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#74 ゴーレム、大地に立つ
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食事を終えると、俺はまず馬車の荷台へと追い立てられた。
外套でしっかり体を覆い、藁を詰めた麻袋クッションを枕に横になる。
板張りの荷台は地面より固いが幌を締め切ると風をかなり防げるので、朝晩にはかなり涼しくなりつつある今の季節だと、睡眠の深さはさほど変わらない。
星の月は、順番的には地球の九月になるけれど、日本の季節でいうともう秋の半ばくらいの涼しさという印象だ。
それにマドハトが俺の背中にくっついて寝ているおかげで微妙に温かい。
マドハトの中では何らかの順位付けがあるようで、ルブルムやレムが俺にくっつくときはちょっと遠慮する。
今みたいに二人が最初の見張りとして俺から離れているようなときにはくっついてくる。
本当にハッタみたいだ。
そんなことを考えながら、俺は久しぶりに深い眠りに落ちた。
俺は丈侍とTRPGで遊んでいる。
システムはよく遊んだ大手のルールに似ているのだが、魔法の使用に関してだけはHPを削って使うという、ホルトゥスの魔法にちょっと似ている。
いや、厳密には消費するのはHPじゃなくHPの写しで、HPの写しが減少しているとそこまでしかHPが回復しないというややこしいシステムだ。
「これ、HPの写しがゼロ以下になったらどうなるんだ?」
丈侍が俺に尋ねる。
どうやら俺が作ったTRPGシステムということになっている。
「肉体とのつながりが切れてアンデッド化するんだ」
「体の方が? それとも魂の方が?」
「体は脳死状態みたいなもんだな。キャラシートと紐づく魂は、肉体的なステータスだけ斜線引いて、新たな肉体に宿るんだ。その肉体を支配下におければ、それを新たな肉体にする」
「支配下ってことは、生きている生物の体をってこと?」
「だよ」
「凶悪だな。なんかデメリットはある?」
「罪悪感」
そこで俺と丈侍が同時に笑う。
そんな光景を俺は俯瞰的に見てて、「懐かしいな」と感じる。
こんな風に新しいTRPGシステムを試していたあの頃を、そして、俺が昔、異世界で体験したことを元にルール化して――昔?
いや、今じゃないのか?
(利照)
(お兄ちゃん)
声が聞こえた。
ルブルムとレムの――このダイレクトに心に触れてくる感じは『テレパシー』か。
地球の情報を覚えた直後はカタカナで呼ばれていた印象の俺の名前も、最近は漢字の印象で伝わってくる。
ちょっと待て。ルブルムとレムの声は今?
だとしたら――夢だったのか。
(うん)
(もう少ししたら交代の時間だと思う)
交代――ああそうか。
確か見張りの順番は、最初がルブルムとレム。その次がメリアンとドマース、次がエクシとマドハト、俺とロッキンさんは明け方だったはず。
(ずっと起きてたのか?)
(ちゃんと寝た。でも目が覚めた。外を見たら月の位置は交代の頃に見えたから、利照に声をかけても大丈夫だと思った)
(ありがとう。起こしてくれたのか)
(……利照と、話したかった。ずっと話せていなかったから)
(そうそう。お兄ちゃん、なんか様子が変だったから心配で)
俺のことをちゃんと気に留めてくれている人が居るということに、嬉しさと申し訳なさとを感じる。
(……初めてなんだ。人を殺すのが。しかも過剰防衛というか、野盗どもと戦ったときとは違う)
(そっか。地球は……ママやお兄ちゃんたちの住んでた所では、死が遠かったんだもんね?)
(リテルの記憶には、動物を殺した記憶があったと聞いている)
ルブルムのこの指摘は、この世界の常識からするとおかしくはない。
動物を殺したから人も殺せるはず、というのは、全ての命に重みがあるという考え方。
確かに、リテルは獣の――人以外の命は奪ってきている。
俺の意識がリテルの体を使うようになってからも、魔獣の命は奪ったりしている。
そうか。そうだよな。
俺は、命を奪うこと自体は初めてじゃないんだ。
命の重みは、人だとか人じゃないとか、そういうことに関わらず等しく尊く存在する。
リテルがマクミラ師匠に言われていた言葉の端っこを、閃きのように理解した。
そうか。
紳士っていうのは、そういうことか。
リテルがマクミラ師匠に言われていたときの記憶自体は参照していた。
でも、恐らくはリテルが理解していたであろう紳士の思考には、今まで俺は届いていなくて、今ようやくたどり着けたのかもしれない。
全ての命に対して等しく尊さを感じることで、殺すことも殺されることにも落ち着きを失わずにいられる、そんな感覚。
ルブルムの一言のおかげで、マクミラ師匠の言葉に、リテルの想いに、繋がれたような気がする。
(ルブルムも、レムも、ありがとう。なんだか少しだけ、向き合うことができたかも)
(よかった)
(どういたしまして。じゃあさ)
(ん?)
レムから流れてくる意識に、なんだか妙なプレッシャーを感じた。
(聞かせてほしいな。フラマとのこと)
(私も聞きたい)
(フ、フラマさんとのっ?)
なんでここでフラマさん?
(あ、あれは情報をもらうために)
(うん。詳しく教えて)
(詳しくって……)
(娼婦は男を喜ばせるための技術を持つとメリアンから聞いた。利照が体験したのなら、私もそれを学びたい)
メリアンめ。なんつーことをルブルムに教えてるんだよ。
(私やルブルムなら、お金取らずにやってあげられるよ?)
不意にヒモパン姿のフラマさんを脳裏に思い出しかけ――いや、今はマズイだろと違うことを考える。
そうそう。ヒモパン!
(いや、俺は何もしてないよ。下着も脱いでないし)
(俺は、だってさ、ルブルム)
(ということは、フラマの方が脱いだということか?)
(いやいや、脱いでない脱いでない。ヒモパン着けてたから)
(ヒモパン?)
(それは服の名前なのか?)
(ああ、そう。地球の……日本の言葉にすごく似ていて、形も。きっとあれは俺以外の日本人がこちらに転生してきて)
(見せて)
(私も見たい)
(見たい?)
(イメージを送ることができる、というのは利照に教えてもらった)
フラマさんがヒモパンを着けていたときの格好――は、ちょっと見せるわけにはいかないような。
(見・せ・て)
(隠さなければならないものなのか?)
(そ、そうじゃないけど)
(ね、ルブルム。隠す理由があると思うんだけど)
(利照は私に嘘はつかない)
(だよね。じゃあ何も隠さずにヒモパンを見た時の光景を送ってきてくれるはずだよね?)
これはもう無理だ。
覚悟を決めて、フラマさんのヒモパン姿を思い出し、二人へと送る。
目の前へと迫ったフラマさんのくびれから腰、すらりと伸びた膝にかけてのライン。
その中央に、この世界では見慣れないヒモパン。
両側の腰骨付近で結ばれた紐は、左右の輪っかがダブルになっている蝶結び。
そして、フラマさんの股の間から見える、ジャック様の恥態。
一番重要なのは、フラマさんが外させようとした紐を、俺が抵抗して外さなかったっという部分。
(こんな感じだよ。一生懸命、抗ったんだ。あくまでも情報収集のためにね)
送った途端、二人の様々な感情が津波のように押し寄せてきた。
(なんで見せてくれるのは一部分だけなの?)
レムのこの追求姿勢……き、君は妹なんだからそんな怒った感じ出さなくていいんじゃないかな。
(性交できないのだから、ベッドの上に乗る必要はないはず)
ルブルムまで。
(こ、これは、念のため、ジャック様に情報収集を悟られないようにというか)
(フラマのおっぱいはすごかったんでしょ?)
(それ、私も気になる)
(いや、俺だってそんなにあちこちのおっぱい見ているわけじゃないし、何が違うとかわからないよ)
(私のと比べてどうだった?)
(やっぱりお兄ちゃん、ルブルムとそういう関係?)
(いやだからあれは)
(そういえば、私はリテルのを触ったけど、私のを触らせてなかった。触れないと違いがわからないのか?)
(え? もしかしてお兄ちゃん、ルブルムにしか反応しないの?)
(だっ、誰にも反応しません!)
(ますますどういうこと?)
