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#64 新しい同行者
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ガレーテ様が俺を睨みつける。
その目が大きく見開き、頬が歪み――いや、緩んだ?
突然ガレーテ様は大きな声で笑った。
「アーハー!」
一瞬、その単語がなんだか分からなかった。
アハハとは違う感じ。
「なるほどなるほどなるほど」
「アハ」という単語を三回繰り返した。
なるほど。ホルトゥスの言葉で「アハ」か。さしずめ「なーるーほーどー」的な表現か。
リテルが聞き慣れていない用法や知らない単語だと脳内翻訳されずに直で聞こえるんだな。
で、なんで「なるほど」?
ガレーテ様の納得の理由はまだ把握しきれていないが即座に危機と呼べる状況は脱せたのだろうか、と心にゆとりができた途端に思考が走り出したのを実感し、少し不安になる。
思考を止めるなという教えに忠実過ぎて、考えるべきときに向き合う問題の外側に思考を広げすぎて、どうでもいいことに脳内リソースを割きすぎていないか、という不安。
大事なことに集中しなきゃだよ。
だって俺は今、貴族の発言を遮ったんだ。
地球の封建制度の下みたいに即座に不敬罪で死刑みたいなことはないが、「失礼なこと」をしたのは確かだ。
そう。
これだけ大勢の前で口封じでいきなり殺すというのは冷静に考えれば、少なくともホルトゥスの貴族らしくはない。
ホルトゥスには魔法がある。使用には寿命を――魔法に慣れていなければ大量に消費するけれど。
ストウ村のように暴発を恐れて子供には隠しているところも少なくないが、基本的には大人であれば誰でも「最悪でも命と引き換えにすれば魔法を使えること」を知っている。
罪には相応の罰は存在するが、大抵は罪に応じた年数の寿命を提出するだけで済む。
それをいきなり殺す、なんてのはそれこそ盗賊団の類いの行いだ。
被害者が恨んだら、被害者の友人や家族が恨んだら、その腹いせに個人の命が魔法で失われることは容易い。
だからこそ公的な行為においては、理不尽さを回避する行動を選ぶのが貴族だ。
俺の行動はそういった貴族の行動原理を否定したことになる。それが侮辱にあたる。
それでもガレーテ様は笑ってくださった。
だとしたら俺がすべきことは。
「お話を遮ってしまい、申し訳ありませんでした」
両膝をつくお辞儀。最大限の謝罪。
「そうかそうか、まあ確かにそういう出会いもあるだろうよ!」
跪いたままの俺の肩にガレーテ様の手が触れる。
貴族様との初めての出会いがこのような状況になり、リテルには申し訳ないったらない。
「立ちなさい、寄らずの森の魔女様の弟子リテルよ」
ガレーテ様に名前を把握されていることにドキドキしながら立ち上がる。
膝についた土を払うのすらためらわれる。
申し訳なさと恥ずかしさとで顔をあげられない。
そりゃ紅爵様への面会にディナ先輩とルブルムだけで行くはずだ。
色々なことがうまく回り始めてきたと思った矢先の大失態――その俺の視界の端で、ガレーテ様の剣がレムの手足の縄を切った。
「本来ならば名無し森砦の守備兵レムはこれよりフォーリーへ連行し事情徴収をする予定だったが、このクスフォード領兵第二隊隊長ガレーテ・クスフォードの名において、リテルの行く旅への同行が可能となるよう取り計らおう!」
ガレーテ様の宣言が森にぽっかりと空いた広場の中へ響き渡る。
「良きかな、若者よ。この旅から無事に帰った暁にはその物語を聞かせたまえよ!」
再び大笑いした後、ガレーテ様はベイグルさんと真面目に話をし始めた。
なんだかとてもいい人じゃないか。
ホッとして膝の力が抜けそうになった俺を、ケティとルブルムが両側から支えてくれる。
「やっぱりあの子と何かあったんじゃない」
ケティが不服そうにこぼして、ようやく俺は理解できた。
「そういう出会い」とは、俺とガレーテ様のことじゃない。俺とリムのことだったのだと。
「よろしいですか。クスフォード領兵第二隊副隊長エマワです。今後のことについて私からご説明させてください」
犬種の半返りの女性領兵が俺たちの前に立つ。
尻尾からすると狐亜種だろうか。若くてスレンダーな美人だ。
ケティが俺の脇腹を死角からつねる。
まだ何も言っていないのに、信用されていない――俺の現状を考えると仕方ないのかもだけど。
その後、エマワさんから説明を受けた。
王国側からも事情徴収する権限者がいらっしゃるそうで、俺たちは名無し森砦でその到着を待たねばならぬとのこと。
もちろん客人待遇での滞在とのことだが、実質的には軟禁状態となるようだ。
呪詛が無闇に広まってしまう可能性を考えるとラビツたちに早く追いつきたいのだが、今回の一件がそれなりに大きな事件であるがために、王国側はどうしても直接会って釘を刺したい思惑があるようだ。
その代わり、俺たちには新しい馬車が贈られ、護衛まで付くという。
正直その護衛が信用できるかどうかという問題もあるし、なるべく俺やルブルム、そしてマドハトの手の内を見せたくはないというのがあるのだが、もちろん逆らえるわけもなく。
名無し森砦で解放されるまではガレーテ様やエマワさんも同行してくださるというが、不安ばかりが募る。
ただ、別途ケティをフォーリーまで送っていただけること、ディナ先輩への「言伝」を済ませた後さらにストウ村までも送っていただけると約束してくださったのには感謝だ。
ケティにも女性の領兵が護衛として付くというので、こちらは一安心か。
クスフォード第二隊の皆さんが馬車に積まれた死体を検分している間、ちょっと時間ができた俺たちはベイグルさんたちとお別れの挨拶を交わす。
「リテル殿には本当にお世話になりました」
「いえ、こちらこそです。色々と教えていただいて、ポーのことだって本当に感謝しております」
周囲に領兵がたくさんいる中なのであえて魔法とか契約とかいう単語は使っていないけれど、本当だったらポーにも手を振るみたいに動くのをお願いしたかったほど。
ベイグルさんから教えていただいた魔法はなんというかとてもメルヘンな思考で、今までの俺にはなかったものなので、自分の幅を広げるにはとてつもなくありがたい。
枯れ枝に燃えている夢を見せる『燃える夢』とか、物質の勢いを遠回りというか一時的に別世界を経由させる『遠回りの掟』とか、考えるな感じろ的な魔法には価値観をいっぱい刺激された。
そんなベイグルさん達との会話に混ざってきた人が居た。
「リテル!」
ロービンだ。
俺たちが広場に戻ってきてからさっきまでの間、見当たらなかった。
ホブゴブリンだと領民とは違うから自由なのか?
「間に合って良かった! おいらからリテルへ贈り物があるんだ」
そう言ってロービンがくれたのは、卵型の石?
