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#56 血戦
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メリアンの舌打ち。
見ると小剣が片方折れている。
メリアンの小剣はルブルムの小剣と比べると倍ぐらい分厚くてゴツいのに、それが折れるなんて。
「あのギザギザ、やっかいだねぇ。汚い傷を付けて回復しにくくするんかと思ってたが、まさかあたしの剣を壊せるくらいの強度があるとはね。しかも」
ダイクの姿が明らかに変わっていた。
ゲームなんかでボスキャラが負けそうになったら急に進化して強くなる、まさにアレ。
上半身は二周り以上は膨れて――パンプアップって感じ。
そのせいで留め具が壊れたのか鎧の一部が周囲に散乱している。
皮膚は赤黒く変色した上に、鱗のようなモノが次々と生えつつあるようにも見える。
ダイクの寿命の渦が見たことのない形へと変わっている――絶対に猿種ではない何か。
しかも片腕で振り回すあの異様な剣の速度は、さっきまでとは比べ物にならないくらい早くなっている。
その剣の軌道が傍らに居た魔術師の体を通り抜けた。
マンガみたいに、魔術師の上半身が斜めに滑って落下した。
残った下半身も激しく血を吹き出しながらゆっくりと倒れる、その間に更に分割された。
「味方かどうかもわからなくなっているのか……リテル、あれはまずい。ロービン以外を連れて竪穴から出ろ」
ルブルムが心配ですぐには返事ができなかった。
その間にダイクは馬へと襲いかかり、あっという間に二頭を惨殺する。
ロービンが立ち上がると今度はそちらへと向かう。
ロービンはまだ麻痺が抜けきれていないのか、大剣をなんとかつかんだだけ。
明らかに異形ダイクのスピードに反応しきれていない。
「おい!」
メリアンが片手を盾に持ち替えてダイクの背後へと走ると、ダイクの剣の切っ先が素早くメリアンへと向けられる。
「こいつは動いたものを狙うっぽい! 馬は使わず徒歩でゆっくり逃げろ!」
メリアンはダイクの熾烈な攻撃をなんとか凌ぎながら叫ぶ。
俺がケティへと目配せすると、ケティはゆっくりと俺に何かを差し出す。
ルブルムがさっき使った白魔石だ。『カウダの毒消し』が収納されているやつか。
俺もゆっくりとそれを受け取り、マドハトの首筋へ触れ――固っ!
これはケティやエルーシが麻痺ってたときと違う。
そういや、と、さっきマドハトが俺の代わりに受け取ったモノを確認すると、紫魔石の嵌った小さな盾型の魔法品。
指が届くのでその紫魔石に触れてみる。
マドハトが触ったことで既に発動しているのであれば、俺にまで発動されることはないはずだから。
この手の封入魔法は使用者が複数同時に発生することを想定していないことが多いってディナ先輩から教わったのを信じて――うん。大丈夫だな。
紫魔石の中身は魔術――その構成魔法の一つは俺が習ったことのあるやつ。『皮膚硬化』だ。
ということはマドハトは、表皮が鎧のように固くなったおかげで動けないのか?
それ以外の構成魔法は実際に使ってみないとわからないが、もしも『皮膚硬化』だけならなんとかなるかも?
俺が魔法効果を打ち消す魔法として教わっているのは『魔力消散』だけ。
でもそれは魔法を発動する瞬間に偽の消費命を先んじて渡して、相手の魔法の発動を失敗させるというもの。
既に発動してしまっている魔法を打ち消すことはできない。
そもそも魔法の効果については、一方的な効果をもたらすものが少なくなくて、例えば切り傷や打撲は『生命回復』で回復できても、火傷のように体組織が完全に死んでしまった部分については『生命回復』は効果がない。
変容してしまったものを戻せるときと戻せないときが――もしも『皮膚硬化』だけの効果なら――魔法品の特徴について習ったことを頭に思い浮かべる。
あまり複雑な魔術は格納しない。
大抵は主となる効果を持つ魔法が一つ、他にあっても補助的な効果で、あとはそれを制御する魔法――発動時に発動強度や発動時間を選べたりとか。
それに魔法抵抗が反射的に反応してしまうような、使用者に害となる効果が格納されている魔法品は、基本的には流通していない。
魔法品に格納されている魔法は魔術師組合へ持っていけば調べてもらえるから、奪われることが前提で作ったとしても使ってもらえないのが普通だから。
ということは――よし。
試してみる価値はあるな。
「マドハト、動くなよ」
『皮膚硬化』のイメージは理解している。ならばその反対なら理論上は。
「『皮膚硬化解除』」
ネーミングセンスはともかく、俺は魔法を発動した。
触れているマドハトの皮膚が、柔らかさが戻ってくるとともにポロポロと剥がれ落ちる。
俺が見守るなか、マドハトが少しずつ全身をかき始める。
この皮膚が剥がれるのも、それに伴い痒いのも『皮膚硬化』のデフォルト設計。
大丈夫そうかな?
「ケティ、マドハト。子どもたち三人を連れて、ゆっくりゆっくり動いてあの螺旋の通路を歩いて竪穴を出るんだ。俺も必ず後から行くから」
竪穴の外壁に沿って螺旋状に設置された板の通路を指すと、二人と三人は静かに首を横に振った。
いまだに紛らわしいけど了解の合図だ。
「上へ行ったら茂みに隠れてろ。まだ敵が居るかもしれない」
そう言い残して俺は、洞窟の入り口へと向かう。
自分には変わり果てたダイクの攻撃を避けたり受け止めたりする技術も力もないから、焦る気持ちをなんとか押し込めつつ、それでもウォルラースと一対一で対峙するルブルムのことを思うと早く追いつきたくて、もどかしくて。
「ロービン、走りながら戦うぞ!」
メリアンが突然走り出した。
ロービンもそれに合わせて走り出す。
助かる。
メリアンとロービンの消耗を考えると、そう長くは続けられない作戦だろうけど今はありがたい。
俺もメリアンたちよりは襲いスピードで走り出す。
見るとケティもメリアンのサポートを理解してくれたようで、少し早歩きになっている。
できる限り最善の速度で洞窟の入り口まで到着すると、感度MAX割り振りで『魔力感知』を洞窟の奥まで伸ばす。
すぐにルブルムを見つけ、同時にウォルラースを見つけられないことに安堵する。
しかもルブルムは入り口からすぐ見える場所まで戻ってきていた。
「ごめんなさい。ウォルラースは逃した」
思わずルブルムを抱きしめる。
「無事で良かった……謝ることないから」
ルブルムも俺にぎゅっとしがみつく。
「来てくれて嬉しい」
「ウォルラースは卑劣な罠を用意しているかもしれないし、次からは絶対に独りで追わないで」
「いいの? 一緒に行動しても」
「当たり前だろ」
そう答えつつも一瞬、思考が空回りしかけた。
俺がいつルブルムと別行動をしようとか言ったっけ、と。
「カエルレウム様やディナ先輩に怒られるからだよね」
でも、ルブルムのその一言でなんとなく察した。
俺自身には恋愛経験はまるでないけれど、最近は少年漫画誌にだって恋愛漫画は載っていて、読んだことならばちょいちょいあるし。
「ケティは、この体の本来の持ち主であるリテルの大事な人なんだ。リテルに体を借りている以上、リテルの体もケティのことも守り抜かなきゃいけない。でもルブルムは俺の、トシテルにとって大事な人なんだ。誰かに怒られるからじゃなく、ただ、失いたくない」
恥ずかしい気持ちはそりゃあった。
でもルブルムへは変に遠回しな表現を使うと余計な誤解をされたり、また今回みたいな単独行動に繋がりかねない。
だからはっきり言った。
言ってしまった。
まるで告白めいたことを。
心臓がドキドキする。
俺もルブルムも互いに鎧を着込んでいるおかげで俺の鼓動が向こうへ伝わらないでくれたのがせめてもの――って、ルブルム?
