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#40 一つ布団の中
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「タオルとお着替え、お持ちしました」
タイミングよくノックの音がしたあと、ウェスさんが前室へ入ってきた。
棚に何かを置き、すぐに出ていってしまう。
俺たちは棚に置かれたタオルで体を拭く。
うわ、この着替え、ほんのり温かい――そこでハッと気づく。
その着替えが、さっきまで自分が着ていたリテルの服だということに。
俺の股間が教材として弄ばれていた間に、洗濯と乾燥までしてくれていたのか。
ウェスさん、プロフェッショナル過ぎる。
「ディナ先輩、服が温かい」
ルブルムまで驚いた表情。
「ああ。浴室で使われる湯は地下水を窯で温めている。その窯の前に干せば、洗いたてでもあっという間に乾く」
この世界は魔法が普通に溢れているけれど、寿命を消費するという激渋コストのせいで、日常生活で気軽に魔法が使われるたりはしないらしい。
属性もなかれば生活魔法みたいなカテゴライズもない。
元の世界で抱いていた異世界とか魔法のイメージとはかなり違う――なんかやけにリアルなんだよな。
でもまあ、俺にとってはこの世界の魔法しかないからな。これを覚えていくだけ。
「ディナ先輩、さっき、小さな魔法は気付かれにくいと言った」
あっ、それは俺も気になってた。
「ああ、言った」
「『魔力感知』を鍛えると、消費命の集中が小さくとも発見は可能だ」
「そうだな。ではなぜ、ボクは気付かれにくいと言ったと思う? トシテル」
お、俺ですかっ。
「はいっ……えーと」
なぜ俺に聞いたのか――俺はすでにそのヒントを得ているということか?
だとすると魔術特異症関連かな?
俺は普段、寿命の渦が二重の渦になっているのを、一般的な猿種へ偽装の渦している――ということは。
「消費命自体も偽装できるということですか?」
「そうだ。大量の消費命は操作が難しい。扱う消費命が小さいほど、その正反対の小さな偽装の渦も作り出しやすい」
理屈としてはわかる。
自分の寿命の渦を、他の獣種ではなく「見えなくなる」ようにする偽装の渦もあるのだから。
「わかっていると思うが、自身の寿命の渦の偽装の渦は維持したままだぞ」
うわー。頭こんがらがりそう。
ルブルムが早速右手の人差し指に消費命を、左手の人差し指にそれと正反対の消費命を――いや、それは回転が逆向きなだけで、正反対とはちょっと違うな。
指と指を重ねてみているけど、ルブルムの指先の消費命は一ディエスと一ディエスのまま、ちゃんと残っている。
「難しい」
だよね――なんて言っている場合じゃない。
俺も俺なりに試してみるが、うまくいかない。
自分自身の偽装の渦を維持したままだと、本当に目が回りそうなくらい脳が疲れる。
しかも消費命を集めただけで『虫の牙』の傷ムカデがじわじわと疼いて集中力も削がれるし。
「こうするんだ。ボクの手を握ってみろ」
ディナ先輩が差し出した右手にルブルムと俺も手を重ねる。
ああっ、『発光』という魔法が使われたことが伝わる。でも消費命の集中を全く感じなかった。
ディナ先輩の指先が光り、傍らの灯り箱の光が小さくなる。
なるほど「光を借りてくる」という思考か。
「消費命の集中を開始すると同時に、その消費命と同量正反対の偽装の渦を作る。これを偽装消費命と言う。そして魔法代償として消費されたのと同時に偽装消費命を解放する。やり方はこれだけだ」
はい。おっしゃられていることは理解できてます。
ただそれを実践でやってみるとなると、なかなか……。
「今夜はもう遅い。それぞれの部屋へと戻り、寝ておけ」
ずっと偽装の渦に夢中になっている俺とルブルムを見かねたのか、ディナ先輩から解散命令が発せられる。
確かに一度寝たら、頭がスッキリして何か手がかりをつかめるかもなぁ。
今ってなんというか見えている山の頂点へたどり着けない感じだから。
あてがわれた部屋のベッドへと戻り、横になる。
感覚的には、もう深夜よりも夜明けが近そう。
さすがに脳もかなり疲労しているし、いい感じに体は温まっているし、俺はベッドに入ってすぐ睡魔に身を委ねた。
この眠気なら傷ムカデがウゾウゾ動き回っているのも乗り越え……られ……そ……ノックの音。
今?
というか誰?
偽装の渦しているから誰だかはわからない、けど、なんとなく誰だか予想はつく。
曇ガラス越しの淡い月明りが仄かに照らす部屋。
ドアが静かに開かれてゆく。
そこから顔を半分だけ出したのは、やっぱりルブルムだった。
「トシテル、もう寝たか?」
囁くような声。
寝たフリしたいぐらい疲れてはいるが、さっきあんなカッコつけたこと言ってしまった手前、スルーするわけにはいかないよな。
「まだだよ」
「よかった。トシテル……私」
ルブルムは室内へ静かに入ると音を立てないようにドアを閉め、俺が寝ているベッドの方へ歩いてくる。
何か言いたげな表情。
俺が起き上がり、ベッドの縁に腰掛けると、ルブルムはすぐ隣にすとんと腰を下ろした。
うーん。妙な既視感を感じる。
「トシテル……私……」
「うん」
ドキドキしてしまう。
「……さっきの続き、もう少し、したい」
さっきの?
