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#90 思考の夜
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オストレアの治療を終えたあと、『虫の牙』を杖代わりにして階段を上る。
自分の右足首の火傷はここでも後回しだ。
メリアンが布を巻いておけと言うからには何か理由があるのだろう。
それに火傷の治療は単純に時間がかかる。
『生命回復』みたいに傷を塞げばそれで済むってわけにはいかない。
炭化した細胞はもう治らないから、いったん切除しないといけないし、その作業を終えてからの再生自体も単純に時間がかかるから。
「ボクがタールに気づいていたように、タールもボクに気づいていたのだろうな。幼い頃に遊んでもらったこともある」
「幼い頃……ということは、見逃してくれていた?」
「わからない。タールが楽しめるほどの強さをボクが持っていなかっただけかもしれないし」
強さとか戦いに興奮するタイプっぽいタール。
絶叫系コースター好きとか、辛いもの好きとか、ホラー好きとかと同様にそれで脳内麻薬を分泌して楽しんでいるのだろうけど、他人を巻き込もうとする辺り厄介以外の何者でもない。
「あー……でも最後には自分で与えた強さを解除していたよ、タール。俺に新たに与えた『虫の牙』の呪詛傷を。そういう意味じゃ、自分に負けてるだろあいつ。あいつは強かったわけじゃなく、自分がちょうど気持ち良く勝てる相手を探してただけだろう。そういう意味では格好悪いことこの上ない。まあ、三対一で戦ってようやく勝てた俺たちが言えることじゃないかもしれないけれど」
「ははっ。そうだな。ケルベロスと異名を持つナベリウスだ。三対一でも卑怯ではないさ」
オストレアが急に俺の手のひらをつかんだ。
「ありがとう、テル。一歩前へ進めたのはテルのおかげだ」
「何言ってるんだよ。それはお互い様だよ」
オストレアと見つめ合う。
階段を上ろうとしないのは、まだ何か伝えたいことがあるのだろうか。
しかし黙ったまま。
俺から何か話題を振ってみようか。
「タールのやつ、他に何体くらい『魔動人形』を持っていると思う?」
ディナ先輩のお母さんの姿で逃げていることは、ディナ先輩に伝えないといけない。
それに向こうは俺の存在を認識した上で逃げていることも看過できない。
別の『魔動人形』で俺やリテルの周辺に近づいてこられたら、対処しきれる自信はない。
「まず、タール本体が『限られた未来』を使って最大でメリアンと私、そしてテルの攻撃を防いでいた、ということは、ナベリウスの並列思考を少なくとも三つは保持していたことになる。一般的なナベリウスならば並列思考はケルベロスという異名の通り三つがほとんどだ。四つは稀で、五つというのは伝説だ。だが私はタールは五つの並列思考ができていたと考えている」
「四つめの並列思考がパリオロム?」
「ああ。ナベリウスは、寿命の渦に思考を分けることができるから。だが何かあったときの予備の『魔動人形』を確保していたあのタールが、一箇所に自分の思考を集めているとは考えにくい。だとしたら本体に三つ、そしてパリオロム、それ以外にももう一つ思考を分けていた可能性は十分にある」
「その話だと、パリオロム用の予備『魔動人形』もあった可能性があるってことか」
「そうだ。逃げた『魔動人形』、パリオロムの予備、そして元々分けていた『魔動人形』。少なくとも三体は確実に居ると考えたほうが良いだろう」
「記憶を渡せるのは触れてから、なんだよね?」
「『遠話』ではごくごくほんの一部の記憶しか渡せない、というのは父の研究結果資料にあった。まあ、当時は、という話として聞いておいてくれ」
安全策を取って逃がしてしまったタールだが、オストレアを助けられたことで得られた情報の方が貴重だったように思える――そう思いたいだけ、かもだけど。
「パリオロムを倒したことで、パリオロムに宿っていた寿命の渦は消えたけど、そうなるとタール本体の思考は回復するのか?」
「分けた思考が切り離された先で潰えた場合、思考を乗せた寿命の渦が崩れればそこで消える。タールが最後に自分の肉体を四散させたあの魔法だが、魔法を操っていた本体に思考を一つは残さざるを得ないから、恐らくあのアールヴに移せた思考は二つってとこだろう」
「となるとパリオロムの予備と二体での行動が可能ということか」
「だが、それらの『魔動人形』は『限られた未来』を使いこなせないだろう。もはやナベリウスとしての強みはない」
だとしても、その『魔動人形』がわからなければ、相手に簡単に近づかれてしまうし、奇襲を許してしまいかねない。
「それに『魔動人形』は作成にかかる費用ばかりか、未活動状態の維持が大変なんだ。思考が宿っていない『魔動人形』は定期的に魔法をかけておかないと筋肉や関節が固くなり動けなくなる。さっき言っていた記憶を得るためだけの『魔動人形』化などは、一度移って記憶を得た後は一切、維持せずに捨てていた。再使用するならば維持が必須だし、となると予備が用意してあったとしても、維持のために頻繁に触れられる場所に隠さざるを得ない。さっきのアールヴの女性がそういった予備だとしたら、もう一つの予備があったとしても、タールやパリオロムが頻繁に触れられる場所に隠さざるを得ない」
ディナ先輩のお母さん、パリオロムの予備、元々別行動の一体、さらにあっても予備がもう一体という所か。
「……あのな、テル」
「うん?」
オストレアが俺の手をずっとつかんだまま。
まさかここから攻撃されることはないとは信じたいが、さっき炎に足首を焼かれた直後なのでドキドキはしている。
「……本当はこんなこと言えた義理ではないが……テルにお願いしたいことがある」
お願い?
それはこちらにもある。
俺がリテルの体から分離するためには、オストレアの知識がとても役立ちそうな気がするから。
とはいえ、現状ではディナ先輩やカエルレウム師匠への報告が第一だろうし、ルブルムたちにも無事を知らせたい。
無条件というわけにはいかないし、俺の「やりたい」って気持ちばかりを優先はできない。
「内容による、かな」
「ありがたい……あの……できればこの先も、タールを追うのを手伝ってもらえると嬉しい」
それは俺としても乗りかかった船というか、ディナ先輩の母親の『魔動人形』を放置はできない――だけど。
「そうしたい気持ちはある。しかし、すぐというわけにはいかない。俺には本来やらねばならないこともあるし、今は別行動を取っているが一緒に行動する仲間も居る。俺の一存では……特に今の状況では、申し訳ないが決められない」
タールとの戦いでは一瞬の油断によって左足首を切り落とされた。
いったん逃げたタールと改めて対峙するときは、向こうも万全の準備をしていそうだし、きっともう油断もしてくれない。
深入りしてルブルムやレムが傷つくようなことになってしまうのは避けたいし、それにこれは俺じゃなくリテルの体なのだし。
「そうか。断られなかっただけでも嬉しいよ」
笑顔を浮かべるオストレアに、胸の奥がちょっと痛む。
「行こう。上も心配だ」
「そうしよう」
階段を登りきり、最初に向かったのは寿命の渦が三つ集まっている部屋。
マドハトとファウン、メリアンが、崩した壁の中からいろいろ漁っていた。
「これは、隠し部屋?」
あと、部屋の中がやけに濡れている。
「テル様! 壁が突然燃え始めたから僕が『びちょびちょ洗濯物』で消したです!」
もしかして脱出時の証拠隠滅か?
