた。
ごくごく小さく偽装しているが飛行して――そちらを見るが目視でとらえられるものは――虫?
移動するとその虫も進路をゆっくりとこちらへと変える。
追尾されているのか?
今思えば火が発生する直前、消費命の集中を感じたのはこんな小さな寿命の渦からだった。
まるでそこで『発火』を使いでもしたかのような。
虫が?
遠隔で操作している?
レムの『同胞の絆』の例だってある。あり得ない話じゃない。
念のためビグジョンに接近して俺と虫との間に挟んでみる――が、ついてくるのは俺に、だ。
そりゃまあ、自動で猿種を狙えるなら、テントの中に居た時点で襲ってきているはず。
ということは、視認してついてきているのか?
「俺は夜目がきく! 弓も剣もあるので襲撃者へ向かう!」
ビグジョンにそう伝えると、俺は共同夜営地の柵の外側へと出た。
マドハトもついてくる。
もしも襲撃者が俺狙いなら俺が離れた方が一般人に迷惑がかからない。
それにあの定期便一行に内通者が紛れ込んでいるのであれば、挟撃しやすいこの状況をお膳立てしてやれば炙り出せる可能性も少なくないだろう。
森の中へと踏み込み、襲撃者から射線が通らないように近づいてゆく。
例の虫もついてくる。うざいな。
ここいらでいったん潰しておくか。
『虫の牙』を抜き、立木の細めのやつから適当に葉の生い茂っている枝を数本切り落とす。
それを手に取り、ハエたたきのようにその虫へ叩きつけた。
インパクトの瞬間、虫から消費命の集中を感じる。
しかもけっこう大きい――が、その集中は失敗する。
なんというか、ぎこちない集中だった。
大きな消費命の集中に慣れてなくて、という感じ。
魔法を使い慣れていないという印象も受けた。
とはいえ地面に叩き落された虫はすかさず『虫の牙』で貫く。
すぐにその虫の小さな寿命の渦が潰える。
「テル様、カッツァリーダです!」
「ハト、まだ近づくな」
虫が死んだ後に発動する魔法とか付与されている可能性も考慮に入れて。
マドハトはすぐに下がる。
幸い、その手の魔法は発動しなかったが――ただ、あの消費命の集中は、やっぱり術者があの虫そのものだったように感じた。
一つの可能性が頭に浮かぶが、それが正解だとしたら狂気の沙汰だ。
「ハト、念のためおまじないをかけるぞ」
「はいです!」
昨晩、たっぷり休息させてもらっている間に作ってみた新魔法を俺とマドハトの鎧へ付与する。
医療棟で実際に効果を確認するところまでするのはちょっと難しかったから、十分に試せてはいないが、まあ本当におまじないって感じで。
そんな準備をしている間にもさらに次の虫が飛んでくる。
寿命の渦からしても恐らく同種の――カッツァリーダ、つまりゴキブリだ。
ホルトゥスにおいては、現代日本に比べてカッツァリーダはさほど嫌悪感は持たれていない。
だが、「手洗い」という衛生観念が一般に広まっているように、寝室や厨房にネズミやカッツァリーダに出現するのは手洗いを全くしないのと同じ、といった衛生観念もそこそこ広がっている。
「見かけたら追い払う」程度の意識な人が少なくないし、リテルだってカッツァリーダに特に苦手意識なんか持っていなかった。
だが、俺は「かなり嫌だ」派。
ピンポイントで俺に効く――いやいや、こういうときこそ紳士たれ。
落ち着いて、さっさと原因を排除すればいいだけだ。
そう。カッツァリーダ飛ばしてくる術者を。
かなり罠っぽくはあるが。
それでも放っておけばガンガン火付けしてくる奴を無視するわけにもいかないだろう。
魔法を使い慣れてなさげな術者は囮臭がプンプンするのだが、これ以上燃えると一般人が死にかねない。
「襲撃者は向こうか?」
その声は定期便護衛のビグジョン。
彼が内通者でないとしたら、視認しづらい戦場に猿種が一緒に来てくれるのは良い撹乱になる。
「三手に分かれて進もう。俺は右から行く」
試しに作戦を振ってみる。
「いいだろう。一番危険な中央は俺が行こう」
「僕は左から行くです!」
マドハトもこういうときに分かれて行動できるくらいには頼もしくなった。
あとはビグジョンが敵じゃなければいいと本当に思う。
定期便の護衛というのは、次の街までの移動距離が長い土地ほど練度が高いとメリアンが言っていたっけ。
ビグジョンもメロメンも、もう一人のリーブラザスもそうだが、ここまで一日の行程を見ていた限りでは、こういうときに任せても大丈夫そうな安心感や職業人としての誇りは感じていた。
それでも名無し森砦では王国直轄の砦兵が一集団まるっと野盗の仲間だったから、油断は絶対にしないが。
さっきの虫がようやく近くまで来た。
三つのどこへ行くのかと思えば、まっすぐビグジョンの方へ――だが、素通りして木の幹へと貼りついた。
わずかな間の後、右へ――向こうから見ての右、つまりマドハトの方へと再び滑空する。
カッツァリーダは、翅を持つ虫だが自在に空を飛ぶというわけではない。
羽ばたいたところで基本は滑空だし、ホバリングとか、急な方向転換とかもできない。
だからいったん木の幹か。そして対象は視認している――あれ? 視力があんまり強くないのは地球のゴキだけか?