さっきのって……どれ?
浴場でのルブルムの姿が、次々と脳内再生される。
「寝る前に、しておきたい」
な、何を、ですか?
あああああ、なんか手のひらに汗かいてきた。
突然、ルブルムが俺に向かって左の手のひらを見せる。
どゆこと?
何これ――まさか手汗がバレた?
「私、考えた。二人でそれぞれ逆向きの渦を作って重ねたら、作る渦は一つで済むから、集中できるって」
あー。
そうですよねぇ。うん。
そういうこと……うんうん。確かに。
わ、わかっていましたよもちろん最初から。
「そうだね。やってみようか」
右の手のひらを、シーツで軽く拭いてから、ルブルムの左の手のひらへと重ねる。
ルブルムはすぐに消費命を一ディエス分集中する。
俺も一ディエス分の偽装の渦を、ルブルムのとは逆向きに作ってみる。
んー……一人で二つ作ってたときに比べたら、かなり一致させることができたけど、『魔力感知』で見えないかというと決してそんなことはなく。
「今度は私から合わせる」
役割を入れ替え、ルブルムが合わせる側に。
ルブルムの方が偽装センスいいような気がする……けど……どうして……ルブルムの顔がだんだん近づいてきているのかな?
「トシテル、どうして下がる?」
「どうしてって……今は、手のひらに集中したくって」
「そうなのか。私は……体の、重なっている部分が多いほど、消費命もうまく重ねられる気がして」
「……なるほど」
納得感はある。ただ、かなり気恥ずかしい。
ルブルムは、反対の渦の形を整えながら、少しずつ、俺の上に覆いかぶさってくる。
しかし、急にルブルムの偽装の渦が乱れた。
よく見れば肩を震わせている。
反射的に傍らのかけ布団をルブルムにかぶせた。
ルブルムは今、俺に覆いかぶさりかけていたわけだから、なんというか意図せず二人して一つ布団の中という状態に。
わ、わざとじゃなく、風呂上がりだから余計に体を冷やしてはいけないという想いが――誰に向かって言い訳しているんだ俺は。
「温かい」
ルブルムがそう言いながら体の力を抜いたから、全身でルブルムの重みを感じる。
完全に内側のかけ布団になってますよ……でも温かい、というのは確かに。
ルブルムの冷えた皮膚に温度が戻ってくるのを体全体で感じる。
感じるのは重みや体温だけじゃなく、柔らかさも、呼吸も、鼓動も、匂いも――薄暗い布団の中にふわりと香る洗い液の残り香。
俺も同じので洗ったというのに、ルブルムのはより甘い香りな気がしてしまう――ということは、これはルブルム本来の――余計なところで思考が走り出す。
落ち着け、俺。
紳士たれ、俺。
呪詛で股間が反応しなくとも、心は乱されまくりです。
しかもルブルム、わざとか知らないけど腕や足を俺の腕や足へと絡みつけてくる。
ルブルムの頬が、俺の鎖骨に触れる。
目は冴えてきたけど、邪念が集中を妨げる。
「トシテル。服を脱いで直接触れ合った方が、もっとうまく重ねられるかも」
ちょ、ちょっと。何を言い出すんですがルブルムさん。
いくら魔法の訓練のためとはいえ、それはちょっと――いや、違う。
それは俺が恥ずかしさの陰に隠れているだけだ。
結婚前の男女の道徳を振りかざしてもきっとルブルムは納得しない。
第一、相手に気付かれずに魔法を使う技術は、この先絶対に役に立つはず。
余計な思考は全て脇に退けておいて、習得するためのことだけを考えなきゃだ。
集中して――集中――それだ!
試してみる価値はある。
「ルブルム……体をたくさん重ねるよりも、接する部分は一か所の方が集中しやすいんじゃないかな」
「やってみる」
二人して布団の両端にそれぞれ体を離して、人差し指だけを重ね合わせた。
ルブルムが先に一ディエスの偽装の渦の形を円盤のように整えだした。
ああ、そうか。
俺自身はそこまで考えての発言ではなかったけど、消費命の側も形を整えたっていいんだ。
俺も正反対の円盤を意識して一ディエス分の偽装の渦を作り出す。
互いの偽装の渦同士を静かに合わせてゆく。
ルブルムの呼吸音が近いおかげで俺もそこに呼吸を合わせられる。
指先からルブルムの偽装の渦のリズムを感じて、そのちょうど正反対の――消えた!