早速、捜索に混ぜてもらうと――非常に怪しいものが出てきた。
「メリアン、これって……」
「隣国、というか今、戦争が始まるかもと言われているギルフォルド王国の紋章だな」
「っつーこたぁ、タール大隊長はギルフォルド王国とつながりがあったっつーことでやすね?」
「プルマ副長をお呼びするしかない」
オストレアがタールの屋敷を出てプルマ副長を呼びに行った後、メリアンが突然、小剣を抜いた。
一瞬だった。
メリアンが俺の手のひらに、マドハトの右足首の先を置くまで、何が起きたのか全く理解できないでいた。
「テル、『生命回復』」
ハッとしてマドハトの切り離された右足首を傷口に接合して『生命回復』をかける。
「『生命回復』でつなげた所で応急処置だ。名誉の負傷でしばらくは安静にしなきゃってこたぁ、こりゃ傭兵を合法的に退団できるな」
それを見ていたファウンまでもが自身の左足首を鋭く切り離す。
「兄貴ぃ! あっしの治療はこれで足りやすか?」
俺に手渡された白魔石の中にはそこそこの汎用消費命が格納されている。
「大丈夫だと思う」
「ではお代はその魔石で!」
慌ててファウンの左足にも『生命回復』をかける。
ほどなくして、オストレアとプルマ副長と他数名がタールの屋敷内へ駆け込んできた。
一緒に来たのは傭兵隊の者ではなくギルフォドの正規兵だった。
「事情は把握した。密通者が居ること自体は把握していたが誰かまではわからなかったのだ。まさかタール……元大隊長がそれだったとはな」
オストレアは、タールがナベリウスであったことを告げ、逃げた『魔動人形』の説明も行った。
その途中、正規兵と同じ鎧の、明らかに階級が高そうな人まで取り調べに参加する。
地下室についても詳しく調べられ、壁一面の仮面が、人の顔面を削いで死に人形に加工したものだと判明した。
過去にタールに挑戦して敗れた者たちの顔面が大量にあったため、俺たちの主張は素直に受け入れてもらえた。
ちなみにあの穴の出口は訓練場内の森へとつながっていた。
残念ながら、「森から逃げる女」を目撃した者は居ない。
正規兵を通じてギルフォドに二つある大門の門番へと情報を渡したとのことだが、そもそも「アールヴ」という種族を見たことあるのはオストレアくらいなのだ。
メリアンですら見たことないというその種族を、見つけて捕らえるというのは簡単ではないだろう。
一応特徴を告げはしたけれど。
俺とマドハト、ファウンについてはすぐに医療棟に移され、治療が始まった――のだが、治療にあたってくれた医療兵が最初に、治療魔法を使用した結果、今まで通りに体が動かなくなったとしても了承すること、みたいな宣言をし始めたので、魔石だけ借りて実際の治療は俺がすることにした。
神経とかそういう知識がないと、ただ乱暴に傷口をつなげるだけで終わるっぽいんだな。
メリアンの「すぐには治すなよ」という忠告のもと、ゆっくり時間をかけて。
医療兵より借りた魔石の中身と、ファウンの白魔石を使い、それから俺の火傷跡を切除して再生するのにはカエルレウム師匠にいただいた白魔石まで空にした。
見た目については、一日かけて全て綺麗に治した。
その日の夕方、タールに呼び出されてからちょうど一日が経過した頃に、メリアンとプルマ副長とが医療棟へ見舞いに来た。
「よう、調子はどうだい?」
メリアンがピラピラと振る羊皮紙には、除隊証明書。
「くっつきはしましたよ」
答えながら、ちょっとよろけてみせる。
魔法の治療があるホルトゥスでも「切れた四肢を魔法で治療してつなぐことができても、切断前のように動かせなくなることは少なくない」と聞いていたので、自身への『テレパシー』で既に元通りの感覚を取り戻しているものの、演技で危うげな感じを出してみたのだ。
「僕はもう歩けるです!」
マドハトはどうやらゴブリン時代にいったん片腕を無くしたアレが経験として活きているらしく、無くなった部位が戻ったときの気持ちの切り替えがうまくいっているっぽい。
あんまり元気なのでちょっと不安になったのだが、そこはなんとか「傷自体が塞がっても四肢損壊扱いで勇気除隊が許可される」というメリアンの目論見通りになってくれた。
「その治療技術、正規の医療兵として雇いたいのだがな」
プルマ副長は俺をじっと見つめる。
「まだ修行中の身なので」
これは事実。カエルレウム師匠の断りなく勝手に他所に就職とかできない。
傭兵だって期限付きで、しかもモクタトルからカエルレウム師匠に事情説明していただけるという条件付きだったからこそ苦肉の策として選択したわけだし。
「まあ、我々はいつでも待っていると思っていてくれ」
プルマ副長は満面の笑顔。
これは俺のことというよりもむしろメリアンが理由。
世間的にはメリアンがタールを一騎打ちで倒したことになっている。
実際、タールを倒せたのはほぼメリアン頼みだったので間違ってはいない。
そしてそれがプルマ副長が立ち会った「挑戦試合」だったということにされ、メリアンが大隊長代理に就任したのである。
プルマ副長からしたら長年の推しが上司になったわけで、そりゃ笑顔が止まらないのも仕方ない。
ちなみに、俺とマドハトばかりかファウンまで、敵国密通者の炙り出しの功績として、勇気除隊では通常支給されない本来の契約期間分の給金も満額支給されることになった。
傭兵団に残るメリアンのために、俺とマドハトの給金については公的に「メリアンに預かってもらう」ように手配した。
メリアンはラビツたちが戻ってくるまでは他の傭兵団員たちを鍛えるつもりらしい。
なんだかんだメリアンって面倒見がいいよね。
オストレアは、ナベリウスや『魔動人形』に対する知識を買われ、契約期間もまだけっこう残っていることもあり、第一小隊第一班の班長として残留せざるを得ないことになってしまった。
しかもしばらくはいずれかの大門で領兵に紛れてタールの『魔動人形』が脱出するのを阻止する目的で監視業務に当たっているとのこと。
今日もずっと門に貼り付きで、「テルに逢えなくて寂しがっていたぞ」とメリアンにからかわれる始末。
「今夜もゆっくり休め。除隊証明書には日付はまだ入れていない。明日も休むなら除隊は明後日でもいい。これは私が預かっておくが、反故にはしないので安心しろ」
「ありがとうございます」
少しでも早くルブルムたちを追いかけたくはあるが、あまり早く動けると勇気除隊が取り下げられるかもということで、とりあえず今日はずっと休ませてもらった。
だが、ちゃんとした回復のためには少しくらいは動いたほうがいいのは一般的にもそうだし、明日の除隊ならば不自然さもないだろう。
念のため、メリアンには明日の午前中にギルフォドを発つニュナム行きの定期便を二名分押さえてもらった。
しかし色々あったな。
消灯後の真っ暗な天井を見つめる。
昼間は今までの睡眠不足を解消するためにたくさん寝たこともあり、深夜になって目が冴えてきたのだ。
手を伸ばし、傍らの『虫の牙』へと触れる。
もちろん、勝手に持ってきたわけじゃない。
プルマ副長へは報告済みで、その上で「寄らずの森の魔女様に調査をお願いする」という名目で俺に託されたのだ。
柄に嵌められた紅魔石に触れると、その奥にもう一つの魔石を感じる。
もう一つ紅魔石が奥に埋め込まれているっぽい。
こういうやり方もあるのかと、勉強になる。
中に格納されている魔術もそこそこ確認できて、それにもたくさんの学びがあるのだが、それらの魔術の構成要素の一部にはうまく理解できないのもあった。
恐らくナベリウスの種として特性などに基づいて思考された固有魔法というやつだろう。
ただ、そう言って諦めてしまうのは思考の放棄に他ならない。
しつこく何度も解読に挑戦しているうち、気付けたことがある。
それは呪詛に組み込む魔法を外部から取り込むという魔術要素だ。
この要素を使うことで、その欠けた部分を外から補えない者には『虫の牙』に格納された魔術を発動できないという仕組みのようなのだ。
このセキュリティ的な考え方はとても有用性がある。
さらに思考と検証とを繰り返し、『虫の牙』の概要をある程度把握することができた。
『虫の牙』の奥の紅魔石に収められた魔術『影虫』は、魔術を構成する魔法の大部分が『地界からレムール召喚』と『対象者の発動した魔法効果を増強する』という「ひとつまみの祝福」、そして外部から設定した効果――これが恐らくナベリウスが持つ「苦痛を与える」系の固有魔法だろう、それらをひとまとめにして対象者に呪詛傷を貼り付ける、というものだった。
他にも、『影虫』として召喚したレムールにナンバリングを付ける魔法や、他にも一定範囲内に侵入してきた『影虫』のナンバーを察知できる魔法、ナンバー指定で『影虫』を解除する魔法『影送還』などが含まれていたが、呪詛傷のあの痛み自体については『虫の牙』内に魔法として格納されていなかったのだ。
