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#49 入れ墨
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「リテル、野盗の持ち物を確認しよう」
このタイミングにルブルムのこの言葉がありがたい。
「ケティはここで座って待っていて。俺とルブルムは魔女様からこういうときの対処法を教えこまれているから」
御者席近くの道端にあった大樹の根がいい感じに椅子っぽかったから、そこへ座らせる。
細かな説明は話をややこしくしそうだからディナ先輩のことは伏せたまま。
ケティには申し訳ないがとにかく時間も惜しい。
これだけ大掛かりな罠というか作戦の野盗が、こいつらだけで終了ってことはないだろう。
相手の規模がわかりそうな手がかりを見つけて、その後はさっさとメリアンやマドハトたちと合流したい。
馬に乗ってやって来た野盗二人の死体を、馬車の後ろ側へと運んでくる。
まずは革の脛当てを外し、革のサンダルをも脱がす。
肌に接する部分に魔石はなかったし、俺がテニール兄貴から借りている脛当てのように短剣を隠せるような仕掛けもない。
ルブルムは迷いもなく野盗どもの腰紐を解き、二人のズボンを脱がして裏返す。
連中の股間をチラ見してはいたが、熱心に「勉強」したりはせずスルーして上半身の革鎧を脱がす作業へとかかっている。
その革鎧は俺たちが装備しているやつに比べると作りが雑で動きにくそうで所々壊れている。
そんな粗悪な革鎧にも、二人が右手にだけ着けていた革手袋にも魔石がセットされている痕跡はなく、外套や上着を脱がして裏返しても同様だった。
武器は槍の他には刃渡り長めの短剣だけ。もちろんごく普通の短剣。
ありがたいことに、毒らしきものも持っていなかった。
魔法品を持っていないとなると、魔法を使用したのはこいつら自身なのだろうか。
「入れ墨らしきものは見当たらない」
「そうだな」
おっ、声がリテルの声に戻った。
一ディエス分でかけた『声真似』の効果時間は体感二ディヴくらいか。
丸出し状態なのを見ていたくはないので、死体をひっくり返してうつ伏せにする。
「でもこれは不思議」
ルブルムが外套の頭部フード部分を調べている。
さっきこの外套の内ポケットから変なモノが出てきたからだ。
変なモノとは、犬の口みたいなマスクと、犬のつけ耳のようなモノ。
マスクの方は木製の口型に毛皮が貼ってあり、顔に取り付けられるような紐まで付いている。
犬の耳の方も紐でつながっていて、頭に装着できるようになっている。こちらも木型に毛皮を貼ったもの。
そして外套の頭部フードには犬の耳を出せるような穴が開けてある。
「リテルはこれが何かわかるか?」
「うーん……獣種を欺くためのモノのように思えるけど。それも犬種の先祖返りのように」
「でも二人とも寿命の渦は爬虫種だった」
まあ、この犬コスプレを装着していたわけじゃないしな。
でもルブルムは思考の基準が自分になっているっぽいから訂正はしておいた方がいいかもしれない。
「普通の人は、寿命の渦を偽装しないって聞いただろ?」
「そうだった」
魔法使い相手に偽装の渦を準備するのは、状態異常系の魔法を使うとき相手の獣種に合わせてカスタマイズできる魔法があって、その獣種シフトがハマると抵抗されにくくなるという理由から。
これで見た目の獣種を変えることで、対象獣種を絞らせないようにする用途だと思うけど――だとすると相手は対魔術師を想定している野盗ってこと?
それにさっき、こいつらは二人で来たのに、『魔力感知』では一人にしか認識できなかった。
『魔力感知』に対する反応が『死んだふり』のとは違う感じだったことも気になる。
相手の中にも魔術師がいると考えておいた方がいいだろう。
いくらメリアンが強くとも、もしも相手に魔術師が複数居たら――気持ちが引き締まる。
手強い敵。
油断できない選択肢の多さ。
しかも今回は御者のことなんてノーマークだった。
もしも俺がカエルレウム師匠やディナ先輩の元で学べなければ、今頃こうやって死体になっていたのは俺の方だろう。
そうだ。
ノバディの死体はまだ調べてないな。
爬虫種二人の持ってきていた槍を使って馬車の中から後ろ側へと落とす。
潜入していたのなら普段人に見せない場所だろうと最初にズボンを下ろしたところ、案の定、尻に入れ墨のようなものがあった。
「これかな?」
短剣を四本の牙が咬んでいるようなデザイン。
「わからない」
ルブルムは入れ墨の付近を押したりこすったりして観察している。
「でもまあ、なんとか乗り越えられて……」
ケティのことを考えると、良かった、とは全然言えないけれど、なんとか皆が生き残れたのはありがたいことだ。
「一つの感覚に頼るのは危険だと学べた」
ルブルムの言葉には激しく同意だ。
何か一つだけの感覚に頼ると現状を見誤る恐れがあるんだな。