サイズは手のひらからちょっとはみ出すくらい。大きめのマンゴーに近いかも――あ、地球のマンゴーね。ホルトゥスではまだマンゴーっぽい果物は見ていない。
しかも質感が石っぽい割には、石ほど重くはない。
「ロービン、これはなんだい?」
「これは卵石さ」
「卵石? 温めると孵ったりするの?」
「おいらは親父から名前しか聞いていないから詳しくはわからない。でも魔術師が喜ぶものって言っていた」
ロービンの話によればかなりのお宝らしい。
騙されていたロービンを救ったこと、あとホブゴブリン魔法を知りたいと言った初めての人ということで、ロービンの中で俺の評価は爆上がりしたようだ。
「あと、これも」
そう言ってロービンは魔法をもう一つ教えてくれた。
『森の伝令』という魔法。
この森のあちこちに、ロービンがひっそりと描いている「印」があって、それに触れながら合言葉を言うと、ロービンと『遠話』みたいなやりとりができるというもの。
洞窟前で「迎えが来る」と言っていたのは、『森の伝令』でベイグルさん達と通話をしていたからのようだ。
ただその「印」には定期的に魔法代償を補充しなければいけないようで、一回使って『森の伝令』が不発だったときは「印」への魔法代償補充な効果を持つという。
ちなみにこの「印」は、ロービン自身が作らないと意味がないため、名無し森以外には設置していないという。
今度『森の伝令』を使うときには楽しい報せを伝えられたらいいな。
「リテルさま!」
ちょっと離れたところからマドハトが走ってきた。
その後ろからもう一人、駆けてくる犬種がいた。
先祖返りのポメラニアン顔の領兵――見覚えがあるぞ。確かフォーリーの街でマドハトの知り合いぽかった人。
「ちゃんとご挨拶するのは初めてですね。おいらはクッサンドラです」
そう、クッサンドラ。
しかも一人称のクセがロービンと同じだ。
ホルトゥスの言葉は、一人称の単語にそれほどバリエーションがあるわけじゃない。ただ、俺の使い慣れた地球の日本語には一人称のバリエーションがたくさんあるせいか、一人称の細かなアクセントやクセによって勝手に使い分けられて聞こえてしまう感じっぽい。
「リテルさま! クッサンドラはゴド村でよくしてくれていた人です!」
どうやらマドハトがゴブリンシャーマンやっている頃に『取り替え子』で入れ替わっていた病弱マドハトの世話を焼いてくれていた幼馴染、のようだ。
ゴド村も、俺たちのストウ村同様に先祖返りはごく少数だったから、仲間意識が強固になるのもうなずける。
ただマドハトからしたら、自分自身に思い出があるわけじゃなく、体に残った記憶を思い出しているようだから複雑な気持ちなん――おいおいマドハト、お前自分が呪詛持ちって忘れているだろ。
舐めるな舐めるな!
なんとか呪詛が伝染するリミット前に引き剥がすことに成功する。
「改めて、リテルです。こちらはルブルム、メリアン、あと……」
ケティがいつの間にかいない。
そういえば送ってくれる領兵に挨拶に行くって言っていたっけ。
「よろしくお願いします」
クッサンドラは現在、クスフォード領兵として働いており、今後俺たちと同行する護衛の一人ということらしい。
直接ではないにせよ、身内の知り合いということに少しだけホッとする。
ただ「護衛の一人」というからには他にもいるのだろうな。
「おい、クッサンドラ。お前、こんな所で遊んでんなよ?」
その声に聞き覚えがあった。俺じゃなくリテルが。
「エクシあんちゃん!」
リテルやケティの幼馴染、犬種でハグリーズさんの次男。
リテルの兄ビンスンと同い年だから三歳上の十八歳。もちろん十二進数で、だけど。
その横には戻ってきたケティまで。
「リテル、随分偉くなったんだな」
ニヤニヤ笑うエクシあんちゃんの横には、笑顔のケティ。
俺からしたらどってことのない光景なのだが、リテルの記憶の中ではこのツーショットにはもやもやがつきまとっている。
どちらかというとヤンチャな感じで、ケティのことが好きで、それもあってかリテルに対する言動にはちょいちょいトゲがあったから。
リテルがマクミラ師匠に弟子入りするちょっと前、エクシは仕事を求めてフォーリーの街へと出たのだが、あの頃ケティが寂しそうにしていたから、ケティもエクシあんちゃんを好きなのかなって当時のリテルは思っていたようだ。
「偉くはなってないよ」
「まあ実力のほどはすぐにわかるだろうよ。別に隠れて馬車の中で震えていても、俺が守ってやるから安心しな。もちろんケティのために、だけどな」
笑い出すエクシあんちゃん。
リテルは苦手に思っていたんだろ。俺も同じ気持ちだ。
しかもリテルの記憶の中のエクシあんちゃんと比べると、二回りくらい体格が良くなっている。
領兵だから鍛えるのは当然なんだけど、体格だけじゃなく態度も大きくなっている気がするんだよな。
そんなエクシあんちゃんとケティは楽しそうに談笑している。
話のネタはリテルの小さい頃の失敗話に始まり、今はケティがリテルの魔女様弟子入りをイジっている。マクミラ師匠に弟子入りしたにも関わらず、って。
エクシあんちゃんと一緒にいるときのケティは「向こう側」という印象が強くて、確かにこれはもやもやするよな。
「いやいやケティ、実はリテル、マクミラさんのあと追っかけるのに疲れて座り込んで泣いてたところを魔女様に見つけてもらっただけかもよ? ほら、あのときみたいに。リテル、お前あのときも転んで泣いてたよなぁ? 俺たちのあとを一生懸命追いかけてきてさ、あのときは可愛かったのによ?」
わかりやすいマウント取りにイラつくし、それを一緒になって笑っているケティにもちょっと腹が立つ。
リテルならどう反応しただろうな。
それに今、新たに見つけたリテルの記憶にとんでもないのがあった。
ドッヂのことを「動物戻り」って呼んでいた記憶だ。
先祖返りを指すこの差別的な表現をリテルが知ったきっかけ――あの頃はまだドッヂが言葉を理解できないくらいに幼かったからドッヂ自身は傷つかずに済んだようだけど。
え、ちょっと待って。こいつ、さっき俺を守ってやるとか言ってたよな?
こいつも同行すんのか?
エクシは笑いながら、今度はクッサンドラをチラ見する。
「魔法ね、いいんじゃない? 筋肉鍛えるのに挫折した奴の逃げ道だろ?」
空気がひりつき、ケティも笑うのをやめた。
リテルは何も挫折していない。
魔術師に、カエルレウム師匠に勝手に弟子入りしたのは、リテルじゃなく俺なんだ。
エクシにつけ入る隙を与えてしまったのも俺だ。
真面目に狩人として頑張っていたリテルには本当に申し訳ない。
「お別れの挨拶は済んだ?」
エマワさんがやってきてケティについてくるよう声をかけた。
ケティはハッとした顔で俺を見つめる。
なんでこんなクズっぽいエクシとケティはあんな楽しそうにしゃべっていたのか。
筋肉好きなのか?