ルブルムが、俺の手の中で急に力を失った。
ケティの首を裂かれたときのことがフラッシュバックして泣きそうになる。
なんで俺は確認しなかった?
ルブルムの怪我の有無を――俺は――手が震える。
「ルブルムッ!」
ルブルムを大切に抱えて急いで洞窟の入り口近くまで戻る。
明るさは入るけれど、でもダイクの視界には入らないくらいの所まで。
ルブルムの外套を丸めて枕代わりにして横たわらせ、ルブルムの全身に傷がないかを確認する。
針のようなものが刺さっている可能性まで考えて。
傷はない。
呼吸はしているし、脈もある。
麻痺しているのとも違うような――ん?
ルブルムが何かを握り込んでいる。
白魔石かな?
ということは魔法か?
触れてみればわかるかもとルブルムの握りこぶしを開こうとしたとき、外から馬のいななきが聞こえて手を止めた。
『魔力感知』では、馬がもう一頭、寿命の渦を散らしたのがわかる。
そうだよ、魔法の効果を確認するのは後でいい。
ルブルムをさらわれずに済んだ。今はそれで十分じゃないか。
意識のないルブルムをなんとか背負うと、その頭が俺の肩へともたれかかる。
耳元には静かな寝息。
深呼吸を一つして、気持ちを切り替える。
『魔力感知』で改めて洞窟内と、洞窟の外とを調べる。
メリアンとロービンがまだ戦っている。
というより真っ向勝負ではなく、少し距離を取って交互に攻撃しつつ、ダイクの反射的な反応を引き出して、かわして、という繰り返し。
さっきは無理に走ってもらってずいぶんと助かったが、やっぱりけっこう疲れさせちゃったんだろうな。
俺はルブルムを背負ったまま洞窟を出ると、メリアンたちの速さを超えないようにしながら、竪穴の壁に沿ってあの螺旋状通路の方へと移動する。
ダイクだけに注目した場合は洞窟の中の方が安全のように見えるが、ウォルラースの存在を確認できない以上は、もしかしたらまだこの近くに隠れているという可能性を捨てられないから。
「リテル! ルブルムはまかせて!」
見ると螺旋状通路をケティが再び降りてきていた。
ゆっくりと。一人で。
マドハトと子どもたちはもう竪穴の出口近くまでさしかかっている。
「頼む!」
ケティとルブルムが同時にウォルラースに人質にされることへの不安はあったが、洞窟に逃げたはずのウォルラースを捕捉できない以上は、先にダイクをさっさとなんとか無力化したい。
『魔力感知』で見たダイクは寿命の渦がさっきより減ってはいるが、もしもダイクのあの状態が寿命を消費して発動している魔法の類いなのだとしたら、まだまだしばらくは止まらないペースに感じる。
メリアンやロービンの体にはそれなりに傷も増えている。いくらタフだとはいえ、失血がかさめば悪い影響が出るだろう。
この場であの激しい戦いへ参加できそうなのは俺だけなのだ。
長引かせるわけにはいかない。
俺はゆっくりと移動を始めた。
『脳内モルヒネ』を自分へとかけつつ。
まずはここから一番近い死体――後頭部に赤い花が咲いて倒れたスナドラの死体へと。
スナドラの死体は、他のもっと酷い死体に比べれば比較的、近づきやすかった。
バラけてなかったし、出血量も他の死体に比べれば少ない方だし。
早速スナドラの死体を漁り始める。
ところで、さっき小太りとこのスナドラとを狙ってくれた赤い花だけど、ダイクを狙わないというのはダイクの動きが早すぎるせいなのだろうか。
まだ味方だと決まったわけでは――あった。
スナドラの死体から、金属製の筒と、鋭く尖ったプラスドライバーのような武器を見つける。
筒の蓋には小さな木製の栓がはめ込まれていて、それを外すとちょうどプラスドライバーの先端が入るくらいの穴が空いている。
試しに先端を静かに入れて引き抜くと、茶色い液体がプラスドライバーの先端にべとっと付着していた。
恐らくこれは盗賊団の毒で間違いないだろう。
「メリアン! この死体の頭近くに仕掛ける!」
ダイクにまだ理性なり知性なりが残っている可能性を考慮して何となくボカして伝えてみたが、通じただろうか。
とにかく試せるものは全て試すしかない。
俺はプラスドライバーのような武器で地面を掘り、血溜まりを拡張しつつゆっくりと死体から離れてゆく。
メリアンとロービンは察してくれたのか、ダイクの攻撃を凌ぎながら、じわじわとスナドラの死体近くへと近づいてくる。
ダイクの剣圧は凄まじく、距離の近さから来るこのプレッシャーったらない。
だけどあまり離れ過ぎたら意味はない。
まだ螺旋状通路を登り切っていないケティとルブルムとを守るため、俺は自らを奮い立たせた。
紳士たれ、俺。
地面へと伏せ、ダイクの武器が自分の体をかすめたりしないよう祈りながら、その時を待つ――今だ!
『水刃』――この触れているスナドラの血を!
死んでしまえば魔法抵抗は発生しない。
となれば死体は大量の水分として利用できる。
今度は自分の血じゃないので大盤振る舞いだ。
スナドラの血溜まりからダイクの体めがけて血の槍を何本も尖らせた。
下からの槍ならば、ダイクの体を覆う鱗の隙間から中へと刺さるはず。
しかもさっきスナドラの赤い花の傷口へあの金属製の筒を逆さに突っ込んでおいたんだけど、カウダの毒混じりの血の槍はどうだ?