いやでもゴーレムみたいに「目」があればそこから視力を持つことができるって解釈がある魔法もある。
なんにせよ可能性はできるだけ多く用意しなくては。
ここで俺は『新たなる生』で猿種の寿命の渦付きの俺の幻影を作り出す。
もちろん、自身の寿命の渦は偽装の渦で消し込んで。
そして幻影を、羊種の居る方向へと向かわせる。
木の陰からもっと近い木の陰へ。
いったん幻影を動かして木の陰へ待機させている間に本体の俺も近づく。
ただし幻影よりも更に外側を。
この時間差移動でだいぶ距離を詰めた頃、例のカッツァリーダがこっちへ戻ってきた。
移動速度や手段を考えると、本当に単なる虫っぽい?
そして奴は俺の幻影にまっしぐらに飛び、そこで大きな『発火』っぽい炎を出して散った。
「やった!」
深夜の森に声が響く。
素人だ。
魔法の使い方も、戦いにおいても。
そして聞き覚えのある声だった。
エルーシだ。
フォーリーでいちゃもんつけてきて投獄されて逆恨みしてきて、その後ウォルラース配下の野盗に参加して襲ってきて、返り討ちにして縛り上げておいたら恐らく野盗連中に逃されて、そしてついにここまで追いかけてきたってことか?
魔法はここへ来るまでに誰かに手ほどきを受けた、ということなら、この熟練度ってのは理屈が通る。
マジか。
俺は戦慄する。
こいつがここに居るってことは、ウォルラースまでここに居る可能性があるってことじゃないか?
そもそもウォルラースとタールは、モトレージ白爵領で顔見知りなのだ。
逃げたタールと逃亡中のウォルラースが合流する可能性だってゼロじゃないだろ。
あんまり悠長に様子を見ているわけにはいかなくなった。
即座に『熱の瞳』を自身にかけ、矢に『ぶっ飛ばす』を『接触発動』してから弓を引き絞る。もちろん全部偽装消費命で。
声の方向、木の隙間から見える人型の熱源へと射掛けた。
一人ずつ減らしてゆくしかない。
だが距離のせいか、寿命の渦の様子を見るに仕留め損なったようだ。
まだ生きている。
もう少し近くへ――すぐに移動を開始した直後、小さな呻きが聞こえた。
方向はビグジョンが居た辺り。
遠隔攻撃か、さもなくばもうそんな近くに?
『魔力探知機』を『魔力感知』へと切り替える。広域を線でじゃなく付近を面で感知するために。
ビグジョンの寿命の渦を見る限り、死んだわけじゃないっぽいな。
無力化――この寿命の渦の挙動、カウダ毒か?
それならもう確定じゃないか。
居るかもしれないタールに、ウォルラース?