更にはこれら、奥の紅魔石に格納された『影虫』関連の魔法を、奥の紅魔石ごと「見えなくする」効果の魔術『灯れ』が、手前の紅魔石に格納してあった。
この魔術、核となるのは『灯れ』という名の通り一定時間、刃に光を灯す魔法であり、その魔法代償として必要量の倍の消費命を直に渡したときだけ奥の『影虫』関連が見えなくなるロック効果を発揮もしくは解除するというもの。
すげぇ。
二重のセキュリティだ。
あのとき、タールがこのセキュリティをかける前にメリアンが腕を切り落としたもんだから、運良く『影虫』関連が見えたままの状態になったけれど、もしもロックされた状態だったなら、俺はこの奥の紅魔石ごと気付けなかっただろう。
なるほど。なるほど。
魔法を組み合わせて一つの決まった実行形式にまとめたものが魔術だと覚えていたせいか、実際に使うときに別の魔法をセットして発動するという、いわば未完成のままの状態で魔術として完成させておくという発想にたどり着くまでにけっこうかかった。
でもこれ、よく考えたら『接触発動』みたいな魔法は実際そういう思考なんだよな。
実際に自分で使用していても、それが当然だと思考停止してしまっていたら気付けない世界。
俺は本当にまだまだ不勉強なんだな。
と反省しつつもワクワクしている自分も居る。
思考がどんどん広がってゆくのだ。
例えば、特定属性を防御するという魔術を用意するとして、耐火、耐氷、耐電、みたいに属性の数だけ魔術を用意するのではなく、魔術使用時に『発火』を伴えば耐火、『凍れ』を伴えば耐氷、みたいにデザインするっていう手もある。
魔法も魔術も奥が深い。
俺はまだまだカエルレウム師匠の元で色々と学びたい。
俺がリテルの体から抜けられる方法だって、今まで出遭った方法論に隠れている気付きをうまく組み合わせれば、実はもうできるんじゃないかとさえ感じるほど。
いやいや、傲慢な思考はかえって見る力を損なわせる。
思考も、紳士である方が、広がってゆくような気がする。
それから『虫の牙』については、ポーともよく話し合った。
まず最初にタールとの戦闘で加勢してくれたことへのお礼から始まり、『虫の牙』に収められた魔術『影虫』と『影送還』のこと。
タールの本体は倒したが、まだ逃げた『魔動人形』が少なくとも二体は居ることなどを。
結論から言うと、ポーはまだ俺と一緒に来てくれることになった。
そしてあのタールに一撃くれてやったあの技、あれはポーが、ウンセーレー・ウィヒトの攻撃を観てて真似してみたのだという。
寿命の渦からは奪えないが、魔法を唱えようと集中した消費命からはごっそり奪えるようだ。
心強い。
そうそう。
ポーを見ることができる地界の種族についても話を聞いた。
地界には多くの種族が居るが、その中でも特定の知性ある種族、こちらの世界に来たら「魔人」と呼ばれる種族の中にはレムールと共生している種族が少なくなく、そうして長らく共生を続けてきた種族は自然に、レムールを見る目を手に入れるのだという。
それらレムールを見ることができる種族は特に「ゴエティア」と呼ばれるらしい。
「ゴエティア」という単語は地球でも聞いた気がする。
なんだっけかな――でもまあ、いいか。
ホルトゥスに来たばかりの頃は地球での記憶が中途半端だった自分を責めたりもしたけれど、知識はいつだって増やせるし、気をつけないと自分を閉じ込める檻にもなり得ると、今では向き合えるようになったから。
ところで今、何時くらいだろうな。
少なくとも夜明けはまだまだ先だろう。
久々に安全な場所での十分な睡眠を取れたおかげで、まだ眠くない。
冴えた思考は魔法についての研究へと流れてゆく。
新しい魔法も考えてみたし、それを自らの『テレパシー』の中で反復練習する。
仮想敵は、複数の魔法を制御でき、ある程度の未来予測まできるというナベリウス。
そんな奴と戦うにはこちらもそれなりに対応していかないといけない。
手がないわけじゃない。
複数同時に魔法を使うものが魔術だからだ。
今までは一つの結果につながるものとして複数の魔法を構成して『魔術』を思考していたが、それを直列の思考として、今度は並列の思考で組み立てると複数の魔法結果を同時に発動させるという疑似並列思考の『魔術』ができるのだ。
見えた所で全て避けきれなければ当てられる。
そういう『魔術』をデザインすればいい。
魔法を初めて理解して使ったあのときのように、心躍る楽しさを覚える。
もっと深く、もっと広く、もっともっと驚きの向こう側へ。
思考の夜はそうして更けた。
早朝、オストレアが医療棟へ顔を出した。
まだ門が開く前だから寄れたという。
そして手を握られる。
「……姉さんに会うことがあったなら、伝えてくれるか?」
「ああ、伝えておく」
また無言。
何か伝えたいことがまだあるのだろうか。
俺から話を振ったほうがいいのかなと口を開いたとき、オストレアがようやく口を開いた。
「テル、ありがとう。また、会えるよな?」
「ああ。また、必ず」
結局、それ以上は何も言わず、門が開く時間だからとオストレアは去っていった。
入れ替わりに、三人分の朝食を持ってメリアンがやってくる。
豚の腸詰めとカブの入った麦粥。もちろん刻んだ葉も入っている。
相変わらず味は薄めだが、最近はこの薄味にも慣れてきた。
思考も体も、こっちに随分と馴染めているのかな。
そういえば最近は自分が異物だという不安をあまり感じない。
良い方向へ向かえているならいいけど。
「今日、帰るんだろ?」
「ああ。メリアンにも本当に世話になった」
「ま、その辺はお互い様だよ」
メリアンの苦笑いは、最初のきっかけがラビツだから、かな。
「プルマ副長が実績紋の更新にも付き合ってくれるとよ。ほら、食い終わった食器を渡しな。ハトとファウンも」
「ありがとう、メリアン」
「メリアン、ありがとうです!」
「ありがとさんです、姐さん!」
「じゃ、またな」
メリアンらしい、あっさりとした去り際。
本当に随分とお世話になった。
メリアンの後ろ姿に礼をしたら、マドハトも、そしてファウンまで俺を真似た。
プルマ副長はその後すぐに来て、俺たちは荷物を持ち医療棟から出る。
隊舎を横目にいったん街の中へと移動する。
魔術師組合ではフォーリーの魔術師組合へ連絡を取ることができ、カエルレウム師匠へ大まかな事情説明の伝言をお願いした。
ルブルムの魔術師免状だとカエルレウム師匠への直通『遠話』が可能なのだが、今はルブルムが居ないから。
どこまで内容をボカすかには気を使ったが、それでもディナ先輩に関することには一切触れないことにした。
ついでにニュナムの魔術師組合にも連絡を取り、魔術師組合の元職員だったリリさん――ナイトさんの奥さんにも軽く伝言をお願いした。
旅に必要な消耗品や食料を、メリアンが昨日のうちに手配しておいてくれたらしく、俺たちはそれを受け取ってすぐニュナム行きの定期便へと乗り込んだ。
俺とマドハト、そしてなぜかファウン。
それ以外にも何人も乗っている。
豚種若いカップルは女性の方が半返り。五、六歳の男の子と若い母親の河馬種親子。紳士っぽい馬種の老人。猫種の若い痩せた兄妹、牛種の中年男性は商人だと言う。
護衛として両生種の男性と、鹿種の女性、それから猿種の御者も護衛を兼ねているらしい。
かなりの大人数だ。
ここからは全く気が抜けない。
ファウンにはまだ気を許しているわけじゃないし、それにこの馬車に乗っている女性は、護衛の鹿種以外は全員、マントフードを目深にかぶっていて顔がよく見ないし。
ニュナムまで、この定期便では四日かかる。
その間ずっと気が抜けない――信頼できるのはマドハトだけ。
しかもだ――走り始めてから思い出す。
普通の馬車はこんなにお尻が痛くなるものだって。
● 主な登場者
・有主利照/リテル
猿種、十五歳。リテルの体と記憶、利照の自意識と記憶とを持つ。魔術師見習い。
ゴブリン用呪詛と『虫の牙』の呪詛と二つの呪詛に感染。レムールのポーとも契約。傭兵部隊を勇気除隊した。
・ケティ
リテルの幼馴染の女子。猿種、十六歳。黒い瞳に黒髪、肌は日焼けで薄い褐色の美人。胸も大きい。
リテルとは両想い。フォーリーから合流したがリテルたちの足を引っ張りたくないと引き返した。ディナ先輩への荷物を託してある。
・ラビツ
イケメンではないが大人の色気があり強者感を出している鼠種の兎亜種。
高名な傭兵集団「ヴォールパール自警団」に所属する傭兵。二つ名は「胸漁り」。現在は謝罪行脚中。
・マドハト
ゴブリン魔法『取り替え子』の被害者。ゴド村の住人。取り戻した犬種の体は最近は丈夫に。
元の世界で飼っていたコーギーのハッタに似ている。ゴブリン魔法を使える。傭兵部隊を勇気除隊した。
・ルブルム
魔女様の弟子である赤髪の少女。整った顔立ちのクールビューティー。華奢な猿種。
魔法も戦闘もレベルが高く、知的好奇心も旺盛。親しい人を傷つけてしまっていると自分を責めがち。
・アルブム