知識がいくらあっても知識のみでは計り知れないこともあるし、思考を手放さないということの重要さも改めて噛みしめる。
しかし経験って本当に役立つものだ。
敵を倒して経験値が入ってレベルアップ――というのはゲームバランスのためだけのシステムだと元の世界では考えていたけれど、実際に戦闘を生き残れてみて、学びの多さを実感している。
特に戦闘なんてわずかな時間の間にとても多くのことを考え、判断しないといけない。
戦闘から得られることに無駄なことなんて本当に一つもない。
マクミラ師匠の言葉を思い出す――「獲物と経験からは決して無駄を出すな」。
その通りでした、マクミラ師匠。
「リテル、一頭、外した」
俺が左腕を『生命回復』している間にルブルムが、馬車につながれた馬を一頭、金具から外して手綱を付けておいてくれた。
そういや御者席のすぐ後ろに手綱だけ置いてあったっけな。
鞍はついてないけど、手綱があればルブルムは乗れるのかな。
野盗の乗っていた馬は、座席と鐙とが二人分ある鞍を装着している。
ケティは一人では馬に乗れないだろうし、怪我を治したとはいえ血を失っている現状で一人で騎乗なんてさせられない。
こっちには俺とケティで乗る感じだな。
それにしても、傷を治しても、血を失ったままはしんどいよな。
ディナ先輩の館で似たような経験をした俺にはよくわかる。
『造血』の魔法を使うには触媒として新鮮な肝臓を必要とするし。
しかもその肝臓は動物のものでないといけないし。
獣種の肝臓を使うと、獣種同士の共食いのときと同じ症状――激しい下痢や酷い嘔吐を伴う激痛な腹痛にやられる、らしいから。
いやもちろん、こんな野盗なんかの死体を使ってケティを回復だなんてそもそも嫌だけど。
「馬だけなら、この馬車の横をすり抜けて引き返すこともできそうだな」
「……ごめんね、私……足手まといで……」
「そんなことないよ、ケティ」
フォローになっていなさげなのはわかっている。
ディナ先輩のところで女性の裸は見慣れたけれど、こういうやり取りの経験はほとんど積めていないもんな。
ケティの表情は沈んだまま。
「来る」
ルブルムが会話を遮ってくれたおかげで『魔力感知』から意識を外していたことに気付く――マルチタスク、いい加減できるようになんないかな、俺。
遠くから近づいてくる馬の蹄の音。
今度は小道の後方、街道方面から。
『魔力感知』を『魔力探知機』へと切り替える――まだ範囲外のようだが、音としては複数のようにも聞こえる。
ケティがよろよろと立ち上がるのを慌てて支える。
「戦闘の……役に立たないから、私……隠れて、いるね」
「いや、ケティのこと、一人にはしないから」
俺の言葉を聞いたルブルムが、馬車から外した馬と野盗の馬との手綱を轅へとつなぐ。
その間に俺は馬車の中からケティのハンマーと自分の矢筒、それから果物が入った革袋を一つ持ち出す。
メリアンから逃げ出してきた野盗の可能性もあるし、万が一ってことも考えなきゃいけないだろう。
三人で小道の脇、森の中へと踏み込み始めたちょうどそのとき、『魔力探知機』に五つの寿命の渦が引っかかった。
馬が二頭、先頭には牛種、二頭目には犬種と羊種。
これは間違いない。
だって歌まで聞こえたから。マドハトのあの陽気な歌声が。
「返り討ち三人かい。上出来、上出来」
到着したメリアンの第一声がそれだった。
ケティがこんな状態で、俺としてはとてもほめてもらえるような心境ではなかったけど。
メリアンの乗っている馬には体の大きな裸の牛種の死体が、マドハトの乗っている馬には二つの死体と一人の縛られた羊種とが積まれていた。
その羊種の顔を見て驚いた。エルーシだったから。
馬車を手配してくれたロズさんは、エルーシの姉でもある。
残りの二人の獣種は確か猿種と鼠種――マドハト側の馬に積まれた死体二つと一致する。
エルーシが「支配する側に回る」と言っていたのを思い出す。
「このことはディナ様にご連絡しなくちゃ、だね」
口まで縄でぐるぐるのエルーシはどこを見ているのかわからない虚ろな目でぼんやりとしている。
「なるほど。このエルーシが姉は関係ないっつってたんは、何やら因縁があったようだな」
馬車を覗いたメリアンが、爬虫種の死体二つと、エルーシの仲間だった二体を中へと放り込む。
「エルーシが言うにはな、こいつら三人は魔法品を持っている犬種の情報を手土産に野盗見習いとして審査中だったらしいんだな。で、その判定を任されていたのが本物の野盗のブレドア……この牛種つうこった。もちろん入れ墨があった」
魔法品をマドハトが?
もしかして、魔法を使ったのではなく、魔法品を使ったと思われたのか?
だから警戒して最初にマドハトを外へ出したのか?
森の中から出てこなかったのも魔法を警戒していたから?
エルーシが気絶している以上、真実を確かめようがないが、ルブルムや俺が魔法を使えることは気付かれてなかったということか?