俺とマドハトだけじゃ荷が重い。
ああせめてメリアンが居てくれれば――んなこと言っていられる状況じゃない。
なんだったらマドハトと一緒に逃げるという手だってある。
「くそリテルッ!」
エルーシの声がさっきより近い。
そしてまた小さい虫が飛んでくる。
面で観察していたから、虫が飛び立つ前、エルーシが消費命を集中したのがわかった。
そして予想した魔法の魔法代償と同じ量。
あいつ、恐らくだがカッツァリーダと『使い魔契約』をしてやがる。
『使い魔契約』なら、五感や寿命の渦を共有できる――つまり、使い魔を起点に魔法を唱えることが可能になる。
しかも本来ならばよほどの信頼関係が成り立たないとできない『使い魔契約』だが、相手が知性を持たない昆虫などの場合、強制的な契約が可能になる、というのは聞いている。
ただ、いったん契約すると、どちらかの寿命がなくなるまでその契約が続くこと、そして使い魔の死が契約者への大きなダメージとなることなどから、寿命が短い昆虫などとの契約は現実的ではないのに。
飛んできたカッツァリーダは赤く熱源として見える。
小さいが、小回りが効かない動き。
また適当な枝を切り落とし、ハエたたきのように叩き落とす。
今度は地面に叩きつけられる前に巨大な『発火』が発動したが、燃えたのは枝の先だけ。
エルーシには悪いが使い魔はならば一体ずつしか飛んでこないし、対処は困難ではない。
それよりもカウダ毒を持った別の見えざる敵の方が――ああ、近づいてくる。
『熱の瞳』を通常視界へと戻すと見えない誰かが。
再び赤外線視界へと戻すと、寿命の渦こそ見えないままだが、人の形の熱源がわかる。
さすがミュリエルさん。地球人発想の便利魔法。
「くそリテルッ! 卑怯者ッ! ここへッ! 来やがれッ!」
エルーシの叫び声にはもうさっきまでのような力はない。
さっきのぶっ飛ばす矢で恐らく左腕を失っている。出血が酷いはずだ。
俺は再びエルーシの方角を見据える。
姿を消している奴には「まだ気付いていない」風を装いつつ。
そして念のため、偽装消費命で新魔法を発動する――『遠回りドア』。
これはスノドロッフ村の長ベイグルに教えてもらった『遠回りの掟』と同じ思考で作成した魔法。
自分の前面と背面とに二枚の扉をイメージして発動する。
前面は、指定しない場合のみ顔の向きで決まるが、指定も当然可能。
もちろん今回はさっきの人型熱源が居た方向を「前」として指定。
扉とはいってもドアノブなど何もない壁みたいなもので、二枚の外側同士がつながっている。
片方の扉から入ったものは「遠回り」した上で、もう片方へと抜ける。
視線も飛び道具も、全て。
つながっているのは外側同士で、内側から触ると簡単に壊れてしまう。
それに扉のない上下左右の側は無防備だ。まあ、もう一組作れば四方はカバーできるが。
扉を作成したい場所に地面とか他の障害物とかがあれば扉は作れないので、空中に浮いているとかでもない限り、全方向の作成は不可能。
扉のサイズは一畳で、扉と扉の間隔は畳の短い距離。つまり半畳。このあたりの単位は使用時に触れられてしまった場合のセキュリティ対策。
消費魔法代償を控えめにするため、一ディヴしかもたないが、一瞬にして姿が消えるように見える所もポイント。
しかし「遠回り」という概念は、本当に素晴らしい贈り物をもらったなとつくづく思う。
『遠回りドア』を発動してすぐ、何かが飛んできた。
赤い二つの点――今度のは虫ではないようだが。
それは俺が消えた地点めがけてまっすぐに狙って飛んできて、前扉から背面扉へと抜け、その勢いのまま背後の木にぶつかるかと思いきや、そこで止まった。
空中で停止できているのは地味に脅威だ。
その場で向きをこちらへと変え、再び突進してきた。
速度は思ったよりも早くない。飛び道具というよりは人が走るくらいの移動速度。
また通り抜ける。
よく見ると、何かをつまんだ指先のように見える。指の第一関節から先だけの。
ロケットパンチならぬロケットフィンガーみたいな。
それに何かをつまんでいる。
何を、というのはかわからないが、ろくなもんじゃないだろう。
それに見ているだけじゃ拉致があかない。
偽装消費命で『新たなる生』を発動し、自分の幻影を作成する。ただし今回は、寿命の渦がほとんど見えない状態で、だ。
動き始めると偽装の渦が少し解けてしまう奴みたいに見えてくれたら嬉しいが。
幻影をエルーシの方向へ走らせてすぐ、何かをつまんだ二本の指が追いかけていった。
偽装消費命で『見えざる銃』を発動する。
『ぶん殴る』の威力を指先に集めて何らかの弾を指弾として発射する新魔法。
『見えざる弓』だと弓を引くアクションが必要だし、光源がない真の闇の下では弓が出てこないという制約もある。
しかしこちらはコンパクト動作で発射できるから、『遠回りドア』の内側でぶつからずに構えることができるし、深夜の森の中でも使用可能。
何度も戦闘を経験したし、医療棟での有り余る時間が、応用と小回りのきく実用性の高い魔法デザインへとつながった。
小石に『接触発動』で『ぶっ飛ばす』を偽装消費命で付与すると、『遠回りドア』から半身だけ出し、発動した『見えざる銃』でそれを人型熱源へと発射した。
本当は内側から触れれば簡単に壊れる『遠回りドア』越しに発射できれば、かなりの不意打ちになるのだろうけど、接触発動が『遠回りドア』の内側に反応でもしてしまったら大変にもったいないことになってしまうので仕方なく。
このへんは実戦経験の少なさが露呈しちゃって悔しい。
ただ、それなりに不意はつけたようで、人型の腕に命中したっぽい。
人型熱源の左腕が変な方向へ曲がっている。
この機を逃さず追い打ちをと弓を構えかけた俺の前に、突然そいつは姿を現した。
同じタイミングで共同夜営地の方に激しく火の手が上がる。
そこそこ距離はあるものの、深夜とは思えない明るさ。
タールの屋敷の地下での戦いを思い出す。
ということはやはり、定期便一行の中にタールが混ざっていた?