「トシテル! 『魔力感知』から消えた!」
「やったぞルブルム! 偽装消費命ができた!」
「すごいのはトシテルだ! トシテルのおかげで!」
ルブルムが抱きついてくる。
待て待て待て。
「ルブルム、忘れないうちにもう一度」
さりげなくルブルムの体を俺から遠ざける。
「わかった」
何度か繰り返した後、今度はそれぞれが自分の中で一人で同様のことを練習する。
一個作ってそこに合わせるのではなく、もともと二ディエス用意した消費命を、半分に分けながら逆方向に絞り込んでゆく形で作るのが一番早いし綺麗に消すことができた。
ベッドの上でしゃがんだままのルブルムが飛び跳ねる。可愛い。
そしてまた俺に抱きつこうとする。危険。
「ルブルム、もう体を重ねなくていいんだぞ」
やんわりと線を引く。
風呂から出てから距離感がバグり気味な気がするし、このままだと外でも同じようにベタベタしてあらぬ誤解を招きかねないし。
「浴室でトシテルの膝の上で洗ってもらったとき、何か変な感じがした。その答えは、トシテルともっと触れあえば出るかもしれないと思った」
い、いけませんいけません。
それはちょっとダメです。俺のアレをディナ先輩にちょん切られちゃうやつです。
「ルブルム、今回は勉強のために密着したけれど、結婚前の男女が同じ部屋で寝ないのと一緒で、裸で触れ合うというのも普通はしないことなんだ」
ディナ先輩から時と場合を判断する癖をつけさせておけと言いつかっているし、ちゃんと話しておかないとだな。
「でも、学ぶためなら協力してくれるとトシテルは言った」
「ルブルム、ディナ先輩がさっき時と場合とおっしゃったのは覚えているか?」
「覚えている」
「いつもやりたいことを真っ先に考えるのではなく、やらなきゃいけないことや、周囲にどう思われるかなどを考えて優先順位をつけて学習を後回しにしなきゃいけないことはこれから先とても増えてゆく。敵が現れたときや、何かから逃げるとき、そういうときは学ぶことより先にやらなければならないことがあるでしょ?」
「今は敵もいないし、逃げなくとも」
「お前らっ!」
声に驚いて部屋の入口へ視線を移すと、ディナ先輩が腕組みをして立っていた。
● 主な登場者
・有主利照/リテル
猿種、十五歳。リテルの体と記憶、利照の自意識と記憶とを持つ。魔術師見習い。
ラビツ一行をルブルム、マドハトと共に追いかけている。ゴブリン用呪詛と『虫の牙』の呪詛と二つの呪詛に感染している。
・ケティ
リテルの幼馴染の女子。猿種、十六歳。黒い瞳に黒髪、肌は日焼けで薄い褐色の美人。胸も大きい。
リテルとは両想い。熱を出したリテルを一晩中看病してくれていた。リテルが腰紐を失くしたのを目ざとく見つけた。
・ラビツ
久々に南の山を越えてストウ村を訪れた傭兵四人組の一人。ケティの唇を奪った。
フォーリーではやはり娼館街を訪れていたっぽい。
・マドハト
ゴブリン魔法『取り替え子』の被害者。ゴド村の住人で、とうとう犬種の体を取り戻した。
リテルに恩を感じついてきている。元の世界で飼っていたコーギーのハッタに似ている。街中で魔法を使い捕まった。
・ルブルム
魔女様の弟子である赤髪の少女。整った顔立ちのクールビューティー。華奢な猿種。
槍を使った戦闘も得意で、知的好奇心も旺盛。様々なことを学び、成長中。
・アルブム
魔女様の弟子である白髪に銀の瞳の少女。鼠種の兎亜種。
外見はリテルよりも二、三歳若い。知的好奇心が旺盛。
・カエルレウム
寄らずの森の魔女様。深い青のストレートロングの髪が膝くらいまである猿種。
ルブルムとアルブムをホムンクルスとして生み出し、リテルの魔法の師匠となった。『解呪の呪詛』を作成中。
・ディナ
カエルレウムの弟子。ルブルムの先輩にあたる。重度で極度の男嫌い。壮絶な過去がある。
アールヴを母に持ち、猿種を父に持つ。精霊と契約している。トシテルをようやく信用してくれた。
・ウェス
ディナに仕えており、御者の他、幅広く仕事をこなす。肌は浅黒く、ショートカットのお姉さん。蝙蝠種。
リテルに対して貧民街での最低限の知識やマナーを教えてくれた。
・『虫の牙』所持者
キカイー白爵の館に居た警備兵と思われる人物。
『虫の牙』と呼ばれる呪詛の傷を与える異世界の魔法の武器を所持し、ディナに呪詛の傷を付けた。
■ はみ出しコラム【フォーリー時点でのリテルの魔法】
※ 用語
・世界の真理:魔法の元となる思考について、より魔法代償が減る思考について「世界の真理に近づいた」と表現する。物理法則に則った思考をすると世界の真理となるようである。
・寿命の渦:生命体の肉体と魂とをつなげる「寿命」は、生物種毎に一定の形や色、回転を行う。これを寿命の渦と呼ぶ。
※ 技術
魔法使用に関する技術。
・『魔力感知』:範囲内の寿命の渦や消費命の流れを感知する。
・消費命:魔法を発動する際に魔法により要求、消費する魔法代償に充てるため、寿命の渦からごく一部を分けて事前に用意しておいたもの。