魔女様の弟子である白髪に銀の瞳の少女。鼠種の兎亜種。
外見はリテルよりも二、三歳若い。知的好奇心が旺盛。
・カエルレウム
寄らずの森の魔女様。深い青のストレートロングの髪が膝くらいまである猿種。
ルブルムとアルブムをホムンクルスとして生み出し、リテルの魔法の師匠となった。
・ディナ
カエルレウムの弟子。ルブルムの先輩にあたる。重度で極度の男嫌い。壮絶な過去がある。
アールヴを母に持ち、猿種を父に持つ。精霊と契約している。トシテルをようやく信用してくれた。
・ディナの母
アールヴという閉鎖的な種族ながら、猿種に恋をしてディナを生んだ。
キカイー白爵の館からディナを逃がすために死んだが、現在はタールに『魔動人形』化されている。
・ウェス
ディナに仕えており、御者の他、幅広く仕事をこなす。肌は浅黒く、ショートカットのお姉さん。蝙蝠種。
魔法を使えないときのためにと麻痺毒の入った金属製の筒をくれた。
・タール
元ギルフォド第一傭兵大隊隊長。『虫の牙』でディナに呪詛の傷を付け、フラマとオストレアの父の仇でもある。
地界出身の魔人。種族はナベリウス。現在は『魔動人形』化したディナの母の中に意識を移している。
・メリアン
ディナ先輩が手配した護衛。ラビツとは傭兵仲間で婚約者。ものすごい筋肉と角と副乳とを持つ牛種の半返りの女傭兵。知識も豊富で頼れる。二つ名は「噛み千切る壁」。現在はギルフォド第一傭兵大隊隊長代理。
・レム
爬虫種。胸が大きい。バータフラ世代の五人目の生き残り。不本意ながら盗賊団に加担していた。
同じく仕方なく加担していたミンを殺したウォルラースを憎んでいる。トシテルの心の妹。現在、ルブルムに同行。
・ウォルラース
キカイーがディナたちに興味を示すよう唆した張本人。過去にディナを拉致しようとした。金のためならば平気で人を殺す。
ダイクの作った盗賊団に一枚噛んだが、逃走。海象種の半返り。
・ナイト
初老の馬種。地球では親の工場で働いていた日本人、喜多山馬吉。
2016年、四十五歳の誕生日にこちらへ転生してきた。今は発明家として過ごしているが、ナイト商会のトップである。
・モクタトル
スキンヘッドの精悍な中年男性魔術師。眉毛は赤い猿種。呪詛解除の呪詛をカエルレウムより託されて来た。
ホムンクルスの材料となる精を提供したため、ルブルムを娘のように大切にしている。
・トリニティ
モクタトルと使い魔契約をしているグリュプス。人なら三人くらい乗せて飛べる。
・ファウン
ルージャグから逃げたクーラ村の子供たちを襲った山羊種三人組といっとき行動を共にしていた山羊種。
リテルを兄貴と呼び、ギルフォドまで追いかけてきた。偽ヴォールパール自警団作戦に参加し、現在は勇気除隊。
・プルマ
第一傭兵大隊の万年副長である羊種の女性。全体的にがっしりとした筋肉体型で拳で会話する主義。
美人だが鼻梁には目につく一文字の傷がある。メリアンのファン。
・パリオロム
第一傭兵大隊第一小隊で同じ班の先輩。猫種の先祖返り。
毛並みは真っ白いがアルバスではなく瞳が黒い。気さく。タールの『魔動人形』だった。
・フラマ
おっぱいで有名な娼婦。鳥種の半返り。淡いピンク色の長髪はなめらかにウェーブ。瞳は黒で口元にホクロ。
胸の大きさや美しさが際立つ痴女っぽい服装だが、所作は綺麗。父親が地界出身の魔人。
・オストレア
鳥種の先祖返りで頭は白のメンフクロウ。スタイルはとてもいい。フラマの妹。
父の仇であるタールの部下として傭兵部隊に留まっていた。
・オストレアとフラマの父
地界出身の魔人。種族はアモン。タールと一緒に魔法品の研究をしていたが、タールに殺された。
・レムール
レムールは単数形で、複数形はレムルースとなる。地界に生息する、肉体を持たず精神だけの種族。
自身の能力を提供することにより肉体を持つ生命体と共生する。『虫の牙』による呪詛傷は、強制召喚されたレムールだった。
・ショゴウキ号
ナイト(キタヤマ)がリテルに貸し出した特別な馬車。「ショゴちゃん」と呼ばれる。現在はルブルムが使用。
板バネのサスペンション、藁クッション付き椅子、つり革、床下隠し収納等々便利機能の他、魔法的機能まで搭載。
・ドラコ
古い表現ではドラコーン。魔術師や王侯貴族に大人気の、いわゆるドラゴン。その卵を現在、リテルが所持。
卵は手のひらよりちょっと大きいくらいで、孵化に必要な魔法代償を与えられるまで、石のような状態を維持する。
・ウンセーレー・ウィヒト
特定の種族名ではなく現象としての名前。異門近くで寿命によらない大量死がある稀に発生する。
死者たちの姿で燐光を帯びて現れ、火に弱いが、触れられた生者は寿命の渦を失う。
・ナベリウス
苦痛を与えたり、未来を見ることができる能力を持つ勇猛な地界の一種族。
鳥種の先祖返りに似た外観で、頭部は烏。種族的にしわがれ声。魔法品の制作も得意。
・アモン
強靭で、限定的な未来を見たり、炎を操ることができるなどの能力を持つ地界の一種族。
鳥種の先祖返りに似た外観だが、蛇のように自在に動かせる尾を持つ。頭部は水鳥や梟、烏に似る。
・ケルベロス
地界の種族。頭が三つある巨大な犬に似ているが、稀にそれ以上の多頭となる個体もいる。
凄まじい吠え声と、毒を含む唾液には注意が必要。光は苦手。主人には忠実だが、大好物の甘いものには抗しきれない。
■ はみ出しコラム【魔物デザイン ナベリウス】
・ゴエティア
レムルースが生息する地界において、レムルースと長らく共生してきたことで、レムルースを視認することができるようになった種族のこと。
知性を持ち、ホルトゥスへ来た際には「魔人」に分類される。
ナベリウスもアモンもこの「ゴエティア」に分類される。
今回は、この「ゴエティア」のうち、ナベリウスについて解説する。
・ホルトゥス、及び地界におけるナベリウス
苦痛を与えたり、未来を見ることができる能力を持つ勇猛な地界の一種族。
鳥種の先祖返りに似た外観で、頭部は烏。種族的にしわがれ声。魔法品の制作も得意。
並列思考という能力があり、同時に三つ以上の思考ができることから「ケルベロス」との異名もある。
・地球におけるナベリウス
ケルベロス、ケレブス、ケレベルスとしても知られ、ソロモンの霊七二人の一人である。召喚されると雄鶏あるいは黒い鴉の姿であらわれるらしいが、グリモアが主張していることろによると、「鳥のよう」でありながら、三つの頭を備えているのかもしれない。侯爵の位であって、ロジックやレトリックを教えるとともに、失った名誉や愛顧をとりもどしてくれる。
(フレッド・ゲティングズ著 大瀧啓祐訳『悪魔の辞典』より)
第二十四の精霊はナベリウスである。彼は最も優れた侯爵であり、魔法円の周りを飛び回る黒いつるの姿をとり、しわがわれた声で喋る。あらゆる術と学問を教え、特に修辞学に優れている。失われた名誉や地位を回復してくれる。19の精霊の軍団を率いる。
(編者:アレイスター・クロウリー、訳者:松田アフラ『ゲーティア・ソロモンの小さき鍵』より)
イギリスで発見されたグリモワール『ゴエティア』によると、19の軍団を指揮する序列24番の勇猛なる侯爵。
18世紀のものと考えられているグリモワール『大奥義書』によれば、ネビロスの支配下にあるという。一方、ナベリウス自身がネビロスと同一視されることもある。
召喚されると、カラスの姿で現れ、しわがれた声で話すという。あらゆる人文科学、自然科学を教え、特に修辞学に長けているという。また、失われた威厳や名誉を回復する力を持つともいう。
別名のケルベロスにあるように、ギリシア神話のケルベロスと関連付けられることもある。コラン・ド・プランシーは『地獄の辞典』においてナベリウスを「ケルベロス」の項目で扱っており、三つ頭の犬もしくはカラスの姿で現れるとしている。ルイ・ル・ブルトンによる挿絵では、三種類の犬の頭と鳥の脚と尾を備え、貴族風の服を着た悪魔が描かれている。
(Wikipediaより)
・ナベリウスのデザイン
物語の都合上、地界出身の「魔人」は二種出すことは決めていて、まず、味方となる方は当然「アモン」っしょ、ということで決まり、それから敵となる方を選ぶことになった。
アモンのデザインを鳥頭にしたため(これについては次回語る)、もう一人の魔人も鳥頭にしたいなぁという思いから、ソロモンの七十二柱の魔神をつらつらと眺め、ナベリウスに決めた。
その決め手となったのが、ケルベロスというワードである。この敵は強くないと面白くないので採用したのだが、だからといって三つ首のキャラにはしたくなかった。そこで「並列思考」という設定を思いついた。
ただこれだけだとちょっと物足りない。
そして Wikipediaさんの「ナベリウス自身がネビロスと同一視されることもある。」という記述をもとにネビロスから「望む相手に苦痛を与える力を持ち」と「未来を予見することにも長けている」という能力をいただくことにした。