しっかり刺さってやがるな?
一瞬、ダイクの動きが止まる。
このまま間髪を入れず『凍れ』のコンボだと消費命を集中しようとしたが、その集中力は、ダイクの雄叫びの前に身震いと共に手放してしまった。
え、ダイクさん、こちらを睨んでます?
意識あんの?
「ダイクッ!」
メリアンとロービンが叫びながらダイクへと斬りかかるのが、やけにゆっくりと見えた。
それと同時に俺の背後、かなり上の方で消費命の集中も感じるし。
ああこれ、見えているのに、わかっているのに、反応できない速さのやつだ。
そんな思考が俺の心の足をぐっとつかんだその瞬間、ダイクの隻腕が振りかぶり――直後、ダイクの右目と右肩に、赤い花が咲いた。
ダイクの上体がのけ反ったまま再び動きを止める。
そこへ、メリアンの小剣が突き上げるようにダイクの喉を裂き、ロービンの振り下ろした大剣がダイクの右腕の直径半分ほどにまで刃を沈ませた。
ダイクの手が、あの異様な剣を手放す。
なるほど、腱を切ったのか。
さらに二つの赤い花が、ダイクの左目と喉元とに咲く。
その衝撃のおかげなのだろうか、もはや人ではなくなった異形のダイクの巨体が、ようやく倒れた。
すかさずロービンがダイクのかかと近くの腱も斬る。
俺、助かったのか?
「リテル、大丈夫か?」
メリアンが俺の腕を引き上げてくれたが、さっきまでどうやって立っていたのか思い出せないくらい、体がふらつく。
情けない。
「さっき自分の血を使いすぎたから……」
それを聞いたメリアンが笑い出す。
「リテルは人を笑わせるのが上手だな」
いや笑わせているつもりはないんだけど。
メリアンのツボもわからないし。
それからしばらくの後、俺たちはロービンの案内で森のせせらぎに居た。
ケティもルブルムもマドハトも無事。メリアンも俺もロービンも。
向こうチームでは、行方不明のウォルラースを除けば唯一の生存者ロッキン。
でもまあロッキンはかなり血を失っていて、意識は途切れ気味だけど。
そしてトーム、ミト、モペトの子どもたち三人と、三人を探しにスノドロッフ村から来た猫種の先祖返りなアルバスの方がお二人。
一人はスノドロッフ村の若き村長ベイグルさん、もう一人は弓の名手トリエグルさん。
盗賊団の連中に赤い花を咲かせて、戦闘を支援してくださっていたのもこのお二人だったとのこと。
感謝感謝。
ベイグルさんはさすが魔石の扱いになれたスノドロッフ村の村長だけあって、手を触れずに魔石の状態を確認できる魔法『魔石調査』という魔法を、決して他人へは教えないという条件付きで教えてくださった。
『魔石調査』は、二つの発動モードがあって、片方は半径「自分の身長」範囲内の魔石を感知できるという「範囲モード」。
もう一つの「単体モード」は、手のひらをかざして非接触で魔石の中身をまるで触れているかのように確認できる。
しかも一度使ってみなくとも、使ってみたのと同様に中の魔法に「触る」ことができるという。
「単体モード」で魔法代償を余分に消費すれば、かざした手のひらから魔石までの距離を若干伸ばせるという優れ魔法。
どうしてこの魔法を教えていただいたかというと、ルブルムが握りしめていたあの魔石には、今考えればとても恐ろしい魔法が封入されていたから。
ダイクを倒したあと、ベイグルさんとトリエグルさんが姿を現した。
子どもたち三人を助けたことに対してお礼を言われ、互いの情報を交換しあった。
その際、ルブルムの状況を説明していたときに、ルブルムの持っている白魔石が魔法をまだ発動中だと聞かされ、驚いた。
教えていただいた『魔石調査』で、その白魔石に封入されている魔法を確認すると、『眠りの波』という魔術だった。
この『眠りの波』は、なかなか寝付けない貴族や、前線の休むべき兵士が寝れない場合などに使われる、貴重ではあるが比較的メジャーな魔法品だという。
『魔術を発動した者が手を放してから一定時間、起動』し、『起動中に触れた者全員に効果を発揮』する。
『起動時に「一定時間」を選ぶ』魔法まで組み込まれていた。
そしてその発揮される肝心の効果とは『精神急速回復』。
深い眠りをもたらし、その間に精神的な疲労を全て癒やす――つまり俺があそこで白魔石に触っていたら、俺まで一緒に眠ってしまっていた恐れがある。
あそこで馬がいななかなかったら、俺とルブルムは今ここに居なったかもしれないのだ。
怖ぇ。
● 主な登場者
・有主利照/リテル
猿種、十五歳。リテルの体と記憶、利照の自意識と記憶とを持つ。魔術師見習い。
ラビツ一行をルブルム、マドハトと共に追いかけている。ゴブリン用呪詛と『虫の牙』の呪詛と二つの呪詛に感染している。
・ケティ
リテルの幼馴染の女子。猿種、十六歳。黒い瞳に黒髪、肌は日焼けで薄い褐色の美人。胸も大きい。
リテルとは両想い。フォーリーから合流したが、死にかけたり盗賊団による麻痺毒を注入されたり。
・ラビツ
久々に南の山を越えてストウ村を訪れた傭兵四人組の一人。ケティの唇を奪った。
フォーリーではやはり娼館街を訪れていたっぽい。
・マドハト
ゴブリン魔法『取り替え子』の被害者。ゴド村の住人で、今は犬種の体を取り戻している。
元の世界で飼っていたコーギーのハッタに似ている。変な歌とゴブリン語とゴブリン魔法を知っている。
・ルブルム
魔女様の弟子である赤髪の少女。整った顔立ちのクールビューティー。華奢な猿種。
槍を使った戦闘も得意で、知的好奇心も旺盛。ケティがリテルへキスをしたのを見てから微妙によそよそしかった。
・アルブム
魔女様の弟子である白髪に銀の瞳の少女。鼠種の兎亜種。
外見はリテルよりも二、三歳若い。知的好奇心が旺盛。
・カエルレウム
寄らずの森の魔女様。深い青のストレートロングの髪が膝くらいまである猿種。
ルブルムとアルブムをホムンクルスとして生み出し、リテルの魔法の師匠となった。『解呪の呪詛』を作成中。
・ディナ
カエルレウムの弟子。ルブルムの先輩にあたる。重度で極度の男嫌い。壮絶な過去がある。
アールヴを母に持ち、猿種を父に持つ。精霊と契約している。トシテルをようやく信用してくれた。
・ウェス
ディナに仕えており、御者の他、幅広く仕事をこなす。肌は浅黒く、ショートカットのお姉さん。蝙蝠種。
魔法を使えないときのためにと麻痺毒の入った金属製の筒をくれた。
・『虫の牙』所持者
キカイー白爵の館に居た警備兵と思われる人物。
『虫の牙』と呼ばれる呪詛の傷を与える異世界の魔法の武器を所持し、ディナに呪詛の傷を付けた。
・メリアン
ディナ先輩が手配した護衛。リテルたちを鍛える依頼も同時に受けている。
ものすごい筋肉と角と副乳とを持つ牛種の半返りの女傭兵。