「メリアン、このブレドアという野盗は馬車に積まないのか?」
ルブルムはメリアンの乗ってきた馬に積まれたままのブレドアの、左脇腹に入っている入れ墨をまじまじと見つめている。
ノバディの尻にあったのと同じデザイン。
「ああ、こいつは入れ墨があるから実績になる。ここで馬車を切り返すのは無理だろう。だからいったん馬だけで砦まで向かおうと思う」
「実績? ディナ先……ディナ様から聞いた。実績紋の実績か?」
俺やルブルムがディナ先輩のことをディナ様と呼ぶのは、関係性を嗅ぎつけられないようにというディナ先輩の命令というか気遣いからなんだけど、ルブルムはさっきも俺のことをトシテルと呼びかけたし、どうにもこの手の演技が苦手のようだ。
「そうだ。入れ墨付きの死体を街まで運べば、その入れ墨情報が記録される。盗賊団の一人が過去に捕まったことがあるならば、それで調べることもできる。で、こっちが実績紋だ」
メリアンは右腕に装着した盾と籠手とを外すと、袖をまくり、上腕の内側にあるその「実績紋」というものを見せてくれた。
デザイン的には中央に円、その周囲には放射状に無数の線、円の内側も濃淡があり、一見すると太陽のようにも見える。
「傭兵や兵士、国外からの来訪者にはこの実績紋が義務付けられている。その土地の領主に認められる働きをしたり、罪を犯したりすればこの実績紋に情報として刻まれる。仕組みはよくわからんが、更新には魔術師組合に行かなきゃいけないから、魔法でなんかしてるんだろうな。この形から太陽紋っつってるやつらもいるよ。そうそう。地元を離れて出稼ぎに出るような連中も付けてるね。働いたとこの親方に評価された内容を実績紋へ刻んでおけば、別の土地に移っても最初から信用してもらえるからな」
実績紋についてのことはディナ先輩から聞いていた通りだったけど、出稼ぎの人も付けているってのは初耳だった。
なんせルブルムには「魔術師は免状に記録されるから必要ない」って言ってたくらいだからな。
でも「ルブルムが傷物になる」とも言ってたから、あれはどちらかといえば娘がタトゥー入れるのを嫌がる親っぽい雰囲気だったけど。
「リテルさま、ごめんなさい! リテルさまの弓は折れてしまいました!」
「いや、仕方ない。マドハトが無事ならそれでいいさ」
するとマドハトは一瞬、嬉しそうな表情になったが、すぐにまた情けない顔に戻る。
ぴょんぴょん飛び跳ねないのは、ずっと馬の背中に居るせいだろう。
その代わりに、ぐるぐる巻きエルーシの腹のあたりをペシペシ叩いている。
俺はマドハトに動かぬように言い、『生命回復』でマドハトの右足の矢傷を治した。
「馬車を転がしてあったあたりに馬が三頭つながれていてな。とりあえず二頭だけ借りて乗ってきた。全員が馬に乗れるならこのまま砦まで行ってしまったほうが早いかもしれないな。ブレドアは毒を持っていた。野盗連中には下手に関わり合いにならない方が良いだろう」
そう言いながらメリアンはノバディの死体を、意識のないエルーシの上へ乗せ、エルーシを縛っていた縄を少し解きノバディの死体と一緒に改めて巻き直した。
「毒ですか? どんな毒です?」
もしかしたらさっきの槍にはやっぱり毒が塗ってあって――嫌な考えが頭に浮かぶ。
「茶色い粘っこいのが着いた針でね、試しにこのエルーシに使ってみたらこの通りだ。死んではないようだから、恐らく捕獲用だろう」
「捕獲用?」
「ああ、殺さない毒さ。戦争ではな、捕虜は滅多に殺さない。魔法の燃料をしぼりとれるからな。ただ、そういう目に合うくらいならって命を使い切って魔法を使うやつも居る。知っているかもしれないが、魔法を使ったことがない者でも、追い詰められると自分の命を絶つくらいのことはしかねない。攻撃する魔法の場合もある。だからどこの国でも捕虜に対しては丁寧な扱いをするのが通例だ。だが盗賊団はそんなことはしない。魔法を使われる可能性を先に潰すのさ。殺すか、そうじゃなきゃ毒を使う。意識を失くすやつだ。人質とか弄ぶための女とか、そういう相手に使うんだ。熟練の魔術師でもない限り、寝ていたり、気絶したやつはまず魔法を使わない」
背筋がゾッとする。
つくづく生き延びられて、ケティやルブルムがさらわれることもなくて、良かった。
「メリアン、ここで話すより、移動を始めてから話の続きをしませんか?」
「ああ、あたしもその案に賛成だ」
状況を見ていたのか、ケティも準備に取り掛かっていてくれているようだ。
そう考えたのは、ケティの寿命の渦が、轅へとつないである馬の一頭へと近づいていたから。
手綱を外して連れてきてくれるのかと思ったから。
しかし馬はいななき、ケティと一緒に移動し始める。
小道の先の方へ。
慌てて馬車の前側へと回り込むと、走り去る馬が見えた。
その背には、力なく横たわるケティと、全裸の爬虫種――え?
首をルブルムの小剣で貫かれていた方――あいつは確かに死んでいたはずなのに!
