深き血の村

だんぞう

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#21 エピローグ

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 数週間後、黒電話が鳴った。
 もちろん我が城『笹目探偵事務所』の黒電話だ。
 受話器を取ると、聞きなれた声――タカコだ。
「洋介、今度は、浜松でウナギ人間だって……」

 実はあの後、網場が白状した。
 村長が定期的にHyDOハイド化した工場職員や村人を喰らうので、もっとHyDOハイドを増産しようと、あの村の外で孤児院を一つ借りてそこでもHyDOハイドを育成する実験をしていたと。
 しかし、工場が壊滅したことがそこへ伝わってしまい、そこに居た職員やら子供たちやらが脱走してしまったと。
 そういった連中を捕まえに行くお仕事ってのが、本物の政府からの依頼ってやつで時々舞い込むようになった。
 これがけっこう実入りがいい。
 バーのママのペット猫探しなんかよりもずっと。

「マジかよ。鰻好きなのに食えなくなりたくないなぁ……」
 HyDOハイド化したのを見た魚は、なんか喰いづらくなる。
 タモっちゃんの鉄砲魚はともかく、マンボウもマグロもフグもタカコの蛸も、あとイワシも、今は食う気になれないでいる。アンチョビも当然ダメだ。
「こないだヒラメ人間つかまえた時、また寿司屋に行きづらくなったって言ってたもんね」
「あーーーー!」
 横から紀子が受話器を奪う。
「所長! 電話は秘書であるわたくしがお取りいたしますわ!」
「お、おい。まだそれ言ってんのか?」
「報酬、ちゃんと払っているもん。私、依頼主よ?」
「いやでも、秘書にしなさいってそれ依頼か?」
「孝子さん、うちのボス、ちゃんと連れて行きますのでご安心を!」
「それには及ばないわ!」
 突然、事務所の扉が開く。
「迎えに来たの。ふふふ」
 携帯電話を耳にあてながら、タカコが入ってきた。
 紀子は紀子で出かける支度を始めている。こいつまたついてくる気か。
 仕方ない。俺も準備するか――っとその前に。

 俺は立ち上がって部屋の隅に行くと、猫缶をキコキコ開け始めた。
 その音に反応したのか、アレクサンドラちゃんが飛んできた。そう、トビウオみたいに前足を翼みたいに広げて。
 帰り道に寄ったあの店でたまたま飛ぶ所を見てしまったせいで、何故か引き取ることになってしまったのだ。
 そのとき、紀子の母親側の雇った探偵もあの店『甘味 山菜』に来ていたんだが、アレクサンドラちゃんが飛んだのを見て、絶叫して、尻もちをついて、失禁までした。
 これは何かの罪に問われるんじゃないかとか夫婦喧嘩を始めたのを見た紀子が、引き取りますよと言い出したら、元々迷い猫だったからとスンナリ。

「でもどうせならさ。ウナギ人間じゃなくて、アレちゃんパターンでウナギ犬とかだったらいいのになぁ」
 紀子の一言にタカコが大爆笑している。
 最近、仲良いんだこいつら。
「しかしズルいよね、洋介は」
 タカコが俺の顔を見て溜め息をつく。
「何が?」
「見た目よ。二十歳くらいにしか見えないもん」
 どうやら村長を喰っちまったから、っぽいんだが……。
「援交っぽくなくなったでしょ?」
「いやいや、紀子。そういう問題じゃないんだ。探偵事務所所長としてはある程度の威厳がだな」
「洋介、私が女所長してあげてもいいのよ?」
「笹目探偵事務所っつってんだろ」
「入籍すればいいだけじゃない」
「そこ! そこ! 胸元はだけない! 洋介も鼻の下伸ばさない!」
「おい紀子、脱ごうとするな! 俺を社会的に抹殺しようとするな!」
「にゃー」
「あー、ごめんごめん、アレちゃん。猫缶、まだ開け終わってなかったねぇ」

 さゆりちゃん、ごめんな。
 俺ばっかりこんな平和で。



<終>
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