ケティは俺に近づこうと一歩踏み出したが、泣きそうな顔で立ち止まった。
俺は多分、不機嫌な表情を浮かべている。
別れ際、リテルのためにケティを笑って送ってあげたかったのに、ダメだった。
俺は紳士の足元にすら到底及ばない。
「リテルは魔術師として優秀だ」
ルブルムがそう言って俺の腕を引っ張った。
もう片方の腕を、いつの間にか現れたレムが引っ張ってケティに背中を向けさせる。
「ははっ。女の子の後ろに隠れて庇われてるなんてさ、今も昔も変わらずだなっ」
エクシの笑い声を置き去りにして、俺たちは馬車へと移動した。
新しく用意していただいた馬車には、水樽に何日分かの保存食、寝藁に、防衛用の弓矢や槍まで積んであった。
メリアンやマドハトと一緒にクッサンドラも乗り込んでくる。
「すみません。エクシさんがバカにしたのはおいらのことなんです……昔はあんな人じゃなかったんですけれど」
クッサンドラが突然、謝ってきた。
いや、リテルの記憶だとそんな変わってはないんだけどね。
クッサンドラは領兵の中でも特殊な偵察兵だそうで、魔法も習っているとのこと。
『魔力感知』で周囲を索敵し、事前に設定しておいた魔法品へ情報を送る『警報通知』という魔法で通信を行い、刃の切れ味や丈夫さを補強する『刃強化』という戦闘補助魔法まで覚えているという。
また、『生命回復』の収められた魔石まで所持していた。
魔法の習得ではなく魔石を所持しているのは、味方の被害が甚大だった場合に偵察兵が『生命回復』の使い過ぎで命を落とすことを防止するためだとも教えてくれた。
「領兵なのに自分で戦わずに守ってもらう存在というのが気に入らないのだと思います」
クッサンドラがそう納得しているのであれば余計な口を挟むのもアレだから黙っているけれど、エクシがあんななのは昔から――と、ここでマクミラ師匠の顔が浮かんだ。
『怒りは冷静さを削る』とおっしゃっていたときの顔が。
確かに今の俺は紳士じゃなかった。
リテルの記憶の中には、なんだかんだ言いながら面倒見が良かったエクシや、からかいはするけれど絶対に置き去りにはしないエクシに対する安心感も見つけた。
そうだな。昔はあんなクズじゃなかったかもしれない。
俺がエクシへの怒りを少し落ち着かせたとき、エマワさんの声が聞こえた。
「忘れ物はない?」
「すみません。一つだけ」
俺は馬車を飛び降り、走った。
ケティの所へ。
既に騎乗している女性領兵の背中にしがみついているケティを見つけて駆け寄り、手の平を見せた。
四本の指を揃えて伸ばし、親指だけ曲げる、俺たちの合図。
ビンスン兄ちゃんとエクシあんちゃんとケティとリテル、その四人だけで遊びに行くときの秘密のサイン。
立てた指は四人を表し、手の平に武器を握っていないって意味もある、仲間の証。
表情も、リテル自身のケティへの気持ちを思い出して、笑顔を作って。
ケティはちょっと赤くなった目を丸くして、それから笑って、俺に同じサインを見せた。
これでいい。
しばらくの間はケティと会えないんだ。
リテルだったらきっとケティの笑顔を見たかっただろうし、見せたかったはず。
「では、ひと足お先に」
ケティと領兵の乗った馬、それから他にも二頭、領兵を乗せた馬が連れ立って走り出す。
その背中を見送りながら俺の中のリテルに問う。
なあリテル、俺は少しだけでも紳士に近づけたかな。
名無し森砦での軟禁はあっという間に三日が過ぎた。
その間、俺は日中ずっとメリアンに稽古をつけてもらった。
別にエクシにああ言われたからじゃなく、生き残るために。
そして夜はマドハトとレムに消費命の絞り方を教えた。
二人の上達は思ったよりも早く、ルブルムには教えるのが上手とほめられたが胸中は複雑だ。
俺が魔法を覚えるのが早かったのはちょっと特別だったんじゃないかとか少しだけいい気になっていたことに気付いたから。
魔法というのは精神的なものだから、最初の理解を乗り越えることさえできたらその先が早いのだそうだ。
それに引き換え武器や肉体を使った戦闘術の習得は、目で見てわかるほどの効果は得られていない。
頭で理解してもそれが体に馴染むまでに時間がかかるのだ。それも何度も鍛錬を欠かさず繰り返したうえで。
モノになるまで時間がかかるのは楽器と一緒。
砦での主な居住スペースはロッキン隊が使っていた隊室をまるまる使わせてもらった。
細長い部屋の両側の壁に沿って寝藁を敷き詰めた木の囲い、つまりベッドが三つずつの六人部屋。
あの竪穴で戦った野盗兵士な連中――プラプディン、スナドラ、ホリーリヴ、ブラデレズンたちの使っていたベッドだ。
汗臭い男臭さが染み付いたその寝藁を交換などできるわけもなく、自分のベッドがあるロッキンと、そういうのを全く気にしないメリアンやマドハトはそのまま。
未使用だった一つのベッドはルブルムに譲り、ロッキン隊に仮配属になったレムは自分の部屋の寝藁と交換し、俺のベッドはレムの隊室の空きベッドと寝藁を交換した。
エクシやクッサンドラは砦内に簡易テントのようなもの設営し、他のクスフォード領兵と一緒に寝泊まりしている。
ガレーテ様やエマワさんは来客用の部屋をあてがわれているようだが、俺たちがロッキンさんたちというかレムと同室なのはガレーテ様の図らいらしい。
まあ、エクシと同じ部屋での寝泊まりじゃないのは正直嬉しいのだけれど。
それに、なんだかんだ寝付けないとか言い訳をしてルブルムとレムとなぜかマドハトまで俺のベッドに潜り込んできた所を見られないで済んだのも有り難かったし。
メリアンはともかくロッキンの前でそれはどうなのかとは思ったが、エッチなことをしているわけじゃないので見逃していただけたのか、特に注意すらされなかった。
狭くて身動きが取れなかったが、それでも謎の安堵感に包まれて熟睡できた。
もちろん寝る前にはルブルムやレムと『テレパシー』による情報交換をした。
おかげで、ルブルムがカエルレウム師匠のとこで学んだ膨大な魔物の情報を教えてもらったり、俺の好きな曲をレムやルブルムへ教えたりもできた。
名無し森砦に着いてから四日目、星の月夜週七日目の夕暮れに王都からの使いであるチャルズ紫爵ご一行が到着した。
ダイク隊長のとりあえずの後任ということだが、明らかに名無し森砦で一番身分が高い人になる。
着いて早々にガレーテ様と対談し、そこへ俺たちが呼ばれ、改めて国とクスフォード領との取り決めた内容を徹底された。
エマワさんがこっそり教えてくれていたのだが、クスフォード側が今回、国に対して恩を売る形で事実の隠蔽に協力したのも、今後何か起きたときに国側に便宜を図っていただくための布石だという政治判断なのだそうだ。
だからクスフォード領のために我慢してほしいとのことだったが、恐らくこれって今のところは秘密にできている「ラビツ一行が呪詛をバラまいている」ことが明るみになってしまった際への保険なんだろうな。
呪詛を作成したカエルレウム師匠やディナ先輩たちに迷惑が及ばないように、俺たちは全面的に取り決めを遵守すると誓った。
● 主な登場者
・有主利照/リテル
猿種、十五歳。リテルの体と記憶、利照の自意識と記憶とを持つ。魔術師見習い。
ゴブリン用呪詛と『虫の牙』の呪詛と二つの呪詛に感染。自分以外の地球人の痕跡を発見し、レムールのポーとも契約した。
・ケティ
リテルの幼馴染の女子。猿種、十六歳。黒い瞳に黒髪、肌は日焼けで薄い褐色の美人。胸も大きい。
リテルとは両想い。フォーリーから合流したが、死にかけたり盗賊団による麻痺毒を注入されたり。
・ビンスン兄ちゃん
リテルの兄。部屋も一緒。猿種、十八歳。リテルとは同じ部屋。
・ドッヂ
リテルの弟。ソンとは双子。猿種の先祖返り。
・ラビツ
久々に南の山を越えてストウ村を訪れた傭兵四人組の一人。ケティの唇を奪った。