・偽装の渦:本来の自分の寿命の渦ではなく、あえて別の生物種の寿命の渦や、まるで寿命の渦が存在しないかのように意図的に寿命の渦の形を変えて偽装した状態のこと。
・偽装消費命:消費命自体について、その集中から消費までの間、存在しないかのように偽装したもの。魔術師の中においても一般的ではない技術。
※ 魔法
単体の魔法を魔法、魔法を組み合わせたものを魔術と呼ぶ。
・『発火』:ロウソクほどの小さな炎を作り出す魔法。火を喚ぶ思考が各々の魔術師毎に異なるため、火力も人それぞれとなる。
・『生命回復』:生命体が本来持つ回復力を増強して治癒を行う。この魔法は怪我をして間もないほど効果も高い。もともと自力では回復できない強い毒などの症状に対しては効果が薄い。死んだ相手には使えない。
・『魔力消散』:触れている魔法の発動時に発生する魔法代償に対し、偽の消費命を先んじて渡し、魔法の発動を失敗させる。
・『パイア毒の解毒』:対象としてパイアの毒に特化した毒消し。
・『皮膚硬化』:皮膚を硬化し、防御力を発生させるもの。発動時に魔法代償を余分に消費して硬化の強度や範囲、時間を強化できる。使用後、使用箇所の皮はポロポロと剥ける。
・『魔法転移』:対象魔法の発生場所を動かすことができる。目視できる範囲にしか転移できない。こちらの魔法は必ず対象魔法を必要とするため、発動する魔法は結果的に魔術となる。
・『魔法付与』:対象魔法を指定し、魔術として組わ合わせて使う。付与したい対象物に触れて、呪文を使用開始から終了までの間の時間が、対象魔法を「発動するまでの時間」と「発動してからの時間」に割り振られる。例えば牛乳パックに入っている牛乳を、平たい皿へ移すと、任意の場所における牛乳の深さが変わるように、である。
・『再生』:自分の体にできた傷を、傷ができる前の状態へと再生する。傷ができてから時間が経ち、傷があることに慣れてしまうと、もはや使用しても傷ができる前の状態へは戻らない。通常の『生命回復』では傷跡が残るが、『再生』は自分自身やごく親しい者の体のように見慣れていないと発動しない。
・『抵抗力強化』:状態異常を発生させる魔法への抵抗力を上げる魔法。ただし回復系や支援系のような魔法も拒絶してしまうようになるため、使いどころが難しい。
・『蜃気楼』:自分の位置をずらして見せるが、『魔力感知』で簡単に把握できるため、実戦ではまず使われない。基本的にはこの幻に寿命の渦が宿っているように見せる別の魔法を加えて魔術として使われることが多い。
・『造血』:生命体の内蔵を触媒に使う。特に心臓か肝臓が良い。出血により失った血を新たに生成する。輸血とは異なり自身の血が増えるだけ。触媒に用いた臓物は乾燥して粉のようになるが、この粉化したものは味も栄養も抜けてしまうため、食用には向かない。
・『炎の守り手』:点いている火を風で簡単に消えないようにする魔法。風の強い屋外で松明や焚き火、灯り箱の火が消えないようにする魔法。
・『発光』:火から光だけを借りてくる魔法。術者が消費命を集中した自身の身体部位が光る。『魔法付与』を用いた場合は、自身以外の物も対象に選べる。一般的には近くにある火の明るさが減る。
・『水刃』:触れている水を刃へと変える。刃の形は自在。効果時間はほんのわずかだが、その分、刃は硬い。触れている水量が多ければ長い刃も作れるが、大きい刃を作る場合は一ディエスでは足りない。攻撃動作を最小限に抑えられるのが強み。
※ 利照のオリジナル魔法
・『発火』:利照は空気の摩擦という世界の真理を魔法の思考に用いているため、通常の『発火』よりも火力が高い。
・『ぶん殴る』:渾身の力を込めてぶん殴る、くらいの衝撃を与える。接触。カウンター的に使える。実は利照が某漫画に登場する「超能力の具現化」イメージで作ったため、衝撃を与える拳は剣先ですら弾き飛ばすほどの硬度を持つし、心の中では効果音「オラッ」が聞こえる。
・『ぶぶぶん殴る』:『ぶん殴る』三発分の威力。
・『ぶっ飛ばす』:『ぶん殴る』の上位魔法。『ぶん殴る』五発分。
・『倍ぶっ飛ばす』:『ぶっ飛ばす』の上位魔法。『ぶっ飛ばす』二発分。
・『超ぶっ飛ばす』:『ぶっ飛ばす』の上位魔法。『ぶっ飛ばす』三発分。
・『凍れ』触れている水を凍らせる。触れている部分から波紋状に凍らせるため、水の中に解けている空気は追い出され、綺麗な氷が出来上がる。消費した魔法代償に対して対象の水が少ない場合、その周囲の大気中の水分まで凍らせる(液体の水を対象にするよりは凍らせる水分総量は減る)。
・『弱火』:『発火』の改変魔法。火力を抑える代わりに効果時間を長く発生させる。氷の加工に適している。
・『同じ皮膚』:自分の皮膚を、触れた相手の皮膚と同じものへと偽装する。毛や鱗は含まず、あくまでも生きている皮膚だけ。『虫の牙』の呪詛傷を、ディナから自身の体へ移すときに使用した。
・『脳内モルヒネ』:脳内麻薬を出し、凄まじい激痛を緩和する。『虫の牙』の呪詛傷の痛みをある程度抑えてくれる。