話がこじれ過ぎている。
俺はいったん、ルブルムとだけ話をした――『テレパシー』を、二人同時に接続するのは俺ならできるけど、ルブルムとレムは『遠話』の延長として理解しているせいでうまく接続できていない。
俺の方は、能動的に接続するときも、受動的に接続するときも、複数人同時に接続できるのだけれど、二人は「ポートが複数ある」というイメージを送っても、実体験として経験していないせいか、うまく理解出来ないようなのだ。
知識だけあってもその奥の思考にたどり着けないでいたたった今の俺と同じなのかもしれない。
だから今回、ルブルムからと、レムからと、それぞれ別々に接続してきた感じ。
俺はいったんレムの方の接続をいったん保留して、ルブルムと話し合う。
レムを信用して情報をある程度共有しないか、という提案に、ルブルムは賛同してくれた。
改めてレムも交えてこれまでの経緯をかいつまんで伝える。
呪詛のことと、ラビツを追っている真の理由。
マドハトのこと、『取り替え子』のことと、エクシとエクシのこと。
ルブルムとのやり取りに関しては、魔術師の先輩から「色仕掛けに耐える修行」として強いられたこと。
ディナ先輩の個人情報に関する詳細はそれでも省いたものの、ウォルラースがその先輩の仇であることも。
あとは、フラマさんの演技に付き合った経緯と、逮捕後の牢獄でのやりとり。
フラマさんがポーを見ることが出来たこと。
ここでポーが黒い玉のイメージで現れる。
レムールの説明とポーの紹介をする。
それから彼女の父が地界出身で、その仇と言っていた奴が、ウォルラースの仲間の凄腕と同じ奴かもしれないこと。
ヒモパンについては、本当に純粋に元の世界への手がかりとしてのみの興味で、やましい気持ちは全くなかったこと。
ついでにラビツの顔のイメージも二人に送っておく。
俺と、もともとケティが同行していたのも、ラビツの顔を知っているのが俺とケティしか居なかったというのもあって、二人がラビツの顔を覚えておいてくれたら、何かのときに役立つかもしれない。
あと、メリアンもラビツを知っているということも改めて共有した。
(……じゃあさ、ケティはリテルの恋人だけど、お兄ちゃんはルブルムの方が好きってこと?)
これだけ色々話して最初はそれかい。
ただここで照れたり恥ずかしがってはぐらかすのはルブルムを傷つける、そんな気がしたからすぐに答えた。
(ルブルムの方が好きだし大事だよ)
(じゃあ、もしも利照お兄ちゃんとしての体を手に入れるのにとっても時間がかかったら、その間はどうやって暮らすの? リテルの体のままだったら、二人とも結婚するの?)
時間がかかったら――それは目を逸らしていた可能性。
(魔術師ならば他の職業より稼げるでしょ? 王都から勧誘くるくらいなら、お兄ちゃん、妻を三人くらいは養えるんじゃない?)
(いやでも勧誘は断ったし、王都からの勧誘を受けたらカエルレウム師匠を裏切ることになる気もするし。そもそもまだ見習いだし……って、さ、三人?)
(呪詛が治ったら、私ともできるでしょ? あ、もちろん、私は三番目でいいよ?)
(ちょ、ちょっと待って。レムは妹で)
(結婚を、私ができるなんて、考えたこともなかった)
(ルブルムは可愛いのに結婚しないなんてもったいないよ。あと妹って言っても、私の村では世代ひとくくりで同じ名前っての前に話したでしょ? 兄弟姉妹みたいに育つんだよ? でもその中で結婚すること多かったから、全然大丈夫)
(性交をするなら結婚してからとディナ先輩も言っていたから、利照と性交するなら結婚が必要だ)
おいおい。ルブルム。さっきはディナ先輩の個人情報伏せて話してたでしょ?
とツッコんだところで、現状のこのむず痒いハーレム感は消えたりしない。
そう。嬉しさよりも、ムズムズモヤモヤの方が大きいんだよな。
地球に居た頃、俺にすり寄ってきたのは実は英志狙いの沢地さんだけだったし、モテるということに不安しかないのが本音。
冷静になって考えれば、ケティが好きなのはリテルだし、俺ではないし、ハーレムとは違うんだよな。
ケティは自分以外の女と、ってのは許さなさそうなタイプだし。
ルブルムだってそうだろう。
ルブルム自身がどう言おうと、リテル状態のままだったらディナ先輩が許すわけがない。というか俺が体を手に入れたとしても許さないって可能性が断然高いんだけど。
(待て待て待て。落ち着け。状況的に俺がこの体を手に入れるまではそんなことは無理だと思う。相思相愛なリテルとケティを傷つけかねないし、ルブルムを溺愛する先輩もそんな中途半端は許さないと思うよ)
(じゃあ、早くラビツ見つけないとね。そしてお兄ちゃんの体を手に入れないと)
実際、そこがネックなんだよな。
移る方法を見つけたとしても、新しい体をどうやって用意するかだよ。
夢で見たように他人の体を奪ったとしたら、そこでまたリテルの体を強奪している今みたいな苦しみが新しく発生しそう。
かといって人以外のモノに宿ってゾンビー化したとしたら、それこそナニがないから寿命の渦が尽きるまで童貞とか。
待て、俺。
また余計な思考で足踏みするところだった。
(そうだな。早くラビツを見つけよう)
今はそれが最優先だ。
だとしても、将来のことは全く考えていなかったことは反省しよう。
この状態が長期化したときのことを考えないでいるわけにはいかないだろう。
(私は、利照がドマースから習った魔法も知りたい)
ルブルムの一言で、話題が魔法のことへと変わる。
『腐臭の居眠り』と『目覚まし』の説明をする。
『腐臭の居眠り』については俺は肉を眠らせるという解釈だったが、ルブルムが「肉を腐らせるもの」自体を眠らせるのではないかと言ってくれたおかげで、記憶の中よりも魔法代償を小さくできた。
『テレパシー』の中では魔法は発動しないのだが、イメージに対する魔法代償はなんとなくこのくらいなのだと把握できる。
なので、記憶と比べて魔法代償が減るように改良する、なんて芸当も不可能ではない。
ただ、これについては俺だけのようで、ルブルムやレムは「よくわからない」らしい。
魔術特異症のおかげなのかな。
そのドマースのことで、もう一つ話題が持ち上がった。
あの肉は、毒入りだったのかどうか、ということ。
ドマースが自分だけ毒対策をした上で全員にそれを食べさせれば、一人だけ生き残ることも可能だと。
どうやら、ルブルムとレムはそれを疑っていて、恐らくメリアンも食べなかった真の理由はそれじゃないかと。
俺はヘイヤのことばかり考えていて、そういう仮定はまったく立てていなかった。
ディナ先輩が居たら相当怒られたよね。
俺は、ルブルムやリテル自身をも守ると決めたのだから、そういう可能性の思考を手放してはいけないのだ。
自身の甘さを痛感し、深く反省し始めたとき、マドハトが俺を起こした。
馬車の外へ出ると、寒さにシャキッとする。
ロッキンさんを目視確認した後、逆側を見張る。
一人になると思考が捗る。
今、特に頭に浮かぶのはリテルと俺の未来について。
リテルは次男なので、家業の農夫はビンスン兄ちゃんが継ぐ。
というかビンスン兄ちゃんが結婚したら、恐らくリテルとビンスン兄ちゃんの部屋が夫婦の部屋になるだろうから、リテルは家を出ることを考えなくちゃいけなくなる。
猟師としての腕はマクミラ師匠には敵わないし、だいいちストウ村に許可される狩猟数を考えると、二人目の猟師で生計を立てるのは難しい。
テニール兄貴みたいに門番をしつつ、狩猟と農業とを手伝って――うーん。子供が生まれたら、とてもじゃないが二人目の妻というのは非現実的だ。
ケティが父親の跡を継いだ場合は、リテルも鍛冶屋見習いになって、二人で鍛冶屋を継いで――このケースもリテルは考えていたようだが、どちらにしてもルブルムまでそばに居る選択肢はなくなってしまう。
まあ実際、それで間違っていないんだけどな。リテルの人生にはルブルムなんて居なかったのだから。
となると何がなんでも俺はリテルから離れる必要が出てくるよなぁ。
魂と俺の分の寿命の渦だけ――アニマ分だけ分離して、そこに体を用意する。
ここまでは多分、理論的には可能で、問題はその先。
誰の魂も入っていない肉体が用意できるのかってとこ。
魂の切り離された死者の肉体をもらうっていうのも抵抗があるし、一から作るホムンクルスだと小さいって聞いたもんなぁ。
ルブルムやアルブムはホムンクルスとはいっても結果的には体外受精みたいなもんだし、育つまでにかなりの時間かかっているし、それまでリテルとケティを待たせるのは難しいよね。
ケティとリテルとの初めては、俺が抜けた後の本物のリテルたちでやってもらいたいし。
もういっそ――あっ。
唐突に思い出す。
ゴーレムのことを。
今回は弓に矢筒、自分の背負い袋も持ち出している。
その背負い袋から、ディナ先輩にもらったものを取り出した。
二本の革ベルトがクロスしてX型になった交差部分の金具に紅魔石が取り付けられているもの。
確かこれを取り付けたものをゴーレム化できるという魔法品。
そして、この指輪。
この紅魔石内に格納された魔法と紐づけてあって、ゴーレムの主となれる指輪。
本来ならば可動部分や顔を備えた人形を造るって言っていたけれど、そこいらの石でもいいとも言っていた。
動かすならそういう人形を用意するべきかもだけど、今の俺に必要な用途はそうじゃないから。
ゴーレムを起点として感知ができるし、魔法を封じておくこともできるという、その効果が欲しいのだ。
通信の魔法を使えれば、ルブルムと離れていても連絡取れるし。
なら、石でいいよな。
そう考えたのは、ベルトや指輪を探す際に、背負い袋の中に石を見つけたから。
すっかり忘れていたけれど、ロービンから別れ際にもらった「魔術師が喜ぶ」という――確か「卵石」。
手のひらに収まるくらいの大きさだからベルトはかなり余るけど、重要なのは金具の紅魔石に人形や石の本体が触れていることだから。
ベルトなんて後で交換しても構わない。
魔術師が喜ぶというのは、魔法にも伝導率みたいなのがあって、それの効率が良い石とかなのかな?