このあたりはナベリウスという種族の固有魔法として設定した。
実は『虫の牙』の苦痛は、敵役としてナベリウスを採用する前から決めていたので、ちょうど整合が取れる(作者にとって)良い能力だったのである。
・地球におけるネビロス
ネビロス(Nebiros)は、ヨーロッパの伝承に伝わる悪魔の1人。魔術や悪魔学に関して記したグリモワールと呼ばれる一連の文献においてその名前が見られる。
18世紀もしくは19世紀に民間に流布したグリモワールの1つである『真正奥義書』によれば、ネビロスはアスタロトの配下の悪魔たちの長であり、アスタロト、サルガタナスとともにアメリカに住まう。HaelとSergulathという悪魔を配下に従えており、HaelとSergulathはさらにその下に8柱の精霊を従える。
『真正奥義書』と同じく18世紀以降に流布したと考えられているグリモワール『大奥義書』によれば、ネビロスは地獄の3人の支配者ルシファー、ベルゼビュート、アスタロトに仕える6柱の上級精霊の1柱であり、少将にして総監督官である。アイペロス、ナベルス、グラシャラボラスを配下に持つとされる。ナベルス(ナベリウス)とは同一視されることもある。あらゆる場所に赴き、地獄の軍勢を監視しているとされる。また、望む相手に苦痛を与える力を持ち、金属、鉱物、動植物の効能を知っているという。「栄光の手」と呼ばれる、死刑に処せられた者の手から作られる魔術の道具を見つけることも出来る。地獄の悪魔たちの中でもっとも優れた降霊術の使い手であり、未来を予見することにも長けている。
(Wikipediaより)
自分の右足首の火傷はここでも後回しだ。
メリアンが布を巻いておけと言うからには何か理由があるのだろう。
それに火傷の治療は単純に時間がかかる。
『生命回復』みたいに傷を塞げばそれで済むってわけにはいかない。
炭化した細胞はもう治らないから、いったん切除しないといけないし、その作業を終えてからの再生自体も単純に時間がかかるから。
「ボクがタールに気づいていたように、タールもボクに気づいていたのだろうな。幼い頃に遊んでもらったこともある」
「幼い頃……ということは、見逃してくれていた?」
「わからない。タールが楽しめるほどの強さをボクが持っていなかっただけかもしれないし」
強さとか戦いに興奮するタイプっぽいタール。
絶叫系コースター好きとか、辛いもの好きとか、ホラー好きとかと同様にそれで脳内麻薬を分泌して楽しんでいるのだろうけど、他人を巻き込もうとする辺り厄介以外の何者でもない。
「あー……でも最後には自分で与えた強さを解除していたよ、タール。俺に新たに与えた『虫の牙』の呪詛傷を。そういう意味じゃ、自分に負けてるだろあいつ。あいつは強かったわけじゃなく、自分がちょうど気持ち良く勝てる相手を探してただけだろう。そういう意味では格好悪いことこの上ない。まあ、三対一で戦ってようやく勝てた俺たちが言えることじゃないかもしれないけれど」
「ははっ。そうだな。ケルベロスと異名を持つナベリウスだ。三対一でも卑怯ではないさ」
オストレアが急に俺の手のひらをつかんだ。
「ありがとう、テル。一歩前へ進めたのはテルのおかげだ」
「何言ってるんだよ。それはお互い様だよ」
オストレアと見つめ合う。
階段を上ろうとしないのは、まだ何か伝えたいことがあるのだろうか。
しかし黙ったまま。
俺から何か話題を振ってみようか。
「タールのやつ、他に何体くらい『魔動人形』を持っていると思う?」
ディナ先輩のお母さんの姿で逃げていることは、ディナ先輩に伝えないといけない。
それに向こうは俺の存在を認識した上で逃げていることも看過できない。
別の『魔動人形』で俺やリテルの周辺に近づいてこられたら、対処しきれる自信はない。
「まず、タール本体が『限られた未来』を使って最大でメリアンと私、そしてテルの攻撃を防いでいた、ということは、ナベリウスの並列思考を少なくとも三つは保持していたことになる。一般的なナベリウスならば並列思考はケルベロスという異名の通り三つがほとんどだ。四つは稀で、五つというのは伝説だ。だが私はタールは五つの並列思考ができていたと考えている」
「四つめの並列思考がパリオロム?」
「ああ。ナベリウスは、寿命の渦に思考を分けることができるから。だが何かあったときの予備の『魔動人形』を確保していたあのタールが、一箇所に自分の思考を集めているとは考えにくい。だとしたら本体に三つ、そしてパリオロム、それ以外にももう一つ思考を分けていた可能性は十分にある」
「その話だと、パリオロム用の予備『魔動人形』もあった可能性があるってことか」
「そうだ。逃げた『魔動人形』、パリオロムの予備、そして元々分けていた『魔動人形』。少なくとも三体は確実に居ると考えたほうが良いだろう」
「記憶を渡せるのは触れてから、なんだよね?」
「『遠話』ではごくごくほんの一部の記憶しか渡せない、というのは父の研究結果資料にあった。まあ、当時は、という話として聞いておいてくれ」
安全策を取って逃がしてしまったタールだが、オストレアを助けられたことで得られた情報の方が貴重だったように思える――そう思いたいだけ、かもだけど。
「パリオロムを倒したことで、パリオロムに宿っていた寿命の渦は消えたけど、そうなるとタール本体の思考は回復するのか?」
「分けた思考が切り離された先で潰えた場合、思考を乗せた寿命の渦が崩れればそこで消える。タールが最後に自分の肉体を四散させたあの魔法だが、魔法を操っていた本体に思考を一つは残さざるを得ないから、恐らくあのアールヴに移せた思考は二つってとこだろう」
「となるとパリオロムの予備と二体での行動が可能ということか」
「だが、それらの『魔動人形』は『限られた未来』を使いこなせないだろう。もはやナベリウスとしての強みはない」
だとしても、その『魔動人形』がわからなければ、相手に簡単に近づかれてしまうし、奇襲を許してしまいかねない。
「それに『魔動人形』は作成にかかる費用ばかりか、未活動状態の維持が大変なんだ。思考が宿っていない『魔動人形』は定期的に魔法をかけておかないと筋肉や関節が固くなり動けなくなる。さっき言っていた記憶を得るためだけの『魔動人形』化などは、一度移って記憶を得た後は一切、維持せずに捨てていた。再使用するならば維持が必須だし、となると予備が用意してあったとしても、維持のために頻繁に触れられる場所に隠さざるを得ない。さっきのアールヴの女性がそういった予備だとしたら、もう一つの予備があったとしても、タールやパリオロムが頻繁に触れられる場所に隠さざるを得ない」
ディナ先輩のお母さん、パリオロムの予備、元々別行動の一体、さらにあっても予備がもう一体という所か。
「……あのな、テル」
「うん?」
オストレアが俺の手をずっとつかんだまま。
まさかここから攻撃されることはないとは信じたいが、さっき炎に足首を焼かれた直後なのでドキドキはしている。
「……本当はこんなこと言えた義理ではないが……テルにお願いしたいことがある」
お願い?
それはこちらにもある。
俺がリテルの体から分離するためには、オストレアの知識がとても役立ちそうな気がするから。
とはいえ、現状ではディナ先輩やカエルレウム師匠への報告が第一だろうし、ルブルムたちにも無事を知らせたい。
無条件というわけにはいかないし、俺の「やりたい」って気持ちばかりを優先はできない。
「内容による、かな」
「ありがたい……あの……できればこの先も、タールを追うのを手伝ってもらえると嬉しい」
それは俺としても乗りかかった船というか、ディナ先輩の母親の『魔動人形』を放置はできない――だけど。
「そうしたい気持ちはある。しかし、すぐというわけにはいかない。俺には本来やらねばならないこともあるし、今は別行動を取っているが一緒に行動する仲間も居る。俺の一存では……特に今の状況では、申し訳ないが決められない」
タールとの戦いでは一瞬の油断によって左足首を切り落とされた。
いったん逃げたタールと改めて対峙するときは、向こうも万全の準備をしていそうだし、きっともう油断もしてくれない。
深入りしてルブルムやレムが傷つくようなことになってしまうのは避けたいし、それにこれは俺じゃなくリテルの体なのだし。
「そうか。断られなかっただけでも嬉しいよ」
笑顔を浮かべるオストレアに、胸の奥がちょっと痛む。
「行こう。上も心配だ」
「そうしよう」
階段を登りきり、最初に向かったのは寿命の渦が三つ集まっている部屋。
マドハトとファウン、メリアンが、崩した壁の中からいろいろ漁っていた。
「これは、隠し部屋?」
あと、部屋の中がやけに濡れている。
「テル様! 壁が突然燃え始めたから僕が『びちょびちょ洗濯物』で消したです!」
もしかして脱出時の証拠隠滅か?