タイミングよくノックの音がしたあと、ウェスさんが前室へ入ってきた。
棚に何かを置き、すぐに出ていってしまう。
俺たちは棚に置かれたタオルで体を拭く。
うわ、この着替え、ほんのり温かい――そこでハッと気づく。
その着替えが、さっきまで自分が着ていたリテルの服だということに。
俺の股間が教材として弄ばれていた間に、洗濯と乾燥までしてくれていたのか。
ウェスさん、プロフェッショナル過ぎる。
「ディナ先輩、服が温かい」
ルブルムまで驚いた表情。
「ああ。浴室で使われる湯は地下水を窯で温めている。その窯の前に干せば、洗いたてでもあっという間に乾く」
この世界は魔法が普通に溢れているけれど、寿命を消費するという激渋コストのせいで、日常生活で気軽に魔法が使われるたりはしないらしい。
属性もなかれば生活魔法みたいなカテゴライズもない。
元の世界で抱いていた異世界とか魔法のイメージとはかなり違う――なんかやけにリアルなんだよな。
でもまあ、俺にとってはこの世界の魔法しかないからな。これを覚えていくだけ。
「ディナ先輩、さっき、小さな魔法は気付かれにくいと言った」
あっ、それは俺も気になってた。
「ああ、言った」
「『魔力感知』を鍛えると、消費命の集中が小さくとも発見は可能だ」
「そうだな。ではなぜ、ボクは気付かれにくいと言ったと思う? トシテル」
お、俺ですかっ。
「はいっ……えーと」
なぜ俺に聞いたのか――俺はすでにそのヒントを得ているということか?
だとすると魔術特異症関連かな?
俺は普段、寿命の渦が二重の渦になっているのを、一般的な猿種へ偽装の渦している――ということは。
「消費命自体も偽装できるということですか?」
「そうだ。大量の消費命は操作が難しい。扱う消費命が小さいほど、その正反対の小さな偽装の渦も作り出しやすい」
理屈としてはわかる。
自分の寿命の渦を、他の獣種ではなく「見えなくなる」ようにする偽装の渦もあるのだから。
「わかっていると思うが、自身の寿命の渦の偽装の渦は維持したままだぞ」
うわー。頭こんがらがりそう。
ルブルムが早速右手の人差し指に消費命を、左手の人差し指にそれと正反対の消費命を――いや、それは回転が逆向きなだけで、正反対とはちょっと違うな。
指と指を重ねてみているけど、ルブルムの指先の消費命は一ディエスと一ディエスのまま、ちゃんと残っている。
「難しい」
だよね――なんて言っている場合じゃない。
俺も俺なりに試してみるが、うまくいかない。
自分自身の偽装の渦を維持したままだと、本当に目が回りそうなくらい脳が疲れる。
しかも消費命を集めただけで『虫の牙』の傷ムカデがじわじわと疼いて集中力も削がれるし。
「こうするんだ。ボクの手を握ってみろ」
ディナ先輩が差し出した右手にルブルムと俺も手を重ねる。
ああっ、『発光』という魔法が使われたことが伝わる。でも消費命の集中を全く感じなかった。
ディナ先輩の指先が光り、傍らの灯り箱の光が小さくなる。
なるほど「光を借りてくる」という思考か。
「消費命の集中を開始すると同時に、その消費命と同量正反対の偽装の渦を作る。これを偽装消費命と言う。そして魔法代償として消費されたのと同時に偽装消費命を解放する。やり方はこれだけだ」
はい。おっしゃられていることは理解できてます。
ただそれを実践でやってみるとなると、なかなか……。
「今夜はもう遅い。それぞれの部屋へと戻り、寝ておけ」
ずっと偽装の渦に夢中になっている俺とルブルムを見かねたのか、ディナ先輩から解散命令が発せられる。
確かに一度寝たら、頭がスッキリして何か手がかりをつかめるかもなぁ。
今ってなんというか見えている山の頂点へたどり着けない感じだから。
あてがわれた部屋のベッドへと戻り、横になる。
感覚的には、もう深夜よりも夜明けが近そう。
さすがに脳もかなり疲労しているし、いい感じに体は温まっているし、俺はベッドに入ってすぐ睡魔に身を委ねた。
この眠気なら傷ムカデがウゾウゾ動き回っているのも乗り越え……られ……そ……ノックの音。
今?
というか誰?
偽装の渦しているから誰だかはわからない、けど、なんとなく誰だか予想はつく。
曇ガラス越しの淡い月明りが仄かに照らす部屋。
ドアが静かに開かれてゆく。
そこから顔を半分だけ出したのは、やっぱりルブルムだった。
「トシテル、もう寝たか?」
囁くような声。
寝たフリしたいぐらい疲れてはいるが、さっきあんなカッコつけたこと言ってしまった手前、スルーするわけにはいかないよな。
「まだだよ」
「よかった。トシテル……私」
ルブルムは室内へ静かに入ると音を立てないようにドアを閉め、俺が寝ているベッドの方へ歩いてくる。
何か言いたげな表情。
俺が起き上がり、ベッドの縁に腰掛けると、ルブルムはすぐ隣にすとんと腰を下ろした。
うーん。妙な既視感を感じる。
「トシテル……私……」
「うん」
ドキドキしてしまう。
「……さっきの続き、もう少し、したい」
さっきの?