フォーリーではやはり娼館街を訪れていたっぽい。
・マドハト
ゴブリン魔法『取り替え子』の被害者。ゴド村の住人で、今は犬種の体を取り戻している。
元の世界で飼っていたコーギーのハッタに似ている。変な歌とゴブリン語とゴブリン魔法を知っている。
・ルブルム
魔女様の弟子である赤髪の少女。整った顔立ちのクールビューティー。華奢な猿種。
槍を使った戦闘も得意で、知的好奇心も旺盛。ウォルラースの魔法品により深い眠りに落ちていたが目覚めた。
・アルブム
魔女様の弟子である白髪に銀の瞳の少女。鼠種の兎亜種。
外見はリテルよりも二、三歳若い。知的好奇心が旺盛。
・カエルレウム
寄らずの森の魔女様。深い青のストレートロングの髪が膝くらいまである猿種。
ルブルムとアルブムをホムンクルスとして生み出し、リテルの魔法の師匠となった。『解呪の呪詛』を作成中。
・ディナ
カエルレウムの弟子。ルブルムの先輩にあたる。重度で極度の男嫌い。壮絶な過去がある。
アールヴを母に持ち、猿種を父に持つ。精霊と契約している。トシテルをようやく信用してくれた。
・ウェス
ディナに仕えており、御者の他、幅広く仕事をこなす。肌は浅黒く、ショートカットのお姉さん。蝙蝠種。
魔法を使えないときのためにと麻痺毒の入った金属製の筒をくれた。
・『虫の牙』所持者
キカイー白爵の館に居た警備兵と思われる人物。
『虫の牙』と呼ばれる呪詛の傷を与えるの魔法の武器を所持し、ディナに呪詛の傷を付けた。
・メリアン
ディナ先輩が手配した護衛。リテルたちを鍛える依頼も同時に受けている。
ものすごい筋肉と角と副乳とを持つ牛種の半返りの女傭兵。
・エクシあんちゃん
絶倫ハグリーズの次男でビンスンと同い年。ビンスン、ケティ、リテルの四人でよく遊んでいた。犬種。
現在はクスフォード領兵に就く筋肉自慢。ちょいちょい差別発言を吐き、マウントを取ってくる。リテルたちの護衛となった。
・クッサンドラ
ゴド村で中身がゴブリンなマドハトの面倒をよく見てくれた犬種の先祖返り。ポメラニアン顔。
クスフォード領兵であり、偵察兵。若干だが魔法を使える。
・エルーシ
ディナが管理する娼婦街の元締め、ロズの弟である羊種。娼館で働くのが嫌で飛び出した。
仲間の猿種と鼠種と共に盗賊団に入団しようとした。現在逃走中と思われる。
・バータフラ
クラースト村出身の、とある四年分の世代全体に対して付けられた名前。全員が爬虫種。
上から、リーダーのミン、ダイクに心酔した実の兄弟アッタとネルデー、広場でメリアンに殺されたカンタ、そしてレム。
・レム
爬虫種。胸が大きい。バータフラ世代の五人目の生き残り。不本意ながら盗賊団に加担していた。
同じく仕方なく加担していたミンを殺したウォルラースを憎んでいる。ひょんなことからトシテルの妹になった。
・ロービン
マッチョ爽やかイケメンなホブゴブリン。メリアンと同じくらい強い。正義の心にあふれている。
マドハトと意気投合し、仲良くなれた様子。
・スノドロッフ村の子どもたち
魔石の産地であるスノドロッフ村からさらわれてきた子どもたち。カウダの毒による麻痺からは回復。
猫種の先祖返りでアルバス。ミトとモペトの女子が二人、男子がトーム。モペトはリテルを気に入った様子。
・ベイグル
スノドロッフ村の若き村長。槍を武器に持つ。魔法も色々と得意。実はトームの父親。
スノドロッフ村の人々は成人するときにレムールと契約するが、その契約を行う魔法を知っている。
・トリエグル
スノドロッフ村の弓の名手。
・タービタ
スノドロッフ村の女性。数日前に行方不明になった後、全裸で槍だけを装備して突然姿を現した。レムに操られていたが、現在は元に戻った。
・ウォルラース
キカイーの死によって封鎖されたスリナの街から、ディナと商人とを脱出させたなんでも屋。金のためならば平気で人を殺す。
キカイーがディナたちに興味を示すよう唆した張本人。ダイクの作った盗賊団に一枚噛んだが、逃走。
・ロッキン
名無し森砦の守備隊第二隊副隊長であり勲爵。フライ濁爵の三男。
ダイクが率いていた守備隊の中で、唯一、盗賊団ではなかった。脚の怪我はリテルが回復してあげた。
・ダイク
名無し森砦の守備隊第二隊隊長であり勲爵であると自称。筋肉質で猿種にしては体が大きい。
実績作りのためにカウダ盗賊団を自作自演した。ロービンに左腕を切り落とされ、何かを呑み込んで人を辞めたっぽい。死亡。
・プラプディン
名無し森砦の守備隊にして盗賊団。小太りの両生種。頭に赤い花が咲いて死亡。
・スナドラ
名無し森砦の守備隊にして盗賊団。鼠種。頭に赤い花が咲いて死亡。
・ホリーリヴ
名無し森砦の守備隊にして盗賊団。鳥種。魔法を使うが、そこまで得意ではなさげ。暴走したダイクに殺された。
・ブラデレズン
名無し森砦の守備隊にして盗賊団。馬種。ルブルムやケティを見て鼻の下を伸ばしていた。
ウォルラースの魔法品でうずくまっていた女性陣を襲おうとしてメリアンに返り討ちにされた。
・ガレーテ・クスフォード
マウルタシュ・クスフォード虹爵の長男であり、クスフォード領兵第二隊隊長でもある。
国王とクスフォード領主との間で取り交わされた「決定」事項を伝えに来た。
・エマワ
クスフォード領兵第二隊副隊長。犬種の狐亜種半返り。若くてスレンダーな美人。
・レムール
レムールは単数形で、複数形はレムルースとなる。地界に生息する、肉体を持たず精神だけの種族。
自身の能力を提供することにより肉体を持つ生命体と共生する。『虫の牙』による呪詛傷は、強制召喚されたレムールだった。
■ はみ出しコラム【魔物デザイン その一の七】
今回のはみ出しコラムでも、#47 の【魔物まとめ その一】について、別の角度から書く。
・ホルトゥスにおける骨なし
異世界との境界に近い場所に生息する半分液体状の生物。瘴気を喰らう。
その瘴気を喰らう特性がために、洞窟潜りが捕まえて瓶などに詰めたものを高額で売っている。
・地球におけるフリテニン
Frittenin。原義は「怖いもの」「お化け」の意。フリートニンとも言う。脅し文句に使われる。「骨なし」のことをイングランド西部の方言ではこう呼ぶ。
・地球における骨なし
Boneless。シェットランド諸島の「It」に似ていなくもない、形のないものの一つ。旅人やベッドに寝ている子供を恐怖に陥れる。
次のような証言がある。
「オックスフォード市に夜出かけた行商人が途中で骨なしに遭遇した」
「サマーセット州の、ブリストル海峡に沿ってほぼ平行に走るマインヘッド=ブリッジウォーター道路を巡回区域としていた警察官がある晩、自転車で巡回中に骨なしと恐ろしい遭遇をして、ついには受け持ち区域を変わってもらった」
「とある男が海近くの丘で自転車に乗っていた所、ランプの灯りの中に羊毛のようにふわりとした白いものが現れた。それは生きて動いており、羊毛のようにふわりとしたもので、雲か、濡れた羊みたいだった。それはすっと滑り寄ってきて、自転車に乗った男の上にすっぽりかぶさり、伸びたり縮んだりしながら、ころころ、するすると滑っていって、ついに消えた。何か濡れた、重い、恐ろしく冷たい、むっとするような臭い、毛布みたいだった。」
「暗い夜に、人の後ろや横をすっと滑っていく形のないもの。多くの人がこれに追いかけられ、恐怖のあまり死んでいる。大きな影で形がないという以外は、それについて誰も語れない」
・地球における It
骨なしやヘドリーの牛っ子のシェットランド版とも考えられる無定形な生き物。まやかしの術の大家らしく、見る人ごとに必ず違った姿をとる。
(フリテニン、骨なし、It、共にキャサリン・ブリッグズ編著『妖精事典』より)
・骨なしのデザイン