だが俺は姿を現した方から目を離せない。
だって、なんで、こんなところに。
共同夜営地での大きな炎が、少し離れたここで仄かにそいつを照らす。
見間違えなんかじゃない。
チェッシャー?
しかもなんで全裸?
思考が乱れる。
まだまだ俺は紳士じゃない――なんて考えている場合じゃない。
エルーシよりもチェッシャーよりも先に対処しなきゃいけないものを感じた。
今までの森の中には吹いていなかったいやな風。
火の方向から吹いてくる風なんて不自然極まりない。
しかも、その風と共に何かがこちらへ飛んでくる。
虫でもない。指でもない。
俺の記憶が間違っていないのであれば、この寿命の渦はあの河馬種の男の子のように思えてならない。
「見つけたぞッ!」
腕に痛み。
気を取られていた。
人型熱源を攻撃するために『遠回りドア』を一面しか用意しなかったとか、マドハトがエルーシの近くまで到着してエルーシがつるつるし始めていたとか、チェッシャーの登場に動揺したとか、タールの『魔動人形』かもしれない変なのが飛んできたとか、そもそもエルーシを見くびっていたとか、理由はいろいろあるけれど、俺はあれだけ油断しないつもりだったのに、まんまと油断したのだ。
それがこの針。
カッツァリーダの体に直接針を刺して、そのまま飛んできて、俺に体当たりで刺したのだ。
『発火』を発動しなかったところを見ると、もはや消費命を集中するのですら厳しい状態なのかもしれない。
『使い魔契約』も必死に行っているのだろう。
というか、死にに来ている。
こんな虫に『使い魔契約』して、特攻かけてきて。
死なないことを考えて安全策を取っている俺とは覚悟が違う。
即座に針を抜き『カウダの毒消し』を発動したのは言うまでもないのだが、この攻撃を許してしまったこと、そして速やかに魔法を発動しようとした、それらが隙となったのは確かだ。
その隙を見逃さなかった一陣の突風が、俺の手から『虫の牙』を奪った。
『虫の牙』はくるくると風に舞いながら、飛んできた男の子の手の中に――いや、男の子なんかじゃない。
風がめくったのだろうか、マントのフードが外れている。
獣種離れした醜悪な顔、そしてこの風。消費命の集中を感じるから魔法か――それらのキーワードが、ルブルムからもらった知識の中に確かあったはず。
こいつは――。
● 主な登場者
・有主利照/リテル
猿種、十五歳。リテルの体と記憶、利照の自意識と記憶とを持つ。魔術師見習い。
ゴブリン用呪詛と『虫の牙』の呪詛と二つの呪詛に感染。レムールのポーとも契約。傭兵部隊を勇気除隊した。
・ケティ
リテルの幼馴染の女子。猿種、十六歳。黒い瞳に黒髪、肌は日焼けで薄い褐色の美人。胸も大きい。
リテルとは両想い。フォーリーから合流したがリテルたちの足を引っ張りたくないと引き返した。ディナ先輩への荷物を託してある。
・ラビツ
イケメンではないが大人の色気があり強者感を出している鼠種の兎亜種。
高名な傭兵集団「ヴォールパール自警団」に所属する傭兵。二つ名は「胸漁り」。現在は謝罪行脚中。
・マドハト
ゴブリン魔法『取り替え子』の被害者。ゴド村の住人。取り戻した犬種の体は最近は丈夫に。
元の世界で飼っていたコーギーのハッタに似ている。ゴブリン魔法を使える。傭兵部隊を勇気除隊した。
・ルブルム
魔女様の弟子である赤髪の少女。整った顔立ちのクールビューティー。華奢な猿種。
魔法も戦闘もレベルが高く、知的好奇心も旺盛。親しい人を傷つけてしまっていると自分を責めがち。
・アルブム
魔女様の弟子である白髪に銀の瞳の少女。鼠種の兎亜種。
外見はリテルよりも二、三歳若い。知的好奇心が旺盛。
・カエルレウム
寄らずの森の魔女様。深い青のストレートロングの髪が膝くらいまである猿種。