「リテル、私の背中に!」
俺の横を駆け抜けたルブルムが、さっき手綱をつけていた方の馬の背へ飛び乗った。
ルブルムの手を借りて馬の背中へ登ろうとするが、鐙も鞍もないせいか、なかなかに難しい。
「あたしの方が早そうだね!」
メリアンが馬で俺たちの横を追い抜いてゆく。
さっきまで積んでいたブレドアはもう積んでいない。
「僕も行くです!」
マドハトまで俺たちの横を通過する。
ただしエルーシとノバディを乗せたままで。
明らかに俺が足を引っ張っている。
見かねたルブルムが馬を御者席の横へと移動してくれて、俺はようやくルブルムの後ろへと乗ることができた。
「お願い、早く走ってくれる?」
ルブルムが馬の首を優しく撫でる。
まるで言葉が通じているかのように、俺たちの乗った馬は駆け出した。
● 主な登場者
・有主利照/リテル
猿種、十五歳。リテルの体と記憶、利照の自意識と記憶とを持つ。魔術師見習い。
ラビツ一行をルブルム、マドハトと共に追いかけている。ゴブリン用呪詛と『虫の牙』の呪詛と二つの呪詛に感染している。
・ケティ
リテルの幼馴染の女子。猿種、十六歳。黒い瞳に黒髪、肌は日焼けで薄い褐色の美人。胸も大きい。
リテルとは両想い。フォーリーから合流したが、死にかけ、そして今またさらわれてしまった。
・ラビツ
久々に南の山を越えてストウ村を訪れた傭兵四人組の一人。ケティの唇を奪った。
フォーリーではやはり娼館街を訪れていたっぽい。
・マドハト
ゴブリン魔法『取り替え子』の被害者。ゴド村の住人で、今は犬種の体を取り戻している。
リテルに恩を感じついてきている。元の世界で飼っていたコーギーのハッタに似ている。変な歌を知っている。
・ルブルム
魔女様の弟子である赤髪の少女。整った顔立ちのクールビューティー。華奢な猿種。
槍を使った戦闘も得意で、知的好奇心も旺盛。ケティがリテルへキスをしたのを見てから微妙によそよそしい。
・アルブム
魔女様の弟子である白髪に銀の瞳の少女。鼠種の兎亜種。
外見はリテルよりも二、三歳若い。知的好奇心が旺盛。
・カエルレウム
寄らずの森の魔女様。深い青のストレートロングの髪が膝くらいまである猿種。
ルブルムとアルブムをホムンクルスとして生み出し、リテルの魔法の師匠となった。『解呪の呪詛』を作成中。
・ディナ
カエルレウムの弟子。ルブルムの先輩にあたる。重度で極度の男嫌い。壮絶な過去がある。
アールヴを母に持ち、猿種を父に持つ。精霊と契約している。トシテルをようやく信用してくれた。
・ウェス
ディナに仕えており、御者の他、幅広く仕事をこなす。肌は浅黒く、ショートカットのお姉さん。蝙蝠種。
魔法を使えないときのためにと麻痺毒の入った金属製の筒をくれた。
・『虫の牙』所持者
キカイー白爵の館に居た警備兵と思われる人物。
『虫の牙』と呼ばれる呪詛の傷を与える異世界の魔法の武器を所持し、ディナに呪詛の傷を付けた。
・メリアン
ディナ先輩が手配した護衛。リテルたちを鍛える依頼も同時に受けている。
ものすごい筋肉と角と副乳とを持つ牛種の半返りの女傭兵。
・ノバディ
ディナが管理する娼婦街の元締め、ロズの用意してくれた馬車の御者。尻に野盗の入れ墨がある。
ちょっと訛っていたが、野盗仲間に対しては普通に喋っていた疑惑がある。
・エルーシ
ディナが管理する娼婦街の元締め、ロズの弟である羊種。娼館で働くのが嫌で飛び出した。
仲間の猿種と鼠種と共に野盗に入団しようとしたが、現在は野盗の毒で麻痺中。
・ブレドア
横転させた馬車で街道を封鎖し、襲撃してきた牛種。
メリアンに返り討ちに合い、死亡。左脇腹に野盗の入れ墨がある。
・小道の襲撃者たち
二人組の爬虫種。馬に乗り、片方は寿命の渦を見えなくしていた。魔法も用いる。
野盗の入れ墨はなかった。ルブルムの活躍により、二人とも死亡した……はずだったのだが。
■ はみ出しコラム【墓】
ホルトゥスにおいて、都市や地方集落での死者は焼かれるのが一般的である。
死体を土に埋めることにより、ゾンビーの材料にされたり、魔獣が掘り返して食らうのを防止するためである。
焼いた後に残る遺骨や遺灰は砕き、「残された家族が悪いものから守られますように」と唱えながら屋根から家の周囲へと撒く風習がある。
そのため、墓は作らない。
一部の王族や貴族に限っては、撒いたりせず特別な容器に入れて家宝として取っておく場合があるが、やはり大規模な墓のようなものは作らない。
死んだ者は、死した存在のまま復活するのではなく、記憶を失い新しい体で新しい人生を生きるという価値観が一般的である。
それは過去の記憶を持つ者がたまに現れるからである。
身寄りがない者が死んだ場合は、ごくごく親しかった友人の家の周囲か、もしくは集落の門の近くに撒かれる。
・過去の記憶
ごくごくたまに、生前の記憶を持っている者が居る。
しかしその記憶は大抵が半成人になる前に失われる。
死者が記憶を失うのは、生きていて死者を見送った側が死者のことを覚えているせいで、その覚えている側につながったまま残る、という考え方をする。
・魂について
魔術的な解析により、魂と肉体とが寿命によりつながって生命が維持されているという考え方が浸透している。