・エルーシ
ディナが管理する娼婦街の元締め、ロズの弟である羊種。娼館で働くのが嫌で飛び出した。
仲間の猿種と鼠種と共に盗賊団に入団しようとしたが、現在は盗賊団の毒で麻痺中。
・バータフラ
広場の襲撃者である二人の爬虫種の片方。ロービンの居る竪穴の底まで馬に乗って逃走。
洞窟内へと逃げたがロービンに倒された。「スノドロッフの子どもたちを保護した」と言っていたらしいが盗賊団の入れ墨があった。
・ロービン
マッチョ爽やかイケメンなホブゴブリン。メリアンと同じくらい強い。正義の心にあふれている。
マドハトと意気投合し、仲良くなれた様子。
・スノドロッフ村の子どもたち
魔石の産地であるスノドロッフからさらわれてきた子どもたち。カウダの毒による麻痺からは回復。
猫種の先祖返りでアルバス。ミトとモペトの女子が二人、男子がトーム。
・ベイグル
スノドロッフ村の若き村長。
・トリエグル
スノドロッフ村の弓の名手。
・ウォルラース
キカイーの死によって封鎖されたスリナの街から、ディナと商人とを脱出させたなんでも屋。金のためならば平気で人を殺す。
キカイーがディナたちに興味を示すよう唆した張本人。盗賊団の一味のようだが、逃走。
・ロッキン
名無し森砦の守備隊第二隊副隊長であり勲爵であると自称。フライ濁爵の三男。
本当の守備隊のようであり、仲間が盗賊団であることを受け入れられないでいる様子。
・ダイク
名無し森砦の守備隊第二隊隊長であり勲爵であると自称。筋肉質で猿種にしては体が大きい。
ウォルラースとつるむ盗賊団のようである。ロービンに左腕を切り落とされ、何かを呑み込み、人を辞めたっぽい。
・プラプディン
名無し森砦の守備隊にして盗賊団。小太りの両生種。頭に赤い花が咲いて死亡。
・スナドラ
名無し森砦の守備隊にして盗賊団。鼠種。頭に赤い花が咲いて死亡。
・ホリーリヴ
名無し森砦の守備隊にして盗賊団。鳥種。魔法を使うが、そこまで得意ではなさげ。暴走したダイクに殺された。
・ブラデレズン
名無し森砦の守備隊にして盗賊団。馬種。ルブルムやケティを見て鼻の下を伸ばしていた。
ウォルラースの魔法的効果でうずくまっていた女性陣を襲おうとしてメリアンに返り討ちにされた。
■ はみ出しコラム【魔法品】
ホルトゥスにおける魔法品の流通は、富裕層のための嗜好品的な位置付けである。
基本的には特定の魔法なり魔術なりを封入した魔石、またはそれを取り付けられた物品のことを「魔法品」と呼ぶ。
魔術が封入されている場合でも区別せず魔法品と呼ぶ。
逆に、魔術師が他の魔術師へ魔法を教えるために、魔法を単体で魔石へと封入する場合などは魔法品とは呼ばない。単なる魔石である。
封入された魔法を、魔術師でなくとも使えるように補助魔法を用いて「魔術」化したもののみを魔法品と呼ぶ。
ちなみに、ホルトゥスにおける魔術とは、複数の魔法を組み合わせたもののことを指すのだが、魔法品は、使用者にとっては単一効果であることが多い(魔法を制御するための魔法を、一般の使用者は特に意識しない)ためである。
ホルトゥスにおける魔法は、一魔法一動作が基本となっているため、複雑な魔術の封入された魔法品は存在しない。
魔法品とはいえ封入された魔法や魔術の発動には魔法代償が必要となり、複雑な魔術は燃費が悪く、寿命を消費するに相応しい効果でなければそれを購入する者が現れないからである。
・魔法品に使われがちな魔法制御魔法
以下に最もスタンダードな魔法品に封入される魔術の構成魔法を説明する。
『魔法発動のきっかけを魔法概念の意識集中ではなく魔石に触れている者が特定文言による発声へ変更する魔法』
『魔法発動時の魔法代償を、魔石に触れている者ではなく魔石内に蓄積された消費命からのみ徴収する魔法』
(封入魔法に発動時の魔法代償量変化により効果時間や発動強度が変更できる場合)『特定文言にて発動時の必要魔法代償量を変更する魔法』
(上記の)『魔法制御魔法と封入魔法とを紐付ける魔法』
(上記の)『魔法制御魔法と封入魔法とを一つの魔術としてまとめることで魔法代償を合算して要求される魔法代償総量を減少させる魔法』
・一魔法一動作
ホルトゥスにおける魔法品は、プログラム言語に例えることができる。
一魔法が一命令文であり、複数の命令をまとめて一プログラムとする。そのソースコードをコンパイルして実体化したものが魔法品用の魔術と思っていただきたい。
複雑な効果を可能としたい場合は、それぞれのシンプルな動作を要素として分割し、それぞれの要素について魔法を一つ用意する必要があるのである。
例として、数多くのファンタジー設定にて多用される『収納魔法』について説明する。
『収納魔法』の構成要素としては、以下が挙げられる。
→「収納」を設置する場所の用意
→「収納」の維持機能
→「収納」を開く機能
→「収納」を閉じる機能
→「収納」の入り口を開いている場所の維持機能
最低限これらの機能が必要であり、また場合によっては以下の機能も必要となるだろう。
→「収納」内に格納したモノを検索する機能
→検索した格納物を「収納」の入り口へ運ぶ機能
さもなければ
→「収納」の入り口はそのままで、「収納」内の接続場所を任意に移動するための機能
実際には上記機能もそれぞれ複数の魔法で構成しなければならない場合もあるだろうし、それらを接続して制御するための魔法も別途必要になる。使用するだけでも相当なコストが必要となるのである。
また、「収納」の維持のために常に魔法代償を要求され続ける(=寿命を消費し続ける)のであれば、背負い袋に入れて持ち歩いた方がマシ、というのがホルトゥスにおける実情である。
次回コラムでは、本文中に登場した幾つかの魔法品について、詳細を説明する。
見ると小剣が片方折れている。
メリアンの小剣はルブルムの小剣と比べると倍ぐらい分厚くてゴツいのに、それが折れるなんて。
「あのギザギザ、やっかいだねぇ。汚い傷を付けて回復しにくくするんかと思ってたが、まさかあたしの剣を壊せるくらいの強度があるとはね。しかも」
ダイクの姿が明らかに変わっていた。
ゲームなんかでボスキャラが負けそうになったら急に進化して強くなる、まさにアレ。
上半身は二周り以上は膨れて――パンプアップって感じ。
そのせいで留め具が壊れたのか鎧の一部が周囲に散乱している。
皮膚は赤黒く変色した上に、鱗のようなモノが次々と生えつつあるようにも見える。
ダイクの寿命の渦が見たことのない形へと変わっている――絶対に猿種ではない何か。
しかも片腕で振り回すあの異様な剣の速度は、さっきまでとは比べ物にならないくらい早くなっている。