ルブルムとアルブムをホムンクルスとして生み出し、リテルの魔法の師匠となった。
・ディナ
カエルレウムの弟子。ルブルムの先輩にあたる。重度で極度の男嫌い。壮絶な過去がある。
アールヴを母に持ち、猿種を父に持つ。精霊と契約している。トシテルをようやく信用してくれた。
・ディナの母
アールヴという閉鎖的な種族ながら、猿種に恋をしてディナを生んだ。
キカイー白爵の館からディナを逃がすために死んだが、現在はタールに『魔動人形』化されている。
・ウェス
ディナに仕えており、御者の他、幅広く仕事をこなす。肌は浅黒く、ショートカットのお姉さん。蝙蝠種。
魔法を使えないときのためにと麻痺毒の入った金属製の筒をくれた。
・タール
元ギルフォド第一傭兵大隊隊長。『虫の牙』でディナに呪詛の傷を付け、フラマとオストレアの父の仇でもある。
地界出身の魔人。種族はナベリウス。現在は『魔動人形』化したディナの母の中に意識を移している。
・メリアン
ディナ先輩が手配した護衛。ラビツとは傭兵仲間で婚約者。ものすごい筋肉と角と副乳とを持つ牛種の半返りの女傭兵。知識も豊富で頼れる。二つ名は「噛み千切る壁」。現在はギルフォド第一傭兵大隊隊長代理。
・レム
爬虫種。胸が大きい。バータフラ世代の五人目の生き残り。不本意ながら盗賊団に加担していた。
同じく仕方なく加担していたミンを殺したウォルラースを憎んでいる。トシテルの心の妹。現在、ルブルムに同行。
・ウォルラース
キカイーがディナたちに興味を示すよう唆した張本人。過去にディナを拉致しようとした。金のためならば平気で人を殺す。
ダイクの作った盗賊団に一枚噛んだが、逃走。海象種の半返り。
・ナイト
初老の馬種。地球では親の工場で働いていた日本人、喜多山馬吉。
2016年、四十五歳の誕生日にこちらへ転生してきた。今は発明家として過ごしているが、ナイト商会のトップである。
・モクタトル
スキンヘッドの精悍な中年男性魔術師。眉毛は赤い猿種。呪詛解除の呪詛をカエルレウムより託されて来た。
ホムンクルスの材料となる精を提供したため、ルブルムを娘のように大切にしている。
・トリニティ
モクタトルと使い魔契約をしているグリュプス。人なら三人くらい乗せて飛べる。
・ファウン
ルージャグから逃げたクーラ村の子供たちを襲った山羊種三人組といっとき行動を共にしていた山羊種。
リテルを兄貴と呼び、ギルフォドまで追いかけてきた。傭兵部隊を一緒に勇気除隊した深夜、突如として姿を消した。
・プルマ
第一傭兵大隊の万年副長である羊種の女性。全体的にがっしりとした筋肉体型で拳で会話する主義。
美人だが鼻梁には目につく一文字の傷がある。メリアンのファン。
・パリオロム
第一傭兵大隊第一小隊で同じ班の先輩。猫種の先祖返り。
毛並みは真っ白いがアルバスではなく瞳が黒い。気さく。タールの『魔動人形』だった。
・フラマ
おっぱいで有名な娼婦。鳥種の半返り。淡いピンク色の長髪はなめらかにウェーブ。瞳は黒で口元にホクロ。
胸の大きさや美しさが際立つ痴女っぽい服装だが、所作は綺麗。父親が地界出身の魔人。
・オストレア
鳥種の先祖返りで頭は白のメンフクロウ。スタイルはとてもいい。フラマの妹。
父の仇であるタールの部下として傭兵部隊に留まっていた。
・オストレアとフラマの父
地界出身の魔人。種族はアモン。タールと一緒に魔法品の研究をしていたが、タールに殺された。
・エルーシ
ディナが管理する娼婦街の元締め、ロズの弟である羊種。娼館で働くのが嫌で飛び出した。
共に盗賊団に入団した仲間を失い逃走中だった。カッツァリーダとの『使い魔契約』や『発火』などを習得し、夜襲をかけてきた。
・ギルフォド~ニュナム定期便の御者兼護衛