まず最初に考えたのは、Wizardry・ドラクエ以降、ファンタジーの定番モンスターとなったスライムについて、どのようなカタチで登場させようか、ということだった。
今回この物語における自分に課した決まり事において、モンスターは、既存モンスターの語られていない部分の独自解釈はするけれど、完全オリジナルモンスターは出さない、というのがある。
何をもって既存モンスターと言うかといえば、神話で伝説、各地の伝承に残っているモンスターのことである。
明らかに創作物由来のモンスター、例えば「オーク」などは出さないと決めていた。
そして前出の妖精事典を初め、各地の神話伝説などを読み漁り、その中でもっともスライムっぽいものとして「骨なし」に着目した。
骨なし目撃談の全てに合致する特徴にはできなかったが、不定形という点においてこれ以上に適任な存在はないであろう。
また、その生態だが、骨なしは人間に覆いかぶさりはするが、決して人を食ったり吸収したりはしていない。
なので生物を襲ったり、いわゆるゴミ掃除的な食事というのはしない方向に決まった。もちろん服だけ溶かしたりもしない。
その生息域や食事などを「生物として」構築していった結果、瘴気を喰らうという設定に落ち着いた。
かくしてホルトゥスにおけるスライムは、このような生物になったのである。
その目が大きく見開き、頬が歪み――いや、緩んだ?
突然ガレーテ様は大きな声で笑った。
「アーハー!」
一瞬、その単語がなんだか分からなかった。
アハハとは違う感じ。
「なるほどなるほどなるほど」
「アハ」という単語を三回繰り返した。
なるほど。ホルトゥスの言葉で「アハ」か。さしずめ「なーるーほーどー」的な表現か。
リテルが聞き慣れていない用法や知らない単語だと脳内翻訳されずに直で聞こえるんだな。
で、なんで「なるほど」?
ガレーテ様の納得の理由はまだ把握しきれていないが即座に危機と呼べる状況は脱せたのだろうか、と心にゆとりができた途端に思考が走り出したのを実感し、少し不安になる。
思考を止めるなという教えに忠実過ぎて、考えるべきときに向き合う問題の外側に思考を広げすぎて、どうでもいいことに脳内リソースを割きすぎていないか、という不安。
大事なことに集中しなきゃだよ。
だって俺は今、貴族の発言を遮ったんだ。
地球の封建制度の下みたいに即座に不敬罪で死刑みたいなことはないが、「失礼なこと」をしたのは確かだ。
そう。
これだけ大勢の前で口封じでいきなり殺すというのは冷静に考えれば、少なくともホルトゥスの貴族らしくはない。
ホルトゥスには魔法がある。使用には寿命を――魔法に慣れていなければ大量に消費するけれど。
ストウ村のように暴発を恐れて子供には隠しているところも少なくないが、基本的には大人であれば誰でも「最悪でも命と引き換えにすれば魔法を使えること」を知っている。
罪には相応の罰は存在するが、大抵は罪に応じた年数の寿命を提出するだけで済む。
それをいきなり殺す、なんてのはそれこそ盗賊団の類いの行いだ。
被害者が恨んだら、被害者の友人や家族が恨んだら、その腹いせに個人の命が魔法で失われることは容易い。
だからこそ公的な行為においては、理不尽さを回避する行動を選ぶのが貴族だ。
俺の行動はそういった貴族の行動原理を否定したことになる。それが侮辱にあたる。
それでもガレーテ様は笑ってくださった。
だとしたら俺がすべきことは。
「お話を遮ってしまい、申し訳ありませんでした」
両膝をつくお辞儀。最大限の謝罪。
「そうかそうか、まあ確かにそういう出会いもあるだろうよ!」
跪いたままの俺の肩にガレーテ様の手が触れる。
貴族様との初めての出会いがこのような状況になり、リテルには申し訳ないったらない。
「立ちなさい、寄らずの森の魔女様の弟子リテルよ」
ガレーテ様に名前を把握されていることにドキドキしながら立ち上がる。
膝についた土を払うのすらためらわれる。
申し訳なさと恥ずかしさとで顔をあげられない。
そりゃ紅爵様への面会にディナ先輩とルブルムだけで行くはずだ。
色々なことがうまく回り始めてきたと思った矢先の大失態――その俺の視界の端で、ガレーテ様の剣がレムの手足の縄を切った。
「本来ならば名無し森砦の守備兵レムはこれよりフォーリーへ連行し事情徴収をする予定だったが、このクスフォード領兵第二隊隊長ガレーテ・クスフォードの名において、リテルの行く旅への同行が可能となるよう取り計らおう!」
ガレーテ様の宣言が森にぽっかりと空いた広場の中へ響き渡る。
「良きかな、若者よ。この旅から無事に帰った暁にはその物語を聞かせたまえよ!」
再び大笑いした後、ガレーテ様はベイグルさんと真面目に話をし始めた。
なんだかとてもいい人じゃないか。
ホッとして膝の力が抜けそうになった俺を、ケティとルブルムが両側から支えてくれる。
「やっぱりあの子と何かあったんじゃない」
ケティが不服そうにこぼして、ようやく俺は理解できた。
「そういう出会い」とは、俺とガレーテ様のことじゃない。俺とリムのことだったのだと。
「よろしいですか。クスフォード領兵第二隊副隊長エマワです。今後のことについて私からご説明させてください」
犬種の半返りの女性領兵が俺たちの前に立つ。
尻尾からすると狐亜種だろうか。若くてスレンダーな美人だ。
ケティが俺の脇腹を死角からつねる。
まだ何も言っていないのに、信用されていない――俺の現状を考えると仕方ないのかもだけど。
その後、エマワさんから説明を受けた。
王国側からも事情徴収する権限者がいらっしゃるそうで、俺たちは名無し森砦でその到着を待たねばならぬとのこと。
もちろん客人待遇での滞在とのことだが、実質的には軟禁状態となるようだ。
呪詛が無闇に広まってしまう可能性を考えるとラビツたちに早く追いつきたいのだが、今回の一件がそれなりに大きな事件であるがために、王国側はどうしても直接会って釘を刺したい思惑があるようだ。
その代わり、俺たちには新しい馬車が贈られ、護衛まで付くという。
正直その護衛が信用できるかどうかという問題もあるし、なるべく俺やルブルム、そしてマドハトの手の内を見せたくはないというのがあるのだが、もちろん逆らえるわけもなく。
名無し森砦で解放されるまではガレーテ様やエマワさんも同行してくださるというが、不安ばかりが募る。
ただ、別途ケティをフォーリーまで送っていただけること、ディナ先輩への「言伝」を済ませた後さらにストウ村までも送っていただけると約束してくださったのには感謝だ。
ケティにも女性の領兵が護衛として付くというので、こちらは一安心か。
クスフォード第二隊の皆さんが馬車に積まれた死体を検分している間、ちょっと時間ができた俺たちはベイグルさんたちとお別れの挨拶を交わす。
「リテル殿には本当にお世話になりました」
「いえ、こちらこそです。色々と教えていただいて、ポーのことだって本当に感謝しております」
周囲に領兵がたくさんいる中なのであえて魔法とか契約とかいう単語は使っていないけれど、本当だったらポーにも手を振るみたいに動くのをお願いしたかったほど。
ベイグルさんから教えていただいた魔法はなんというかとてもメルヘンな思考で、今までの俺にはなかったものなので、自分の幅を広げるにはとてつもなくありがたい。
枯れ枝に燃えている夢を見せる『燃える夢』とか、物質の勢いを遠回りというか一時的に別世界を経由させる『遠回りの掟』とか、考えるな感じろ的な魔法には価値観をいっぱい刺激された。
そんなベイグルさん達との会話に混ざってきた人が居た。
「リテル!」
ロービンだ。
俺たちが広場に戻ってきてからさっきまでの間、見当たらなかった。
ホブゴブリンだと領民とは違うから自由なのか?