さっきのって……どれ?
浴場でのルブルムの姿が、次々と脳内再生される。
「寝る前に、しておきたい」
な、何を、ですか?
あああああ、なんか手のひらに汗かいてきた。
突然、ルブルムが俺に向かって左の手のひらを見せる。
どゆこと?
何これ――まさか手汗がバレた?
「私、考えた。二人でそれぞれ逆向きの渦を作って重ねたら、作る渦は一つで済むから、集中できるって」
あー。
そうですよねぇ。うん。
そういうこと……うんうん。確かに。
わ、わかっていましたよもちろん最初から。
「そうだね。やってみようか」
右の手のひらを、シーツで軽く拭いてから、ルブルムの左の手のひらへと重ねる。
ルブルムはすぐに消費命を一ディエス分集中する。
俺も一ディエス分の偽装の渦を、ルブルムのとは逆向きに作ってみる。
んー……一人で二つ作ってたときに比べたら、かなり一致させることができたけど、『魔力感知』で見えないかというと決してそんなことはなく。
「今度は私から合わせる」
役割を入れ替え、ルブルムが合わせる側に。
ルブルムの方が偽装センスいいような気がする……けど……どうして……ルブルムの顔がだんだん近づいてきているのかな?
「トシテル、どうして下がる?」
「どうしてって……今は、手のひらに集中したくって」
「そうなのか。私は……体の、重なっている部分が多いほど、消費命もうまく重ねられる気がして」
「……なるほど」
納得感はある。ただ、かなり気恥ずかしい。
ルブルムは、反対の渦の形を整えながら、少しずつ、俺の上に覆いかぶさってくる。
しかし、急にルブルムの偽装の渦が乱れた。
よく見れば肩を震わせている。
反射的に傍らのかけ布団をルブルムにかぶせた。
ルブルムは今、俺に覆いかぶさりかけていたわけだから、なんというか意図せず二人して一つ布団の中という状態に。
わ、わざとじゃなく、風呂上がりだから余計に体を冷やしてはいけないという想いが――誰に向かって言い訳しているんだ俺は。
「温かい」
ルブルムがそう言いながら体の力を抜いたから、全身でルブルムの重みを感じる。
完全に内側のかけ布団になってますよ……でも温かい、というのは確かに。
ルブルムの冷えた皮膚に温度が戻ってくるのを体全体で感じる。
感じるのは重みや体温だけじゃなく、柔らかさも、呼吸も、鼓動も、匂いも――薄暗い布団の中にふわりと香る洗い液の残り香。
俺も同じので洗ったというのに、ルブルムのはより甘い香りな気がしてしまう――ということは、これはルブルム本来の――余計なところで思考が走り出す。
落ち着け、俺。
紳士たれ、俺。
呪詛で股間が反応しなくとも、心は乱されまくりです。
しかもルブルム、わざとか知らないけど腕や足を俺の腕や足へと絡みつけてくる。
ルブルムの頬が、俺の鎖骨に触れる。
目は冴えてきたけど、邪念が集中を妨げる。
「トシテル。服を脱いで直接触れ合った方が、もっとうまく重ねられるかも」
ちょ、ちょっと。何を言い出すんですがルブルムさん。
いくら魔法の訓練のためとはいえ、それはちょっと――いや、違う。
それは俺が恥ずかしさの陰に隠れているだけだ。
結婚前の男女の道徳を振りかざしてもきっとルブルムは納得しない。
第一、相手に気付かれずに魔法を使う技術は、この先絶対に役に立つはず。
余計な思考は全て脇に退けておいて、習得するためのことだけを考えなきゃだ。
集中して――集中――それだ!
試してみる価値はある。
「ルブルム……体をたくさん重ねるよりも、接する部分は一か所の方が集中しやすいんじゃないかな」
「やってみる」
二人して布団の両端にそれぞれ体を離して、人差し指だけを重ね合わせた。
ルブルムが先に一ディエスの偽装の渦の形を円盤のように整えだした。
ああ、そうか。
俺自身はそこまで考えての発言ではなかったけど、消費命の側も形を整えたっていいんだ。
俺も正反対の円盤を意識して一ディエス分の偽装の渦を作り出す。
互いの偽装の渦同士を静かに合わせてゆく。
ルブルムの呼吸音が近いおかげで俺もそこに呼吸を合わせられる。
指先からルブルムの偽装の渦のリズムを感じて、そのちょうど正反対の――消えた!