早速、捜索に混ぜてもらうと――非常に怪しいものが出てきた。
「メリアン、これって……」
「隣国、というか今、戦争が始まるかもと言われているギルフォルド王国の紋章だな」
「っつーこたぁ、タール大隊長はギルフォルド王国とつながりがあったっつーことでやすね?」
「プルマ副長をお呼びするしかない」
オストレアがタールの屋敷を出てプルマ副長を呼びに行った後、メリアンが突然、小剣を抜いた。
一瞬だった。
メリアンが俺の手のひらに、マドハトの右足首の先を置くまで、何が起きたのか全く理解できないでいた。
「テル、『生命回復』」
ハッとしてマドハトの切り離された右足首を傷口に接合して『生命回復』をかける。
「『生命回復』でつなげた所で応急処置だ。名誉の負傷でしばらくは安静にしなきゃってこたぁ、こりゃ傭兵を合法的に退団できるな」
それを見ていたファウンまでもが自身の左足首を鋭く切り離す。
「兄貴ぃ! あっしの治療はこれで足りやすか?」
俺に手渡された白魔石の中にはそこそこの汎用消費命が格納されている。
「大丈夫だと思う」
「ではお代はその魔石で!」
慌ててファウンの左足にも『生命回復』をかける。
ほどなくして、オストレアとプルマ副長と他数名がタールの屋敷内へ駆け込んできた。
一緒に来たのは傭兵隊の者ではなくギルフォドの正規兵だった。
「事情は把握した。密通者が居ること自体は把握していたが誰かまではわからなかったのだ。まさかタール……元大隊長がそれだったとはな」
オストレアは、タールがナベリウスであったことを告げ、逃げた『魔動人形』の説明も行った。
その途中、正規兵と同じ鎧の、明らかに階級が高そうな人まで取り調べに参加する。
地下室についても詳しく調べられ、壁一面の仮面が、人の顔面を削いで死に人形に加工したものだと判明した。
過去にタールに挑戦して敗れた者たちの顔面が大量にあったため、俺たちの主張は素直に受け入れてもらえた。
ちなみにあの穴の出口は訓練場内の森へとつながっていた。
残念ながら、「森から逃げる女」を目撃した者は居ない。
正規兵を通じてギルフォドに二つある大門の門番へと情報を渡したとのことだが、そもそも「アールヴ」という種族を見たことあるのはオストレアくらいなのだ。
メリアンですら見たことないというその種族を、見つけて捕らえるというのは簡単ではないだろう。
一応特徴を告げはしたけれど。
俺とマドハト、ファウンについてはすぐに医療棟に移され、治療が始まった――のだが、治療にあたってくれた医療兵が最初に、治療魔法を使用した結果、今まで通りに体が動かなくなったとしても了承すること、みたいな宣言をし始めたので、魔石だけ借りて実際の治療は俺がすることにした。
神経とかそういう知識がないと、ただ乱暴に傷口をつなげるだけで終わるっぽいんだな。
メリアンの「すぐには治すなよ」という忠告のもと、ゆっくり時間をかけて。
医療兵より借りた魔石の中身と、ファウンの白魔石を使い、それから俺の火傷跡を切除して再生するのにはカエルレウム師匠にいただいた白魔石まで空にした。
見た目については、一日かけて全て綺麗に治した。
その日の夕方、タールに呼び出されてからちょうど一日が経過した頃に、メリアンとプルマ副長とが医療棟へ見舞いに来た。
「よう、調子はどうだい?」
メリアンがピラピラと振る羊皮紙には、除隊証明書。
「くっつきはしましたよ」
答えながら、ちょっとよろけてみせる。
魔法の治療があるホルトゥスでも「切れた四肢を魔法で治療してつなぐことができても、切断前のように動かせなくなることは少なくない」と聞いていたので、自身への『テレパシー』で既に元通りの感覚を取り戻しているものの、演技で危うげな感じを出してみたのだ。
「僕はもう歩けるです!」
マドハトはどうやらゴブリン時代にいったん片腕を無くしたアレが経験として活きているらしく、無くなった部位が戻ったときの気持ちの切り替えがうまくいっているっぽい。
あんまり元気なのでちょっと不安になったのだが、そこはなんとか「傷自体が塞がっても四肢損壊扱いで勇気除隊が許可される」というメリアンの目論見通りになってくれた。
「その治療技術、正規の医療兵として雇いたいのだがな」
プルマ副長は俺をじっと見つめる。
「まだ修行中の身なので」
これは事実。カエルレウム師匠の断りなく勝手に他所に就職とかできない。
傭兵だって期限付きで、しかもモクタトルからカエルレウム師匠に事情説明していただけるという条件付きだったからこそ苦肉の策として選択したわけだし。
「まあ、我々はいつでも待っていると思っていてくれ」
プルマ副長は満面の笑顔。
これは俺のことというよりもむしろメリアンが理由。
世間的にはメリアンがタールを一騎打ちで倒したことになっている。
実際、タールを倒せたのはほぼメリアン頼みだったので間違ってはいない。
そしてそれがプルマ副長が立ち会った「挑戦試合」だったということにされ、メリアンが大隊長代理に就任したのである。
プルマ副長からしたら長年の推しが上司になったわけで、そりゃ笑顔が止まらないのも仕方ない。
ちなみに、俺とマドハトばかりかファウンまで、敵国密通者の炙り出しの功績として、勇気除隊では通常支給されない本来の契約期間分の給金も満額支給されることになった。
傭兵団に残るメリアンのために、俺とマドハトの給金については公的に「メリアンに預かってもらう」ように手配した。
メリアンはラビツたちが戻ってくるまでは他の傭兵団員たちを鍛えるつもりらしい。
なんだかんだメリアンって面倒見がいいよね。
オストレアは、ナベリウスや『魔動人形』に対する知識を買われ、契約期間もまだけっこう残っていることもあり、第一小隊第一班の班長として残留せざるを得ないことになってしまった。
しかもしばらくはいずれかの大門で領兵に紛れてタールの『魔動人形』が脱出するのを阻止する目的で監視業務に当たっているとのこと。
今日もずっと門に貼り付きで、「テルに逢えなくて寂しがっていたぞ」とメリアンにからかわれる始末。
「今夜もゆっくり休め。除隊証明書には日付はまだ入れていない。明日も休むなら除隊は明後日でもいい。これは私が預かっておくが、反故にはしないので安心しろ」
「ありがとうございます」
少しでも早くルブルムたちを追いかけたくはあるが、あまり早く動けると勇気除隊が取り下げられるかもということで、とりあえず今日はずっと休ませてもらった。
だが、ちゃんとした回復のためには少しくらいは動いたほうがいいのは一般的にもそうだし、明日の除隊ならば不自然さもないだろう。
念のため、メリアンには明日の午前中にギルフォドを発つニュナム行きの定期便を二名分押さえてもらった。
しかし色々あったな。
消灯後の真っ暗な天井を見つめる。
昼間は今までの睡眠不足を解消するためにたくさん寝たこともあり、深夜になって目が冴えてきたのだ。
手を伸ばし、傍らの『虫の牙』へと触れる。
もちろん、勝手に持ってきたわけじゃない。
プルマ副長へは報告済みで、その上で「寄らずの森の魔女様に調査をお願いする」という名目で俺に託されたのだ。
柄に嵌められた紅魔石に触れると、その奥にもう一つの魔石を感じる。
もう一つ紅魔石が奥に埋め込まれているっぽい。
こういうやり方もあるのかと、勉強になる。
中に格納されている魔術もそこそこ確認できて、それにもたくさんの学びがあるのだが、それらの魔術の構成要素の一部にはうまく理解できないのもあった。
恐らくナベリウスの種として特性などに基づいて思考された固有魔法というやつだろう。
ただ、そう言って諦めてしまうのは思考の放棄に他ならない。
しつこく何度も解読に挑戦しているうち、気付けたことがある。
それは呪詛に組み込む魔法を外部から取り込むという魔術要素だ。
この要素を使うことで、その欠けた部分を外から補えない者には『虫の牙』に格納された魔術を発動できないという仕組みのようなのだ。
このセキュリティ的な考え方はとても有用性がある。
さらに思考と検証とを繰り返し、『虫の牙』の概要をある程度把握することができた。
『虫の牙』の奥の紅魔石に収められた魔術『影虫』は、魔術を構成する魔法の大部分が『地界からレムール召喚』と『対象者の発動した魔法効果を増強する』という「ひとつまみの祝福」、そして外部から設定した効果――これが恐らくナベリウスが持つ「苦痛を与える」系の固有魔法だろう、それらをひとまとめにして対象者に呪詛傷を貼り付ける、というものだった。
他にも、『影虫』として召喚したレムールにナンバリングを付ける魔法や、他にも一定範囲内に侵入してきた『影虫』のナンバーを察知できる魔法、ナンバー指定で『影虫』を解除する魔法『影送還』などが含まれていたが、呪詛傷のあの痛み自体については『虫の牙』内に魔法として格納されていなかったのだ。
更にはこれら、奥の紅魔石に格納された『影虫』関連の魔法を、奥の紅魔石ごと「見えなくする」効果の魔術『灯れ』が、手前の紅魔石に格納してあった。
この魔術、核となるのは『灯れ』という名の通り一定時間、刃に光を灯す魔法であり、その魔法代償として必要量の倍の消費命を直に渡したときだけ奥の『影虫』関連が見えなくなるロック効果を発揮もしくは解除するというもの。