逸る気持ちを落ち着けてから紅魔石を起動する――おっ、指輪に『遠話』や『テレパシー』のような接続感がある。
急いで卵石を取り付け、ベルトをきちっと留めると、指輪の向こう側、つまりゴーレムと妙な一体感を感じる。
これがゴーレムか。
動かせるんだよな。
ドキドキしながら地面へと置いてみる。
前へ回転――と念じると、ころり、ころり、と転がり始める。
こいつ、動くぞ!
初めて寿命の渦を動かしたとき以来の感動。
落ち着け、俺。
こんな段階で喜んでいる場合じゃない。
ゴーレム側に意識を集中して、ゴーレムから『魔力感知』――おおっ!
俺の寿命の渦を少し離れた場所に感じる。
これ、本体と同時に『魔力感知』したらどうなるんだ?
うわっ!
今、やばかった。
なんか脳みそがぐちゃぐちゃになりそうだった。
今まで立体に感じていた世界が実は二次元的で、その先にある本当の三次元を知ってしまったような。
びっくりするほど全ての寿命の渦が鮮明で、その情報量の多さに脳が全く追いつかないというか。
でも、最初に『魔力感知』を覚えたときも世界の眩しさに圧倒されたっけ。
情報量を絞ってやってみるか。
じぶんの『魔力感知』と、ゴーレム経由の『魔力感知』と両方を、浅く、薄く、控えめに――すげぇ。
解像度を粗くしているのに、くっきりと見えるというか。
早速、魔法を試してみよう。
『弱火』――うーん。
発動しない。
いや待てよ。
レムが『同胞の絆』を使ったときは遠隔で魔法を使えていた。
ということは、そういう接続の方法を取れば、ゴーレム経由で魔法を使えるよな。
ゴーレムは鼓動を持たないけれど、自分自身と同じだから――『同胞の絆』のイメージを元にして新しい魔法を作ってみよう。 魔法の名前は『ゴーレムの絆』だ。
発動して――つながったっぽいな?
よし。『弱火』――点いた!
多分、一ホーラくらいは繋がったままのはず。
距離がどのくらい離れても有効なのかは検証が必要だけど、これはいざというときに役立つ――そのとき、視線を感じた。
慌てて振り向くと、ロッキンさんがこちらをじっと見つめていた。
● 主な登場者
・有主利照/リテル
猿種、十五歳。リテルの体と記憶、利照の自意識と記憶とを持つ。魔術師見習い。
ゴブリン用呪詛と『虫の牙』の呪詛と二つの呪詛に感染。レムールのポーとも契約。とうとう殺人を経験。
・幕道丈侍
小三から高一までずっと同じクラスの、元の世界で唯一仲が良かった友達。交換ノベルゲームをしていた。
彼の弟、昏陽に両親も含めた家族四人全員が眼鏡使用者。一緒にTRPGでも遊んでいた。
・沢地怜慈奈
元の世界において、利照の弟である英志狙いで利照に近づいた同級生の女子。
・ケティ
リテルの幼馴染の女子。猿種、十六歳。黒い瞳に黒髪、肌は日焼けで薄い褐色の美人。胸も大きい。
リテルとは両想い。フォーリーから合流したがリテルたちの足を引っ張りたくないと引き返した。ディナ先輩への荷物を託してある。
・マクミラ師匠
ストウ村の住人。リテルにとって狩人の師匠。猿種の男性。かなりの紳士。実績紋持ち。
出身はストウ村ではなく、若い頃は定期便の護衛をしながら旅をしていた。
・ラビツ
久々に南の山を越えてストウ村を訪れた傭兵四人組の一人。ケティの唇を奪った。
アイシスでもやはり娼館街を訪れていて、二日前にアイシスを出発していた。ギルフォドへ向かっている可能性が大。
・マドハト
ゴブリン魔法『取り替え子』の被害者。ゴド村の住人で、今は犬種の体を取り戻している。
元の世界で飼っていたコーギーのハッタに似ている。変な歌とゴブリン語とゴブリン魔法を知っている。地味に魔法勉強中。
・ルブルム
魔女様の弟子である赤髪の少女。整った顔立ちのクールビューティー。華奢な猿種。
魔法も戦闘もレベルが高く、知的好奇心も旺盛。親しい人を傷つけてしまっていると自分を責めがち。
・アルブム
魔女様の弟子である白髪に銀の瞳の少女。鼠種の兎亜種。
外見はリテルよりも二、三歳若い。知的好奇心が旺盛。
・カエルレウム
寄らずの森の魔女様。深い青のストレートロングの髪が膝くらいまである猿種。
ルブルムとアルブムをホムンクルスとして生み出し、リテルの魔法の師匠となった。『解呪の呪詛』を作成中。
・ディナ
カエルレウムの弟子。ルブルムの先輩にあたる。重度で極度の男嫌い。壮絶な過去がある。
アールヴを母に持ち、猿種を父に持つ。精霊と契約している。トシテルをようやく信用してくれた。
・ウェス
ディナに仕えており、御者の他、幅広く仕事をこなす。肌は浅黒く、ショートカットのお姉さん。蝙蝠種。
魔法を使えないときのためにと麻痺毒の入った金属製の筒をくれた。
・『虫の牙』所持者
キカイー白爵の館に居た警備兵と思われる人物。
呪詛の傷を与えるの魔法武器『虫の牙』を所持し、ディナに呪詛の傷を付けた。フラマの父の仇でもありそう。
・メリアン
ディナ先輩が手配した護衛。リテルたちを鍛える依頼も同時に受けている。ラビツとは傭兵仲間。
ものすごい筋肉と角と副乳とを持つ牛種の半返りの女傭兵。知識も豊富で頼れる。
・エクシ(クッサンドラ)
ゴド村で中身がゴブリンなマドハトの面倒をよく見てくれた犬種の先祖返り。ポメラニアン顔。
クスフォード領兵であり、偵察兵。若干だが魔法を使える。マドハトの『取り替え子』により現在、エクシの体に入っている。
・レム
爬虫種。胸が大きい。バータフラ世代の五人目の生き残り。不本意ながら盗賊団に加担していた。
同じく仕方なく加担していたミンを殺したウォルラースを憎んでいる。トシテルの心の妹。現在、護衛として同行。
・ウォルラース
キカイーがディナたちに興味を示すよう唆した張本人。過去にディナを拉致しようとした。金のためならば平気で人を殺す。
ダイクの作った盗賊団に一枚噛んだが、逃走。海象種の半返り。
・ロッキン
名無し森砦の守備隊第二隊副隊長であり勲爵。フライ濁爵の三男。
現在はルブルムたちの護衛として同行している。婚約者が居て、その婚約者のためにヴィルジナリスの誓いを立てている。
・チェッシャー
姉の薬を買うための寿命売りでフォーリーへ向かう途中、野盗に襲われ街道脇に逃げ込んでいたのをリテルに救われた。
猫種の半返りの女子。宵闇通りで娼婦をしているが魔法を使い貞操は守り抜いている。リテルに告白した。
・ヘイヤ
鼠種の兎亜種の先祖返り。茶色い夏毛の兎顔。身なりのよさそうなコート、動きやすさ重視の軽革鎧。
膝までのブーツ、胸元に蝶ネクタイ。ドマースに同行していた武闘派だが、リテルの過剰防衛により死亡。身内はいない。
・ドマース
鼠種先祖返り。ハムスター似。貴族の十男だった魔術師。身なりのよさそうなコートに蝶ネクタイ。
スノドロッフの住民拉致事件の関係者に接触を図ったが、エクシへのアプローチに失敗。次の町まで同行。
・レムール
レムールは単数形で、複数形はレムルースとなる。地界に生息する、肉体を持たず精神だけの種族。
自身の能力を提供することにより肉体を持つ生命体と共生する。『虫の牙』による呪詛傷は、強制召喚されたレムールだった。
■ はみ出しコラム【フォーリー出発~アイシスまでのリテルの魔法】
※ 用語おさらい
・世界の真理:魔法の元となる思考について、より魔法代償が減る思考について「世界の真理に近づいた」と表現する。物理法則に則った思考をすると世界の真理となるようである。その思考自体が同じでも、思考への理解度が浅いと魔法代償は増加する。
・寿命の渦:生命体の肉体と魂とをつなげる「寿命」は、生物種毎に一定の形や色、回転を行う。これを寿命の渦と呼ぶ。兵士や傭兵は気配と呼ぶ。
※ 技術おさらい
魔法使用に関する技術。
・『魔力感知』:範囲内の寿命の渦や消費命の流れを感知する。
・消費命:魔法を発動する際に魔法により要求、消費する魔法代償に充てるため、寿命の渦からごく一部を分けて事前に用意しておいたもの。
・偽装の渦:本来の自分の寿命の渦ではなく、あえて別の生物種の寿命の渦や、まるで寿命の渦が存在しないかのように意図的に寿命の渦の形を変えて偽装した状態のこと。
・偽装消費命:消費命自体について、その集中から消費までの間、存在しないかのように偽装したもの。魔術師の中においても一般的ではない技術。
・『戦技』:何度も繰り返した体の動きを再現する魔法的効果。ただ、消費命を消費して魔法を発動するよりも、気配を消費して戦技を発動する方が早い。