「トシテル! 『魔力感知』から消えた!」
「やったぞルブルム! 偽装消費命ができた!」
「すごいのはトシテルだ! トシテルのおかげで!」
ルブルムが抱きついてくる。
待て待て待て。
「ルブルム、忘れないうちにもう一度」
さりげなくルブルムの体を俺から遠ざける。
「わかった」
何度か繰り返した後、今度はそれぞれが自分の中で一人で同様のことを練習する。
一個作ってそこに合わせるのではなく、もともと二ディエス用意した消費命を、半分に分けながら逆方向に絞り込んでゆく形で作るのが一番早いし綺麗に消すことができた。
ベッドの上でしゃがんだままのルブルムが飛び跳ねる。可愛い。
そしてまた俺に抱きつこうとする。危険。
「ルブルム、もう体を重ねなくていいんだぞ」
やんわりと線を引く。
風呂から出てから距離感がバグり気味な気がするし、このままだと外でも同じようにベタベタしてあらぬ誤解を招きかねないし。
「浴室でトシテルの膝の上で洗ってもらったとき、何か変な感じがした。その答えは、トシテルともっと触れあえば出るかもしれないと思った」
い、いけませんいけません。
それはちょっとダメです。俺のアレをディナ先輩にちょん切られちゃうやつです。
「ルブルム、今回は勉強のために密着したけれど、結婚前の男女が同じ部屋で寝ないのと一緒で、裸で触れ合うというのも普通はしないことなんだ」
ディナ先輩から時と場合を判断する癖をつけさせておけと言いつかっているし、ちゃんと話しておかないとだな。
「でも、学ぶためなら協力してくれるとトシテルは言った」
「ルブルム、ディナ先輩がさっき時と場合とおっしゃったのは覚えているか?」
「覚えている」
「いつもやりたいことを真っ先に考えるのではなく、やらなきゃいけないことや、周囲にどう思われるかなどを考えて優先順位をつけて学習を後回しにしなきゃいけないことはこれから先とても増えてゆく。敵が現れたときや、何かから逃げるとき、そういうときは学ぶことより先にやらなければならないことがあるでしょ?」
「今は敵もいないし、逃げなくとも」
「お前らっ!」
声に驚いて部屋の入口へ視線を移すと、ディナ先輩が腕組みをして立っていた。
● 主な登場者
・有主利照/リテル
猿種、十五歳。リテルの体と記憶、利照の自意識と記憶とを持つ。魔術師見習い。
ラビツ一行をルブルム、マドハトと共に追いかけている。ゴブリン用呪詛と『虫の牙』の呪詛と二つの呪詛に感染している。
・ケティ
リテルの幼馴染の女子。猿種、十六歳。黒い瞳に黒髪、肌は日焼けで薄い褐色の美人。胸も大きい。
リテルとは両想い。熱を出したリテルを一晩中看病してくれていた。リテルが腰紐を失くしたのを目ざとく見つけた。
・ラビツ
久々に南の山を越えてストウ村を訪れた傭兵四人組の一人。ケティの唇を奪った。
フォーリーではやはり娼館街を訪れていたっぽい。
・マドハト
ゴブリン魔法『取り替え子』の被害者。ゴド村の住人で、とうとう犬種の体を取り戻した。
リテルに恩を感じついてきている。元の世界で飼っていたコーギーのハッタに似ている。街中で魔法を使い捕まった。
・ルブルム
魔女様の弟子である赤髪の少女。整った顔立ちのクールビューティー。華奢な猿種。
槍を使った戦闘も得意で、知的好奇心も旺盛。様々なことを学び、成長中。
・アルブム
魔女様の弟子である白髪に銀の瞳の少女。鼠種の兎亜種。
外見はリテルよりも二、三歳若い。知的好奇心が旺盛。
・カエルレウム
寄らずの森の魔女様。深い青のストレートロングの髪が膝くらいまである猿種。
ルブルムとアルブムをホムンクルスとして生み出し、リテルの魔法の師匠となった。『解呪の呪詛』を作成中。
・ディナ
カエルレウムの弟子。ルブルムの先輩にあたる。重度で極度の男嫌い。壮絶な過去がある。
アールヴを母に持ち、猿種を父に持つ。精霊と契約している。トシテルをようやく信用してくれた。
・ウェス
ディナに仕えており、御者の他、幅広く仕事をこなす。肌は浅黒く、ショートカットのお姉さん。蝙蝠種。
リテルに対して貧民街での最低限の知識やマナーを教えてくれた。
・『虫の牙』所持者
キカイー白爵の館に居た警備兵と思われる人物。
『虫の牙』と呼ばれる呪詛の傷を与える異世界の魔法の武器を所持し、ディナに呪詛の傷を付けた。
■ はみ出しコラム【フォーリー時点でのリテルの魔法】
※ 用語
・世界の真理:魔法の元となる思考について、より魔法代償が減る思考について「世界の真理に近づいた」と表現する。物理法則に則った思考をすると世界の真理となるようである。
・寿命の渦:生命体の肉体と魂とをつなげる「寿命」は、生物種毎に一定の形や色、回転を行う。これを寿命の渦と呼ぶ。
※ 技術
魔法使用に関する技術。
・『魔力感知』:範囲内の寿命の渦や消費命の流れを感知する。
・消費命:魔法を発動する際に魔法により要求、消費する魔法代償に充てるため、寿命の渦からごく一部を分けて事前に用意しておいたもの。