すげぇ。
二重のセキュリティだ。
あのとき、タールがこのセキュリティをかける前にメリアンが腕を切り落としたもんだから、運良く『影虫』関連が見えたままの状態になったけれど、もしもロックされた状態だったなら、俺はこの奥の紅魔石ごと気付けなかっただろう。
なるほど。なるほど。
魔法を組み合わせて一つの決まった実行形式にまとめたものが魔術だと覚えていたせいか、実際に使うときに別の魔法をセットして発動するという、いわば未完成のままの状態で魔術として完成させておくという発想にたどり着くまでにけっこうかかった。
でもこれ、よく考えたら『接触発動』みたいな魔法は実際そういう思考なんだよな。
実際に自分で使用していても、それが当然だと思考停止してしまっていたら気付けない世界。
俺は本当にまだまだ不勉強なんだな。
と反省しつつもワクワクしている自分も居る。
思考がどんどん広がってゆくのだ。
例えば、特定属性を防御するという魔術を用意するとして、耐火、耐氷、耐電、みたいに属性の数だけ魔術を用意するのではなく、魔術使用時に『発火』を伴えば耐火、『凍れ』を伴えば耐氷、みたいにデザインするっていう手もある。
魔法も魔術も奥が深い。
俺はまだまだカエルレウム師匠の元で色々と学びたい。
俺がリテルの体から抜けられる方法だって、今まで出遭った方法論に隠れている気付きをうまく組み合わせれば、実はもうできるんじゃないかとさえ感じるほど。
いやいや、傲慢な思考はかえって見る力を損なわせる。
思考も、紳士である方が、広がってゆくような気がする。
それから『虫の牙』については、ポーともよく話し合った。
まず最初にタールとの戦闘で加勢してくれたことへのお礼から始まり、『虫の牙』に収められた魔術『影虫』と『影送還』のこと。
タールの本体は倒したが、まだ逃げた『魔動人形』が少なくとも二体は居ることなどを。
結論から言うと、ポーはまだ俺と一緒に来てくれることになった。
そしてあのタールに一撃くれてやったあの技、あれはポーが、ウンセーレー・ウィヒトの攻撃を観てて真似してみたのだという。
寿命の渦からは奪えないが、魔法を唱えようと集中した消費命からはごっそり奪えるようだ。
心強い。
そうそう。
ポーを見ることができる地界の種族についても話を聞いた。
地界には多くの種族が居るが、その中でも特定の知性ある種族、こちらの世界に来たら「魔人」と呼ばれる種族の中にはレムールと共生している種族が少なくなく、そうして長らく共生を続けてきた種族は自然に、レムールを見る目を手に入れるのだという。
それらレムールを見ることができる種族は特に「ゴエティア」と呼ばれるらしい。
「ゴエティア」という単語は地球でも聞いた気がする。
なんだっけかな――でもまあ、いいか。
ホルトゥスに来たばかりの頃は地球での記憶が中途半端だった自分を責めたりもしたけれど、知識はいつだって増やせるし、気をつけないと自分を閉じ込める檻にもなり得ると、今では向き合えるようになったから。
ところで今、何時くらいだろうな。
少なくとも夜明けはまだまだ先だろう。
久々に安全な場所での十分な睡眠を取れたおかげで、まだ眠くない。
冴えた思考は魔法についての研究へと流れてゆく。
新しい魔法も考えてみたし、それを自らの『テレパシー』の中で反復練習する。
仮想敵は、複数の魔法を制御でき、ある程度の未来予測まできるというナベリウス。
そんな奴と戦うにはこちらもそれなりに対応していかないといけない。
手がないわけじゃない。
複数同時に魔法を使うものが魔術だからだ。
今までは一つの結果につながるものとして複数の魔法を構成して『魔術』を思考していたが、それを直列の思考として、今度は並列の思考で組み立てると複数の魔法結果を同時に発動させるという疑似並列思考の『魔術』ができるのだ。
見えた所で全て避けきれなければ当てられる。
そういう『魔術』をデザインすればいい。
魔法を初めて理解して使ったあのときのように、心躍る楽しさを覚える。
もっと深く、もっと広く、もっともっと驚きの向こう側へ。
思考の夜はそうして更けた。
早朝、オストレアが医療棟へ顔を出した。
まだ門が開く前だから寄れたという。
そして手を握られる。
「……姉さんに会うことがあったなら、伝えてくれるか?」
「ああ、伝えておく」
また無言。
何か伝えたいことがまだあるのだろうか。
俺から話を振ったほうがいいのかなと口を開いたとき、オストレアがようやく口を開いた。
「テル、ありがとう。また、会えるよな?」
「ああ。また、必ず」
結局、それ以上は何も言わず、門が開く時間だからとオストレアは去っていった。
入れ替わりに、三人分の朝食を持ってメリアンがやってくる。
豚の腸詰めとカブの入った麦粥。もちろん刻んだ葉も入っている。
相変わらず味は薄めだが、最近はこの薄味にも慣れてきた。
思考も体も、こっちに随分と馴染めているのかな。
そういえば最近は自分が異物だという不安をあまり感じない。
良い方向へ向かえているならいいけど。
「今日、帰るんだろ?」
「ああ。メリアンにも本当に世話になった」
「ま、その辺はお互い様だよ」
メリアンの苦笑いは、最初のきっかけがラビツだから、かな。
「プルマ副長が実績紋の更新にも付き合ってくれるとよ。ほら、食い終わった食器を渡しな。ハトとファウンも」
「ありがとう、メリアン」
「メリアン、ありがとうです!」
「ありがとさんです、姐さん!」
「じゃ、またな」
メリアンらしい、あっさりとした去り際。
本当に随分とお世話になった。
メリアンの後ろ姿に礼をしたら、マドハトも、そしてファウンまで俺を真似た。
プルマ副長はその後すぐに来て、俺たちは荷物を持ち医療棟から出る。
隊舎を横目にいったん街の中へと移動する。
魔術師組合ではフォーリーの魔術師組合へ連絡を取ることができ、カエルレウム師匠へ大まかな事情説明の伝言をお願いした。
ルブルムの魔術師免状だとカエルレウム師匠への直通『遠話』が可能なのだが、今はルブルムが居ないから。
どこまで内容をボカすかには気を使ったが、それでもディナ先輩に関することには一切触れないことにした。
ついでにニュナムの魔術師組合にも連絡を取り、魔術師組合の元職員だったリリさん――ナイトさんの奥さんにも軽く伝言をお願いした。
旅に必要な消耗品や食料を、メリアンが昨日のうちに手配しておいてくれたらしく、俺たちはそれを受け取ってすぐニュナム行きの定期便へと乗り込んだ。
俺とマドハト、そしてなぜかファウン。
それ以外にも何人も乗っている。
豚種若いカップルは女性の方が半返り。五、六歳の男の子と若い母親の河馬種親子。紳士っぽい馬種の老人。猫種の若い痩せた兄妹、牛種の中年男性は商人だと言う。
護衛として両生種の男性と、鹿種の女性、それから猿種の御者も護衛を兼ねているらしい。
かなりの大人数だ。
ここからは全く気が抜けない。
ファウンにはまだ気を許しているわけじゃないし、それにこの馬車に乗っている女性は、護衛の鹿種以外は全員、マントフードを目深にかぶっていて顔がよく見ないし。
ニュナムまで、この定期便では四日かかる。
その間ずっと気が抜けない――信頼できるのはマドハトだけ。
しかもだ――走り始めてから思い出す。
普通の馬車はこんなにお尻が痛くなるものだって。
● 主な登場者
・有主利照/リテル
猿種、十五歳。リテルの体と記憶、利照の自意識と記憶とを持つ。魔術師見習い。
ゴブリン用呪詛と『虫の牙』の呪詛と二つの呪詛に感染。レムールのポーとも契約。傭兵部隊を勇気除隊した。
・ケティ
リテルの幼馴染の女子。猿種、十六歳。黒い瞳に黒髪、肌は日焼けで薄い褐色の美人。胸も大きい。
リテルとは両想い。フォーリーから合流したがリテルたちの足を引っ張りたくないと引き返した。ディナ先輩への荷物を託してある。
・ラビツ
イケメンではないが大人の色気があり強者感を出している鼠種の兎亜種。
高名な傭兵集団「ヴォールパール自警団」に所属する傭兵。二つ名は「胸漁り」。現在は謝罪行脚中。
・マドハト
ゴブリン魔法『取り替え子』の被害者。ゴド村の住人。取り戻した犬種の体は最近は丈夫に。
元の世界で飼っていたコーギーのハッタに似ている。ゴブリン魔法を使える。傭兵部隊を勇気除隊した。
・ルブルム
魔女様の弟子である赤髪の少女。整った顔立ちのクールビューティー。華奢な猿種。
魔法も戦闘もレベルが高く、知的好奇心も旺盛。親しい人を傷つけてしまっていると自分を責めがち。
・アルブム
魔女様の弟子である白髪に銀の瞳の少女。鼠種の兎亜種。
外見はリテルよりも二、三歳若い。知的好奇心が旺盛。
・カエルレウム
寄らずの森の魔女様。深い青のストレートロングの髪が膝くらいまである猿種。
ルブルムとアルブムをホムンクルスとして生み出し、リテルの魔法の師匠となった。
・ディナ
カエルレウムの弟子。ルブルムの先輩にあたる。重度で極度の男嫌い。壮絶な過去がある。
アールヴを母に持ち、猿種を父に持つ。精霊と契約している。トシテルをようやく信用してくれた。
・ディナの母
アールヴという閉鎖的な種族ながら、猿種に恋をしてディナを生んだ。