両生種男性がリーブラザス、鹿種女性がメロメン、猿種男性がビグジョン。三人とも練度が高く信頼できそうな感じ。
・ギルフォド~ニュナム定期便の乗客たち
豚種カップルは女性が半返り、河馬種の母子、馬種の老紳士、猫種の痩せた兄妹、牛種の中年男性商人はマイ寝藁じゃないと眠れない。
・河馬種の男の子
ずっとマントのフードを深くかぶっていたので顔が見えなかったが、獣種離れした醜悪な顔に、風を操る魔法。
どうやら只者ではなさげ。カエルレウム師匠の蔵書の中に、その特徴の者が居たっぽい。
・レムール
レムールは単数形で、複数形はレムルースとなる。地界に生息する、肉体を持たず精神だけの種族。
自身の能力を提供することにより肉体を持つ生命体と共生する。『虫の牙』による呪詛傷は、強制召喚されたレムールだった。
・ショゴウキ号
ナイト(キタヤマ)がリテルに貸し出した特別な馬車。「ショゴちゃん」と呼ばれる。現在はルブルムが使用。
板バネのサスペンション、藁クッション付き椅子、つり革、床下隠し収納等々便利機能の他、魔法的機能まで搭載。
・ドラコ
古い表現ではドラコーン。魔術師や王侯貴族に大人気の、いわゆるドラゴン。その卵を現在、リテルが所持。
卵は手のひらよりちょっと大きいくらいで、孵化に必要な魔法代償を与えられるまで、石のような状態を維持する。
・ナベリウス
苦痛を与えたり、未来を見ることができる能力を持つ勇猛な地界の一種族。
鳥種の先祖返りに似た外観で、頭部は烏。種族的にしわがれ声。魔法品の制作も得意。
・アモン
強靭で、限定的な未来を見たり、炎を操ることができるなどの能力を持つ地界の一種族。
鳥種の先祖返りに似た外観だが、蛇のように自在に動かせる尾を持つ。頭部は水鳥や梟、烏に似る。
■ はみ出しコラム【魔物デザイン アモン】
・ゴエティア
レムルースが生息する地界において、レムルースと長らく共生してきたことで、レムルースを視認することができるようになった種族のこと。
知性を持ち、ホルトゥスへ来た際には「魔人」に分類される。
ナベリウスもアモンもこの「ゴエティア」に分類される。
今回は、この「ゴエティア」のうち、アモンについて解説する。
・ホルトゥス、及び地界におけるアモン
強靭で、限定的な未来を見たり、炎を操ることができるなどの能力を持つ地界の一種族。
鳥種の先祖返りに似た外観だが、蛇のように自在に動かせる尾を持つ。頭部は水鳥や梟、烏に似る。
・地球におけるアモン
地獄の侯爵にあたるデーモンの名前。ときに巨大な鳥(梟だとする文献もある)の頭部を備えてあらわれるので、エジプトの神アムンのデーモン化された姿なのかもしれない。(中略)アモンは過去と未来の知識を与え、愛の秘密を教える。ソロモンの霊七二人の一人である。
コラン・ド・プランシーが一八一八年に『地獄辞典』を執筆した頃には、エジプト起源を示す痕跡はすべて失われていた。プランシーは『地獄辞典』の一八六三年版で、このデーモンが狼の体と蛇の尾を備えるとしている。召喚した者が人間の姿であらわれるよう説きふせると、アモンはそのようにするが、口から火を吹く。
(フレッド・ゲティングズ著 大瀧啓祐訳『悪魔の辞典』より)
第七の霊はアモンである。彼は権力のある侯爵で、もっとも厳格な精霊である。蛇の尾を持つ狼の姿であらわれ、口からは炎を吐く。だが魔術師の求めに応じて、鴉の頭に犬のような歯を持つ人間の姿に変わる。あるいは単に鴉の頭を持つ人間になるときもある。過去と未来のあらゆる事を語り、不和を招来したり、友人間の仲たがいを調停したりもする。40の精霊の軍団を率いる。
(編者:アレイスター・クロウリー、訳者:松田アフラ『ゲーティア・ソロモンの小さき鍵』より)
