呟怖千夜一夜

だんぞう

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#0506 クローゼット

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 アルクス達は中央の大陸へ行くため、海底王国から迷宮を踏破しなければいけなかった。
そしてその迷宮は時空の歪んだ迷宮となっていて、龍脈が繋がっておらず龍脈の力を存分に使うことができない場所であった。
そこでアルクス達は龍気を体内に溜め込む修行や闘気を扱った闘技の鍛錬など今できる自分達の能力の底上げに努めた。

アルクスは海底王国の歴史を聞いたり、海の底にある素材で作れる薬の作り方を教わったりしながら、フルーと協力して、水を扱った闘技を幅広く扱えるようにしていた。

『アルクスさんのお陰で勉強になりました。地上ではこんな風に薬を作っているんですね。』
『いや、こちらも勉強になりましたよ。海藻や砂を使おうと思ったことはなかったので目から鱗でした。』

アリシアとバルトロはアルクスの様に龍気を溜め込めないか試行錯誤した。最初は順調だったが、結論としてはあまり蓄積可能な量を増やすことはできなかった。代わりにアルクスが龍珠に溜め込んだ龍気を効率的に引き出したり、瞬間的に増幅したりすることができるようになったため、瞬間的な龍気の発動と闘気の鍛錬に集中する様になった。

『やっぱり私達はアルクスがいないとダメだね。』
『その分しっかりとアルクスを支えていかないとな!』

クリオは水の精霊であるフルーから水魔術を教わり、水魔術の熟練度が急成長した。合わせて闘気を練ることができる量や質も向上し、フルーがいる状況に限るものの水の闘技も少し扱える様になった。

『私が闘技を使える様になるなんて…』
『ハヤクジブンノセイレイとケイヤクデキルトイイナ』
『頑張ります!』

スペルビアは龍脈から龍気を取り込んで扱うのは得意だったものの、龍気を自分の中に留め置くという感覚がなかったため最初は苦労していた。だが、一度コツを覚えると龍気の扱いがアルクス達の中では一番上手く、効率的に溜め込むことができていた。そして、闘気を使ったことがないと言うため、闘玉を持たせて闘気が何かを感覚的に理解するところから始めた。
今まで龍気を扱ってきた経験があるためか、すぐに感覚を掴んで先に鍛錬を始めていたクリオをあっという間に追い越す習熟度となった。

『闘気か、これは良いな。借り物ではない自分の力を上手く使えている実感がある。』
『やっぱりスペルビアは僕達に無い、一撃の決定力があるよね。』
『そうだな。竜人や竜は皆肉体が頑丈だからな。それなりに威力がないと、傷もつけられない。』
『僕達は戦い方の経験や技術は増えた気がするけど、やっぱり決定打に欠けるからスペルビアを見習わないとね。』
『そんなことはないとは思うが…まぁ、自身が求めるものと持っているものが違うこともあるからな。
 よく考えるといいだろう。』

スペルビアの言葉でアルクス達は戦いの時に何を求めているのかを考えさせられた。
そして、アーラは海底王国の食事が気に入ったのか大量に食べ、そしてアルクスと一緒に龍気を取り込みながら急成長した。

『アーラ、なんだか倍くらいの大きさになったよね。』
『そりゃあ、あれだけ食べれば大きくなるよな。』
『でも太ったわけじゃないから、いいんじゃない?』

アーラは今までの倍以上の大きさになり、龍気を取り込んだり、ブレスを吐いたりと戦闘能力も向上していた。
アルクス達が修行している間、海底王国は平和な日々が流れているかと思いきや、定期的に巨大な深海生物が攻め込んできていた。

『いつもいつも飽きないのかに?』
『うんざりするよな。まぁ、これがないと食料にも困るしちょうど良いだろう。』

巨大な深海生物は警備隊の海老や蟹達が颯爽と現れて撃退していた。

『今日も大漁ですかに?』
『見ればわかるだろ!
 あぁ、巨大な生物がやってきて驚かれましたか?
 日常茶飯事ではありますが、ちゃんと退治してしまわないと逆に私達が食べられてしまうだけですからね。
 どこから来ているのかわからないんですよね。
 まぁ、あいつらとても美味しいんで全然構わないんですけどね。
 海底王国は平和ですが、深海は基本的に弱肉強食の世界なのである程度は強くないと生きていけないのです。』

修行の方針が固まってきてからはアルクス達も協力することにした。
もちろん深海生物がとても美味しかったというのも理由の1つではある。

『助かります。もう少しほどほどの強さのやつが来てくれると若い奴らの訓練にもなって良いんですけどね。
 あ、食べられた。早く倒して中から出さないと溶けちまうぞー!』

深海生物にとって海老や蟹達は美味しそうに見えるらしく、すぐに食べようとしていたが動きが鈍いため大体があっさりと躱されて倒されていた。

『今日のもそうですけど烏賊とか蛸とかは巨大なのが多いんで、イカルスさんやタコナイトさんなんかはよく揶揄われていますね。え、クラーケン?あぁ、巨大な烏賊ですか。あいつは地上近くにも現れるんですね。』