・『魔力探知機』:『魔力感知』は自分を中心とした円範囲だが、こちらの魔法は細く長く棒状に伸ばした精度の高い『魔力感知』を、自分を中心として回転させ、魚群探知機のように、周囲の気配を探る。利照のオリジナル技術。
※ 習得した魔法
・『安心』:ルブルムから聞いた魔法。動物を落ち着かせる魔法。
・『魔石調査』:二つの発動モードがあって、片方は半径「自分の身長」範囲内の魔石を感知できるという「範囲モード」。もう一つの「単体モード」は、手のひらをかざして非接触で魔石の中身をまるで触れているかのように確認できる。しかも一度使ってみなくとも、使ってみたのと同様に中の魔法に「触る」ことができる。「単体モード」で魔法代償を余分に消費すれば、かざした手のひらから魔石までの距離を若干伸ばせるという優れ魔法。
・『森の平穏』:一種類の木材を途切れないように地面に並べて円を描くと、その木材以外の臭いはその円を通り抜けられないというホブゴブリン魔法。しかも魔法の効果範囲は球体になるので、空中を飛ぶ虫などに対しても効果がある。その木を途切れさせたりさえしなければ、六ホーラも効果が継続するという優れ魔法。地面に並べた木は途切れなくとも動かしてしまえば魔法効果は消えてしまうので場所の移動はできない。
・『見えざる弓』:魔法を発動するとわずかな間だけ、弓の「影」を呼び出すというホブゴブリン魔法。この弓の「影」は、今までに一番使い込んだ弓と同じ性能で、しかも矢だけじゃなく三本の指で横向きにつまめるものであれば小石だろうが木の枝だろうが短剣だろうがなんだって射ることができる。唯一の制約は、光源がない真の闇の下では弓が出てこないというもの。
・『大笑いのぬかるみ』:「あそこの地面をぬかるませて少し濡れた氷の上よりもツルツルにするぜ」という効果を生み出すゴブリン魔法。地面の摩擦係数を限りなくゼロに近づける効果。「地面はつながっているから」ツルツルする場所に直接触っていなくてよい。距離と範囲によって要求される魔法代償が変わる。
・『カウダの毒消し』:カウダの麻痺毒専用の毒消し
・『熱の瞳』:いわゆるインフラビジョン。生物が発する遠赤外線を見える。赤外線カメラではなくサーマルカメラに近い。ただし、色つけ加工はなし。暗闇でも熱源で見ることができる。『魔力感知』を使える者ならば、視界を通常視界と切り替えることができる。レムから習ったミュリエルのオリジナル魔法。
・『魔力感知逃れの衣』:『魔力感知』が触れたときに「何もない」として反応を返す魔法。『魔力感知』の密度などを変化させることで、「何もない」をあぶり出すことは可能。この魔法の利点は、魔法代償の集中もごまかせる点。ただし、「何もない」をあぶり出せている状態なら、魔法代償の消費をうっすらと感知できる可能性はある。レムから習ったミュリエルのオリジナル魔法。
・『同胞の導き』:触れている相手に鼓動の速度を合わせる魔法。レムから習ったミュリエルのオリジナル魔法。
・『同胞の絆』:バータフラの中ではレムにしか使えない魔術。触れた相手に呼吸と鼓動速度を合わせながら使用すると、その相手と五感の一つを共有できる。一回使用すると、半ホーラは効果が継続する。追加魔法代償で、五感を増やせる。魔術を使用する時点で、合っていれば、その後呼吸や鼓動が合わなくなっても問題ない。ただし、共有している感覚については、術者自身の体を動かせなくなる。共有された側は、共有を感知できる。対象が意識を失ったり、コントロールを失っていると、術者が能動的に動かすことができる。味覚を共有できると会話が可能であり、触覚を共有できると体を動かすことができる。魔法の対象者が、睡眠や麻痺毒で意識を失っている場合、または死亡した場合、その体を代わりに動かすことが可能。共有するのは感覚だけで、思考は共有できない。また、意識はつながっているので、実は術者と対象とはそれを足がかりに寿命の渦もつながることができる。すると、記憶を覗くことができる。レムから習ったミュリエルのオリジナル魔法。
・『身籠りの祝福』:女性の子宮の生理周期を強引に「回復」という考え方で圧縮し、妊娠可能状態まで進める魔術。その強制的な「回復」効果は、生理の際の痛みを遥かに超える痛みを対象者へともたらす。ウォルラースが女性への攻撃に用いた「孕み願い石」という魔法品に格納されていた魔法。
・『燃える夢』:枯れ枝などに使う。対象の大きさにより魔法代償が異なる。その枝に、火を点けたときの夢を見せる。枝は燃えている夢を見て、その光が夢の外側へと漏れる。枝は燃え尽きるまで光を出す。実際に燃えているわけじゃないので熱くはないが、燃え尽きたあと、実際に燃えたように黒く崩れてしまう。
・『遠回りの掟』:物質を空間に固定する魔法。実際には「慣性の法則」を(地球における)12秒ほど、別次元を経由させて戻している。それなりの大きさの非生命体を対象にできる。スノドロッフの魔法。リテルは、教えてもらったこの魔法を(『弱火』のように)解釈し、大きさと時間を変換できるようにした。ちなみに基本の対象サイズは、(地球における)12kgくらいの岩。
・『接触発動』:何かに触れたら発動する魔法。単体では意味がなく、発動時には別の魔法も同時に使う必要がある。スノドロッフの魔法。『接触発動』は魔法発動時に触れているモノは「接触」条件の対象外になる。
・『新たなる生』:寿命の渦を記憶している生物の幻影を寿命の渦の幻影込みで作り出すことができる。クラーリンより習った魔法。ある一定の大きさ以上の寿命の渦を持つ者に触れられると消える。幻影は意識を集中している間だけ動かせる。
※ 利照のオリジナル魔法
・『声真似』:自分の聞いたことのある声そっくりに声真似する。一度変えたら魔法効果時間が経過するまで元の声に戻らないが、魔法代償を減らすために切り替えはできないようにした。
・『磁気帯びプラス』:金属を一時的に磁石化する
・『磁気帯びマイナス』:金属を一時的に磁石化する
・『皮膚硬化解除』:『皮膚硬化』と真逆の状態を作り出す。
・『テレパシー』:触れている対象と、『遠話』や『同胞の絆』同様に、精神的通話を可能にする。精神的通話での情報やりとりは非常に大容量で早い。言語化できない感情やイメージなどもやりとりが可能。また、自身を対象に『テレパシー』を発動すると、自分の記憶を「まるで今その場で起きたかのように」思い出すことができる。利照が他人の精神へ接続する際、最初にUSBポートをイメージしたため、USBを知識ではなく経験として体感している利照だけは複数人同時接続が可能である。
外套でしっかり体を覆い、藁を詰めた麻袋クッションを枕に横になる。
板張りの荷台は地面より固いが幌を締め切ると風をかなり防げるので、朝晩にはかなり涼しくなりつつある今の季節だと、睡眠の深さはさほど変わらない。
星の月は、順番的には地球の九月になるけれど、日本の季節でいうともう秋の半ばくらいの涼しさという印象だ。
それにマドハトが俺の背中にくっついて寝ているおかげで微妙に温かい。
マドハトの中では何らかの順位付けがあるようで、ルブルムやレムが俺にくっつくときはちょっと遠慮する。
今みたいに二人が最初の見張りとして俺から離れているようなときにはくっついてくる。
本当にハッタみたいだ。
そんなことを考えながら、俺は久しぶりに深い眠りに落ちた。
俺は丈侍とTRPGで遊んでいる。
システムはよく遊んだ大手のルールに似ているのだが、魔法の使用に関してだけはHPを削って使うという、ホルトゥスの魔法にちょっと似ている。
いや、厳密には消費するのはHPじゃなくHPの写しで、HPの写しが減少しているとそこまでしかHPが回復しないというややこしいシステムだ。
「これ、HPの写しがゼロ以下になったらどうなるんだ?」
丈侍が俺に尋ねる。
どうやら俺が作ったTRPGシステムということになっている。
「肉体とのつながりが切れてアンデッド化するんだ」
「体の方が? それとも魂の方が?」
「体は脳死状態みたいなもんだな。キャラシートと紐づく魂は、肉体的なステータスだけ斜線引いて、新たな肉体に宿るんだ。その肉体を支配下におければ、それを新たな肉体にする」
「支配下ってことは、生きている生物の体をってこと?」
「だよ」
「凶悪だな。なんかデメリットはある?」
「罪悪感」
そこで俺と丈侍が同時に笑う。
そんな光景を俺は俯瞰的に見てて、「懐かしいな」と感じる。
こんな風に新しいTRPGシステムを試していたあの頃を、そして、俺が昔、異世界で体験したことを元にルール化して――昔?