基本的に魂は、寿命が尽きた衝撃で記憶を失い、創造主のお導きにより新しい肉体へ宿るとされている。
・ご先祖様の祝福
獣種は必ず親のどちらかの獣種を継ぐので、そもそも子孫たるその肉体に先祖代々の祝福が宿っているという考えがある。
家を出る家族に対し「いってらっしゃい」感覚で「ご先祖様の祝福がありますように」と言う。これは血縁以外は言わないのが通例。
・死せる旅人
街の外で死に、遺体を回収されなかった死者については、「自然の一部に還ることで精霊になった」と考える。
これを「死せる旅人」と呼ぶ。
自然の一部に還る場合は、焼かずに埋めるだけでもよいとされている。
そのため、中にはあえて「自分の遺灰を森や湖、海に撒いてほしい」と遺言する者も居る。
このタイミングにルブルムのこの言葉がありがたい。
「ケティはここで座って待っていて。俺とルブルムは魔女様からこういうときの対処法を教えこまれているから」
御者席近くの道端にあった大樹の根がいい感じに椅子っぽかったから、そこへ座らせる。
細かな説明は話をややこしくしそうだからディナ先輩のことは伏せたまま。
ケティには申し訳ないがとにかく時間も惜しい。
これだけ大掛かりな罠というか作戦の野盗が、こいつらだけで終了ってことはないだろう。
相手の規模がわかりそうな手がかりを見つけて、その後はさっさとメリアンやマドハトたちと合流したい。
馬に乗ってやって来た野盗二人の死体を、馬車の後ろ側へと運んでくる。
まずは革の脛当てを外し、革のサンダルをも脱がす。
肌に接する部分に魔石はなかったし、俺がテニール兄貴から借りている脛当てのように短剣を隠せるような仕掛けもない。
ルブルムは迷いもなく野盗どもの腰紐を解き、二人のズボンを脱がして裏返す。
連中の股間をチラ見してはいたが、熱心に「勉強」したりはせずスルーして上半身の革鎧を脱がす作業へとかかっている。
その革鎧は俺たちが装備しているやつに比べると作りが雑で動きにくそうで所々壊れている。
そんな粗悪な革鎧にも、二人が右手にだけ着けていた革手袋にも魔石がセットされている痕跡はなく、外套や上着を脱がして裏返しても同様だった。
武器は槍の他には刃渡り長めの短剣だけ。もちろんごく普通の短剣。
ありがたいことに、毒らしきものも持っていなかった。
魔法品を持っていないとなると、魔法を使用したのはこいつら自身なのだろうか。
「入れ墨らしきものは見当たらない」
「そうだな」
おっ、声がリテルの声に戻った。
一ディエス分でかけた『声真似』の効果時間は体感二ディヴくらいか。
丸出し状態なのを見ていたくはないので、死体をひっくり返してうつ伏せにする。
「でもこれは不思議」
ルブルムが外套の頭部フード部分を調べている。
さっきこの外套の内ポケットから変なモノが出てきたからだ。
変なモノとは、犬の口みたいなマスクと、犬のつけ耳のようなモノ。
マスクの方は木製の口型に毛皮が貼ってあり、顔に取り付けられるような紐まで付いている。
犬の耳の方も紐でつながっていて、頭に装着できるようになっている。こちらも木型に毛皮を貼ったもの。
そして外套の頭部フードには犬の耳を出せるような穴が開けてある。
「リテルはこれが何かわかるか?」
「うーん……獣種を欺くためのモノのように思えるけど。それも犬種の先祖返りのように」
「でも二人とも寿命の渦は爬虫種だった」
まあ、この犬コスプレを装着していたわけじゃないしな。
でもルブルムは思考の基準が自分になっているっぽいから訂正はしておいた方がいいかもしれない。
「普通の人は、寿命の渦を偽装しないって聞いただろ?」
「そうだった」
魔法使い相手に偽装の渦を準備するのは、状態異常系の魔法を使うとき相手の獣種に合わせてカスタマイズできる魔法があって、その獣種シフトがハマると抵抗されにくくなるという理由から。
これで見た目の獣種を変えることで、対象獣種を絞らせないようにする用途だと思うけど――だとすると相手は対魔術師を想定している野盗ってこと?
それにさっき、こいつらは二人で来たのに、『魔力感知』では一人にしか認識できなかった。
『魔力感知』に対する反応が『死んだふり』のとは違う感じだったことも気になる。
相手の中にも魔術師がいると考えておいた方がいいだろう。
いくらメリアンが強くとも、もしも相手に魔術師が複数居たら――気持ちが引き締まる。
手強い敵。
油断できない選択肢の多さ。
しかも今回は御者のことなんてノーマークだった。
もしも俺がカエルレウム師匠やディナ先輩の元で学べなければ、今頃こうやって死体になっていたのは俺の方だろう。
そうだ。
ノバディの死体はまだ調べてないな。
爬虫種二人の持ってきていた槍を使って馬車の中から後ろ側へと落とす。
潜入していたのなら普段人に見せない場所だろうと最初にズボンを下ろしたところ、案の定、尻に入れ墨のようなものがあった。
「これかな?」
短剣を四本の牙が咬んでいるようなデザイン。
「わからない」
ルブルムは入れ墨の付近を押したりこすったりして観察している。
「でもまあ、なんとか乗り越えられて……」