その剣の軌道が傍らに居た魔術師の体を通り抜けた。
マンガみたいに、魔術師の上半身が斜めに滑って落下した。
残った下半身も激しく血を吹き出しながらゆっくりと倒れる、その間に更に分割された。
「味方かどうかもわからなくなっているのか……リテル、あれはまずい。ロービン以外を連れて竪穴から出ろ」
ルブルムが心配ですぐには返事ができなかった。
その間にダイクは馬へと襲いかかり、あっという間に二頭を惨殺する。
ロービンが立ち上がると今度はそちらへと向かう。
ロービンはまだ麻痺が抜けきれていないのか、大剣をなんとかつかんだだけ。
明らかに異形ダイクのスピードに反応しきれていない。
「おい!」
メリアンが片手を盾に持ち替えてダイクの背後へと走ると、ダイクの剣の切っ先が素早くメリアンへと向けられる。
「こいつは動いたものを狙うっぽい! 馬は使わず徒歩でゆっくり逃げろ!」
メリアンはダイクの熾烈な攻撃をなんとか凌ぎながら叫ぶ。
俺がケティへと目配せすると、ケティはゆっくりと俺に何かを差し出す。
ルブルムがさっき使った白魔石だ。『カウダの毒消し』が収納されているやつか。
俺もゆっくりとそれを受け取り、マドハトの首筋へ触れ――固っ!
これはケティやエルーシが麻痺ってたときと違う。
そういや、と、さっきマドハトが俺の代わりに受け取ったモノを確認すると、紫魔石の嵌った小さな盾型の魔法品。
指が届くのでその紫魔石に触れてみる。
マドハトが触ったことで既に発動しているのであれば、俺にまで発動されることはないはずだから。
この手の封入魔法は使用者が複数同時に発生することを想定していないことが多いってディナ先輩から教わったのを信じて――うん。大丈夫だな。
紫魔石の中身は魔術――その構成魔法の一つは俺が習ったことのあるやつ。『皮膚硬化』だ。
ということはマドハトは、表皮が鎧のように固くなったおかげで動けないのか?
それ以外の構成魔法は実際に使ってみないとわからないが、もしも『皮膚硬化』だけならなんとかなるかも?
俺が魔法効果を打ち消す魔法として教わっているのは『魔力消散』だけ。
でもそれは魔法を発動する瞬間に偽の消費命を先んじて渡して、相手の魔法の発動を失敗させるというもの。
既に発動してしまっている魔法を打ち消すことはできない。
そもそも魔法の効果については、一方的な効果をもたらすものが少なくなくて、例えば切り傷や打撲は『生命回復』で回復できても、火傷のように体組織が完全に死んでしまった部分については『生命回復』は効果がない。
変容してしまったものを戻せるときと戻せないときが――もしも『皮膚硬化』だけの効果なら――魔法品の特徴について習ったことを頭に思い浮かべる。
あまり複雑な魔術は格納しない。
大抵は主となる効果を持つ魔法が一つ、他にあっても補助的な効果で、あとはそれを制御する魔法――発動時に発動強度や発動時間を選べたりとか。
それに魔法抵抗が反射的に反応してしまうような、使用者に害となる効果が格納されている魔法品は、基本的には流通していない。
魔法品に格納されている魔法は魔術師組合へ持っていけば調べてもらえるから、奪われることが前提で作ったとしても使ってもらえないのが普通だから。
ということは――よし。
試してみる価値はあるな。
「マドハト、動くなよ」
『皮膚硬化』のイメージは理解している。ならばその反対なら理論上は。
「『皮膚硬化解除』」
ネーミングセンスはともかく、俺は魔法を発動した。
触れているマドハトの皮膚が、柔らかさが戻ってくるとともにポロポロと剥がれ落ちる。
俺が見守るなか、マドハトが少しずつ全身をかき始める。
この皮膚が剥がれるのも、それに伴い痒いのも『皮膚硬化』のデフォルト設計。
大丈夫そうかな?
「ケティ、マドハト。子どもたち三人を連れて、ゆっくりゆっくり動いてあの螺旋の通路を歩いて竪穴を出るんだ。俺も必ず後から行くから」
竪穴の外壁に沿って螺旋状に設置された板の通路を指すと、二人と三人は静かに首を横に振った。
いまだに紛らわしいけど了解の合図だ。
「上へ行ったら茂みに隠れてろ。まだ敵が居るかもしれない」
そう言い残して俺は、洞窟の入り口へと向かう。
自分には変わり果てたダイクの攻撃を避けたり受け止めたりする技術も力もないから、焦る気持ちをなんとか押し込めつつ、それでもウォルラースと一対一で対峙するルブルムのことを思うと早く追いつきたくて、もどかしくて。
「ロービン、走りながら戦うぞ!」
メリアンが突然走り出した。
ロービンもそれに合わせて走り出す。
助かる。
メリアンとロービンの消耗を考えると、そう長くは続けられない作戦だろうけど今はありがたい。
俺もメリアンたちよりは襲いスピードで走り出す。
見るとケティもメリアンのサポートを理解してくれたようで、少し早歩きになっている。
できる限り最善の速度で洞窟の入り口まで到着すると、感度MAX割り振りで『魔力感知』を洞窟の奥まで伸ばす。
すぐにルブルムを見つけ、同時にウォルラースを見つけられないことに安堵する。
しかもルブルムは入り口からすぐ見える場所まで戻ってきていた。
「ごめんなさい。ウォルラースは逃した」
思わずルブルムを抱きしめる。
「無事で良かった……謝ることないから」
ルブルムも俺にぎゅっとしがみつく。
「来てくれて嬉しい」
「ウォルラースは卑劣な罠を用意しているかもしれないし、次からは絶対に独りで追わないで」
「いいの? 一緒に行動しても」
「当たり前だろ」
そう答えつつも一瞬、思考が空回りしかけた。
俺がいつルブルムと別行動をしようとか言ったっけ、と。
「カエルレウム様やディナ先輩に怒られるからだよね」
でも、ルブルムのその一言でなんとなく察した。
俺自身には恋愛経験はまるでないけれど、最近は少年漫画誌にだって恋愛漫画は載っていて、読んだことならばちょいちょいあるし。
「ケティは、この体の本来の持ち主であるリテルの大事な人なんだ。リテルに体を借りている以上、リテルの体もケティのことも守り抜かなきゃいけない。でもルブルムは俺の、トシテルにとって大事な人なんだ。誰かに怒られるからじゃなく、ただ、失いたくない」
恥ずかしい気持ちはそりゃあった。
でもルブルムへは変に遠回しな表現を使うと余計な誤解をされたり、また今回みたいな単独行動に繋がりかねない。
だからはっきり言った。
言ってしまった。
まるで告白めいたことを。
心臓がドキドキする。
俺もルブルムも互いに鎧を着込んでいるおかげで俺の鼓動が向こうへ伝わらないでくれたのがせめてもの――って、ルブルム?