キカイー白爵の館からディナを逃がすために死んだが、現在はタールに『魔動人形』化されている。
・ウェス
ディナに仕えており、御者の他、幅広く仕事をこなす。肌は浅黒く、ショートカットのお姉さん。蝙蝠種。
魔法を使えないときのためにと麻痺毒の入った金属製の筒をくれた。
・タール
元ギルフォド第一傭兵大隊隊長。『虫の牙』でディナに呪詛の傷を付け、フラマとオストレアの父の仇でもある。
地界出身の魔人。種族はナベリウス。現在は『魔動人形』化したディナの母の中に意識を移している。
・メリアン
ディナ先輩が手配した護衛。ラビツとは傭兵仲間で婚約者。ものすごい筋肉と角と副乳とを持つ牛種の半返りの女傭兵。知識も豊富で頼れる。二つ名は「噛み千切る壁」。現在はギルフォド第一傭兵大隊隊長代理。
・レム
爬虫種。胸が大きい。バータフラ世代の五人目の生き残り。不本意ながら盗賊団に加担していた。
同じく仕方なく加担していたミンを殺したウォルラースを憎んでいる。トシテルの心の妹。現在、ルブルムに同行。
・ウォルラース
キカイーがディナたちに興味を示すよう唆した張本人。過去にディナを拉致しようとした。金のためならば平気で人を殺す。
ダイクの作った盗賊団に一枚噛んだが、逃走。海象種の半返り。
・ナイト
初老の馬種。地球では親の工場で働いていた日本人、喜多山馬吉。
2016年、四十五歳の誕生日にこちらへ転生してきた。今は発明家として過ごしているが、ナイト商会のトップである。
・モクタトル
スキンヘッドの精悍な中年男性魔術師。眉毛は赤い猿種。呪詛解除の呪詛をカエルレウムより託されて来た。
ホムンクルスの材料となる精を提供したため、ルブルムを娘のように大切にしている。
・トリニティ
モクタトルと使い魔契約をしているグリュプス。人なら三人くらい乗せて飛べる。
・ファウン
ルージャグから逃げたクーラ村の子供たちを襲った山羊種三人組といっとき行動を共にしていた山羊種。
リテルを兄貴と呼び、ギルフォドまで追いかけてきた。偽ヴォールパール自警団作戦に参加し、現在は勇気除隊。
・プルマ
第一傭兵大隊の万年副長である羊種の女性。全体的にがっしりとした筋肉体型で拳で会話する主義。
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・パリオロム
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・ショゴウキ号
ナイト(キタヤマ)がリテルに貸し出した特別な馬車。「ショゴちゃん」と呼ばれる。現在はルブルムが使用。
板バネのサスペンション、藁クッション付き椅子、つり革、床下隠し収納等々便利機能の他、魔法的機能まで搭載。
・ドラコ
古い表現ではドラコーン。魔術師や王侯貴族に大人気の、いわゆるドラゴン。その卵を現在、リテルが所持。
卵は手のひらよりちょっと大きいくらいで、孵化に必要な魔法代償を与えられるまで、石のような状態を維持する。
・ウンセーレー・ウィヒト
特定の種族名ではなく現象としての名前。異門近くで寿命によらない大量死がある稀に発生する。
死者たちの姿で燐光を帯びて現れ、火に弱いが、触れられた生者は寿命の渦を失う。
・ナベリウス
苦痛を与えたり、未来を見ることができる能力を持つ勇猛な地界の一種族。
鳥種の先祖返りに似た外観で、頭部は烏。種族的にしわがれ声。魔法品の制作も得意。
・アモン
強靭で、限定的な未来を見たり、炎を操ることができるなどの能力を持つ地界の一種族。
鳥種の先祖返りに似た外観だが、蛇のように自在に動かせる尾を持つ。頭部は水鳥や梟、烏に似る。
・ケルベロス
地界の種族。頭が三つある巨大な犬に似ているが、稀にそれ以上の多頭となる個体もいる。
凄まじい吠え声と、毒を含む唾液には注意が必要。光は苦手。主人には忠実だが、大好物の甘いものには抗しきれない。
■ はみ出しコラム【魔物デザイン ナベリウス】
・ゴエティア
レムルースが生息する地界において、レムルースと長らく共生してきたことで、レムルースを視認することができるようになった種族のこと。
知性を持ち、ホルトゥスへ来た際には「魔人」に分類される。
ナベリウスもアモンもこの「ゴエティア」に分類される。
今回は、この「ゴエティア」のうち、ナベリウスについて解説する。
・ホルトゥス、及び地界におけるナベリウス
苦痛を与えたり、未来を見ることができる能力を持つ勇猛な地界の一種族。
鳥種の先祖返りに似た外観で、頭部は烏。種族的にしわがれ声。魔法品の制作も得意。
並列思考という能力があり、同時に三つ以上の思考ができることから「ケルベロス」との異名もある。
・地球におけるナベリウス
ケルベロス、ケレブス、ケレベルスとしても知られ、ソロモンの霊七二人の一人である。召喚されると雄鶏あるいは黒い鴉の姿であらわれるらしいが、グリモアが主張していることろによると、「鳥のよう」でありながら、三つの頭を備えているのかもしれない。侯爵の位であって、ロジックやレトリックを教えるとともに、失った名誉や愛顧をとりもどしてくれる。
(フレッド・ゲティングズ著 大瀧啓祐訳『悪魔の辞典』より)
第二十四の精霊はナベリウスである。彼は最も優れた侯爵であり、魔法円の周りを飛び回る黒いつるの姿をとり、しわがわれた声で喋る。あらゆる術と学問を教え、特に修辞学に優れている。失われた名誉や地位を回復してくれる。19の精霊の軍団を率いる。
(編者:アレイスター・クロウリー、訳者:松田アフラ『ゲーティア・ソロモンの小さき鍵』より)
イギリスで発見されたグリモワール『ゴエティア』によると、19の軍団を指揮する序列24番の勇猛なる侯爵。
18世紀のものと考えられているグリモワール『大奥義書』によれば、ネビロスの支配下にあるという。一方、ナベリウス自身がネビロスと同一視されることもある。
召喚されると、カラスの姿で現れ、しわがれた声で話すという。あらゆる人文科学、自然科学を教え、特に修辞学に長けているという。また、失われた威厳や名誉を回復する力を持つともいう。
別名のケルベロスにあるように、ギリシア神話のケルベロスと関連付けられることもある。コラン・ド・プランシーは『地獄の辞典』においてナベリウスを「ケルベロス」の項目で扱っており、三つ頭の犬もしくはカラスの姿で現れるとしている。ルイ・ル・ブルトンによる挿絵では、三種類の犬の頭と鳥の脚と尾を備え、貴族風の服を着た悪魔が描かれている。
(Wikipediaより)
・ナベリウスのデザイン
物語の都合上、地界出身の「魔人」は二種出すことは決めていて、まず、味方となる方は当然「アモン」っしょ、ということで決まり、それから敵となる方を選ぶことになった。
アモンのデザインを鳥頭にしたため(これについては次回語る)、もう一人の魔人も鳥頭にしたいなぁという思いから、ソロモンの七十二柱の魔神をつらつらと眺め、ナベリウスに決めた。
その決め手となったのが、ケルベロスというワードである。この敵は強くないと面白くないので採用したのだが、だからといって三つ首のキャラにはしたくなかった。そこで「並列思考」という設定を思いついた。
ただこれだけだとちょっと物足りない。
そして Wikipediaさんの「ナベリウス自身がネビロスと同一視されることもある。」という記述をもとにネビロスから「望む相手に苦痛を与える力を持ち」と「未来を予見することにも長けている」という能力をいただくことにした。
このあたりはナベリウスという種族の固有魔法として設定した。
実は『虫の牙』の苦痛は、敵役としてナベリウスを採用する前から決めていたので、ちょうど整合が取れる(作者にとって)良い能力だったのである。
・地球におけるネビロス
ネビロス(Nebiros)は、ヨーロッパの伝承に伝わる悪魔の1人。魔術や悪魔学に関して記したグリモワールと呼ばれる一連の文献においてその名前が見られる。
18世紀もしくは19世紀に民間に流布したグリモワールの1つである『真正奥義書』によれば、ネビロスはアスタロトの配下の悪魔たちの長であり、アスタロト、サルガタナスとともにアメリカに住まう。HaelとSergulathという悪魔を配下に従えており、HaelとSergulathはさらにその下に8柱の精霊を従える。
『真正奥義書』と同じく18世紀以降に流布したと考えられているグリモワール『大奥義書』によれば、ネビロスは地獄の3人の支配者ルシファー、ベルゼビュート、アスタロトに仕える6柱の上級精霊の1柱であり、少将にして総監督官である。アイペロス、ナベルス、グラシャラボラスを配下に持つとされる。ナベルス(ナベリウス)とは同一視されることもある。あらゆる場所に赴き、地獄の軍勢を監視しているとされる。また、望む相手に苦痛を与える力を持ち、金属、鉱物、動植物の効能を知っているという。「栄光の手」と呼ばれる、死刑に処せられた者の手から作られる魔術の道具を見つけることも出来る。地獄の悪魔たちの中でもっとも優れた降霊術の使い手であり、未来を予見することにも長けている。
(Wikipediaより)
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