ネーデルラント出身の医師・文筆家であるヨーハン・ヴァイヤーが記した『悪魔の偽王国』、イギリスの地方地主レジナルド・スコット(英語版)が記した『妖術の開示』、およびイギリスに古写本が残存しているグリモワール『ゴエティア』によれば、40個軍団の悪魔を配下に置く序列7番の大いなる侯爵であるとされる。
また、18世紀頃に流通していたグリモワール『大奥義書』によるとサタナキアという悪魔の配下にあるという。
悪魔の君主の中で最も強靭であるとされる。口元から炎を吐き出しヘビの尾を持つ狼の姿で現れるが、魔術師が人間の姿を取ることを命じると、口元から犬の牙を覗かせたワタリガラスまたはゴイサギの頭を持つ男性の姿を採るという。コラン・ド・プランシーの『地獄の辞典』の挿絵ではフクロウの頭と狼の胴と前足、蛇の尾を持つ姿が描かれている。
自分を召喚した者に過去と未来の知識を教え、人同士の不和を招いたり逆に和解させたりできるという。
(Wikipediaより)
・アモンのデザイン
物語の都合上、地界出身の「魔人」は二種出すことは決めていて、まず、味方となる方は当然「アモン」っしょ、ということで決まった。なぜアモンなのかは、原作デビルマンをご存知の方ならば当然わかっていただけると思うし、その元ネタをもとに「女神転生 if…」を遊んだことのある方にもうなずいていただけると思う。
能力的には「火を操る」と「未来を見る」いうのを種族魔法として採用した。
姿は狼にするか梟にするか迷ったのだが、文献の歴史的には梟の方が古そうだったので、また、烏やゴイサギの姿を取るという記述もあったので鳥を採用。
蛇の尻尾は物理的に付けるかどうか迷ったのだが、アモンの固有魔法を『炎の蛇』にすることで良いことにした。作中でリテルはこれを「炎の鞭」と解釈していたが、アモン的には蛇という認識である。
・フラマとオストレアの父
本編ではまだ出てきていないが、彼の名はフドアキラと言う。梟頭。ナベリウスのタールと共同研究をしていたが、タールがあまりにもマッドサイエンティストだったので共同研究を打ち切ろうとした――そのために、タールにより殺害されてしまった。
ちなみにフドアキラは若い頃から何度か地界とホルトゥスとを往復しており、ホルトゥスで鳥種のフラミンゴ半返りな女性ミキマキと出会い、恋に落ちる。姉のフラマは母似で、妹のオストレアは父似。
ミキマキはフドアキラの死にいち早く気付いて二人の娘を逃がし、タールに捕まった。普通の獣種だったので『魔動人形』にはされず、フドアキラを『魔動人形』化する際の触媒として消費された。
フドアキラがまだタールと友好的であった頃は、フラマやオストレアとよく遊んであげていたが、どちらかというと魔人と獣種のハーフが、もとのアモンとどのくらいかけ離れているのかに興味があった感じ。
・「ゴエティア」のデザイン
本来、ゴエティアとは、「かつてソロモンと話をしたことのあるあらゆる精霊の名前、所属、階級を明らかにし、その印形と象徴、召喚の方法を示したものである」『ソロモンの鍵』という書のうち「四つの部分に分かれ」た「第一章の書名は『ゲーティア』であり、悪霊についての書物である。いかにして彼がこれらの悪霊を縛り、さまざまに使役し、名声を得たかを書いている」というものである。
(編者:アレイスター・クロウリー、訳者:松田アフラ『ゲーティア・ソロモンの小さき鍵』より)
だが、ナベリウスやアモンを地界の種族としたことで、悪霊やら魔神やらを呼びたす魔導書という意味合いを持たせるわけにはいかなくなった。そこで、「レムルースを視認することができるようになった種族」の総称という使われ方に落ち着いた。
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