・偽装の渦:本来の自分の寿命の渦ではなく、あえて別の生物種の寿命の渦や、まるで寿命の渦が存在しないかのように意図的に寿命の渦の形を変えて偽装した状態のこと。
・偽装消費命:消費命自体について、その集中から消費までの間、存在しないかのように偽装したもの。魔術師の中においても一般的ではない技術。
※ 魔法
単体の魔法を魔法、魔法を組み合わせたものを魔術と呼ぶ。
・『発火』:ロウソクほどの小さな炎を作り出す魔法。火を喚ぶ思考が各々の魔術師毎に異なるため、火力も人それぞれとなる。
・『生命回復』:生命体が本来持つ回復力を増強して治癒を行う。この魔法は怪我をして間もないほど効果も高い。もともと自力では回復できない強い毒などの症状に対しては効果が薄い。死んだ相手には使えない。
・『魔力消散』:触れている魔法の発動時に発生する魔法代償に対し、偽の消費命を先んじて渡し、魔法の発動を失敗させる。
・『パイア毒の解毒』:対象としてパイアの毒に特化した毒消し。
・『皮膚硬化』:皮膚を硬化し、防御力を発生させるもの。発動時に魔法代償を余分に消費して硬化の強度や範囲、時間を強化できる。使用後、使用箇所の皮はポロポロと剥ける。
・『魔法転移』:対象魔法の発生場所を動かすことができる。目視できる範囲にしか転移できない。こちらの魔法は必ず対象魔法を必要とするため、発動する魔法は結果的に魔術となる。
・『魔法付与』:対象魔法を指定し、魔術として組わ合わせて使う。付与したい対象物に触れて、呪文を使用開始から終了までの間の時間が、対象魔法を「発動するまでの時間」と「発動してからの時間」に割り振られる。例えば牛乳パックに入っている牛乳を、平たい皿へ移すと、任意の場所における牛乳の深さが変わるように、である。
・『再生』:自分の体にできた傷を、傷ができる前の状態へと再生する。傷ができてから時間が経ち、傷があることに慣れてしまうと、もはや使用しても傷ができる前の状態へは戻らない。通常の『生命回復』では傷跡が残るが、『再生』は自分自身やごく親しい者の体のように見慣れていないと発動しない。
・『抵抗力強化』:状態異常を発生させる魔法への抵抗力を上げる魔法。ただし回復系や支援系のような魔法も拒絶してしまうようになるため、使いどころが難しい。
・『蜃気楼』:自分の位置をずらして見せるが、『魔力感知』で簡単に把握できるため、実戦ではまず使われない。基本的にはこの幻に寿命の渦が宿っているように見せる別の魔法を加えて魔術として使われることが多い。
・『造血』:生命体の内蔵を触媒に使う。特に心臓か肝臓が良い。出血により失った血を新たに生成する。輸血とは異なり自身の血が増えるだけ。触媒に用いた臓物は乾燥して粉のようになるが、この粉化したものは味も栄養も抜けてしまうため、食用には向かない。
・『炎の守り手』:点いている火を風で簡単に消えないようにする魔法。風の強い屋外で松明や焚き火、灯り箱の火が消えないようにする魔法。
・『発光』:火から光だけを借りてくる魔法。術者が消費命を集中した自身の身体部位が光る。『魔法付与』を用いた場合は、自身以外の物も対象に選べる。一般的には近くにある火の明るさが減る。
・『水刃』:触れている水を刃へと変える。刃の形は自在。効果時間はほんのわずかだが、その分、刃は硬い。触れている水量が多ければ長い刃も作れるが、大きい刃を作る場合は一ディエスでは足りない。攻撃動作を最小限に抑えられるのが強み。
※ 利照のオリジナル魔法
・『発火』:利照は空気の摩擦という世界の真理を魔法の思考に用いているため、通常の『発火』よりも火力が高い。
・『ぶん殴る』:渾身の力を込めてぶん殴る、くらいの衝撃を与える。接触。カウンター的に使える。実は利照が某漫画に登場する「超能力の具現化」イメージで作ったため、衝撃を与える拳は剣先ですら弾き飛ばすほどの硬度を持つし、心の中では効果音「オラッ」が聞こえる。
・『ぶぶぶん殴る』:『ぶん殴る』三発分の威力。
・『ぶっ飛ばす』:『ぶん殴る』の上位魔法。『ぶん殴る』五発分。
・『倍ぶっ飛ばす』:『ぶっ飛ばす』の上位魔法。『ぶっ飛ばす』二発分。
・『超ぶっ飛ばす』:『ぶっ飛ばす』の上位魔法。『ぶっ飛ばす』三発分。
・『凍れ』触れている水を凍らせる。触れている部分から波紋状に凍らせるため、水の中に解けている空気は追い出され、綺麗な氷が出来上がる。消費した魔法代償に対して対象の水が少ない場合、その周囲の大気中の水分まで凍らせる(液体の水を対象にするよりは凍らせる水分総量は減る)。
・『弱火』:『発火』の改変魔法。火力を抑える代わりに効果時間を長く発生させる。氷の加工に適している。
・『同じ皮膚』:自分の皮膚を、触れた相手の皮膚と同じものへと偽装する。毛や鱗は含まず、あくまでも生きている皮膚だけ。『虫の牙』の呪詛傷を、ディナから自身の体へ移すときに使用した。
・『脳内モルヒネ』:脳内麻薬を出し、凄まじい激痛を緩和する。『虫の牙』の呪詛傷の痛みをある程度抑えてくれる。
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