ケティのことを考えると、良かった、とは全然言えないけれど、なんとか皆が生き残れたのはありがたいことだ。
「一つの感覚に頼るのは危険だと学べた」
ルブルムの言葉には激しく同意だ。
何か一つだけの感覚に頼ると現状を見誤る恐れがあるんだな。
知識がいくらあっても知識のみでは計り知れないこともあるし、思考を手放さないということの重要さも改めて噛みしめる。
しかし経験って本当に役立つものだ。
敵を倒して経験値が入ってレベルアップ――というのはゲームバランスのためだけのシステムだと元の世界では考えていたけれど、実際に戦闘を生き残れてみて、学びの多さを実感している。
特に戦闘なんてわずかな時間の間にとても多くのことを考え、判断しないといけない。
戦闘から得られることに無駄なことなんて本当に一つもない。
マクミラ師匠の言葉を思い出す――「獲物と経験からは決して無駄を出すな」。
その通りでした、マクミラ師匠。
「リテル、一頭、外した」
俺が左腕を『生命回復』している間にルブルムが、馬車につながれた馬を一頭、金具から外して手綱を付けておいてくれた。
そういや御者席のすぐ後ろに手綱だけ置いてあったっけな。
鞍はついてないけど、手綱があればルブルムは乗れるのかな。
野盗の乗っていた馬は、座席と鐙とが二人分ある鞍を装着している。
ケティは一人では馬に乗れないだろうし、怪我を治したとはいえ血を失っている現状で一人で騎乗なんてさせられない。
こっちには俺とケティで乗る感じだな。
それにしても、傷を治しても、血を失ったままはしんどいよな。
ディナ先輩の館で似たような経験をした俺にはよくわかる。
『造血』の魔法を使うには触媒として新鮮な肝臓を必要とするし。
しかもその肝臓は動物のものでないといけないし。
獣種の肝臓を使うと、獣種同士の共食いのときと同じ症状――激しい下痢や酷い嘔吐を伴う激痛な腹痛にやられる、らしいから。
いやもちろん、こんな野盗なんかの死体を使ってケティを回復だなんてそもそも嫌だけど。
「馬だけなら、この馬車の横をすり抜けて引き返すこともできそうだな」
「……ごめんね、私……足手まといで……」
「そんなことないよ、ケティ」
フォローになっていなさげなのはわかっている。
ディナ先輩のところで女性の裸は見慣れたけれど、こういうやり取りの経験はほとんど積めていないもんな。
ケティの表情は沈んだまま。
「来る」
ルブルムが会話を遮ってくれたおかげで『魔力感知』から意識を外していたことに気付く――マルチタスク、いい加減できるようになんないかな、俺。
遠くから近づいてくる馬の蹄の音。
今度は小道の後方、街道方面から。
『魔力感知』を『魔力探知機』へと切り替える――まだ範囲外のようだが、音としては複数のようにも聞こえる。
ケティがよろよろと立ち上がるのを慌てて支える。
「戦闘の……役に立たないから、私……隠れて、いるね」
「いや、ケティのこと、一人にはしないから」
俺の言葉を聞いたルブルムが、馬車から外した馬と野盗の馬との手綱を轅へとつなぐ。
その間に俺は馬車の中からケティのハンマーと自分の矢筒、それから果物が入った革袋を一つ持ち出す。
メリアンから逃げ出してきた野盗の可能性もあるし、万が一ってことも考えなきゃいけないだろう。
三人で小道の脇、森の中へと踏み込み始めたちょうどそのとき、『魔力探知機』に五つの寿命の渦が引っかかった。
馬が二頭、先頭には牛種、二頭目には犬種と羊種。
これは間違いない。
だって歌まで聞こえたから。マドハトのあの陽気な歌声が。
「返り討ち三人かい。上出来、上出来」
到着したメリアンの第一声がそれだった。
ケティがこんな状態で、俺としてはとてもほめてもらえるような心境ではなかったけど。
メリアンの乗っている馬には体の大きな裸の牛種の死体が、マドハトの乗っている馬には二つの死体と一人の縛られた羊種とが積まれていた。
その羊種の顔を見て驚いた。エルーシだったから。
馬車を手配してくれたロズさんは、エルーシの姉でもある。
残りの二人の獣種は確か猿種と鼠種――マドハト側の馬に積まれた死体二つと一致する。
エルーシが「支配する側に回る」と言っていたのを思い出す。
「このことはディナ様にご連絡しなくちゃ、だね」
口まで縄でぐるぐるのエルーシはどこを見ているのかわからない虚ろな目でぼんやりとしている。
「なるほど。このエルーシが姉は関係ないっつってたんは、何やら因縁があったようだな」
馬車を覗いたメリアンが、爬虫種の死体二つと、エルーシの仲間だった二体を中へと放り込む。
「エルーシが言うにはな、こいつら三人は魔法品を持っている犬種の情報を手土産に野盗見習いとして審査中だったらしいんだな。で、その判定を任されていたのが本物の野盗のブレドア……この牛種つうこった。もちろん入れ墨があった」
魔法品をマドハトが?
もしかして、魔法を使ったのではなく、魔法品を使ったと思われたのか?
だから警戒して最初にマドハトを外へ出したのか?
森の中から出てこなかったのも魔法を警戒していたから?
エルーシが気絶している以上、真実を確かめようがないが、ルブルムや俺が魔法を使えることは気付かれてなかったということか?