巨大な深海生物と日々戦っているため、警備隊の面々はとても武力に優れていたため、アルクス達は手合わせをしたり一緒に鍛錬をして友好を深めていた。
そして修行も一段落して、そろそろ迷宮に向かおうというところで一度海蛇龍へ挨拶へと向かった。
イカルスとタコナイトに手配してもらい謁見の間へ向かうと久しぶりに起きている海蛇龍を見ることができた。

『海底王国の滞在は如何ですか?楽しんでいただけたなら嬉しいです。
 そう、迷宮へ向かわれるのですね…辛い戦いになるかもしれません。
 迷宮の中では決して自分を見失わないことです…
 では御武運を…』

アルクス達を見て海蛇龍は一方的に喋るとまたいつもの様に寝てしまった。

『そういえば海蛇龍様と一言も話せなかったね…』
『いつも喋るだけ喋って満足して寝ちゃうからね。』
『申し訳ございません…我々も似たようなものでした…』
『あ、気分を害したとかではないのでお気になさらずに。しかし迷宮は一筋縄では行かなそうだね…』
『まぁ、そのために訓練したからな!』
『龍気がなくてもそれなりに戦えるようになったはずだよ!』
『自分を見失わないってどういうことかな?』
『何かの暗喩かもしれないから頭に入れておこう。』

謁見も終わり、迷宮へと続く道へ行くと世話になった人達が見送りに来てくれた。

『ではこの道を下って行くと迷宮に入れます。お気をつけて。』
『おーい、大王烏賊が出たぞー!』
『すいません、巨大な烏賊が出たみたいなので私達はここで失礼します。
 御武運を!』

海老と蟹達警備隊の面々は別れの挨拶もそこそこに大王烏賊の下へと駆けていった。

『じゃあ僕たちは迷宮を抜けて、世界の中心を目指そう!』

迷宮への道を進んで行くと徐々に周囲の景色、そして周囲の空気が変わっていった。
アルクス達が気づいた時にはそこは既に迷宮の中だった。

『あれ、いつの間に…』
『気付かせないのも迷宮の力なのかもね。』
『そういえば本当に龍気が流れていないね。海底王国にいた時はあんなにあったのに。』

アリシアの指摘はもっともで今まで普段以上に龍気を使った鍛錬をしていたため、龍気の有無は皆敏感に感じ取ることができた。

『皆大丈夫だと思うけど、いつでも闘気を使えるようにね。少し暗くなってきたかな、クリオ灯りをお願いできる?』

クリオが光の魔術を唱え、アルクス達の行く先を明かりが照らす。
迷宮の中を慎重に進んで行くが、罠のようなものは無く一本道になっていた。
しばらく進むと狼型の魔獣が現れが、バルトロが体当たりを受け止めてその隙にスペルビアがトドメを刺した。

『狼型の魔獣を見ると、ここは海底ではないと言うことが実感できるね。』
『歪んだ時空って言ってたよね、それってどういうことかな?』
『他世界があるくらいだし、いつもいる世界に裏側とか違う場所があってもおかしくないと思うけどね。』

たまに現れる魔獣を難なく倒しながら進んで行くと開けた広間に出た。

『急に景色が変わったな…』
『あれは何かな?』

広間の中央には巨大な人形の像が立っていた。

『あれはもしかして…』
『アルクス知ってるの?』
『あぁ、クリオと逸れた時に白狼と一緒に遺跡の装置を直した話はしたと思うけど、そこにいた巨人型守護像と似ているんだ。』

クリオも頷き、アーラも前に見たことがあるというように返事をしていた。

『あれが結界の番人なのかな?』
『まだそんなに進んでいない気がするが、もう番人が出てくるとはな。』
『わからないから、慎重に様子をみよう。』

いつ動き始めるのかと思い様子を伺いつつ近づくと守護像の目に光が灯り、徐々に動き始めた。

『来るよ!』

アルクスの号令で皆が構えたその時、守護像から低く響き渡る声が聞こえた。

『汝ら自身の力を見せるが良い!』

守護像が喋ったかと思うと広間全体の床が光った。

『これは!』
『転移だ、みんな離れないで!』
『間に合わない!』
『アルクスー!!』

目の前が光に包まれ、光が収まるとアルクスは1人だけで佇んでいた。

『分断された!?ここは迷宮の中だろうか、さっきまでと場所も違うし壁の材質が違う…』

アルクスは今までいた迷宮とは違い洞窟と言える様な場所の行き止まりに立っていた。

『とりあえず真っ直ぐ進むしかないか。』

仲間達は大丈夫だろうかと思いつつ、冷静に今できることをしようとアルクスは1人洞窟の中を進んでいった。

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