「間に合って良かった! おいらからリテルへ贈り物があるんだ」
そう言ってロービンがくれたのは、卵型の石?
サイズは手のひらからちょっとはみ出すくらい。大きめのマンゴーに近いかも――あ、地球のマンゴーね。ホルトゥスではまだマンゴーっぽい果物は見ていない。
しかも質感が石っぽい割には、石ほど重くはない。
「ロービン、これはなんだい?」
「これは卵石さ」
「卵石? 温めると孵ったりするの?」
「おいらは親父から名前しか聞いていないから詳しくはわからない。でも魔術師が喜ぶものって言っていた」
ロービンの話によればかなりのお宝らしい。
騙されていたロービンを救ったこと、あとホブゴブリン魔法を知りたいと言った初めての人ということで、ロービンの中で俺の評価は爆上がりしたようだ。
「あと、これも」
そう言ってロービンは魔法をもう一つ教えてくれた。
『森の伝令』という魔法。
この森のあちこちに、ロービンがひっそりと描いている「印」があって、それに触れながら合言葉を言うと、ロービンと『遠話』みたいなやりとりができるというもの。
洞窟前で「迎えが来る」と言っていたのは、『森の伝令』でベイグルさん達と通話をしていたからのようだ。
ただその「印」には定期的に魔法代償を補充しなければいけないようで、一回使って『森の伝令』が不発だったときは「印」への魔法代償補充な効果を持つという。
ちなみにこの「印」は、ロービン自身が作らないと意味がないため、名無し森以外には設置していないという。
今度『森の伝令』を使うときには楽しい報せを伝えられたらいいな。
「リテルさま!」
ちょっと離れたところからマドハトが走ってきた。
その後ろからもう一人、駆けてくる犬種がいた。
先祖返りのポメラニアン顔の領兵――見覚えがあるぞ。確かフォーリーの街でマドハトの知り合いぽかった人。
「ちゃんとご挨拶するのは初めてですね。おいらはクッサンドラです」
そう、クッサンドラ。
しかも一人称のクセがロービンと同じだ。
ホルトゥスの言葉は、一人称の単語にそれほどバリエーションがあるわけじゃない。ただ、俺の使い慣れた地球の日本語には一人称のバリエーションがたくさんあるせいか、一人称の細かなアクセントやクセによって勝手に使い分けられて聞こえてしまう感じっぽい。
「リテルさま! クッサンドラはゴド村でよくしてくれていた人です!」
どうやらマドハトがゴブリンシャーマンやっている頃に『取り替え子』で入れ替わっていた病弱マドハトの世話を焼いてくれていた幼馴染、のようだ。
ゴド村も、俺たちのストウ村同様に先祖返りはごく少数だったから、仲間意識が強固になるのもうなずける。
ただマドハトからしたら、自分自身に思い出があるわけじゃなく、体に残った記憶を思い出しているようだから複雑な気持ちなん――おいおいマドハト、お前自分が呪詛持ちって忘れているだろ。
舐めるな舐めるな!
なんとか呪詛が伝染するリミット前に引き剥がすことに成功する。
「改めて、リテルです。こちらはルブルム、メリアン、あと……」
ケティがいつの間にかいない。
そういえば送ってくれる領兵に挨拶に行くって言っていたっけ。
「よろしくお願いします」
クッサンドラは現在、クスフォード領兵として働いており、今後俺たちと同行する護衛の一人ということらしい。
直接ではないにせよ、身内の知り合いということに少しだけホッとする。
ただ「護衛の一人」というからには他にもいるのだろうな。
「おい、クッサンドラ。お前、こんな所で遊んでんなよ?」
その声に聞き覚えがあった。俺じゃなくリテルが。
「エクシあんちゃん!」
リテルやケティの幼馴染、犬種でハグリーズさんの次男。
リテルの兄ビンスンと同い年だから三歳上の十八歳。もちろん十二進数で、だけど。
その横には戻ってきたケティまで。
「リテル、随分偉くなったんだな」
ニヤニヤ笑うエクシあんちゃんの横には、笑顔のケティ。
俺からしたらどってことのない光景なのだが、リテルの記憶の中ではこのツーショットにはもやもやがつきまとっている。
どちらかというとヤンチャな感じで、ケティのことが好きで、それもあってかリテルに対する言動にはちょいちょいトゲがあったから。
リテルがマクミラ師匠に弟子入りするちょっと前、エクシは仕事を求めてフォーリーの街へと出たのだが、あの頃ケティが寂しそうにしていたから、ケティもエクシあんちゃんを好きなのかなって当時のリテルは思っていたようだ。
「偉くはなってないよ」
「まあ実力のほどはすぐにわかるだろうよ。別に隠れて馬車の中で震えていても、俺が守ってやるから安心しな。もちろんケティのために、だけどな」
笑い出すエクシあんちゃん。
リテルは苦手に思っていたんだろ。俺も同じ気持ちだ。
しかもリテルの記憶の中のエクシあんちゃんと比べると、二回りくらい体格が良くなっている。
領兵だから鍛えるのは当然なんだけど、体格だけじゃなく態度も大きくなっている気がするんだよな。
そんなエクシあんちゃんとケティは楽しそうに談笑している。
話のネタはリテルの小さい頃の失敗話に始まり、今はケティがリテルの魔女様弟子入りをイジっている。マクミラ師匠に弟子入りしたにも関わらず、って。
エクシあんちゃんと一緒にいるときのケティは「向こう側」という印象が強くて、確かにこれはもやもやするよな。
「いやいやケティ、実はリテル、マクミラさんのあと追っかけるのに疲れて座り込んで泣いてたところを魔女様に見つけてもらっただけかもよ? ほら、あのときみたいに。リテル、お前あのときも転んで泣いてたよなぁ? 俺たちのあとを一生懸命追いかけてきてさ、あのときは可愛かったのによ?」
わかりやすいマウント取りにイラつくし、それを一緒になって笑っているケティにもちょっと腹が立つ。
リテルならどう反応しただろうな。
それに今、新たに見つけたリテルの記憶にとんでもないのがあった。
ドッヂのことを「動物戻り」って呼んでいた記憶だ。
先祖返りを指すこの差別的な表現をリテルが知ったきっかけ――あの頃はまだドッヂが言葉を理解できないくらいに幼かったからドッヂ自身は傷つかずに済んだようだけど。
え、ちょっと待って。こいつ、さっき俺を守ってやるとか言ってたよな?