ルブルムが、俺の手の中で急に力を失った。
ケティの首を裂かれたときのことがフラッシュバックして泣きそうになる。
なんで俺は確認しなかった?
ルブルムの怪我の有無を――俺は――手が震える。
「ルブルムッ!」
ルブルムを大切に抱えて急いで洞窟の入り口近くまで戻る。
明るさは入るけれど、でもダイクの視界には入らないくらいの所まで。
ルブルムの外套を丸めて枕代わりにして横たわらせ、ルブルムの全身に傷がないかを確認する。
針のようなものが刺さっている可能性まで考えて。
傷はない。
呼吸はしているし、脈もある。
麻痺しているのとも違うような――ん?
ルブルムが何かを握り込んでいる。
白魔石かな?
ということは魔法か?
触れてみればわかるかもとルブルムの握りこぶしを開こうとしたとき、外から馬のいななきが聞こえて手を止めた。
『魔力感知』では、馬がもう一頭、寿命の渦を散らしたのがわかる。
そうだよ、魔法の効果を確認するのは後でいい。
ルブルムをさらわれずに済んだ。今はそれで十分じゃないか。
意識のないルブルムをなんとか背負うと、その頭が俺の肩へともたれかかる。
耳元には静かな寝息。
深呼吸を一つして、気持ちを切り替える。
『魔力感知』で改めて洞窟内と、洞窟の外とを調べる。
メリアンとロービンがまだ戦っている。
というより真っ向勝負ではなく、少し距離を取って交互に攻撃しつつ、ダイクの反射的な反応を引き出して、かわして、という繰り返し。
さっきは無理に走ってもらってずいぶんと助かったが、やっぱりけっこう疲れさせちゃったんだろうな。
俺はルブルムを背負ったまま洞窟を出ると、メリアンたちの速さを超えないようにしながら、竪穴の壁に沿ってあの螺旋状通路の方へと移動する。
ダイクだけに注目した場合は洞窟の中の方が安全のように見えるが、ウォルラースの存在を確認できない以上は、もしかしたらまだこの近くに隠れているという可能性を捨てられないから。
「リテル! ルブルムはまかせて!」
見ると螺旋状通路をケティが再び降りてきていた。
ゆっくりと。一人で。
マドハトと子どもたちはもう竪穴の出口近くまでさしかかっている。
「頼む!」
ケティとルブルムが同時にウォルラースに人質にされることへの不安はあったが、洞窟に逃げたはずのウォルラースを捕捉できない以上は、先にダイクをさっさとなんとか無力化したい。
『魔力感知』で見たダイクは寿命の渦がさっきより減ってはいるが、もしもダイクのあの状態が寿命を消費して発動している魔法の類いなのだとしたら、まだまだしばらくは止まらないペースに感じる。
メリアンやロービンの体にはそれなりに傷も増えている。いくらタフだとはいえ、失血がかさめば悪い影響が出るだろう。
この場であの激しい戦いへ参加できそうなのは俺だけなのだ。
長引かせるわけにはいかない。
俺はゆっくりと移動を始めた。
『脳内モルヒネ』を自分へとかけつつ。
まずはここから一番近い死体――後頭部に赤い花が咲いて倒れたスナドラの死体へと。
スナドラの死体は、他のもっと酷い死体に比べれば比較的、近づきやすかった。
バラけてなかったし、出血量も他の死体に比べれば少ない方だし。
早速スナドラの死体を漁り始める。
ところで、さっき小太りとこのスナドラとを狙ってくれた赤い花だけど、ダイクを狙わないというのはダイクの動きが早すぎるせいなのだろうか。
まだ味方だと決まったわけでは――あった。
スナドラの死体から、金属製の筒と、鋭く尖ったプラスドライバーのような武器を見つける。
筒の蓋には小さな木製の栓がはめ込まれていて、それを外すとちょうどプラスドライバーの先端が入るくらいの穴が空いている。
試しに先端を静かに入れて引き抜くと、茶色い液体がプラスドライバーの先端にべとっと付着していた。
恐らくこれは盗賊団の毒で間違いないだろう。
「メリアン! この死体の頭近くに仕掛ける!」
ダイクにまだ理性なり知性なりが残っている可能性を考慮して何となくボカして伝えてみたが、通じただろうか。
とにかく試せるものは全て試すしかない。
俺はプラスドライバーのような武器で地面を掘り、血溜まりを拡張しつつゆっくりと死体から離れてゆく。
メリアンとロービンは察してくれたのか、ダイクの攻撃を凌ぎながら、じわじわとスナドラの死体近くへと近づいてくる。
ダイクの剣圧は凄まじく、距離の近さから来るこのプレッシャーったらない。
だけどあまり離れ過ぎたら意味はない。
まだ螺旋状通路を登り切っていないケティとルブルムとを守るため、俺は自らを奮い立たせた。
紳士たれ、俺。
地面へと伏せ、ダイクの武器が自分の体をかすめたりしないよう祈りながら、その時を待つ――今だ!
『水刃』――この触れているスナドラの血を!
死んでしまえば魔法抵抗は発生しない。
となれば死体は大量の水分として利用できる。
今度は自分の血じゃないので大盤振る舞いだ。
スナドラの血溜まりからダイクの体めがけて血の槍を何本も尖らせた。
下からの槍ならば、ダイクの体を覆う鱗の隙間から中へと刺さるはず。
しかもさっきスナドラの赤い花の傷口へあの金属製の筒を逆さに突っ込んでおいたんだけど、カウダの毒混じりの血の槍はどうだ?