「メリアン、このブレドアという野盗は馬車に積まないのか?」
ルブルムはメリアンの乗ってきた馬に積まれたままのブレドアの、左脇腹に入っている入れ墨をまじまじと見つめている。
ノバディの尻にあったのと同じデザイン。
「ああ、こいつは入れ墨があるから実績になる。ここで馬車を切り返すのは無理だろう。だからいったん馬だけで砦まで向かおうと思う」
「実績? ディナ先……ディナ様から聞いた。実績紋の実績か?」
俺やルブルムがディナ先輩のことをディナ様と呼ぶのは、関係性を嗅ぎつけられないようにというディナ先輩の命令というか気遣いからなんだけど、ルブルムはさっきも俺のことをトシテルと呼びかけたし、どうにもこの手の演技が苦手のようだ。
「そうだ。入れ墨付きの死体を街まで運べば、その入れ墨情報が記録される。盗賊団の一人が過去に捕まったことがあるならば、それで調べることもできる。で、こっちが実績紋だ」
メリアンは右腕に装着した盾と籠手とを外すと、袖をまくり、上腕の内側にあるその「実績紋」というものを見せてくれた。
デザイン的には中央に円、その周囲には放射状に無数の線、円の内側も濃淡があり、一見すると太陽のようにも見える。
「傭兵や兵士、国外からの来訪者にはこの実績紋が義務付けられている。その土地の領主に認められる働きをしたり、罪を犯したりすればこの実績紋に情報として刻まれる。仕組みはよくわからんが、更新には魔術師組合に行かなきゃいけないから、魔法でなんかしてるんだろうな。この形から太陽紋っつってるやつらもいるよ。そうそう。地元を離れて出稼ぎに出るような連中も付けてるね。働いたとこの親方に評価された内容を実績紋へ刻んでおけば、別の土地に移っても最初から信用してもらえるからな」
実績紋についてのことはディナ先輩から聞いていた通りだったけど、出稼ぎの人も付けているってのは初耳だった。
なんせルブルムには「魔術師は免状に記録されるから必要ない」って言ってたくらいだからな。
でも「ルブルムが傷物になる」とも言ってたから、あれはどちらかといえば娘がタトゥー入れるのを嫌がる親っぽい雰囲気だったけど。
「リテルさま、ごめんなさい! リテルさまの弓は折れてしまいました!」
「いや、仕方ない。マドハトが無事ならそれでいいさ」
するとマドハトは一瞬、嬉しそうな表情になったが、すぐにまた情けない顔に戻る。
ぴょんぴょん飛び跳ねないのは、ずっと馬の背中に居るせいだろう。
その代わりに、ぐるぐる巻きエルーシの腹のあたりをペシペシ叩いている。
俺はマドハトに動かぬように言い、『生命回復』でマドハトの右足の矢傷を治した。
「馬車を転がしてあったあたりに馬が三頭つながれていてな。とりあえず二頭だけ借りて乗ってきた。全員が馬に乗れるならこのまま砦まで行ってしまったほうが早いかもしれないな。ブレドアは毒を持っていた。野盗連中には下手に関わり合いにならない方が良いだろう」
そう言いながらメリアンはノバディの死体を、意識のないエルーシの上へ乗せ、エルーシを縛っていた縄を少し解きノバディの死体と一緒に改めて巻き直した。
「毒ですか? どんな毒です?」
もしかしたらさっきの槍にはやっぱり毒が塗ってあって――嫌な考えが頭に浮かぶ。
「茶色い粘っこいのが着いた針でね、試しにこのエルーシに使ってみたらこの通りだ。死んではないようだから、恐らく捕獲用だろう」
「捕獲用?」
「ああ、殺さない毒さ。戦争ではな、捕虜は滅多に殺さない。魔法の燃料をしぼりとれるからな。ただ、そういう目に合うくらいならって命を使い切って魔法を使うやつも居る。知っているかもしれないが、魔法を使ったことがない者でも、追い詰められると自分の命を絶つくらいのことはしかねない。攻撃する魔法の場合もある。だからどこの国でも捕虜に対しては丁寧な扱いをするのが通例だ。だが盗賊団はそんなことはしない。魔法を使われる可能性を先に潰すのさ。殺すか、そうじゃなきゃ毒を使う。意識を失くすやつだ。人質とか弄ぶための女とか、そういう相手に使うんだ。熟練の魔術師でもない限り、寝ていたり、気絶したやつはまず魔法を使わない」
背筋がゾッとする。
つくづく生き延びられて、ケティやルブルムがさらわれることもなくて、良かった。
「メリアン、ここで話すより、移動を始めてから話の続きをしませんか?」
「ああ、あたしもその案に賛成だ」
状況を見ていたのか、ケティも準備に取り掛かっていてくれているようだ。
そう考えたのは、ケティの寿命の渦が、轅へとつないである馬の一頭へと近づいていたから。
手綱を外して連れてきてくれるのかと思ったから。
しかし馬はいななき、ケティと一緒に移動し始める。
小道の先の方へ。
慌てて馬車の前側へと回り込むと、走り去る馬が見えた。
その背には、力なく横たわるケティと、全裸の爬虫種――え?
首をルブルムの小剣で貫かれていた方――あいつは確かに死んでいたはずなのに!