いや、今じゃないのか?
(利照)
(お兄ちゃん)
声が聞こえた。
ルブルムとレムの――このダイレクトに心に触れてくる感じは『テレパシー』か。
地球の情報を覚えた直後はカタカナで呼ばれていた印象の俺の名前も、最近は漢字の印象で伝わってくる。
ちょっと待て。ルブルムとレムの声は今?
だとしたら――夢だったのか。
(うん)
(もう少ししたら交代の時間だと思う)
交代――ああそうか。
確か見張りの順番は、最初がルブルムとレム。その次がメリアンとドマース、次がエクシとマドハト、俺とロッキンさんは明け方だったはず。
(ずっと起きてたのか?)
(ちゃんと寝た。でも目が覚めた。外を見たら月の位置は交代の頃に見えたから、利照に声をかけても大丈夫だと思った)
(ありがとう。起こしてくれたのか)
(……利照と、話したかった。ずっと話せていなかったから)
(そうそう。お兄ちゃん、なんか様子が変だったから心配で)
俺のことをちゃんと気に留めてくれている人が居るということに、嬉しさと申し訳なさとを感じる。
(……初めてなんだ。人を殺すのが。しかも過剰防衛というか、野盗どもと戦ったときとは違う)
(そっか。地球は……ママやお兄ちゃんたちの住んでた所では、死が遠かったんだもんね?)
(リテルの記憶には、動物を殺した記憶があったと聞いている)
ルブルムのこの指摘は、この世界の常識からするとおかしくはない。
動物を殺したから人も殺せるはず、というのは、全ての命に重みがあるという考え方。
確かに、リテルは獣の――人以外の命は奪ってきている。
俺の意識がリテルの体を使うようになってからも、魔獣の命は奪ったりしている。
そうか。そうだよな。
俺は、命を奪うこと自体は初めてじゃないんだ。
命の重みは、人だとか人じゃないとか、そういうことに関わらず等しく尊く存在する。
リテルがマクミラ師匠に言われていた言葉の端っこを、閃きのように理解した。
そうか。
紳士っていうのは、そういうことか。
リテルがマクミラ師匠に言われていたときの記憶自体は参照していた。
でも、恐らくはリテルが理解していたであろう紳士の思考には、今まで俺は届いていなくて、今ようやくたどり着けたのかもしれない。
全ての命に対して等しく尊さを感じることで、殺すことも殺されることにも落ち着きを失わずにいられる、そんな感覚。
ルブルムの一言のおかげで、マクミラ師匠の言葉に、リテルの想いに、繋がれたような気がする。
(ルブルムも、レムも、ありがとう。なんだか少しだけ、向き合うことができたかも)
(よかった)
(どういたしまして。じゃあさ)
(ん?)
レムから流れてくる意識に、なんだか妙なプレッシャーを感じた。
(聞かせてほしいな。フラマとのこと)
(私も聞きたい)
(フ、フラマさんとのっ?)
なんでここでフラマさん?
(あ、あれは情報をもらうために)
(うん。詳しく教えて)
(詳しくって……)
(娼婦は男を喜ばせるための技術を持つとメリアンから聞いた。利照が体験したのなら、私もそれを学びたい)
メリアンめ。なんつーことをルブルムに教えてるんだよ。
(私やルブルムなら、お金取らずにやってあげられるよ?)
不意にヒモパン姿のフラマさんを脳裏に思い出しかけ――いや、今はマズイだろと違うことを考える。
そうそう。ヒモパン!
(いや、俺は何もしてないよ。下着も脱いでないし)
(俺は、だってさ、ルブルム)
(ということは、フラマの方が脱いだということか?)
(いやいや、脱いでない脱いでない。ヒモパン着けてたから)
(ヒモパン?)
(それは服の名前なのか?)
(ああ、そう。地球の……日本の言葉にすごく似ていて、形も。きっとあれは俺以外の日本人がこちらに転生してきて)
(見せて)
(私も見たい)
(見たい?)
(イメージを送ることができる、というのは利照に教えてもらった)
フラマさんがヒモパンを着けていたときの格好――は、ちょっと見せるわけにはいかないような。
(見・せ・て)
(隠さなければならないものなのか?)
(そ、そうじゃないけど)
(ね、ルブルム。隠す理由があると思うんだけど)
(利照は私に嘘はつかない)
(だよね。じゃあ何も隠さずにヒモパンを見た時の光景を送ってきてくれるはずだよね?)
これはもう無理だ。
覚悟を決めて、フラマさんのヒモパン姿を思い出し、二人へと送る。
目の前へと迫ったフラマさんのくびれから腰、すらりと伸びた膝にかけてのライン。
その中央に、この世界では見慣れないヒモパン。
両側の腰骨付近で結ばれた紐は、左右の輪っかがダブルになっている蝶結び。
そして、フラマさんの股の間から見える、ジャック様の恥態。
一番重要なのは、フラマさんが外させようとした紐を、俺が抵抗して外さなかったっという部分。
(こんな感じだよ。一生懸命、抗ったんだ。あくまでも情報収集のためにね)
送った途端、二人の様々な感情が津波のように押し寄せてきた。
(なんで見せてくれるのは一部分だけなの?)
レムのこの追求姿勢……き、君は妹なんだからそんな怒った感じ出さなくていいんじゃないかな。
(性交できないのだから、ベッドの上に乗る必要はないはず)
ルブルムまで。
(こ、これは、念のため、ジャック様に情報収集を悟られないようにというか)
(フラマのおっぱいはすごかったんでしょ?)
(それ、私も気になる)
(いや、俺だってそんなにあちこちのおっぱい見ているわけじゃないし、何が違うとかわからないよ)
(私のと比べてどうだった?)
(やっぱりお兄ちゃん、ルブルムとそういう関係?)
(いやだからあれは)
(そういえば、私はリテルのを触ったけど、私のを触らせてなかった。触れないと違いがわからないのか?)
(え? もしかしてお兄ちゃん、ルブルムにしか反応しないの?)
(だっ、誰にも反応しません!)
(ますますどういうこと?)
