闇鍋【一話完結短編集】

だんぞう

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【怪談】真夜中の着信音

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 両国駅に着いたのは24時を大きく回ってから。というか終電。
 しかも明日も仕事よ。
 自然と出るため息。これから帰ってメイク落としてシャワーに明日の準備に……憂鬱。
 さらに気が滅入ることに、歩いている人も突然減るし。清澄通りに曲がる人は私以外に
誰も居なかった。夜道を一人で歩きたくないからわざわざ遠回りして人の波に紛れてきた
のに、こんなことならちょっと怖いけど博物館の横を近道すればよかった。
 学校、ホテル、大きな公園を越えて信号を渡り、大通りから路地に入り込んだ時、急に
私の携帯電話が鳴った。母からだった。

「ちょ、ちょっと、お母さん? 驚かさないでよ、もう! 家に着いてからかけ直」

 そこまで言いかけた時だった。私の背後で鳴った音。私の携帯電話と同じ着信音。
 え? 周りに人なんて居なかったわよね?
 大通りに戻る一番の近道を必死に考えながら、さりげなく振り返ってみる。

「……あれ? 誰も居ないわ」

 握り締めている携帯はいつの間にか通話が切れている。どうしよう。このままアパート
へ帰るのは危険かな。近くに交番あったっけ……周囲を見渡してぐるぐる回る私の手の中
で、また携帯が鳴る。今度も母だった。

「あ、お母さん、あのね」

 直後。また後ろから同じ着信音。振り返ってもやっぱり誰も居ないの。私は泣きながら大通りへと走って逃げた。
 
 交番に居たお巡りさんがアパートまで送ってくれる途中、同じような状況の報告が多い
と教えてくれた。早く捕まえてよと言うと、

「音以外に被害ないですし、そもそも正体不明なんです。この辺では江戸時代からずっと居るらしくて。もっとも昔は携帯電話じゃなく拍子木の音を真似てたそうですが」って。

 でもやっぱり心臓に悪い。せめて着信音をかえるのうたにでも変えておこうかなぁ。



<終>
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