「リテル、私の背中に!」
俺の横を駆け抜けたルブルムが、さっき手綱をつけていた方の馬の背へ飛び乗った。
ルブルムの手を借りて馬の背中へ登ろうとするが、鐙も鞍もないせいか、なかなかに難しい。
「あたしの方が早そうだね!」
メリアンが馬で俺たちの横を追い抜いてゆく。
さっきまで積んでいたブレドアはもう積んでいない。
「僕も行くです!」
マドハトまで俺たちの横を通過する。
ただしエルーシとノバディを乗せたままで。
明らかに俺が足を引っ張っている。
見かねたルブルムが馬を御者席の横へと移動してくれて、俺はようやくルブルムの後ろへと乗ることができた。
「お願い、早く走ってくれる?」
ルブルムが馬の首を優しく撫でる。
まるで言葉が通じているかのように、俺たちの乗った馬は駆け出した。
● 主な登場者
・有主利照/リテル
猿種、十五歳。リテルの体と記憶、利照の自意識と記憶とを持つ。魔術師見習い。
ラビツ一行をルブルム、マドハトと共に追いかけている。ゴブリン用呪詛と『虫の牙』の呪詛と二つの呪詛に感染している。
・ケティ
リテルの幼馴染の女子。猿種、十六歳。黒い瞳に黒髪、肌は日焼けで薄い褐色の美人。胸も大きい。
リテルとは両想い。フォーリーから合流したが、死にかけ、そして今またさらわれてしまった。
・ラビツ
久々に南の山を越えてストウ村を訪れた傭兵四人組の一人。ケティの唇を奪った。
フォーリーではやはり娼館街を訪れていたっぽい。
・マドハト
ゴブリン魔法『取り替え子』の被害者。ゴド村の住人で、今は犬種の体を取り戻している。
リテルに恩を感じついてきている。元の世界で飼っていたコーギーのハッタに似ている。変な歌を知っている。
・ルブルム
魔女様の弟子である赤髪の少女。整った顔立ちのクールビューティー。華奢な猿種。
槍を使った戦闘も得意で、知的好奇心も旺盛。ケティがリテルへキスをしたのを見てから微妙によそよそしい。
・アルブム
魔女様の弟子である白髪に銀の瞳の少女。鼠種の兎亜種。
外見はリテルよりも二、三歳若い。知的好奇心が旺盛。
・カエルレウム
寄らずの森の魔女様。深い青のストレートロングの髪が膝くらいまである猿種。
ルブルムとアルブムをホムンクルスとして生み出し、リテルの魔法の師匠となった。『解呪の呪詛』を作成中。
・ディナ
カエルレウムの弟子。ルブルムの先輩にあたる。重度で極度の男嫌い。壮絶な過去がある。
アールヴを母に持ち、猿種を父に持つ。精霊と契約している。トシテルをようやく信用してくれた。
・ウェス
ディナに仕えており、御者の他、幅広く仕事をこなす。肌は浅黒く、ショートカットのお姉さん。蝙蝠種。
魔法を使えないときのためにと麻痺毒の入った金属製の筒をくれた。
・『虫の牙』所持者
キカイー白爵の館に居た警備兵と思われる人物。
『虫の牙』と呼ばれる呪詛の傷を与える異世界の魔法の武器を所持し、ディナに呪詛の傷を付けた。
・メリアン
ディナ先輩が手配した護衛。リテルたちを鍛える依頼も同時に受けている。
ものすごい筋肉と角と副乳とを持つ牛種の半返りの女傭兵。
・ノバディ
ディナが管理する娼婦街の元締め、ロズの用意してくれた馬車の御者。尻に野盗の入れ墨がある。
ちょっと訛っていたが、野盗仲間に対しては普通に喋っていた疑惑がある。
・エルーシ
ディナが管理する娼婦街の元締め、ロズの弟である羊種。娼館で働くのが嫌で飛び出した。
仲間の猿種と鼠種と共に野盗に入団しようとしたが、現在は野盗の毒で麻痺中。
・ブレドア
横転させた馬車で街道を封鎖し、襲撃してきた牛種。
メリアンに返り討ちに合い、死亡。左脇腹に野盗の入れ墨がある。
・小道の襲撃者たち
二人組の爬虫種。馬に乗り、片方は寿命の渦を見えなくしていた。魔法も用いる。
野盗の入れ墨はなかった。ルブルムの活躍により、二人とも死亡した……はずだったのだが。
■ はみ出しコラム【墓】
ホルトゥスにおいて、都市や地方集落での死者は焼かれるのが一般的である。
死体を土に埋めることにより、ゾンビーの材料にされたり、魔獣が掘り返して食らうのを防止するためである。
焼いた後に残る遺骨や遺灰は砕き、「残された家族が悪いものから守られますように」と唱えながら屋根から家の周囲へと撒く風習がある。
そのため、墓は作らない。
一部の王族や貴族に限っては、撒いたりせず特別な容器に入れて家宝として取っておく場合があるが、やはり大規模な墓のようなものは作らない。
死んだ者は、死した存在のまま復活するのではなく、記憶を失い新しい体で新しい人生を生きるという価値観が一般的である。
それは過去の記憶を持つ者がたまに現れるからである。
身寄りがない者が死んだ場合は、ごくごく親しかった友人の家の周囲か、もしくは集落の門の近くに撒かれる。
・過去の記憶
ごくごくたまに、生前の記憶を持っている者が居る。
しかしその記憶は大抵が半成人になる前に失われる。
死者が記憶を失うのは、生きていて死者を見送った側が死者のことを覚えているせいで、その覚えている側につながったまま残る、という考え方をする。
・魂について
魔術的な解析により、魂と肉体とが寿命によりつながって生命が維持されているという考え方が浸透している。
基本的に魂は、寿命が尽きた衝撃で記憶を失い、創造主のお導きにより新しい肉体へ宿るとされている。
・ご先祖様の祝福
獣種は必ず親のどちらかの獣種を継ぐので、そもそも子孫たるその肉体に先祖代々の祝福が宿っているという考えがある。
家を出る家族に対し「いってらっしゃい」感覚で「ご先祖様の祝福がありますように」と言う。これは血縁以外は言わないのが通例。
・死せる旅人
街の外で死に、遺体を回収されなかった死者については、「自然の一部に還ることで精霊になった」と考える。
これを「死せる旅人」と呼ぶ。
自然の一部に還る場合は、焼かずに埋めるだけでもよいとされている。
そのため、中にはあえて「自分の遺灰を森や湖、海に撒いてほしい」と遺言する者も居る。
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