話がこじれ過ぎている。
俺はいったん、ルブルムとだけ話をした――『テレパシー』を、二人同時に接続するのは俺ならできるけど、ルブルムとレムは『遠話』の延長として理解しているせいでうまく接続できていない。
俺の方は、能動的に接続するときも、受動的に接続するときも、複数人同時に接続できるのだけれど、二人は「ポートが複数ある」というイメージを送っても、実体験として経験していないせいか、うまく理解出来ないようなのだ。
知識だけあってもその奥の思考にたどり着けないでいたたった今の俺と同じなのかもしれない。
だから今回、ルブルムからと、レムからと、それぞれ別々に接続してきた感じ。
俺はいったんレムの方の接続をいったん保留して、ルブルムと話し合う。
レムを信用して情報をある程度共有しないか、という提案に、ルブルムは賛同してくれた。
改めてレムも交えてこれまでの経緯をかいつまんで伝える。
呪詛のことと、ラビツを追っている真の理由。
マドハトのこと、『取り替え子』のことと、エクシとエクシのこと。
ルブルムとのやり取りに関しては、魔術師の先輩から「色仕掛けに耐える修行」として強いられたこと。
ディナ先輩の個人情報に関する詳細はそれでも省いたものの、ウォルラースがその先輩の仇であることも。
あとは、フラマさんの演技に付き合った経緯と、逮捕後の牢獄でのやりとり。
フラマさんがポーを見ることが出来たこと。
ここでポーが黒い玉のイメージで現れる。
レムールの説明とポーの紹介をする。
それから彼女の父が地界出身で、その仇と言っていた奴が、ウォルラースの仲間の凄腕と同じ奴かもしれないこと。
ヒモパンについては、本当に純粋に元の世界への手がかりとしてのみの興味で、やましい気持ちは全くなかったこと。
ついでにラビツの顔のイメージも二人に送っておく。
俺と、もともとケティが同行していたのも、ラビツの顔を知っているのが俺とケティしか居なかったというのもあって、二人がラビツの顔を覚えておいてくれたら、何かのときに役立つかもしれない。
あと、メリアンもラビツを知っているということも改めて共有した。
(……じゃあさ、ケティはリテルの恋人だけど、お兄ちゃんはルブルムの方が好きってこと?)
これだけ色々話して最初はそれかい。
ただここで照れたり恥ずかしがってはぐらかすのはルブルムを傷つける、そんな気がしたからすぐに答えた。
(ルブルムの方が好きだし大事だよ)
(じゃあ、もしも利照お兄ちゃんとしての体を手に入れるのにとっても時間がかかったら、その間はどうやって暮らすの? リテルの体のままだったら、二人とも結婚するの?)
時間がかかったら――それは目を逸らしていた可能性。
(魔術師ならば他の職業より稼げるでしょ? 王都から勧誘くるくらいなら、お兄ちゃん、妻を三人くらいは養えるんじゃない?)
(いやでも勧誘は断ったし、王都からの勧誘を受けたらカエルレウム師匠を裏切ることになる気もするし。そもそもまだ見習いだし……って、さ、三人?)
(呪詛が治ったら、私ともできるでしょ? あ、もちろん、私は三番目でいいよ?)
(ちょ、ちょっと待って。レムは妹で)
(結婚を、私ができるなんて、考えたこともなかった)
(ルブルムは可愛いのに結婚しないなんてもったいないよ。あと妹って言っても、私の村では世代ひとくくりで同じ名前っての前に話したでしょ? 兄弟姉妹みたいに育つんだよ? でもその中で結婚すること多かったから、全然大丈夫)
(性交をするなら結婚してからとディナ先輩も言っていたから、利照と性交するなら結婚が必要だ)
おいおい。ルブルム。さっきはディナ先輩の個人情報伏せて話してたでしょ?
とツッコんだところで、現状のこのむず痒いハーレム感は消えたりしない。
そう。嬉しさよりも、ムズムズモヤモヤの方が大きいんだよな。
地球に居た頃、俺にすり寄ってきたのは実は英志狙いの沢地さんだけだったし、モテるということに不安しかないのが本音。
冷静になって考えれば、ケティが好きなのはリテルだし、俺ではないし、ハーレムとは違うんだよな。
ケティは自分以外の女と、ってのは許さなさそうなタイプだし。
ルブルムだってそうだろう。
ルブルム自身がどう言おうと、リテル状態のままだったらディナ先輩が許すわけがない。というか俺が体を手に入れたとしても許さないって可能性が断然高いんだけど。
(待て待て待て。落ち着け。状況的に俺がこの体を手に入れるまではそんなことは無理だと思う。相思相愛なリテルとケティを傷つけかねないし、ルブルムを溺愛する先輩もそんな中途半端は許さないと思うよ)
(じゃあ、早くラビツ見つけないとね。そしてお兄ちゃんの体を手に入れないと)
実際、そこがネックなんだよな。
移る方法を見つけたとしても、新しい体をどうやって用意するかだよ。
夢で見たように他人の体を奪ったとしたら、そこでまたリテルの体を強奪している今みたいな苦しみが新しく発生しそう。
かといって人以外のモノに宿ってゾンビー化したとしたら、それこそナニがないから寿命の渦が尽きるまで童貞とか。
待て、俺。
また余計な思考で足踏みするところだった。
(そうだな。早くラビツを見つけよう)
今はそれが最優先だ。
だとしても、将来のことは全く考えていなかったことは反省しよう。
この状態が長期化したときのことを考えないでいるわけにはいかないだろう。
(私は、利照がドマースから習った魔法も知りたい)
ルブルムの一言で、話題が魔法のことへと変わる。
『腐臭の居眠り』と『目覚まし』の説明をする。
『腐臭の居眠り』については俺は肉を眠らせるという解釈だったが、ルブルムが「肉を腐らせるもの」自体を眠らせるのではないかと言ってくれたおかげで、記憶の中よりも魔法代償を小さくできた。
『テレパシー』の中では魔法は発動しないのだが、イメージに対する魔法代償はなんとなくこのくらいなのだと把握できる。
なので、記憶と比べて魔法代償が減るように改良する、なんて芸当も不可能ではない。
ただ、これについては俺だけのようで、ルブルムやレムは「よくわからない」らしい。
魔術特異症のおかげなのかな。
そのドマースのことで、もう一つ話題が持ち上がった。
あの肉は、毒入りだったのかどうか、ということ。
ドマースが自分だけ毒対策をした上で全員にそれを食べさせれば、一人だけ生き残ることも可能だと。
どうやら、ルブルムとレムはそれを疑っていて、恐らくメリアンも食べなかった真の理由はそれじゃないかと。
俺はヘイヤのことばかり考えていて、そういう仮定はまったく立てていなかった。
ディナ先輩が居たら相当怒られたよね。
俺は、ルブルムやリテル自身をも守ると決めたのだから、そういう可能性の思考を手放してはいけないのだ。
自身の甘さを痛感し、深く反省し始めたとき、マドハトが俺を起こした。
馬車の外へ出ると、寒さにシャキッとする。
ロッキンさんを目視確認した後、逆側を見張る。
一人になると思考が捗る。
今、特に頭に浮かぶのはリテルと俺の未来について。
リテルは次男なので、家業の農夫はビンスン兄ちゃんが継ぐ。
というかビンスン兄ちゃんが結婚したら、恐らくリテルとビンスン兄ちゃんの部屋が夫婦の部屋になるだろうから、リテルは家を出ることを考えなくちゃいけなくなる。
猟師としての腕はマクミラ師匠には敵わないし、だいいちストウ村に許可される狩猟数を考えると、二人目の猟師で生計を立てるのは難しい。
テニール兄貴みたいに門番をしつつ、狩猟と農業とを手伝って――うーん。子供が生まれたら、とてもじゃないが二人目の妻というのは非現実的だ。
ケティが父親の跡を継いだ場合は、リテルも鍛冶屋見習いになって、二人で鍛冶屋を継いで――このケースもリテルは考えていたようだが、どちらにしてもルブルムまでそばに居る選択肢はなくなってしまう。
まあ実際、それで間違っていないんだけどな。リテルの人生にはルブルムなんて居なかったのだから。
となると何がなんでも俺はリテルから離れる必要が出てくるよなぁ。
魂と俺の分の寿命の渦だけ――アニマ分だけ分離して、そこに体を用意する。
ここまでは多分、理論的には可能で、問題はその先。
誰の魂も入っていない肉体が用意できるのかってとこ。
魂の切り離された死者の肉体をもらうっていうのも抵抗があるし、一から作るホムンクルスだと小さいって聞いたもんなぁ。
ルブルムやアルブムはホムンクルスとはいっても結果的には体外受精みたいなもんだし、育つまでにかなりの時間かかっているし、それまでリテルとケティを待たせるのは難しいよね。
ケティとリテルとの初めては、俺が抜けた後の本物のリテルたちでやってもらいたいし。
もういっそ――あっ。
唐突に思い出す。
ゴーレムのことを。
今回は弓に矢筒、自分の背負い袋も持ち出している。
その背負い袋から、ディナ先輩にもらったものを取り出した。
二本の革ベルトがクロスしてX型になった交差部分の金具に紅魔石が取り付けられているもの。
確かこれを取り付けたものをゴーレム化できるという魔法品。
そして、この指輪。
この紅魔石内に格納された魔法と紐づけてあって、ゴーレムの主となれる指輪。
本来ならば可動部分や顔を備えた人形を造るって言っていたけれど、そこいらの石でもいいとも言っていた。
動かすならそういう人形を用意するべきかもだけど、今の俺に必要な用途はそうじゃないから。
ゴーレムを起点として感知ができるし、魔法を封じておくこともできるという、その効果が欲しいのだ。
通信の魔法を使えれば、ルブルムと離れていても連絡取れるし。
なら、石でいいよな。
そう考えたのは、ベルトや指輪を探す際に、背負い袋の中に石を見つけたから。
すっかり忘れていたけれど、ロービンから別れ際にもらった「魔術師が喜ぶ」という――確か「卵石」。
手のひらに収まるくらいの大きさだからベルトはかなり余るけど、重要なのは金具の紅魔石に人形や石の本体が触れていることだから。
ベルトなんて後で交換しても構わない。
魔術師が喜ぶというのは、魔法にも伝導率みたいなのがあって、それの効率が良い石とかなのかな?