しっかり刺さってやがるな?
一瞬、ダイクの動きが止まる。
このまま間髪を入れず『凍れ』のコンボだと消費命を集中しようとしたが、その集中力は、ダイクの雄叫びの前に身震いと共に手放してしまった。
え、ダイクさん、こちらを睨んでます?
意識あんの?
「ダイクッ!」
メリアンとロービンが叫びながらダイクへと斬りかかるのが、やけにゆっくりと見えた。
それと同時に俺の背後、かなり上の方で消費命の集中も感じるし。
ああこれ、見えているのに、わかっているのに、反応できない速さのやつだ。
そんな思考が俺の心の足をぐっとつかんだその瞬間、ダイクの隻腕が振りかぶり――直後、ダイクの右目と右肩に、赤い花が咲いた。
ダイクの上体がのけ反ったまま再び動きを止める。
そこへ、メリアンの小剣が突き上げるようにダイクの喉を裂き、ロービンの振り下ろした大剣がダイクの右腕の直径半分ほどにまで刃を沈ませた。
ダイクの手が、あの異様な剣を手放す。
なるほど、腱を切ったのか。
さらに二つの赤い花が、ダイクの左目と喉元とに咲く。
その衝撃のおかげなのだろうか、もはや人ではなくなった異形のダイクの巨体が、ようやく倒れた。
すかさずロービンがダイクのかかと近くの腱も斬る。
俺、助かったのか?
「リテル、大丈夫か?」
メリアンが俺の腕を引き上げてくれたが、さっきまでどうやって立っていたのか思い出せないくらい、体がふらつく。
情けない。
「さっき自分の血を使いすぎたから……」
それを聞いたメリアンが笑い出す。
「リテルは人を笑わせるのが上手だな」
いや笑わせているつもりはないんだけど。
メリアンのツボもわからないし。
それからしばらくの後、俺たちはロービンの案内で森のせせらぎに居た。
ケティもルブルムもマドハトも無事。メリアンも俺もロービンも。
向こうチームでは、行方不明のウォルラースを除けば唯一の生存者ロッキン。
でもまあロッキンはかなり血を失っていて、意識は途切れ気味だけど。
そしてトーム、ミト、モペトの子どもたち三人と、三人を探しにスノドロッフ村から来た猫種の先祖返りなアルバスの方がお二人。
一人はスノドロッフ村の若き村長ベイグルさん、もう一人は弓の名手トリエグルさん。
盗賊団の連中に赤い花を咲かせて、戦闘を支援してくださっていたのもこのお二人だったとのこと。
感謝感謝。
ベイグルさんはさすが魔石の扱いになれたスノドロッフ村の村長だけあって、手を触れずに魔石の状態を確認できる魔法『魔石調査』という魔法を、決して他人へは教えないという条件付きで教えてくださった。
『魔石調査』は、二つの発動モードがあって、片方は半径「自分の身長」範囲内の魔石を感知できるという「範囲モード」。
もう一つの「単体モード」は、手のひらをかざして非接触で魔石の中身をまるで触れているかのように確認できる。
しかも一度使ってみなくとも、使ってみたのと同様に中の魔法に「触る」ことができるという。
「単体モード」で魔法代償を余分に消費すれば、かざした手のひらから魔石までの距離を若干伸ばせるという優れ魔法。
どうしてこの魔法を教えていただいたかというと、ルブルムが握りしめていたあの魔石には、今考えればとても恐ろしい魔法が封入されていたから。
ダイクを倒したあと、ベイグルさんとトリエグルさんが姿を現した。
子どもたち三人を助けたことに対してお礼を言われ、互いの情報を交換しあった。
その際、ルブルムの状況を説明していたときに、ルブルムの持っている白魔石が魔法をまだ発動中だと聞かされ、驚いた。
教えていただいた『魔石調査』で、その白魔石に封入されている魔法を確認すると、『眠りの波』という魔術だった。
この『眠りの波』は、なかなか寝付けない貴族や、前線の休むべき兵士が寝れない場合などに使われる、貴重ではあるが比較的メジャーな魔法品だという。
『魔術を発動した者が手を放してから一定時間、起動』し、『起動中に触れた者全員に効果を発揮』する。
『起動時に「一定時間」を選ぶ』魔法まで組み込まれていた。
そしてその発揮される肝心の効果とは『精神急速回復』。
深い眠りをもたらし、その間に精神的な疲労を全て癒やす――つまり俺があそこで白魔石に触っていたら、俺まで一緒に眠ってしまっていた恐れがある。
あそこで馬がいななかなかったら、俺とルブルムは今ここに居なったかもしれないのだ。
怖ぇ。
● 主な登場者
・有主利照/リテル
猿種、十五歳。リテルの体と記憶、利照の自意識と記憶とを持つ。魔術師見習い。
ラビツ一行をルブルム、マドハトと共に追いかけている。ゴブリン用呪詛と『虫の牙』の呪詛と二つの呪詛に感染している。
・ケティ
リテルの幼馴染の女子。猿種、十六歳。黒い瞳に黒髪、肌は日焼けで薄い褐色の美人。胸も大きい。
リテルとは両想い。フォーリーから合流したが、死にかけたり盗賊団による麻痺毒を注入されたり。
・ラビツ
久々に南の山を越えてストウ村を訪れた傭兵四人組の一人。ケティの唇を奪った。
フォーリーではやはり娼館街を訪れていたっぽい。
・マドハト
ゴブリン魔法『取り替え子』の被害者。ゴド村の住人で、今は犬種の体を取り戻している。
元の世界で飼っていたコーギーのハッタに似ている。変な歌とゴブリン語とゴブリン魔法を知っている。
・ルブルム
魔女様の弟子である赤髪の少女。整った顔立ちのクールビューティー。華奢な猿種。
槍を使った戦闘も得意で、知的好奇心も旺盛。ケティがリテルへキスをしたのを見てから微妙によそよそしかった。
・アルブム
魔女様の弟子である白髪に銀の瞳の少女。鼠種の兎亜種。
外見はリテルよりも二、三歳若い。知的好奇心が旺盛。
・カエルレウム
寄らずの森の魔女様。深い青のストレートロングの髪が膝くらいまである猿種。
ルブルムとアルブムをホムンクルスとして生み出し、リテルの魔法の師匠となった。『解呪の呪詛』を作成中。
・ディナ
カエルレウムの弟子。ルブルムの先輩にあたる。重度で極度の男嫌い。壮絶な過去がある。
アールヴを母に持ち、猿種を父に持つ。精霊と契約している。トシテルをようやく信用してくれた。
・ウェス
ディナに仕えており、御者の他、幅広く仕事をこなす。肌は浅黒く、ショートカットのお姉さん。蝙蝠種。
魔法を使えないときのためにと麻痺毒の入った金属製の筒をくれた。