こいつも同行すんのか?
エクシは笑いながら、今度はクッサンドラをチラ見する。
「魔法ね、いいんじゃない? 筋肉鍛えるのに挫折した奴の逃げ道だろ?」
空気がひりつき、ケティも笑うのをやめた。
リテルは何も挫折していない。
魔術師に、カエルレウム師匠に勝手に弟子入りしたのは、リテルじゃなく俺なんだ。
エクシにつけ入る隙を与えてしまったのも俺だ。
真面目に狩人として頑張っていたリテルには本当に申し訳ない。
「お別れの挨拶は済んだ?」
エマワさんがやってきてケティについてくるよう声をかけた。
ケティはハッとした顔で俺を見つめる。
なんでこんなクズっぽいエクシとケティはあんな楽しそうにしゃべっていたのか。
筋肉好きなのか?
ケティは俺に近づこうと一歩踏み出したが、泣きそうな顔で立ち止まった。
俺は多分、不機嫌な表情を浮かべている。
別れ際、リテルのためにケティを笑って送ってあげたかったのに、ダメだった。
俺は紳士の足元にすら到底及ばない。
「リテルは魔術師として優秀だ」
ルブルムがそう言って俺の腕を引っ張った。
もう片方の腕を、いつの間にか現れたレムが引っ張ってケティに背中を向けさせる。
「ははっ。女の子の後ろに隠れて庇われてるなんてさ、今も昔も変わらずだなっ」
エクシの笑い声を置き去りにして、俺たちは馬車へと移動した。
新しく用意していただいた馬車には、水樽に何日分かの保存食、寝藁に、防衛用の弓矢や槍まで積んであった。
メリアンやマドハトと一緒にクッサンドラも乗り込んでくる。
「すみません。エクシさんがバカにしたのはおいらのことなんです……昔はあんな人じゃなかったんですけれど」
クッサンドラが突然、謝ってきた。
いや、リテルの記憶だとそんな変わってはないんだけどね。
クッサンドラは領兵の中でも特殊な偵察兵だそうで、魔法も習っているとのこと。
『魔力感知』で周囲を索敵し、事前に設定しておいた魔法品へ情報を送る『警報通知』という魔法で通信を行い、刃の切れ味や丈夫さを補強する『刃強化』という戦闘補助魔法まで覚えているという。
また、『生命回復』の収められた魔石まで所持していた。
魔法の習得ではなく魔石を所持しているのは、味方の被害が甚大だった場合に偵察兵が『生命回復』の使い過ぎで命を落とすことを防止するためだとも教えてくれた。
「領兵なのに自分で戦わずに守ってもらう存在というのが気に入らないのだと思います」
クッサンドラがそう納得しているのであれば余計な口を挟むのもアレだから黙っているけれど、エクシがあんななのは昔から――と、ここでマクミラ師匠の顔が浮かんだ。
『怒りは冷静さを削る』とおっしゃっていたときの顔が。
確かに今の俺は紳士じゃなかった。
リテルの記憶の中には、なんだかんだ言いながら面倒見が良かったエクシや、からかいはするけれど絶対に置き去りにはしないエクシに対する安心感も見つけた。
そうだな。昔はあんなクズじゃなかったかもしれない。
俺がエクシへの怒りを少し落ち着かせたとき、エマワさんの声が聞こえた。
「忘れ物はない?」
「すみません。一つだけ」
俺は馬車を飛び降り、走った。
ケティの所へ。
既に騎乗している女性領兵の背中にしがみついているケティを見つけて駆け寄り、手の平を見せた。
四本の指を揃えて伸ばし、親指だけ曲げる、俺たちの合図。
ビンスン兄ちゃんとエクシあんちゃんとケティとリテル、その四人だけで遊びに行くときの秘密のサイン。
立てた指は四人を表し、手の平に武器を握っていないって意味もある、仲間の証。
表情も、リテル自身のケティへの気持ちを思い出して、笑顔を作って。
ケティはちょっと赤くなった目を丸くして、それから笑って、俺に同じサインを見せた。
これでいい。
しばらくの間はケティと会えないんだ。
リテルだったらきっとケティの笑顔を見たかっただろうし、見せたかったはず。
「では、ひと足お先に」
ケティと領兵の乗った馬、それから他にも二頭、領兵を乗せた馬が連れ立って走り出す。
その背中を見送りながら俺の中のリテルに問う。
なあリテル、俺は少しだけでも紳士に近づけたかな。
名無し森砦での軟禁はあっという間に三日が過ぎた。
その間、俺は日中ずっとメリアンに稽古をつけてもらった。
別にエクシにああ言われたからじゃなく、生き残るために。
そして夜はマドハトとレムに消費命の絞り方を教えた。
二人の上達は思ったよりも早く、ルブルムには教えるのが上手とほめられたが胸中は複雑だ。
俺が魔法を覚えるのが早かったのはちょっと特別だったんじゃないかとか少しだけいい気になっていたことに気付いたから。
魔法というのは精神的なものだから、最初の理解を乗り越えることさえできたらその先が早いのだそうだ。
それに引き換え武器や肉体を使った戦闘術の習得は、目で見てわかるほどの効果は得られていない。
頭で理解してもそれが体に馴染むまでに時間がかかるのだ。それも何度も鍛錬を欠かさず繰り返したうえで。
モノになるまで時間がかかるのは楽器と一緒。
砦での主な居住スペースはロッキン隊が使っていた隊室をまるまる使わせてもらった。
細長い部屋の両側の壁に沿って寝藁を敷き詰めた木の囲い、つまりベッドが三つずつの六人部屋。
あの竪穴で戦った野盗兵士な連中――プラプディン、スナドラ、ホリーリヴ、ブラデレズンたちの使っていたベッドだ。
汗臭い男臭さが染み付いたその寝藁を交換などできるわけもなく、自分のベッドがあるロッキンと、そういうのを全く気にしないメリアンやマドハトはそのまま。
未使用だった一つのベッドはルブルムに譲り、ロッキン隊に仮配属になったレムは自分の部屋の寝藁と交換し、俺のベッドはレムの隊室の空きベッドと寝藁を交換した。
エクシやクッサンドラは砦内に簡易テントのようなもの設営し、他のクスフォード領兵と一緒に寝泊まりしている。
ガレーテ様やエマワさんは来客用の部屋をあてがわれているようだが、俺たちがロッキンさんたちというかレムと同室なのはガレーテ様の図らいらしい。
まあ、エクシと同じ部屋での寝泊まりじゃないのは正直嬉しいのだけれど。
それに、なんだかんだ寝付けないとか言い訳をしてルブルムとレムとなぜかマドハトまで俺のベッドに潜り込んできた所を見られないで済んだのも有り難かったし。
メリアンはともかくロッキンの前でそれはどうなのかとは思ったが、エッチなことをしているわけじゃないので見逃していただけたのか、特に注意すらされなかった。
狭くて身動きが取れなかったが、それでも謎の安堵感に包まれて熟睡できた。
もちろん寝る前にはルブルムやレムと『テレパシー』による情報交換をした。
おかげで、ルブルムがカエルレウム師匠のとこで学んだ膨大な魔物の情報を教えてもらったり、俺の好きな曲をレムやルブルムへ教えたりもできた。
名無し森砦に着いてから四日目、星の月夜週七日目の夕暮れに王都からの使いであるチャルズ紫爵ご一行が到着した。
ダイク隊長のとりあえずの後任ということだが、明らかに名無し森砦で一番身分が高い人になる。
着いて早々にガレーテ様と対談し、そこへ俺たちが呼ばれ、改めて国とクスフォード領との取り決めた内容を徹底された。
エマワさんがこっそり教えてくれていたのだが、クスフォード側が今回、国に対して恩を売る形で事実の隠蔽に協力したのも、今後何か起きたときに国側に便宜を図っていただくための布石だという政治判断なのだそうだ。