逸る気持ちを落ち着けてから紅魔石を起動する――おっ、指輪に『遠話』や『テレパシー』のような接続感がある。
急いで卵石を取り付け、ベルトをきちっと留めると、指輪の向こう側、つまりゴーレムと妙な一体感を感じる。
これがゴーレムか。
動かせるんだよな。
ドキドキしながら地面へと置いてみる。
前へ回転――と念じると、ころり、ころり、と転がり始める。
こいつ、動くぞ!
初めて寿命の渦を動かしたとき以来の感動。
落ち着け、俺。
こんな段階で喜んでいる場合じゃない。
ゴーレム側に意識を集中して、ゴーレムから『魔力感知』――おおっ!
俺の寿命の渦を少し離れた場所に感じる。
これ、本体と同時に『魔力感知』したらどうなるんだ?
うわっ!
今、やばかった。
なんか脳みそがぐちゃぐちゃになりそうだった。
今まで立体に感じていた世界が実は二次元的で、その先にある本当の三次元を知ってしまったような。
びっくりするほど全ての寿命の渦が鮮明で、その情報量の多さに脳が全く追いつかないというか。
でも、最初に『魔力感知』を覚えたときも世界の眩しさに圧倒されたっけ。
情報量を絞ってやってみるか。
じぶんの『魔力感知』と、ゴーレム経由の『魔力感知』と両方を、浅く、薄く、控えめに――すげぇ。
解像度を粗くしているのに、くっきりと見えるというか。
早速、魔法を試してみよう。
『弱火』――うーん。
発動しない。
いや待てよ。
レムが『同胞の絆』を使ったときは遠隔で魔法を使えていた。
ということは、そういう接続の方法を取れば、ゴーレム経由で魔法を使えるよな。
ゴーレムは鼓動を持たないけれど、自分自身と同じだから――『同胞の絆』のイメージを元にして新しい魔法を作ってみよう。 魔法の名前は『ゴーレムの絆』だ。
発動して――つながったっぽいな?
よし。『弱火』――点いた!
多分、一ホーラくらいは繋がったままのはず。
距離がどのくらい離れても有効なのかは検証が必要だけど、これはいざというときに役立つ――そのとき、視線を感じた。
慌てて振り向くと、ロッキンさんがこちらをじっと見つめていた。
● 主な登場者
・有主利照/リテル
猿種、十五歳。リテルの体と記憶、利照の自意識と記憶とを持つ。魔術師見習い。
ゴブリン用呪詛と『虫の牙』の呪詛と二つの呪詛に感染。レムールのポーとも契約。とうとう殺人を経験。
・幕道丈侍
小三から高一までずっと同じクラスの、元の世界で唯一仲が良かった友達。交換ノベルゲームをしていた。
彼の弟、昏陽に両親も含めた家族四人全員が眼鏡使用者。一緒にTRPGでも遊んでいた。
・沢地怜慈奈
元の世界において、利照の弟である英志狙いで利照に近づいた同級生の女子。
・ケティ
リテルの幼馴染の女子。猿種、十六歳。黒い瞳に黒髪、肌は日焼けで薄い褐色の美人。胸も大きい。
リテルとは両想い。フォーリーから合流したがリテルたちの足を引っ張りたくないと引き返した。ディナ先輩への荷物を託してある。
・マクミラ師匠
ストウ村の住人。リテルにとって狩人の師匠。猿種の男性。かなりの紳士。実績紋持ち。
出身はストウ村ではなく、若い頃は定期便の護衛をしながら旅をしていた。
・ラビツ
久々に南の山を越えてストウ村を訪れた傭兵四人組の一人。ケティの唇を奪った。
アイシスでもやはり娼館街を訪れていて、二日前にアイシスを出発していた。ギルフォドへ向かっている可能性が大。
・マドハト
ゴブリン魔法『取り替え子』の被害者。ゴド村の住人で、今は犬種の体を取り戻している。
元の世界で飼っていたコーギーのハッタに似ている。変な歌とゴブリン語とゴブリン魔法を知っている。地味に魔法勉強中。
・ルブルム
魔女様の弟子である赤髪の少女。整った顔立ちのクールビューティー。華奢な猿種。
魔法も戦闘もレベルが高く、知的好奇心も旺盛。親しい人を傷つけてしまっていると自分を責めがち。
・アルブム
魔女様の弟子である白髪に銀の瞳の少女。鼠種の兎亜種。
外見はリテルよりも二、三歳若い。知的好奇心が旺盛。
・カエルレウム
寄らずの森の魔女様。深い青のストレートロングの髪が膝くらいまである猿種。
ルブルムとアルブムをホムンクルスとして生み出し、リテルの魔法の師匠となった。『解呪の呪詛』を作成中。
・ディナ
カエルレウムの弟子。ルブルムの先輩にあたる。重度で極度の男嫌い。壮絶な過去がある。
アールヴを母に持ち、猿種を父に持つ。精霊と契約している。トシテルをようやく信用してくれた。
・ウェス
ディナに仕えており、御者の他、幅広く仕事をこなす。肌は浅黒く、ショートカットのお姉さん。蝙蝠種。
魔法を使えないときのためにと麻痺毒の入った金属製の筒をくれた。
・『虫の牙』所持者
キカイー白爵の館に居た警備兵と思われる人物。
呪詛の傷を与えるの魔法武器『虫の牙』を所持し、ディナに呪詛の傷を付けた。フラマの父の仇でもありそう。
・メリアン
ディナ先輩が手配した護衛。リテルたちを鍛える依頼も同時に受けている。ラビツとは傭兵仲間。
ものすごい筋肉と角と副乳とを持つ牛種の半返りの女傭兵。知識も豊富で頼れる。
・エクシ(クッサンドラ)
ゴド村で中身がゴブリンなマドハトの面倒をよく見てくれた犬種の先祖返り。ポメラニアン顔。
クスフォード領兵であり、偵察兵。若干だが魔法を使える。マドハトの『取り替え子』により現在、エクシの体に入っている。
・レム
爬虫種。胸が大きい。バータフラ世代の五人目の生き残り。不本意ながら盗賊団に加担していた。
同じく仕方なく加担していたミンを殺したウォルラースを憎んでいる。トシテルの心の妹。現在、護衛として同行。
・ウォルラース
キカイーがディナたちに興味を示すよう唆した張本人。過去にディナを拉致しようとした。金のためならば平気で人を殺す。
ダイクの作った盗賊団に一枚噛んだが、逃走。海象種の半返り。
・ロッキン
名無し森砦の守備隊第二隊副隊長であり勲爵。フライ濁爵の三男。
現在はルブルムたちの護衛として同行している。婚約者が居て、その婚約者のためにヴィルジナリスの誓いを立てている。
・チェッシャー
姉の薬を買うための寿命売りでフォーリーへ向かう途中、野盗に襲われ街道脇に逃げ込んでいたのをリテルに救われた。
猫種の半返りの女子。宵闇通りで娼婦をしているが魔法を使い貞操は守り抜いている。リテルに告白した。
・ヘイヤ
鼠種の兎亜種の先祖返り。茶色い夏毛の兎顔。身なりのよさそうなコート、動きやすさ重視の軽革鎧。
膝までのブーツ、胸元に蝶ネクタイ。ドマースに同行していた武闘派だが、リテルの過剰防衛により死亡。身内はいない。
・ドマース
鼠種先祖返り。ハムスター似。貴族の十男だった魔術師。身なりのよさそうなコートに蝶ネクタイ。
スノドロッフの住民拉致事件の関係者に接触を図ったが、エクシへのアプローチに失敗。次の町まで同行。
・レムール
レムールは単数形で、複数形はレムルースとなる。地界に生息する、肉体を持たず精神だけの種族。
自身の能力を提供することにより肉体を持つ生命体と共生する。『虫の牙』による呪詛傷は、強制召喚されたレムールだった。
■ はみ出しコラム【フォーリー出発~アイシスまでのリテルの魔法】
※ 用語おさらい
・世界の真理:魔法の元となる思考について、より魔法代償が減る思考について「世界の真理に近づいた」と表現する。物理法則に則った思考をすると世界の真理となるようである。その思考自体が同じでも、思考への理解度が浅いと魔法代償は増加する。
・寿命の渦:生命体の肉体と魂とをつなげる「寿命」は、生物種毎に一定の形や色、回転を行う。これを寿命の渦と呼ぶ。兵士や傭兵は気配と呼ぶ。