・『虫の牙』所持者
キカイー白爵の館に居た警備兵と思われる人物。
『虫の牙』と呼ばれる呪詛の傷を与える異世界の魔法の武器を所持し、ディナに呪詛の傷を付けた。
・メリアン
ディナ先輩が手配した護衛。リテルたちを鍛える依頼も同時に受けている。
ものすごい筋肉と角と副乳とを持つ牛種の半返りの女傭兵。
・エルーシ
ディナが管理する娼婦街の元締め、ロズの弟である羊種。娼館で働くのが嫌で飛び出した。
仲間の猿種と鼠種と共に盗賊団に入団しようとしたが、現在は盗賊団の毒で麻痺中。
・バータフラ
広場の襲撃者である二人の爬虫種の片方。ロービンの居る竪穴の底まで馬に乗って逃走。
洞窟内へと逃げたがロービンに倒された。「スノドロッフの子どもたちを保護した」と言っていたらしいが盗賊団の入れ墨があった。
・ロービン
マッチョ爽やかイケメンなホブゴブリン。メリアンと同じくらい強い。正義の心にあふれている。
マドハトと意気投合し、仲良くなれた様子。
・スノドロッフ村の子どもたち
魔石の産地であるスノドロッフからさらわれてきた子どもたち。カウダの毒による麻痺からは回復。
猫種の先祖返りでアルバス。ミトとモペトの女子が二人、男子がトーム。
・ベイグル
スノドロッフ村の若き村長。
・トリエグル
スノドロッフ村の弓の名手。
・ウォルラース
キカイーの死によって封鎖されたスリナの街から、ディナと商人とを脱出させたなんでも屋。金のためならば平気で人を殺す。
キカイーがディナたちに興味を示すよう唆した張本人。盗賊団の一味のようだが、逃走。
・ロッキン
名無し森砦の守備隊第二隊副隊長であり勲爵であると自称。フライ濁爵の三男。
本当の守備隊のようであり、仲間が盗賊団であることを受け入れられないでいる様子。
・ダイク
名無し森砦の守備隊第二隊隊長であり勲爵であると自称。筋肉質で猿種にしては体が大きい。
ウォルラースとつるむ盗賊団のようである。ロービンに左腕を切り落とされ、何かを呑み込み、人を辞めたっぽい。
・プラプディン
名無し森砦の守備隊にして盗賊団。小太りの両生種。頭に赤い花が咲いて死亡。
・スナドラ
名無し森砦の守備隊にして盗賊団。鼠種。頭に赤い花が咲いて死亡。
・ホリーリヴ
名無し森砦の守備隊にして盗賊団。鳥種。魔法を使うが、そこまで得意ではなさげ。暴走したダイクに殺された。
・ブラデレズン
名無し森砦の守備隊にして盗賊団。馬種。ルブルムやケティを見て鼻の下を伸ばしていた。
ウォルラースの魔法的効果でうずくまっていた女性陣を襲おうとしてメリアンに返り討ちにされた。
■ はみ出しコラム【魔法品】
ホルトゥスにおける魔法品の流通は、富裕層のための嗜好品的な位置付けである。
基本的には特定の魔法なり魔術なりを封入した魔石、またはそれを取り付けられた物品のことを「魔法品」と呼ぶ。
魔術が封入されている場合でも区別せず魔法品と呼ぶ。
逆に、魔術師が他の魔術師へ魔法を教えるために、魔法を単体で魔石へと封入する場合などは魔法品とは呼ばない。単なる魔石である。
封入された魔法を、魔術師でなくとも使えるように補助魔法を用いて「魔術」化したもののみを魔法品と呼ぶ。
ちなみに、ホルトゥスにおける魔術とは、複数の魔法を組み合わせたもののことを指すのだが、魔法品は、使用者にとっては単一効果であることが多い(魔法を制御するための魔法を、一般の使用者は特に意識しない)ためである。
ホルトゥスにおける魔法は、一魔法一動作が基本となっているため、複雑な魔術の封入された魔法品は存在しない。
魔法品とはいえ封入された魔法や魔術の発動には魔法代償が必要となり、複雑な魔術は燃費が悪く、寿命を消費するに相応しい効果でなければそれを購入する者が現れないからである。
・魔法品に使われがちな魔法制御魔法
以下に最もスタンダードな魔法品に封入される魔術の構成魔法を説明する。
『魔法発動のきっかけを魔法概念の意識集中ではなく魔石に触れている者が特定文言による発声へ変更する魔法』
『魔法発動時の魔法代償を、魔石に触れている者ではなく魔石内に蓄積された消費命からのみ徴収する魔法』
(封入魔法に発動時の魔法代償量変化により効果時間や発動強度が変更できる場合)『特定文言にて発動時の必要魔法代償量を変更する魔法』
(上記の)『魔法制御魔法と封入魔法とを紐付ける魔法』
(上記の)『魔法制御魔法と封入魔法とを一つの魔術としてまとめることで魔法代償を合算して要求される魔法代償総量を減少させる魔法』
・一魔法一動作
ホルトゥスにおける魔法品は、プログラム言語に例えることができる。
一魔法が一命令文であり、複数の命令をまとめて一プログラムとする。そのソースコードをコンパイルして実体化したものが魔法品用の魔術と思っていただきたい。
複雑な効果を可能としたい場合は、それぞれのシンプルな動作を要素として分割し、それぞれの要素について魔法を一つ用意する必要があるのである。
例として、数多くのファンタジー設定にて多用される『収納魔法』について説明する。
『収納魔法』の構成要素としては、以下が挙げられる。
→「収納」を設置する場所の用意
→「収納」の維持機能
→「収納」を開く機能
→「収納」を閉じる機能
→「収納」の入り口を開いている場所の維持機能
最低限これらの機能が必要であり、また場合によっては以下の機能も必要となるだろう。
→「収納」内に格納したモノを検索する機能
→検索した格納物を「収納」の入り口へ運ぶ機能
さもなければ
→「収納」の入り口はそのままで、「収納」内の接続場所を任意に移動するための機能
実際には上記機能もそれぞれ複数の魔法で構成しなければならない場合もあるだろうし、それらを接続して制御するための魔法も別途必要になる。使用するだけでも相当なコストが必要となるのである。
また、「収納」の維持のために常に魔法代償を要求され続ける(=寿命を消費し続ける)のであれば、背負い袋に入れて持ち歩いた方がマシ、というのがホルトゥスにおける実情である。
次回コラムでは、本文中に登場した幾つかの魔法品について、詳細を説明する。
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