だからクスフォード領のために我慢してほしいとのことだったが、恐らくこれって今のところは秘密にできている「ラビツ一行が呪詛をバラまいている」ことが明るみになってしまった際への保険なんだろうな。
呪詛を作成したカエルレウム師匠やディナ先輩たちに迷惑が及ばないように、俺たちは全面的に取り決めを遵守すると誓った。
● 主な登場者
・有主利照/リテル
猿種、十五歳。リテルの体と記憶、利照の自意識と記憶とを持つ。魔術師見習い。
ゴブリン用呪詛と『虫の牙』の呪詛と二つの呪詛に感染。自分以外の地球人の痕跡を発見し、レムールのポーとも契約した。
・ケティ
リテルの幼馴染の女子。猿種、十六歳。黒い瞳に黒髪、肌は日焼けで薄い褐色の美人。胸も大きい。
リテルとは両想い。フォーリーから合流したが、死にかけたり盗賊団による麻痺毒を注入されたり。
・ビンスン兄ちゃん
リテルの兄。部屋も一緒。猿種、十八歳。リテルとは同じ部屋。
・ドッヂ
リテルの弟。ソンとは双子。猿種の先祖返り。
・ラビツ
久々に南の山を越えてストウ村を訪れた傭兵四人組の一人。ケティの唇を奪った。
フォーリーではやはり娼館街を訪れていたっぽい。
・マドハト
ゴブリン魔法『取り替え子』の被害者。ゴド村の住人で、今は犬種の体を取り戻している。
元の世界で飼っていたコーギーのハッタに似ている。変な歌とゴブリン語とゴブリン魔法を知っている。
・ルブルム
魔女様の弟子である赤髪の少女。整った顔立ちのクールビューティー。華奢な猿種。
槍を使った戦闘も得意で、知的好奇心も旺盛。ウォルラースの魔法品により深い眠りに落ちていたが目覚めた。
・アルブム
魔女様の弟子である白髪に銀の瞳の少女。鼠種の兎亜種。
外見はリテルよりも二、三歳若い。知的好奇心が旺盛。
・カエルレウム
寄らずの森の魔女様。深い青のストレートロングの髪が膝くらいまである猿種。
ルブルムとアルブムをホムンクルスとして生み出し、リテルの魔法の師匠となった。『解呪の呪詛』を作成中。
・ディナ
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・ロービン
マッチョ爽やかイケメンなホブゴブリン。メリアンと同じくらい強い。正義の心にあふれている。
マドハトと意気投合し、仲良くなれた様子。
・スノドロッフ村の子どもたち
魔石の産地であるスノドロッフ村からさらわれてきた子どもたち。カウダの毒による麻痺からは回復。
猫種の先祖返りでアルバス。ミトとモペトの女子が二人、男子がトーム。モペトはリテルを気に入った様子。
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スノドロッフ村の若き村長。槍を武器に持つ。魔法も色々と得意。実はトームの父親。
スノドロッフ村の人々は成人するときにレムールと契約するが、その契約を行う魔法を知っている。
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スノドロッフ村の弓の名手。
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スノドロッフ村の女性。数日前に行方不明になった後、全裸で槍だけを装備して突然姿を現した。レムに操られていたが、現在は元に戻った。
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キカイーの死によって封鎖されたスリナの街から、ディナと商人とを脱出させたなんでも屋。金のためならば平気で人を殺す。
キカイーがディナたちに興味を示すよう唆した張本人。ダイクの作った盗賊団に一枚噛んだが、逃走。
・ロッキン
名無し森砦の守備隊第二隊副隊長であり勲爵。フライ濁爵の三男。
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名無し森砦の守備隊にして盗賊団。小太りの両生種。頭に赤い花が咲いて死亡。
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名無し森砦の守備隊にして盗賊団。鼠種。頭に赤い花が咲いて死亡。
・ホリーリヴ
名無し森砦の守備隊にして盗賊団。鳥種。魔法を使うが、そこまで得意ではなさげ。暴走したダイクに殺された。
・ブラデレズン
名無し森砦の守備隊にして盗賊団。馬種。ルブルムやケティを見て鼻の下を伸ばしていた。
ウォルラースの魔法品でうずくまっていた女性陣を襲おうとしてメリアンに返り討ちにされた。
・ガレーテ・クスフォード
マウルタシュ・クスフォード虹爵の長男であり、クスフォード領兵第二隊隊長でもある。
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・骨なしのデザイン
まず最初に考えたのは、Wizardry・ドラクエ以降、ファンタジーの定番モンスターとなったスライムについて、どのようなカタチで登場させようか、ということだった。
今回この物語における自分に課した決まり事において、モンスターは、既存モンスターの語られていない部分の独自解釈はするけれど、完全オリジナルモンスターは出さない、というのがある。
何をもって既存モンスターと言うかといえば、神話で伝説、各地の伝承に残っているモンスターのことである。
明らかに創作物由来のモンスター、例えば「オーク」などは出さないと決めていた。
そして前出の妖精事典を初め、各地の神話伝説などを読み漁り、その中でもっともスライムっぽいものとして「骨なし」に着目した。
骨なし目撃談の全てに合致する特徴にはできなかったが、不定形という点においてこれ以上に適任な存在はないであろう。
また、その生態だが、骨なしは人間に覆いかぶさりはするが、決して人を食ったり吸収したりはしていない。
なので生物を襲ったり、いわゆるゴミ掃除的な食事というのはしない方向に決まった。もちろん服だけ溶かしたりもしない。
その生息域や食事などを「生物として」構築していった結果、瘴気を喰らうという設定に落ち着いた。
かくしてホルトゥスにおけるスライムは、このような生物になったのである。
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ドアマットヒロイン……物語の主人公としての、奪われる人生の、最初の一手。
だから、わたしは・・・よし、とりあえず馬鹿なことを言い出したこのアホをぶん殴っておこう。
ドアマットヒロインはごめん被るので、これからビシバシ躾けてやるか。
ついでに、「政略に使うための駒として娘を必要とし、そのついでに母親を、娘の世話係としてただで扱き使える女として連れて来たものかと」
そう言って、ヒロインのクズ親父と異母妹の母親との間に亀裂を入れることにする。
フハハハハハハハ! これで、異母妹の母親とこの男が仲良くわたしを虐げることはないだろう。ドアマットフラグを一つ折ってやったわっ!
うん? ドアマットヒロインを拾って溺愛するヒーローはどうなったかって?
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2023/08/14……連載開始
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