※ 技術おさらい
魔法使用に関する技術。
・『魔力感知』:範囲内の寿命の渦や消費命の流れを感知する。
・消費命:魔法を発動する際に魔法により要求、消費する魔法代償に充てるため、寿命の渦からごく一部を分けて事前に用意しておいたもの。
・偽装の渦:本来の自分の寿命の渦ではなく、あえて別の生物種の寿命の渦や、まるで寿命の渦が存在しないかのように意図的に寿命の渦の形を変えて偽装した状態のこと。
・偽装消費命:消費命自体について、その集中から消費までの間、存在しないかのように偽装したもの。魔術師の中においても一般的ではない技術。
・『戦技』:何度も繰り返した体の動きを再現する魔法的効果。ただ、消費命を消費して魔法を発動するよりも、気配を消費して戦技を発動する方が早い。
・『魔力探知機』:『魔力感知』は自分を中心とした円範囲だが、こちらの魔法は細く長く棒状に伸ばした精度の高い『魔力感知』を、自分を中心として回転させ、魚群探知機のように、周囲の気配を探る。利照のオリジナル技術。
※ 習得した魔法
・『安心』:ルブルムから聞いた魔法。動物を落ち着かせる魔法。
・『魔石調査』:二つの発動モードがあって、片方は半径「自分の身長」範囲内の魔石を感知できるという「範囲モード」。もう一つの「単体モード」は、手のひらをかざして非接触で魔石の中身をまるで触れているかのように確認できる。しかも一度使ってみなくとも、使ってみたのと同様に中の魔法に「触る」ことができる。「単体モード」で魔法代償を余分に消費すれば、かざした手のひらから魔石までの距離を若干伸ばせるという優れ魔法。
・『森の平穏』:一種類の木材を途切れないように地面に並べて円を描くと、その木材以外の臭いはその円を通り抜けられないというホブゴブリン魔法。しかも魔法の効果範囲は球体になるので、空中を飛ぶ虫などに対しても効果がある。その木を途切れさせたりさえしなければ、六ホーラも効果が継続するという優れ魔法。地面に並べた木は途切れなくとも動かしてしまえば魔法効果は消えてしまうので場所の移動はできない。
・『見えざる弓』:魔法を発動するとわずかな間だけ、弓の「影」を呼び出すというホブゴブリン魔法。この弓の「影」は、今までに一番使い込んだ弓と同じ性能で、しかも矢だけじゃなく三本の指で横向きにつまめるものであれば小石だろうが木の枝だろうが短剣だろうがなんだって射ることができる。唯一の制約は、光源がない真の闇の下では弓が出てこないというもの。
・『大笑いのぬかるみ』:「あそこの地面をぬかるませて少し濡れた氷の上よりもツルツルにするぜ」という効果を生み出すゴブリン魔法。地面の摩擦係数を限りなくゼロに近づける効果。「地面はつながっているから」ツルツルする場所に直接触っていなくてよい。距離と範囲によって要求される魔法代償が変わる。
・『カウダの毒消し』:カウダの麻痺毒専用の毒消し
・『熱の瞳』:いわゆるインフラビジョン。生物が発する遠赤外線を見える。赤外線カメラではなくサーマルカメラに近い。ただし、色つけ加工はなし。暗闇でも熱源で見ることができる。『魔力感知』を使える者ならば、視界を通常視界と切り替えることができる。レムから習ったミュリエルのオリジナル魔法。
・『魔力感知逃れの衣』:『魔力感知』が触れたときに「何もない」として反応を返す魔法。『魔力感知』の密度などを変化させることで、「何もない」をあぶり出すことは可能。この魔法の利点は、魔法代償の集中もごまかせる点。ただし、「何もない」をあぶり出せている状態なら、魔法代償の消費をうっすらと感知できる可能性はある。レムから習ったミュリエルのオリジナル魔法。
・『同胞の導き』:触れている相手に鼓動の速度を合わせる魔法。レムから習ったミュリエルのオリジナル魔法。
・『同胞の絆』:バータフラの中ではレムにしか使えない魔術。触れた相手に呼吸と鼓動速度を合わせながら使用すると、その相手と五感の一つを共有できる。一回使用すると、半ホーラは効果が継続する。追加魔法代償で、五感を増やせる。魔術を使用する時点で、合っていれば、その後呼吸や鼓動が合わなくなっても問題ない。ただし、共有している感覚については、術者自身の体を動かせなくなる。共有された側は、共有を感知できる。対象が意識を失ったり、コントロールを失っていると、術者が能動的に動かすことができる。味覚を共有できると会話が可能であり、触覚を共有できると体を動かすことができる。魔法の対象者が、睡眠や麻痺毒で意識を失っている場合、または死亡した場合、その体を代わりに動かすことが可能。共有するのは感覚だけで、思考は共有できない。また、意識はつながっているので、実は術者と対象とはそれを足がかりに寿命の渦もつながることができる。すると、記憶を覗くことができる。レムから習ったミュリエルのオリジナル魔法。
・『身籠りの祝福』:女性の子宮の生理周期を強引に「回復」という考え方で圧縮し、妊娠可能状態まで進める魔術。その強制的な「回復」効果は、生理の際の痛みを遥かに超える痛みを対象者へともたらす。ウォルラースが女性への攻撃に用いた「孕み願い石」という魔法品に格納されていた魔法。
・『燃える夢』:枯れ枝などに使う。対象の大きさにより魔法代償が異なる。その枝に、火を点けたときの夢を見せる。枝は燃えている夢を見て、その光が夢の外側へと漏れる。枝は燃え尽きるまで光を出す。実際に燃えているわけじゃないので熱くはないが、燃え尽きたあと、実際に燃えたように黒く崩れてしまう。
・『遠回りの掟』:物質を空間に固定する魔法。実際には「慣性の法則」を(地球における)12秒ほど、別次元を経由させて戻している。それなりの大きさの非生命体を対象にできる。スノドロッフの魔法。リテルは、教えてもらったこの魔法を(『弱火』のように)解釈し、大きさと時間を変換できるようにした。ちなみに基本の対象サイズは、(地球における)12kgくらいの岩。
・『接触発動』:何かに触れたら発動する魔法。単体では意味がなく、発動時には別の魔法も同時に使う必要がある。スノドロッフの魔法。『接触発動』は魔法発動時に触れているモノは「接触」条件の対象外になる。
・『新たなる生』:寿命の渦を記憶している生物の幻影を寿命の渦の幻影込みで作り出すことができる。クラーリンより習った魔法。ある一定の大きさ以上の寿命の渦を持つ者に触れられると消える。幻影は意識を集中している間だけ動かせる。
※ 利照のオリジナル魔法
・『声真似』:自分の聞いたことのある声そっくりに声真似する。一度変えたら魔法効果時間が経過するまで元の声に戻らないが、魔法代償を減らすために切り替えはできないようにした。
・『磁気帯びプラス』:金属を一時的に磁石化する
・『磁気帯びマイナス』:金属を一時的に磁石化する
・『皮膚硬化解除』:『皮膚硬化』と真逆の状態を作り出す。
・『テレパシー』:触れている対象と、『遠話』や『同胞の絆』同様に、精神的通話を可能にする。精神的通話での情報やりとりは非常に大容量で早い。言語化できない感情やイメージなどもやりとりが可能。また、自身を対象に『テレパシー』を発動すると、自分の記憶を「まるで今その場で起きたかのように」思い出すことができる。利照が他人の精神へ接続する際、最初にUSBポートをイメージしたため、USBを知識ではなく経験として体感している利照だけは複数人同時接続が可能である。
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